【座談会】沖縄から札幌、札幌から沖縄へ|札幌演劇シーズン2024『9人の迷える沖縄人』

2024年7月13日(土)からスタートする「札幌演劇シーズン2024」。今回から開催期間や上演作品数などがリニューアルされ、“面白さ保証付”の9作品がラインナップされました。

8月10日(土)・11日(日)の2日間は、おきなわ芸術文化の箱『9人の迷える沖縄人~after’72~』が上演されます。1972年の沖縄本土復帰について、立場の異なる9人の「迷える沖縄人」たちによって繰り広げられる討論劇です。

今回は、本作の演出をつとめる当山彰一さんと、出演の犬養憲子さん、そして6月29日(土)に劇団の沖縄公演を控える弦巻楽団代表の弦巻啓太さんによる座談会の様子をお届けします。

一人芝居フェス「INDEPENDENT:SPR24」に参加した感想や、作品が描かれる背景、札幌と沖縄の演劇環境の違いなどについて語りました。

※当山さんは、ZOOMでの参加。

札幌の演劇人口は多い

弦巻啓太さん(左)と、犬養憲子さん(右)

弦巻啓太さん(以下、弦巻) 今回、犬養さんは一人芝居フェス「NDEPENDENT:SPR24」で来札されたんですね。僕は劇団のワークショップがあり拝見できなかったんですけど、僕の周りで作品を観た人は「圧巻だった」と絶賛していました。

この作品は、前から何度も上演されているんですよね。

犬養憲子さん(以下、犬養) そうですね。去年の沖縄のINDEPENDENTで作って、その後大阪本戦に呼ばれて、それからさらに1年空いて札幌での上演になりました。

弦巻 そうだったんですね。沖縄、大阪、札幌と上演してきて、磨かれてきたんですね。

犬養 それぞれ間の期間はそれなりにあったんですが、大阪も札幌も観てくださった方からは、「またちょっと変わりましたね」と言っていただきました。

弦巻 1度やった作品は、期間空いても熟成されていきますよね。当山さんは、犬養さんの一人芝居を観ていかがでしたか。

当山彰一さん(以下、当山) 毎年、沖縄のINDEPENDENTで観ているんですけれど、やっぱり犬養さんの存在は沖縄でもかなり大きいです。毎回「沖縄ならでは」の要素が入っていて、沖縄から全国に発信していく犬養さんの一人芝居を、僕も毎年楽しみにしています。

犬養 作家の二朗松田さん(カヨコの大発明)にも1本書いてもらったことがあるんですが、松田さんが言うには「犬養大喜利」だって。毎年作家さんが、犬養と沖縄を結びつけてどんな作品に仕上げるか、という(笑)

弦巻 それだけ犬養さんが、これまでいろんな作家の要求に応えていっているということですよね。

犬養 面白く料理していただいています。

弦巻 今回役者として初めて札幌でやってみて、大阪や沖縄との違いを感じることはありましたか? 客席の空気感など。

犬養 お客さんも、一緒に参加した方たちも、札幌はみなさん若いな〜と思って。若い力がみなぎっているというか。AブロックもBブロックも、最初の演目は大学生によるユニットだったんですね。それだけ若い方がいろいろ出られているのは、札幌は盛んなんだな〜と。

弦巻 確かに、大学演劇も盛んですね。学生劇団だけで企画される演劇祭とかもあります。

犬養 演劇の敷居が低いんだな、と思いました。

弦巻 なるほど。沖縄はそうでもない?

