短編演劇祭にかける想いをカタチに|教文演劇フェスティバル2022 事務局インタビュー

教文演フェス × d-SAP 連携企画!

2019年以来、3年ぶりの開催となる「教文演劇フェスティバル」。今年は台本審査によって選ばれた道内外の4団体が競い合う「短編演劇祭 四ツ巴戦」が上演されます。

今年の演フェスを盛り上げるべく、d-SAPでは連携企画として、教文のスタッフである事務局のみなさまに特別インタビュー!

これまで数々の試練を乗り越えてきた演フェスの歴史や、札幌演劇に対する教文スタッフの(個人的な)意見まで、その熱い想いを伺いました。

教文演フェスの歴史

——1985年に始まって以来、これまでいくつもの試練を乗り越えてきた演フェス。2018年からは短編演劇祭の参加団体を4団体に絞ったり、豪華審査員やスペシャルゲストを招いたりとさまざまな変化を遂げてきました。毎回新しいことに挑戦する、そのねらいを教えてください。

これまで短編演劇祭の企画・運営を続けてきて、2014年頃から変化の必要性を感じるようになりました。当時は現在も第一線で活動されているイレブンナインやyhsが優勝を競い合い、そこに星くずロンリネスが現れて、、、と盛り上がりを見せていましたが、一度それがピークを迎えたように感じたのです。

短編演劇祭は2017年に開催10周年を迎えました。フェスとしての認知度が高まった一方で、「劇団がしのぎを削って優勝を目指す」というより、「若手の腕試しの場」として見られるようにもなってきました。

もちろん、そういった場があること自体が悪いことだとは全く思わないのですが、このまま何も変化がなく続いてしまうと、次第に盛り上がりは右肩下がりになり、その結果として来場者数も減っていくことが見えてしまう。

毎回同じことをすることで、事務局内部のモチベーションも少し落ちてきてしまっていると感じることもありました…。

そこで、思い切って大きなリニューアルを迎えたのが2018年です。次の10年間を考えたときに、これまでのあり方を1から見直そうと決めました。

議論を重ねた結果、事務局にできることとして、まずは審査員をガラッと変えることにしました。良い意味で、出場団体が「この人たちに自分の作品を見られるんだ!」というような付加価値を感じていただくこともできるかなと。

また、これまでは、チケット販売の多くが参加劇団の手売りに頼ってしまっていましたが、せっかく皆で作り上げる演劇祭なのに、劇団に偏重している状態はよくない。事務局もこれまで以上に積極的に集客する必要があると感じました。

——今回の審査員も豪華な3名ですね。

短編演劇祭2022 審査員
  • 鴻上尚史(劇作家/演出家)
  • 上田慎一郎(映画監督)
  • きたろう(俳優)

審査員はしっかりとこだわって決めておかないと、フェス全体の盛り上がりにもかなり影響が出てしまいます。

審査員を考えるとき、各者それぞれ異なる視点での講評が理想だと思ったので、今は作品としての面白さや評価を適切に講評できる作・演出家視点、作品自体と深い関わりを持ちつつも、作演出家とは違った視点を持ち、作品を世に出す上での包括的な視点を持つプロデューサーや監督のような視点、演じる側としての俳優視点など、役割やバランスを意識しつつ、更には短編演劇祭に参加してくれた全員が楽しんでもらえるように考えています。

開催当初は札幌の小さな演劇イベントでしたが、近年は全国からの参加申込みが増え、全国規模のイベントになっていきました。実際今回出場する団体も、半分が道外の劇団です。そのため、極力地元の内輪だけで終わらない形にしたいと考えました。

審査員を考えるときも、あまり札幌の演劇とはこれまで関わりがなかった方にお願いするようにしました。「札幌枠」を作るという検討もありましたが、フラットな目で見られる人、その劇団の札幌での認知度を知らない人に審査をしてもらった方が、現在の演フェスに合っていると考えました。

