北海道シアターカウンシルプロジェクトって何だ? 斎藤歩氏に聞きたいことを聞いてみた

前回のお知らせで、「JAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2022」の一環として行われる、北海道シアターカウンシルプロジェクトについてご紹介しました。

とても魅力的な取り組みですので、もう少し気になるアレコレを聞いてみたい!

「JAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2022」を主催する札幌演劇シーズン実行委員会で企画の総括をされている、プログラムディレクターの斎藤歩さんにメールインタビューさせていただきました。

記事内のリンクは、参考資料としてご活用ください。

札幌の演劇家が「文化芸術と社会の関連性」を学ぶべき理由

Q. 現在発表されている二つの企画(シンポジウム、講座)は、どちらも文化政策や地域振興、課題解決など、「文化芸術と社会の関連性」がテーマとなっています。いま、札幌の芸術家・演劇家がこのテーマについて学ぶ必要性・重要性は何だと思いますか。

これまで文化芸術の振興といえば、音楽や演劇の公演、美術作品の展示等、つくり手であるアーティストや創造団体の作品を、受け手である鑑賞者に提供し鑑賞してもらうことに重きが置かれていたように思います。

もちろん、このことはとても大切なことですが、一方では、つくり手と受け手が分離してしまい、その結果、「文化芸術は一部の人が好きでやっている特別なもので、自分たちとは関係のないもの」という誤解が生まれてしまったように思えます。コロナ禍において「なぜ芸術や文化を税金で支援する必要があるのか」という批判の声が少なからずあがったのもこうした背景があったからではないでしょうか。

本当に「文化芸術は一部の人が好きでやっている特別なもので、自分たちとは関係のないもの」なのでしょうか。そうではないとするならば、社会における芸術とは何か、あるいは、芸術にとっての社会とは、何なのでしょう。

例えばドイツでは「芸術は民主主義を守るために不可欠なもの=社会インフラである」という考えが社会全体に根づき、共有されているように思えます。そして、その考えがあらゆる文化政策の裏付けとなる基本的な理念になっているのではないでしょうか。だからこそ、コロナ禍でもいち早くアーティストへの支援策を打ち出すことができたし、その支援策に対する批判を聞くことも少なかったのではないかと思います。

日本ではどうでしょう。私たちは「社会における芸術とは何か」という問いに対する明確な答えを持っているでしょうか。実は私たちは、文化振興を口にしながらも、文化政策の裏付けとなる「社会における芸術とは何か」という最も基本的な理念について、具体的に議論してこなかったのではないでしょうか。コロナはそんなことに気付かせてくれたように思います。

わが国では、「少子高齢化・グローバル化の進展など社会の状況が著しく変化する中で、観光やまちづくり、国際交流等幅広い関連分野との連携を視野に入れた総合的な文化芸術政策の展開が、より一層求められる」ことから、平成29年6月23日、議員立法により「文化芸術基本法」の改正が行われ、文化芸術団体の果たす役割が明記されるとともに、国・独立行政法人・文化芸術団体・民間事業者等の連携・協働についても新たに規定されました。

コロナで北海道の文化芸術は大きなダメージを受けました。今後、今の状況をどう立て直していくのか、そして、これまで体験したことのない未曽有の人口減少・政情不安・食糧難・地球温暖化など、多くの社会課題と向き合いながら文化芸術の振興を持続可能なものにしていくためにはどうすればいいのか。

いま、全国的な状況を見ると各地に「アーツカウンシル」が設置されています。そこでは、鑑賞にとどまらない市民と文化芸術との付き合い方が提案され、まちづくりや観光、福祉、教育などの多様な場面で、文化芸術が持つ力を活用したさまざまな創造活動をベースに、都市の創造性を高める活動が展開されています。

北海道の文化政策もまたそうした方向に進んでいくのかもしれませんが、そうすべきかどうかも、まずは「社会における芸術とは何か」ということを、アーティストも含め社会全体で考え、共有すべきではないかと思います。そう考えて、今後の北海道の文化政策を考える一歩目の企画として、今回のシンポジウムを企画しました。

