札幌演劇シーズン2019-冬もいよいよ折り返し。みなさま今年の冬は楽しんでいらっしゃるでしょうか。
多くの方にとって演劇を観るきっかけとなる札幌演劇シーズン。しかし、d-SAPはもっと多くの「はじめてのお客様」に札幌演劇を楽しんでいただきたいという思いがあります。
そこで、2018-冬シーズンで好評だった企画「はじめての演劇」を今回も実施。演劇を普段観ないお客様を無料招待し、観終わった後に「はじめての演劇」の感想を話し合っていただきました。
対談テーマは、「はじめての演劇はどうだったか」「また観たいと思ったか」「どうしたらもっと初めてのお客様が増えると思うか」など。演劇を普段あまり観ないお客様だからこそ感じる、演劇の魅力や特徴、そして課題について話し合っていただきました。
観劇した作品は、トランク機械シアター「ねじまきロボットα〜ともだちのこえ〜」です(2019年2月9日11:00からの回)。子どもも楽しめる作品ですので、今回は親子3組にご協力いただきました。
参考 はじめての演劇「とりあえず1回目を観ることが大事」|札幌演劇シーズン2018-冬
- 田中ファミリー4人(両親、小1女の子、4歳男の子)
- 結城ファミリー4人(両親、小1男の子、2歳女の子)
- 小原ファミリー3人(両親、小1男の子)
- 司会:佐久間許都(d-SAPスタッフ)
子どもの言語で、伝えたいメッセージを
ー はじめに、作品を観た率直な感想をお話しください。
小原ファミリーのお父さん 最初は役者のみなさんに注目していたんですけれど、話が進むに連れて、役者ではなく、アルファーなど登場するキャラクター(人形)が話しているように感じられましたね。
田中ファミリーのお父さん そうですね。僕が劇場に入って最初にいいなって思ったのは、開演前に子どもたちの注意をひいてくれたのは嬉しかったです。親としては、待ち時間とかは不安なので、すごく親切だなって思いました。
結城ファミリーのお父さん セリフの一言一言が子どもの言語で、でも劇として伝えたいメッセージはちゃんと伝えているというのが、子どもにとっても大人にとってもすごくわかりやすかったですね。あまり集中が続かない子どもたちもすごく真剣に観ていました。
ー (子どもに)みんなは観てみてどうだった?
小原そうくん(小1男の子) 最初は、面白かったんだけれど、悪い人がでてきて、イヤな感じになっていたのが悲しかった。でも、そのあとは面白かった!
結城こうせいくん(小1男の子) 人形って普通布でつくるけど、ねんどみたいな感じなのが面白かった。
ー 好きなキャラクターとかはいた?
そうくん アルファー。
子どもの感性を知るきっかけに
ー これまで、親子で文化芸術を観に行く機会はありましたか?
田中父 一回、子どもが騒いでもいいオーケストラを観に行ったことがあります。
こうせいくん 小さいころ、仮面ライダーの劇見た!
ー 文化芸術は子どもに、また親子の関係にどのような影響をおよぼすのでしょうか。
結城父 会話のきっかけになりますね。観る前も、どんなお話なんだろうねってわくわくしますし、観た後も感想を話し合ったり。絵本を読み聞かせるのと似たような感じですかね、劇のお話を楽しんでもらうのは。
田中父 家族で会話が弾むというのはとっても良いことなので、こういう機会があるとありがたいですね。子どもに見せてあげるために作られた芸術だと、親も安心して観に行ける。
そして、この作品のメッセージに関しては、決して「子ども向け」だけではない。大人にとっても、社会の縮図が表されたインパクトのある内容でした。大人は大人として楽しめたし、子どもたちは子どもたちなりに理解して楽しんでいるんだろうし。
家族のイベントとしてこういう芸術があると、すごくありがたいです。
小原ファミリーのお母さん 出てくるキャラクターが良い人ばっかりじゃないのが良かったと思います。世の中には自分とは違う考えの人や、悪い人も中にはいますし。
悪いことには「悪い」って言っていいんだ、良いことは応援していいんだということを教えるのは、ただ家族で話しているだけでは難しいですので、こういう劇を見せて、子どもたちが自分なりに理解できるというのは、見せてよかったなと思います。
田中父 特に、小原そうくんは、最後の写真撮影のときに自分からすすんでいって、スーツ大臣(作品の登場キャラクター、悪役)に「ダメだよ!」って注意しにいったんです。それってすごいことだと思いますよ!
普段家族で生活していて、わかっているようでわかっていない子どもの成長・感性などをこういう機会にあらためて知れることは、大きな意味があると思います。「あー、こういう風に考えるんだ」って、親である僕らも勉強になります。
親子で文化芸術を観る
ー 親子で文化芸術を観に行くとき、こんなサービスがあったら嬉しいなど要望はありますか?
田中父 正直、今回の公演は僕が希望していたことを全部やってくれたという印象です。例えば、子どもたちを前に座らせてくれたこと、開演前の暇つぶしをやってくれたこと、あと最後に写真撮影があったのは期待以上でした。
親としても安心して観れるサービスでしたし、子どもたちも喜んでいたと思います!