犬養 札幌と比べると、民間の小劇場がそう多くないんですよね。あとは大きいホールとかになってしまうので。

弦巻 大学生が気軽に会場を借りるには結構ハードルが高いのかもしれないですね。

当山 ここまで札幌の演劇が盛んになったのは、やっぱり北海道演劇財団の存在が大きいんだろうなと思っています。北海道内に演劇を根付かせるための活動をずっとされていて、行政との連携の仕方もすごかったですよ。これを参考に沖縄でもやっていきたいと思うんですけれど、それこそなかなか敷居が高く……。

そのこともあって、札幌は演劇の人口が多いんじゃないですかね。演じる方も、観る方も。

弦巻 北海道演劇財団が設立されたのはもう25年以上前ですかね(1996年)。僕はその頃すでに札幌で演劇を始めていたんですけれど、そういう組織ができると聞いて、学生だった僕は当時「これは敵だな」と思っていました(笑)

でも、僕も大人になってから、演劇財団のディレクターの一人として携わっていくようになり。僕はそれまで、クリエイターのことしか知らずに活動をしていたんですけれど、演劇財団のような、クリエイターと、市民と、行政の三者をつなぐ活動を目の当たりにして、こういう方々がいたから今の札幌の演劇環境があるんだなと思いました。

どうしてもクリエイターは、それぞれ自分たちの範疇でお芝居やろうって考えるんですけれど、変な話、それまで無関係だった人たちを巻き込んで演劇の価値を伝えていくというか、そういうことを遠慮せずに活動していた方がいたのは、本当に大きかったんだなと、大人になってから気づきました。

犬養 本当に札幌は演劇人口が多いですよ。若いですし。沖縄も少なくはないんですけれど。

弦巻 札幌と沖縄、地域の違いは、お客さんの反応からも感じましたか?

犬養 そうですね。沖縄の役者が沖縄をテーマにした作品をやるということで、どの地域でも、どうしても真面目に観なきゃと思っちゃうお客さんがいると思うんですね。基地の問題とか、アメリカとの関係とか、どうせそういう話をするんでしょ、といった感じがある人にはあって。でも、作品を観ていただくと笑えるものなので、次第に「あ、笑っていいんだ」となっていくんですね。

北海道は、その「笑っていいんだ」になるまでの時間がすごい長かったです。

弦巻 いや〜的確ですね。

犬養 今回は私がガングロで出てくるので、出オチなんですよ。そこで笑ってもらわないと気分が乗らないんですけれど、2ステージとも誰一人笑ってくれなくて、やっべぇ!って(笑)

弦巻 多分初めて犬養さんのお芝居を観るお客さんがほとんどだったと思うので、事前のインプットがない状態で、お客さんも手探りになっているというのもあるかもしれないですね。

でも、僕もコメディが好きで、笑える作品をよくやるんですけれど、一番渋いのは札幌のお客さんですよ。

犬養 そうなんですね……。みんな真面目に観てくださる感じはあるんですけれど。

弦巻 「笑っていいんだ」ってなるまでに時間がかかるんですよね。僕はよくそれを「周囲のお客さんの反応をうかがっている」と表現します。自分以外のお客さんがどう思っているかが気になる。札幌人の気質なのかもしれないですし、観劇に対するハードルの高さとも言えるので、僕たちの責任かな、とも思うんですけど。

犬養 『9人の迷える沖縄人』もやばいかもしれないですね(笑)。私この作品でも、唯一のお笑い担当なんですよ。

弦巻 今回INDEPENDENTがあったので、犬養さんが出てきたら「笑っていいんだ」になると思いますよ!

これが沖縄だと実感していただきたい

弦巻 『9人の迷える沖縄人〜after’72〜』についてのお話も聞かせてください。今回、札幌演劇シーズンでの上演ですね。

当山 はい。1972年に沖縄が本土復帰するんですけれども、本土復帰をすると沖縄県民はどんな生活になってしまうんだろう、という不安を抱えている各分野の方たち、主婦、 おばあちゃん、本土から沖縄に移住した人、復帰を望む復帰論者、復帰を反対する方、沖縄の文化を支える役者、有識者、若者、そして司会者の9人が、沖縄のこれからについて討論する劇になります。

