2023年1月21日(土)、文化庁の補助事業「JAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2022」の成果発表会が行われました。
2022年8月から始まった本企画は、演劇、音楽などの様々なジャンルの舞台公演にとどまらず、人材育成プログラムやシンポジウムなども盛んに行われました。
このページでは、成果発表会当日の様子や内容をレポートします!
芸団協・川島香さんによる講演
成果発表会は、全国版のJAPAN LIVE YELL project(以下、JLYP)を担当する、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の川島香さんによる講演「JLYPの成果と課題」から始まりました。講演では、JLYPが始まった背景、現在の国の文化政策の方向性などをテーマにお話しされ、コロナ禍において本事業がどのように位置づけられてきたのかを確認することができました。
川島さんのお話で特に印象的だったのは、文化政策のトレンドとして、国は「創造的循環」という概念を打ち出しているという内容でした。
「創造的循環」について解説されている<文化と経済の好循環を実現する文化芸術活動の「創造的循環」>では、この概念について、以下のように説明しています。
古来、人々の日々の生活の中で育まれてきた文化や、時代を超える美を表現してきた芸術は、それぞれの時代の経済や政治とも作用し合いながら、社会の豊かさの基盤であり続けた。そうした文化芸術と社会の相互作用を子細に眺めるなら、そこには二つの「創造的循環」、すなわち文化芸術の活動を産み出す 「土壌」を豊かにする第一の創造的循環と、文化芸術活動そのものの価値を高めていく第二の創造的循環が形成されてきたことが見て取れる。
(中略)
以上の理由から、我が国は、文化芸術活動の「土壌」を整え、そこから生まれる循環を価値の高いものにしていくために、文化芸術活動を一つの循環的生態系(エコシステム)と見て、二つの創造的循環を育成・強化し、必要に応じてアップデートしながら最大効果を生む政策展開をしていくべきである。
引用:文化審議会文化経済部会「文化と経済の好循環を実現する文化芸術活動の「創造的循環」」p.3、2022年3月31日
出典:文化審議会文化経済部会「文化と経済の好循環を実現する文化芸術活動の「創造的循環」」p6、図2、2022年3月31日
第1の循環として、文化芸術活動の基盤としての環境・土壌作りをし、第2の循環はこの活動を「価値付け」することで資金を獲得し、さらにその資金を土壌に再投入することで文化と経済の好循環を生む、というのが国の文化政策の方向性です。
抽象的で少しあいまいに見えますが、文化芸術活動者にとっては、自らの活動をこの循環のどこに位置付けるかを明確化することが求められます。 (言い方を変えると、明確化することで助成金等を申請する際に役立つかもしれません。)
川島さんは、文化芸術活動者の今後の方針として、さらに以下のような視点もお話しいただきました。
- 文化芸術の「本質的価値」を共有する言葉を獲得する。
- 「価値付け」のためのエビデンスを探す。(アンケート等の色々なやり方を模索)
- 異業種・同業者間の連携を進める。(社会的プレゼンス・アドボカシーを形成)
これらの川島さんの解説を通して、今後の北海道の文化政策を考える上で、基礎的で非常に重要な視点を学ぶことができました。
また、JLYPの総括としては、本事業を通して、全国・地域・事業といった3層構造のネットワークが形成され、これまでにない関係性や学び合い、課題の共有の機会が生まれたとお話しされました。
一方で、今後の課題としては、地域におけるヒト・カネ・情報の不足、特に実演家よりも制作・運営者の不足が浮き彫りになったこと、さらには前時代的な助成制度、地域で中核組織をいかに育てるかなどが挙げられました。今後はますます、人・知・財を流動化させていくことに意識的になっていく必要があります。
JLYP in HOKKAIDO 2022 活動報告
JLYP in HOKKAIDO 2022では、「地域とつながる」を意識した多様なプログラムが展開されました。
- 秘められた歴史遺産を巡る「ライブアートツアーin栗山」9/29
- アイヌ影絵「NOCIW CIP~ほしふね」10/5〜12
- ジャズ・シティ札幌の底力Ⅲ「南と北」11/14
- さっぽろパペットシアター「北のおばけ箱2」12/24〜25
- 音楽劇「動物たちの夜曲(セレナーデ)」2023/1/3
- (関連事業)劇団千年王國ロックミュージカル「ロミオとジュリエット」12/24〜25
栗山町・長広大さん「ライブアートツアーin栗山」報告
栗山町で地域おこし協力隊として働く長広大さんによる、「ライブアートツアーin栗山」の報告も行われました。
始めに地域観光の観点から栗山町の現状・特徴・課題を共有し、ライブアートツアーの概要を説明いただきました。企画準備は2022年3月頃から始まり、たくさんの打ち合わせやロケハンを重ね、ツアーは9月に実施、さらには当日の様子を映像作品として作成し、12月には栗山町で上映会を行いました。
長さんは、「俳優さんだけでなく、町内の住民も案内人として出演できたのが嬉しかった」と語ります。
ライブアートツアーで生まれたつながりは、企画終了後も続いています。例えば、ツアー当日に朝食として配られた栗山町の素材を活かしたおむすびに関するプロジェクトは現在も継続しており、おむすびを通して栗山を知ることができるといいます。
札幌の人がただやってきて劇を上演するのではなく、町全体を巻き込んで行われた本企画。町民が町民を知り、町内事業者の連携促進にも繋がる機会となりました。
西脇秀之さん「北海道シアターカウンシルプロジェクト」報告
- キックオフ・シンポジウム「文化芸術は誰のもの?」8/2
- 人材育成プログラム「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」9/5〜11/7
- ディスカッション「文化芸術は誰のもの?おかわり」8/31〜12/17
- 映画「アートなんかいらない!」10/22〜23
- シンポジウム「文化芸術は誰のもの?戦後ドイツ・日本では」11/5
「北海道シアターカウンシルプロジェクト」は、地域と舞台芸術をつなぐ新しい文化芸術支援のあり方について検討・検証をしていく場として、2022年に新しく始まりました。
文化政策をテーマとしたシンポジウムのほか、関連企画としてディスカッションの機会を設けた「おかわり」、芸術の本質的価値を問う映画「アートなんかいらない!」も行われました。
活動報告は、人材育成プログラム「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」に参加された演出家・劇作家の西脇秀之さんが行いました。各プログラムの特徴や、実際に参加してみての感想などを網羅的にお話しいただき、活動を総括することができました。
西脇さんの他にも、北海道シアターカウンシルプロジェクトの参加者が一人一言コメントし、来年度につなげていくという認識を共有し、成果報告会は終わりました。
JLYPは来年度も引き続き開催される予定です。今年度の新しい取り組みをさらに発展させ、未来の北海道を見据えたプログラムになることを期待します。
成果報告会の中では、こうした様々な勉強の機会を企画しても、参加するのは一部の人でなかなか業界全体に広がっていかないという課題もありました。来年度開催される際は、ぜひご参加ください!
「JAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2022」事務局
TEL.011-281-6680(平日10:00~16:00)