——参加者にとっても観客にとっても、この審査員が札幌に来るというだけで、とてもわくわくしますね。

ありがとうございます!いつも全審査員が決まるまでとても苦戦するので、そう言っていただけると嬉しいです(笑)

また、それまでは各ブロック4団体の2ブロック制で、計8団体の参加となっていましたが、応募数が次第に減っていくと、たとえ1、2票しか入っていなくても台本審査会を通過してしまうような事態も発生していました。これでは審査基準もあやふやになり、質の担保もできなくなってしまう。

そこで、2018年からは台本審査通過の団体数を一気に4団体に減らし、開催日数も1日間とすることにしました。

しかし、元々2日間だった演劇祭をある時から1日間にすると、規模が縮小したように見えてしまう。そこで、2018年では翌日に過去の優勝劇団たちによるエキシビジョン「グランド・チャンピオン・ステージ」を企画します。「今年の演フェスは変わったぞ!」とインパクトを与える内容を目指しました。

そうした準備を重ね、札幌演劇関係者やファンの方からの反響や応援もいただき、事務局内のモチベーションも戻ってきました。すでに出来上がっているものを変化させるのは大変でしたが、開催以来初の両日前売完売も達成し、「さあ、いよいよだ!」というときに起こったのが、2018年9月6日の胆振東部地震です。

地震の翌日からどうにか開催できないか議論を重ねましたが、結局演フェスは中止。皆さまから応援のお言葉もいただき、「グランド・チャンピオン・ステージ」は振替公演を行うことができましたが、正直、事務局内のショックは大きかったですね…。

翌年の2019年、満を持して新しくなった短編演劇祭を開催することができました。「よし、これから!」というときに、今度は新型コロナウイルスの影響により2020年度からの開催は見送りとなりました。

そうした変遷を経て、短編演劇祭2022は3年ぶりの開催となります。もう一度しっかりと気を引き締め、感染症対策をしっかりと施し、多くの人に楽しんでいただけるようなフェスを目指しています。

教文は2023年1月1日〜2024年9月30日まで改修工事のため休館となりますので、次回いつ開催できるのがまだ決まっておりません。何とか今年開催できるように努めてまいります!

札幌で演劇の仕事をする

演フェス事務局の皆さんには、「演フェスを企画・運営する」というお仕事についてや、個人的な演劇への思いについて伺いました。

——演フェスを企画運営する中で、面白いこと、楽しいこと、やりがいを感じることはなんですか。

スタッフA 私は今年大学を卒業し、教文に就職した1年目です。自分たちで考え、企画したことが、広報活動を通して街中やネット上に表れ、形になることに達成感を感じます。

大学時代から美術や演劇が好きで、よく観にいっていました。この仕事を通して、公演は作品だけでなく、様々な事務的な作業があって成立していたんだなということが身をもって体感できて嬉しいです。

スタッフB 私は出場団体の方とのやりとりを通して、演劇家の持つ想いや熱量を感じることができ、その想いに応えられるように準備ができるのが楽しいです!事務局だけでなく、演劇家の方々と一緒にフェスを作り上げていく感覚です。

また、ポスターを地下鉄に貼りにいったり、チケットを置きにいったりする地味なお仕事でも、街全体でフェスを作っていく感覚を持つことができ、やりがいを感じます。

スタッフC 演フェスは、他の教文の事業とは異なり、全てをゼロから作り上げることが大変なことだけど、面白いです。例えば、東京でのカンパニーが教文で公演をする際は、もちろん事業課として作品の魅力を札幌の人に伝えられるように取り組みますが、やっぱり演フェスと違って、イベントそのものの内容をゼロから考えることはできないですよね。

こうした演劇のイベントは、前回が盛り上がったからといって、それと同じことをやってしまっては、絶対に前年よりも冷めたものになってしまう。変化し続けることが重要だと思っています。

