【後編】札幌で演劇を続けるということ|札幌演劇人のリアルすぎる忘年会2018

「【前編】「札幌がつまらなくなった」のは本当か」の記事に関しまして、様々なご意見・ご感想をいただきました。このような議論の様子を共有することが札幌演劇の発展につながってほしいという思いでしたが、表現として至らない点が多く、多くの読者さまのご気分を害されたこと、お詫び申し上げます。

2018年12月24日某所、札幌ハムプロジェクトのすがの公さんの声かけで札幌演劇関係者の忘年会が開催され、「演劇を札幌で続ける」をテーマに今後の札幌演劇について話し合う場がもたれました。

【前編】では、主にお金の話や札幌演劇シーズンについて話し合われました。

【後編】では、TGRの話、札幌で続けるということはどういうことかについて話し合われました。

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「年に一度くらい、札幌の劇作者が集まって、この街で芝居を続けることについて語る会があっても良いのではないか」という思いから札幌ハムプロジェクトすがの公が知り合いづてに声をかけて開いた会です。来年も同じ時期に予定しております。こういう会の存在を知っていただくためにd-SAPの佐久間さんにご協力いただき、記事にしていただきました。

主催者・すがの公

忘年会参加者
石川哲也 わんわんズ
イトウワカナ intro
イナダヒロシ イナダ組
遠藤雷太 エンプロ
亀井健 劇団コヨーテ
光燿萌希 ミュージカルユニットもえぎ色
小佐部明広 クラアク芸術堂
小島達子 イレブンナイン
清水友陽 劇団清水企画
すがの公 札幌ハムプロジェクト
田中春彦 わんわんズ
寺地ユイ きまぐれポニーテール
町田誠也 words of hearts
南参 yhs
羊屋白玉 指輪ホテル
槙文彦 演劇集合団体マキニウム
横尾寛 平和の鳩
由村鯨太 わんわんズ
注意

掲載内容は記者の判断により省略等を行っております。記事の内容に関するご意見などは、d-SAPまでお問い合わせください。

TGRの役割は何か

2018年で13年目を迎えたTGR。毎年秋に30を超える劇団が札幌で舞台作品を上演し、一般公募を含む審査員によって審査され、優れた作品には「大賞」「新人賞」などといった賞が授与されます。

TGRは、今の札幌演劇においてどのような役割を担っているのでしょうか。

そして改めて、札幌で演劇を続けるということはどういうことなのでしょうか。

TGRの現状を議論する

小佐部明広さん(以下、小佐部):以前は、札幌のほとんどの劇団が賞を狙って一番面白い作品をTGRで上演するという流れがあったと思います。しかし、演劇シーズンがはじまって、どちらかというとTGRよりシーズンに照準を合わせて活動する劇団が増えてきているんじゃないかなと思います。特に、代表が40代前後のところは、本公演としてTGRに出す劇団が減ってきている。

TGRは副賞がとても豪華ですよね。トータルで100万円くらいメリットありますよ。賞金20万円、翌年再演したら制作費30万円、翌年もTGR参加したら劇場費タダになるので。僕たちは「無冠の帝王」ですが、とれるもんならとりたいですよ!

小島達子さん(以下、小島):yhsはさらに韓国も行くことになって、クラウドファンディングとかけっこう大変そうだったけれど(笑)

南参さん(以下、南参):大変でしたよ!(笑)本当は、韓国は断ろうと思ったら断れたんですけれど、結果行って良かったです。良い経験になったので!

亀井健さん(以下、亀井):賞品はもらえるならほしいですよね。でも、単純にTGRに参加すれば単独公演の宣伝もしてもらえるので、それは嬉しいです。

そうそう、単独で、自力で公演する体力がだいぶ減ってきた気がしますよ、札幌。演劇シーズンもそうですけど、とても優遇してもらえることが多いですし。でも、もしそういう優遇や恩恵が断たれてしまったら、札幌の劇団どうなってしまうんだろうという危機感はありますね。

ロングランも、自力でやろうと頑張ればできるんです。ANDのときも、ロングランやったりとかしていましたよ、1日3ステとか深夜公演とかもやったりして。

イトウワカナさん(以下、イトウ):実はTGR、お客さん入りづらいですよね。たくさんの劇団が一度に公演するので、お客さんの取り合いみたいになっちゃって。だから、さっき小佐部くんが言っていた、中堅劇団がTGRで公演しなくなっている理由もそれだと思いますよ。

TGR2018をたくさん観た雷太さんはどう思いますか?