ー この公演は、大人3000円、学生1500円、子ども500円です。4人家族で7000円です。
田中ファミリーのお母さん …高いです(笑)7000円払ってどれくらいのものが出てくるのかが全くわからない状態では、なかなか出せませんね。子どもたちが途中で怖くなって泣いちゃって会場を出なくちゃいけなくなったときのこととかを考えると、チケット無駄になっちゃうんじゃないかとか…。
今回は招待で観させていただいてどんな感じかわかりましたが、やっぱり行ってみないとわからないものに7000円は、なかなか手が出ません。
小原父 正直高いかなと思います。だからこういった何か1回目を観に行くきっかけを与えてくれると、2回目3回目に行きやすくなります。
結城父 僕は、劇場に入る前はチケット高いなって思うけど、観終わったあとは「あ、この値段で観られるんだ」と感じられました。作品の質としては、悪くない値段だと思います。
小原母 kitara でパイプオルガンの演奏を子どもと聴きに行ったことがあったんですけれど、すごく安かったんです。kitaraでこんなに安く聴けるんだと思って行ったんですけれど、私は楽しかったけれど子どもたちは退屈だったみたいで…。
なので、たとえ安くても子どもが楽しめないならあまり行こうという気にはなりませんね。
田中父 子どもが何に興味を示すかは、正直親にはわかりません。だからこそ、できるだけ色々なものに触れてほしいという思いがあります。なので提供側が「子どもが騒いでも全然大丈夫ですよ」ということを打ち出してくれると、行きたいなと思います。芸術の種類に関わらず。
子どもがいる家庭に情報を
ー 演劇などの文化芸術を楽しむ親子が増えるためにはどうしたら良いでしょうか。
田中父 学校とかでこういった上質な作品を観せてくれたらいいですよね。出張公演に来てもらえるとそれがきっかけになって、こぐま座にも行ってみようかなって気になれると思います。学校の理解も必要だと思いますが…。
小原父 舞台セットなども非常に重要ですよね、劇場という空間が。なので作品を学校に持ってきてくれるのももちろん良いですが、僕は子どもたちが劇場に足を運べるような授業が学校であったら良いと思います。
田中母 幼稚園で配られるチラシは、子どもが興味を示しやすいです。いろんな種類のチラシをもらってきますが、けっこう「これ観に行きたい!」と言っています。幼稚園や小学校から配られるチラシは大事なおたよりと一緒になっているため、親もしっかりと読み込んで、効果的かもしれません。
田中父 子どもと一緒に観に行けるものを探している親って、実は多いんじゃないかなと思います。週末に子どもたちとどこか行きたいけれど、どこに行けば良いかわからないときたくさんあります。
学校から配られるおたよりにこういった公演のチラシが入っていると、もちろん金額は見ますけれど、ありがたい情報だと思って受け取りますよ。
結城ファミリーのお母さん 幼稚園に来てやってくれる劇は子どもたちは観ていますけど、休日に劇場で一緒に観るのは子どもたちの反応も見れるので嬉しいです。
娘は2歳ですけれど楽しんで観ていたので、あーこういうのもありなんだって発見がありました。
途中で子どもたちも一緒に参加できるクイズみたいなのがあって、それも良かったですよね。
田中父 内容的には本当申し分ないですよ。しかし、問題は値段だと思います。4人で7000円かかると、なかなか友人も誘えない。
結城父 僕のイメージですけど、演劇は映画に比べてコマーシャルが少ないんじゃないかと感じます。予算的なところもあるんでしょうけれど…。
田中母 SNSとかで宣伝されているんだと思いますが、ママたちはよほどアンテナを張っている人でもない限り、そういった情報を見る時間ないですね…。自分から調べるためにはインターネットやSNS活用しますけれど、ただ流れてくる情報は追えないです。
田中父 舞台芸術は、その面白さをまだ体験していない人が多いんじゃないでしょうか。規模は小さくても学校で上演したりとか、何かきっかけ作りさえできればすぐに認知度は広まっていく気がします。
小原母 子どもが行きたい!って強く望むものなら、値段が少し高くても出しちゃうかもしれません。でも、チラシだけが配られて、書かれている値段を見て高かったら、親は観に行こうと思いません。
私は、札幌市の広報をよく見ますね。そこでも演劇の宣伝はあんまりない気もします。
田中父 新聞の折り込みとかも、ですよね。でも信頼できるのはやっぱり学校や幼稚園から配られるチラシですね。子どもがいる家庭に情報を届けるのは、そういった工夫が大事かと思います。
子どもがいる家庭だからこそ感じること、演劇は面白いんだということ、そして内容以外の面で様々な壁があるということを学べました。
SNS・インターネットでの宣伝は確かに簡単に多くのひとに情報を届けられるけれど、それらには限界があります。本当に情報を必要としている人には以外と届いていないのかもしれません。作品の質を上げることはもちろんですが、それ以外にも工夫をしなくてはいけないことが多そうです。
ご協力いただいた皆様、誠にありがとうございました!
2019年2月9日
札幌文化芸術劇場hitaru
クリエイティブスタジオ
取材:d-SAPスタッフ(佐久間)
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