演フェスでは、いろいろなアイデアを自由に設計し、どうしたらもっと盛り上がるフェスにできるかを考え、試し、実現することができることが楽しいです。

——教文の職員になろうと思ったきっかけ、経緯は何ですか。

スタッフB 私はここに来る前は、販売の仕事をしていました。家具や雑貨が好きだったので、自分の好きなものを仕入れて販売し、計画を立てて売上を作っていくような職場に就職しました。10年くらい働きましたが、だんだん「消費を促すだけ」のように感じられてしまい、自分のお気に入りをおすすめする仕事のはずなのに、虚しい気持ちを持ち始め、退職しました。今度仕事をするときは、時間がかかってでもいいから、自分がやりたいことを探してやってみようと決めました。

そのころ、全国的にアートフェスやものづくりフェスが流行り始めました。そういうのを見たり参加したりするうちに、イベントを作る仕事に興味を持ち始めました。自分が主役になるよりも、「こんな面白いものがあるんだよ」と伝える仕事、エンタメを提供する仕事がしたいと思い、教文の求人に申し込みました。

——すると、演フェスの企画運営はまさにやりたいことに近い仕事なんですね。

スタッフB でも実は、この仕事をするまで演劇は観たことがなかったんです。しかし、いろんな事業がある中で、演フェスが一番自分達で作り上げる要素が大きい仕事で、担当できてよかったと思っています。

スタッフA 私は大学時代は美術を専攻していて、ギャラリーやイベントに出展することもありました。でも、作る人だけがいても、そういう発表の機会を企画運営する人がいないと成り立たないんだなと思い、サポートする側に立つことに興味を持ちました。

実際に仕事を始めて、作品づくりをする裏には色んな事務的な作業があって、これまで自分は支えられていたんだなとありがたく思いました。演フェスに参加される演劇家の皆さんにとっても、演フェスがチャンスや機会と思ってもらえるように頑張ります!

——ありがとうございます。続いて、コロナにまつわる質問です。札幌でも、コロナ禍における舞台演劇のダメージは未だ癒えることがなく、コロナ前の状況には戻れていない現状にあります。この状況の中、演フェス(あるいは教育文化会館、あるいは札幌市芸術文化財団として)のミッションは何でしょうか。

おそらく重要なことは、コロナ前の状況に戻ることを願うのではなく、コロナのある世の中に順応したイベントを作ることなのではないかと思っています。一時的に感染者数が落ちていたとしても、数ヶ月後どうなっているかわからないのが現状です。「戻す」のではなく、この状況は数年後も続くことを前提に、「順応」して物事を進めていく。これが、この時代のイベントの目指すべき方向だと思います。

具体的には、やっぱり極力「安心安全」を確保し、お伝えすることだと思います。100%リスクを取り除くことはできないかもしれませんが、それでもできるだけ安心安全なイベントを作るために前進する。どうやってウイルスと共存しながらイベントを開催できるかを考え、実施に励んでいくことがミッションじゃないかと思います。それが公立文化施設である私達の役割だと考えています。

演フェスにおいても、「コロナ禍でもこういう方法なら演劇を盛り上げていけるかも」と何かしら考えるきっかけになるようなイベントづくりを意識しています。

——これまで毎年のように演フェスの運営を続けてきて、札幌の演劇界における課題は何だと感じていますか。演劇環境をよりよくするため、あるいはもっと演劇を盛り上げるために、解決へ進んでいくべきと感じることがあれば教えてください。

スタッフA あまり大きな視点で語ることができず恐縮ですが、現代の人々は「実際に見る体験」から離れてしまっているように感じます。

身近なことでいうと、大学生の時はほとんどがオンライン授業で、楽しめるコンテンツはスマホがあるし、家でYouTubeやNetflixで観れてしまう。実際に目の前で起こっているエンタメを見る経験が少ない方が多いので、知らないものにチャレンジする「恐怖」みたいなものがあるんじゃないかと思うんです。