遠藤雷太さん(以下、遠藤):例年そんなにたくさんは観ていなかったんですけれど、昨年の審査員の方がとっても辛そうだったんですね、ぱっと見。だから今回は僕も観れるだけ観てみようと思って。

TGR2018は31団体上演していて、うち24団体を観劇しました。それだけ観てみて感じたのは、どれが「大賞」だとか決めるの無理だよ!ってことですね。どれも面白かったんです。ジャンルもバラバラだし、見せ方もそれぞれ違いますし。殺陣のシーンひとつとっても、どこの殺陣が一番かなんて決められない。だから審査員の方はすごい難しいことをなさっているんだな、と。

面白くないお芝居が本当に少なくなったとも感じましたね。10年前とかの感覚だと、例えば職場の人に「お芝居観に行こうと思っているんだけれど、何観たらいい?」と相談されたら、「とりあえずよく調べてから行ったほうがいい!早まるな!」と答えると思います。でも今だと、適当に10のお芝居を選んでも、極端に面白くないお芝居は少ないですよ。

札幌で続けるということ

すがの公さん(以下、すがの):僕は沖縄に滞在するようになって、少し札幌を離れたところから見てみると、他の地域に比べて札幌は珍しい、変な感じなんですよ。自分の劇団で全国ツアーとかやっても、札幌は不思議と演劇が盛んなんですよね。大阪とも東京にもない、劇団同士の緩やかなつながりがあるというか。

イナダヒロシさん(以下、イナダ):横尾くんは、自分の劇団を離れて北海道演劇財団に入って、東京や地方の人たちと一緒に演劇をプロデュースをする立場になったよね。札幌外の人たちを札幌に呼ぶっていう仕事だから、一番俺たちが知らないことをやっている。東京とかを見ているでしょ。

横尾寛さん(以下、横尾):んー、東京で商業で成功している劇団、たとえば一回の公演3000〜4000人、チケット代が6000円くらいの芝居を札幌とかの地方に呼ぼうと思っても、やっぱり有名人が出演していないと成立しないんですよね。もちろん、有名人・芸能人が出ていなくても東京で成功している劇団はあるけれど、それを地方の公民館とかで上演しても、お客さん入んないんですよ。僕の興味は、そういう有名人の劇団じゃないんですよね。

イナダ:逆に東京や地方にもっていけるような札幌のお芝居はないのかな。

横尾:地方で成功するのって、結局お客さんが入るかどうかだから、その芝居が持っているポテンシャルとかは実はそんなに関係ないと思うんだよね。だからコンカリーニョが札幌ではあまり名が知られていない劇団を呼んでいるのは、素晴らしいことだなって思います。

札幌のお芝居がいくら面白くても、それを道外に持って行って成立するかっていったら…ハムプロジェクトみたいなやり方(ワゴン全国巡演)か、それ以外だと厳しいと思いますけれどね…。

でも、結局成功するかどうかって結果ですからね。そして、何より重要なのは、成功することだけが外に出る意義じゃないんだと思いますよ。なんでだかわからないけれど、旅したくなるじゃないですか。

田中春彦さん(以下、田中):僕たち、ツアー行きたいですよ!だって旅楽しそうじゃないですか。美味しいものとか、温泉とかも入れそうだし…

南参:でも、2018年いっぱい旅に出た人から言わせてもらうと(笑)俺は、20年やってきて道外の演劇人とも知り合いになって、その人たちに自分の作品を見せたいなと思って行くんですよ。韓国にも、日本語が通じない人に見てもらったらどんなリアクションが返ってくるんだろうなって。

それはすごい楽しかったんですけれど、ツアーでバイト休まなくちゃいけない人たちとかは、やっぱりキツイって言っていました。俺は「芝居で食ってきたい人」じゃないから会社休んでツアーも楽しめるけれど、「芝居で食ってきたい人」はバイトとかに影響出るのはキツイんですよね。ツアーは稼げるもんじゃないし。