この討論が、現代にも重なり、どこに向かったら良いのか迷っている9人の沖縄人を描きます。お客様が10人目の迷える人になって考えていただけると嬉しいです。

初演を上演した劇艶おとな団という劇団には、復帰を全く知らない世代もいました。僕はまさに復帰を経験していて、当時は7歳でした。若い世代から「復帰前ってどんな感じだったんですか。1ドルってどのくらいの価値だったんですか」と質問してくれたんですね。そういったやりとりも脚本に取り入れられています。

弦巻 結構生々しいというか、実体験が反映されているんですね。

僕は1976年札幌生まれ札幌育ちで、本土復帰については本とか教科書などで過去の事実としてしか知らなかったので、演劇を通して当時のやりとりを観られることが非常に楽しみです。

作品を観た札幌のお客さんがどういう反応をするのかもすごい楽しみです。

当山 ありがとうございます。実はいま僕、当時の状況ならではの面白いものを持っていまして。これ、パスポートなんですよ。

弦巻 へぇ! 当山さんの昔のパスポートですか。

当山 僕がまだ子どもなので、親に抱っこされているものなんですけれど。これは、「琉球列島米国民政府」が発行したもので、「本証明書添付の写真及び説明事項に該当する<琉球住民>当山彰一は、日本へ旅行する者であることを証明する。琉球列島高等弁務官」とあります。

だから、宙ぶらりんだったんですね、沖縄の人間は。アメリカの占領下にはありましたけど、アメリカ国籍でなければ日本国籍でもない、「琉球住民」であると。

弦巻 初めて見ました。

当山 そして、これは琉球政府が発行していた切手です。3セント、8セントと書いてあります。

弦巻 なるほど、通貨としてはドル・セントになるんですね。こうして現物を見せていただくと、生々しく感じますし、ますます作品を観るのが楽しみになりました。 

犬養 沖縄の問題を描いた作品ですし、それこそ「真面目に観なきゃ」と思わせてしまうかもしれないですけれど、多分いっぱい共感していただけるところがあると思います。そんなに固くならずに「沖縄から劇団が来てるって〜」くらいの感じで観ていただけたら嬉しいです。

観た後で「沖縄の人迷っているんだ、じゃあ私も一緒に迷ってみようかな」と思って帰っていただけるんじゃないかな。

当山 沖縄にはいろいろと歴史があるんですけれど、その中で沖縄の文化人がどれだけしなやかにしたたかに生きてきたのか、っていうところも垣間見えると思います。

あと、沖縄の言葉、ウチナーグチもふんだんに出てきます。一度、本土の言葉に寄せようとしたこともあるんですが、やはり全く戻しまして、これが沖縄だと実感していただきたい。沖縄の言葉があるというのも楽しみにしていただけるかなと。

犬養 分からない人は台本買ってください!(笑)

ただ、安心していただきたいのは、今の沖縄の若者も、がっつりウチナーグチで喋られたら理解できない人が多いです。おじいちゃん、おばあちゃんと普段暮らしているとか、日常の中に言葉がない限り全然わからないですね。

弦巻 そうなんですね。

犬養 なので、安心して台本をお買い求めください(笑)

弦巻 (笑)。沖縄に限らずですけれど、違う町で活動されている演劇人の方々と会うこともすごい楽しみでもありますし、すごい刺激も受けますので、とても期待しております! 楽しみです。

犬養 よろしくお願いします!

沖縄から札幌、札幌から沖縄へ

当山 そして弦巻さんは、6月に沖縄で公演されるんですよね。

弦巻 はい、沖縄で生まれた高校演劇の名作『出停記念日』(作:島元要)を、札幌・沖縄の2都市で公演します。

犬養 あ〜そうなんですね! シアターZOOの近くのラーメン屋さんでポスター見ましたよ。「あ、こんなところに島元先生の名前が!」って。私の大学の先輩なんですよ。

弦巻 えー! そうなんですか!