シアターカウンシル構想について

Q. 今回の企画は「北海道シアターカウンシルプロジェクト」の企画によるものです。シアターカウンシルについては5年ほど前から演劇創造都市札幌プロジェクトが中心となって目指してきたことかと思いますが、今回の企画も、シアターカウンシル計画の一環と捉えて良いのでしょうか。シアターカウンシルの実現に向けた展望があればお聞かせください。

今回の「北海道シアターカウンシルプロジェクト」は、これまで演劇創造都市札幌プロジェクトが行ってきた取り組みがベースになっています。

ただし、名称に「シアターカウンシル」と入ってはいますが、いわゆる「カウンシル」的な制度や組織をつくることが目的ではなく、アーティスト、市民、行政等、あらゆる立場の人たちが一緒になって、北海道のこれからの文化政策について考える場として、このプロジェクトが機能すればいいと思っています。

数年前、d-SAPのインタビューでもお答えしたんですが、札幌の人にとっては「アーツカウンシル」も「シアターカウンシル」も一体何のことだかわからないですよね。耳慣れない言葉だと思います。なのでちょっと乱暴ではありますが、敢えてプロジェクトの冠に「シアターカウンシル」という言葉を盛り込んでみたんです。皆さんが「何それ?」ってまずは感じて頂けたらと。

みんなで考えた結果が「カウンシル」なのかもしれないし、全く違うものかもしれない。最初から答えを用意しないで、広く柔軟な発想で考えてるきっかけになることを期待しています。

今後の展望について

Q. 北海道シアターカウンシルプロジェクト、あるいは演劇創造都市札幌プロジェクトでは、今後どのような活動を予定しているでしょうか。

アーティスト、市民、行政等、あらゆる立場の人たちが一緒になって、北海道のこれからの文化政策について考える場として、このプロジェクトが機能すればいいと思っているので、まずはさまざまな立場や考え方をお持ちの、多様な人の声を聞きたいと思っています。今回のシンポジウムはそのためのものでもあります。

また、全国的に見ると、まちづくりや観光、福祉、教育などの多様な場面で、文化芸術の持つ力が活用されています。この流れは、今後の文化政策を考える上で無視できない大きな流れでもあると思います。

では、どんなことが行われているのか。その取り組みの一例を体験してもらう場として「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」を開催します。現在、音楽や演劇のワークショップを開催していたり、まちづくりに係っている方たちのスキルアップにもつながる内容になっているので、多くの方に受講していただければと思います。

ほかには、これからの北海道を担う若い人たちにともぜひこのプロジェクトを一緒に進めていきたいと考えていて、現在、「学生インターン」を募集しているところです。

また、こうした取り組みはつい札幌だけで物事を進めてしまいがちですが、北海道には札幌以外に178もの市町村があるので、地域の人たちとも話し考える機会をつくっていきたいと思っています。

若い世代の意見を取り入れる、次世代を育てるために

Q. 演劇創造都市札幌プロジェクトはこれまでさまざまなイベント・企画に取り組んでおられます。メンバーの多くが50歳以上で構成されておりますが、30代以下の若い世代の意見をどのように汲んでいく仕組みがあるでしょうか。未来のプロジェクトメンバーを育てる展望があれば、お聞かせください。

演劇創造都市札幌プロジェクトは、特にメンバーを公募しているわけではありません。かといって、新しいメンバーが加わることを拒んでいる訳でもありません。

むしろ、若い人たちの意見を汲んでいくために若手演劇人たちとの座談会を盛んに行っていますし、今後もプロジェクトの取り組みの方向性を探る上で、こうした座談会を複数回開催し、さまざまな世代、タイプの演劇人の声を聞かせてもらいたいと考えています。

これまでの若手演劇人たちとの座談会の内容は、演劇創造都市札幌プロジェクトの公式サイトをご覧ください。


北海道シアターカウンシルプロジェクトのねらいや目的についての理解が深まりました。札幌演劇シーズン実行委員会の皆様、斎藤歩さん、ありがとうございました!

プロジェクトのキックオフ・シンポジウムは2022年8月2日に開催されます。楽しみです!

お問い合わせ

jlyp.hokkaido@gmail.com