イトウ:yhsが20周年やってこれたのは、メンバーに定職がある人が多いっていうのが大きいと思います。

南参:まず俺自身がそうだからね。俺は、若い時に朝から深夜まで稽古していたり、演劇のせいでバイトとかガンガン休んでっていうのが嫌だった。だから、できるだけ無理しないように最高に面白い演劇を作りたくて。それが結果として長くやれている理由になっているんだろうなって思います。

小島:社会人として仕事をしながら演劇に関わっていきたい人と、演劇を本業にしてやっていきたい人とは、演劇に関わる時間帯も変わっていきますからね。どんな劇団もぶち当たる問題だと思います。

南参:どっちが正解とかじゃないんですよね、どっちをやりたいかだから。でも、ちょっと偉そうなことを言わせてもらうと、別の定職をもっていながらも、ちゃんと演劇もやっている人っていうモデルケースはあったほうがいいなって思ったんです。自分がそうなりたいからなんですけれど。「演劇人はダメ人間」みたいに思われたくなかった。ちゃんと仕事もしながら、家庭を持って子育てもしながら、っていう方が、演劇の社会的な認知は進むんじゃないかなって。

演劇シーズンも、社会的認知にはすごく効果的だと思います。新聞に演劇のことが記事として載ると、うちの親も認めてくれるし、そうなるとやりやすい。

横尾:色々な演劇との関わり方を、それぞれが大事にできたら良いですね。札幌演劇人がみんな同じ考えだとは全く思っていないし。まあ、なんかなんとなく仲間みたいなもんだとは思ってますよ。でも、つまんない芝居とかあるとムカつくし(笑)もうそれはしょうがないですよ、自分の好きなものを使って自分のやりたいことと正反対のことされちゃ、ムカつきますよ。だから、友だちだなんて思っていないし。

札幌は劇団が多いってよく言われますけども、土壌がいっぱいあるっていう意味では尊いことです。だから、お客さんには札幌に観る芝居の選択肢があるんだってことを伝えることは頑張んなくてはいけない。演劇ってあれだけじゃないんだぞってね。

羊屋白玉:札幌演劇にはこのようなコミュニティがあって、素晴らしいことだと思います。こういった集まりは定期的に持ちたいですね。

都市で芸術を続けていくということは、作り手だけではなくて環境もしっかりと作っていかなくてはいけません。飛躍しすぎだと思われるかもしれませんが、私たちは知的労働者だと思うので、雇用・被雇用の関係のこととかも話し合える、演劇人による労働組合的なものが札幌から生まれたらいいですね。

作り手が声をあげるだけでは足りないので、例えば誰かが出馬するとかね、仕組みを変えていくような人たちも必要ですね。仕組みを整える人たちがプロデューサーたちと話し合って、作り手が自由に作品づくりができる都市になったら良いなと思います。


この座談会のテーマは「演劇を札幌で続けること」についてでした。

演劇との関わり方、活動の仕方、何を面白いと思い何をつまらないと思うかは人それぞれです。だからこそ、様々な作品が札幌で生まれるし、演劇シーズンのようなイベントも成り立つのだと思います。

しかし一方で、札幌という土壌を耕していくには、演劇人の一致も必要になっていきます。互いの活動を尊敬し合いながら切磋琢磨できる街、札幌。こんな街こそが演劇創造都市と言えるのではないでしょうか。

d-SAPは、札幌は最高に面白いと思います。

どのような内容であれ、このようにして、札幌で活動する演劇人が集まって意見交換の場を持てたことは、これからの札幌の演劇環境を発展・向上させることにおいて、意味のあることだったように思います。今後もd-SAPは、みなさんが札幌演劇をもっと身近に感じられるようになることを願って活動してまいります。

2019年も、よろしくお願いいたします。

お問い合わせ

sapporodsap@gmail.com(代表:佐久間)

1 COMMENT

蔵隆司

前半の熱い議論から少し温度が下がってきたような、まあこうした議論、だんだん疲れますよね。いずれにしてもこのd-sapの試みに拍手です。ぜひ時折開催し僕たちに教唆、刺激を与えてください。

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