『出停記念日』は2017年くらいからたびたび公演しておりまして、本当は3年前も沖縄公演を企画してたんですけれど、渡航の前日にコロナの影響で行けなくなってしまって。その時は当山さんにも大変お世話になりました。今回3年越しにようやく再チャレンジをさせていただきます。

6月29日(土)に、那覇市のアトリエ銘苅ベースで上演させていただきます。

弦巻 何度も上演させていただいているんですが、作者の島元先生とは直接お会いしたことはなかったんですよね。メールだけのやりとりで、上演映像は観ていただけて感想をいただいたりはしていたんですけれど。やはりどうしても島元先生のいらっしゃる沖縄でやりたいってずっと思ってたので、今回、念願叶って上演させていただくことになりました。

当山 素晴らしい脚本ですよね。私も専門学校で講師をする際に、何度か台本を使わせていただいたことがあります。

また、弦巻楽団が過去上演したバージョンの映像もちらっと見させていただいたんですけれど、そのまま演じるのではない、演出的な仕掛けがありますよね。生で観られるのをすごく楽しみにしています。

弦巻 ありがとうございます。登場人物5人、演じる役者をシャッフルしながら上演しています。劇の途中で、役割をパッパッパと交換していく感じです。

犬養 役者としてはしんどいやつですね!

弦巻 (笑)。今回で4回目くらいの上演になるので、その変わり方もよりスピーディーに、スムーズに、切り替わったことがギリギリ気づかれないくらいに、精度を高めながら稽古をしています。気持ちとしては、新しい作品作りだと思って稽古をしています。

ぜひ沖縄の皆さんに観ていただきたいですし、6月30日(日)には、沖縄の演劇人の方と交流会をさせていただきます。犬養さんも当山さんもぜひご参加いただけると嬉しいです。

お芝居って、全部出ちゃうものだと思うんですね。その人の心構えとか、どういう姿勢でお芝居に向き合っているかとか、普段どういう風に生活してるかとか。そういう意味で、北海道で演劇に携わってる人間たちをまるっと見てもらえたらなと思っております。

当山 島元要先生とのアフタートークもありますよね。

弦巻 はい、6月29日(土)17:00の回に行います。初対面なので、もう既にすごい緊張しています。

犬養 私がもともと劇団を一緒にやっていた役者も、島元先生の演劇部の教え子なんですよ。

弦巻 めちゃめちゃ島元先生と繋がりあるんですね。だ、大丈夫ですかね、僕。なんて失礼な奴だ、て思われないですかね。

犬養 大丈夫ですよ(笑)

弦巻 よかったです。沖縄でもよろしくお願いします!

2024年5月某日
生活支援型文化施設コンカリーニョにて

公演情報

おきなわ芸術文化の箱 公演
『9人の迷える沖縄人〜after’72〜』

作:安和学治、國吉誠一郎
演出:当山彰一

1972年沖縄の本土復帰を目前に、有識者、主婦、老婆、沖縄へ移住した本土人など9人が一つの部屋に集められた。
「日本がもし万が一、攻めこまれた場合、戦争はしませんって言っていられると思いますか?」「私も胸を張って基地はいらないと言いたいです。」「のんびりすることが美徳なら、基地も受け入れてのんびりやったらどうですか?」 語られる沖縄、日本への思い、そして戦争、恒久平和への思い、様々な思いが交差して、渦の中に引きずり込まれていく。

公演日程

8/10(土)13:00/18:00★
8/11(日)11:00/15:00

★終演後アフタートーク
※上演時間は95分を予定しています。(多少前後する場合がございます)
※開場は各30分前です。

会場

生活支援型文化施設 コンカリーニョ

札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F

チケット

[一般] 4,000円
[U-25] 2,000円★
[高校生以下] 1,500円★

★当日受付にて身分証をご提示ください。
※その他お得な特別チケット・回数券もあります。詳しくは、札幌演劇シーズン2024公式サイトをご確認ください。

公演に関するお問い合わせ

おきなわ芸術文化の箱
TEL:070-4393-6225
Eメール:oact@m-base.okinawa