若い人にとっては、演劇は「シェアがしづらい」こともあると思います。友達に面白いものを勧めるとき、YouTubeであればリンクをLINEで送れば共有できるけれど、演劇はそうもいかない。「あれが面白かった、これをもう一回見たい」と言い合えるような、共有できるような機会があったら良いのではないかと思います

スタッフB 私は、考えようによっては「課題」は実はないんじゃないかなとも思います。例えば、ファンや表現者の数が減っていって業界としては萎んでいるように見えても、それは「自然な形」でもあるかもしれない、と年を取ったせいかそう受け入れるようになってきました。ただ、表現したいという思いはどんな状況であれ消えることはないと思います。私たちの仕事は、札幌の文化芸術の現状を正確に捉えつつ、その現状を受け入れ、表現したい人、観たい人をサポートすることです。

あとは、演フェスのように地域で毎年のように行われているイベントが「続いている」ことも大切だと思います。この街には、毎年演劇のイベントがあるという安心感を継続的に提供できたら良いなと思っています

スタッフC なかなか一言では難しいですね…。

現代は、ライフスタイルが多様化していると言われます。表現する人もそれを観る人も、考え方や感じ方、演劇との距離感は千差万別で、その違いを受け入れていこうという世の中です。同じ演劇家だとしても、それで生計を立てていきたいのか、好きだから続けたいのか、どっちに重きを置くのかによっても「課題」は変わってきます。

そのため、札幌演劇全体の課題として、その共通項を言うとしたら、、、お金を回すことになるんじゃないでしょうか。つまり、演劇公演をするにはお金がいるので、ビジネスの視点で物事を考える。色んな劇団が予算規模を大きくし、大きなハコに挑戦する。演劇界全体で回るお金を増やすことが、経済的な発展につながるとは思います。

……そうは言ってもみんながみんなこうした経済的な目標を第一にしているわけではないですし、こうしたテーマは大切なことではありつつも、夢のない話だとも思います。

もっと短期的な視点で見るとしたら、「見たい」人を「見よう」に変える努力も求められるのではないでしょうか。興味があって見てみたいけど、スタッフAさんのいうような「恐怖」もあって、なかなか「見よう」にならないことが多い。ただ公演情報を届けるだけではなく、お客さんにチケット購入の「行動」を起こしてもらえるような仕組みを作る。作品のことだけに集中して「面白いから観に来てください」と言うだけの時代ではないと思います。各劇団がいかにその仕組みを、構造を作っていけるか。そのクリエイティビティは札幌全体に広がっていき、来場者数も伸びてくるのではないでしょうか。


裏側を支える事務局がどのような思いで演フェスを作られているのか、少しでも伝わったら嬉しいです。事務局の皆さま、ありがとうございました。

短編演劇祭は2022年9月18日(日)、教育文化会館大ホールにて開催です。休館前の演フェスをお見逃しなく!

「楽」「演フェスWEB」「d-SAP」
媒体三ツ巴連携プロジェクト

教文演劇フェスティバル2022をもっと楽しんでいただくために、3媒体でコンテンツをお届けする連携企画。教育文化会館が休館を迎える前に、一緒に演フェスを盛り上げましょう!

公演情報

教文演劇フェスティバル2022
短編演劇祭 四ツ巴戦

2022年9月18日(日)
14:00開演(13:00開場)

出場団体

・パスプア(札幌)「幽と現のあいだ」
・イチニノ(茨城)「第3回全日本もう帰りたい選手権(終)」
・空宙空地(名古屋)「グ、リ、コ」
・きまぐれポニーテール(札幌)「あたしとあなた、とお前と貴様」

チケット・公式WEB
https://kyobun.org/enfes-official/enfes2022.html

お問い合わせ

札幌市教育文化会館 事業課(原則第二・第四月曜休)
TEL:011-271-5822
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