2019-冬シーズン参加演出家対談|演劇が持つ教育ツールとしての可能性

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学校現場での演劇の役割

ー 諸外国では公教育でも演劇を「授業」として組み込んでいるところが多くあります。日本の子どもたちにとっても、演劇を授業化して取り入れることは必要だと思いますか。

櫻井:日本には演劇の授業がなかなか根付かないですよね、なんでなんだろう。

立川:学校では「道徳」が教科化し、道徳教育に演劇を絡められないかと考えている人たちがいます。教科化されたことにより、「◯◯だから、〜してはいけない」とか、決まった結論に向けて授業をするように言われてしまっている現状があります。でも、本来は結論以外にも色んな人の色んな見方があって、それを踏まえて自分の意見を言うということを良しとしないと、道徳すらも答えのある授業になってしまう恐れがある。

だから、演劇をやっている人が、「色々な視点で物事を考えて、色々なことを思っても良い」ってことを教えてあげないといけないんじゃないかって。そのために、演劇を道徳の授業に参入させられないかと動いている人がいるんですよね。

南参:他の国のことをそんなに知らないので、よくわからないですけど、子どもたちはみんなすごく失敗や不正解を恐れたりしますよね。例えば(ワークショップなどで)「いい演技って何?」って聞いたときに、なかなかみんな手が上がらなかったり。間違うと恥ずかしい、「正解は一つだ」っていうのがもう植え付けられてますよね。

櫻井:なんか、フィンランドの小学校5年生の教科書をうちの旦那が買ってきて、読んでみたら答えが出るような問題がなくて。「大げさと嘘の違いは何か」とか、一つの答えがない問いを議論する、という日本の大学生がやるようなことをフィンランドでは小学校でやるんだなって思った。

増澤:実際社会の中で「絶対」ってあんまりないじゃないですか。でもさっきの道徳の話みたいに、一つの確立された答えが欲しいっていうのが教育現場の考え方。一方で、答えがなくて、「みんな違ってみんないい」をやるのが演劇です。だから、日本教育のあり方と演劇は反発するのかもしれませんね。

櫻井:一つの正解を求めるっていう価値観はどこから始まったんでしょう。明治からなんですかね?

南参:確かに、どこから始まったのかすごく気になります。日本は民族が少ないから、歴史的に言葉が通じない相手と関わる経験が少なかったのかも。

増澤:日本は島国でもありますしね。一つの共同体の中での社会性は強い。

南参:多様性を認め合う必要を本気で感じていないのかもしれませんね、日本は。基準から逸れる人はいないものとしたり、異常として捉えてきた。だから、「みんな違ってみんないい」が認められちゃうことを未だに恐れている。

櫻井:まだ「私たちは一つだ」と思っている人が多いですよね。いろんな多様性があるのに。

 

櫻井さん(千年王國)、立川さん(トランク機械シアター)

 

増澤:ちょっと話変わっちゃうんですけど、学校でダンスが必修になったじゃないですか。大変ですよ。ちゃんとした講師を雇うわけでもなくて、先生は踊れるわけでもないのに、ダンス教えてくださいってぽんと振られたって、どうやって教えればいいんですか。

櫻井:常任でダンサー置けばいいんですよね。

立川:アーティストが食べていける環境づくりにもなりますね。

増澤:それいいですね!学校の先生がなんでも一人でやろうとするから、根付かないんです。そうやって教育機関が専門職をどんどん取り入れていけば、ものすごく広がる気がする。

 

ー 教育現場にプロを導入する、ということは現実的に可能なのでしょうか。

櫻井:だって音楽の先生や図工の先生は、専門教育を受けて資格を持ってるでしょう。演劇もそうだよね。まず教育免許のカリキュラムの中にその資格を入れなきゃいけないんだろうけど。

増澤:でもそういうことがちゃんと制度化されていけば、文化レベルはもっと上がりますよ。

櫻井:だから、制度化できる大学を、作る。

南参:公立の学校が、もう少し民間を活用しようっていう感じになれば…。

とある小学校に行ったとき、多分プライドが強くて、「自分のクラスをしっかりみせなきゃ」という先生もいました。子どもたちが失敗したり喧嘩したりするところは外部の人には見せられない!みたいな。

先生一人では本当はできないこともあって、それを外部の人が手伝うことができるようになれば楽になると思いました。学校が外の力を借りるのを覚えていけばいいのになって。

イトウ:専門家だと思われていないのかもしれませんね。私たちは。

 

ー 授業ではないですが、小中高生に向けたワークショップを展開している劇団もあります。それらにはどういった効果や役割があるのでしょうか。

立川:色んな大人がいるんだってことを知ってもらえたらいいと思います。声を出すワークショップをしてくれって言われたら、それは求められていることだからもちろんやるけど、最終的には自分たちが現場に行くことで、色んな大人がいるんだなっていうことが伝わればいい。だから見た目が奇抜な人も、真面目な人も現場に連れていくし。

イトウ:私は教育現場にはあまり入らないですけど、子どもや学生と活動するときは、親でもない先生でもない、彼らにとっての最初の大人になろうとします。彼らと対等であろうとする。先生のふりをするのも嫌。だから私のことを「先生」って呼ぶ子がいたらすごく怒るんです。

私が中学生のときとかもそうでしたけど、彼らは「大人」を知らないんですよ。大人の種類をたくさん知っておくことは大切だと思います。

増澤:なんなら先生も大人を知らないからね。先生って学校を出て学校に入ってるから。そう考えたら大切だよね。

 

ー 子どもも楽しめる作品やワークショップを実際に行う経験を通して、演劇が子どもにいい影響を与えていると思うときはありますか。

立川:子どもだけではなく大人にもいい影響があると思います。子どもが演劇を観ていて、彼らの純粋な反応を見ていると、それを見て笑っちゃう、感動しちゃうことがある。それで大人の気持ちもほぐれてきます。

これまでこぐま座で上演していましたが、今回の作品は劇場が変わります。こぐま座は何十年も、子どもがいてもオッケー!泣いてもオッケー!というスタンスの劇場だったんですが、新しい劇場になると違った緊張感を感じます。静かに観るためにきましたっていうお客さんに、いやガンガン騒いでやりますよ!という空気感をどうやってつくっていくかっていうのは、頑張っていかなくちゃいけない。

イトウ:今回の中高生オーデイションには、50人の中高生が応募しました。50人ってすごいなって。みんな演劇シーズンに出たい!っていうんですよ。彼らが大きくなっても演劇を志すのかどうかはわからないですけれど、中高生と稽古ができるのはすごくありがたいです。

彼らにとって演劇がどのように良い効果をもたらしているのかはちょっとわからないです。もしかしたら演劇のせいで傷つけてしまっているのかもしれないし。

櫻井:「芸術とは人の心を傷つけて元の世界に戻れなくすることだ」って言葉もありますしね。

イトウ:ものすごい覚悟をもってやんなきゃいけない。褒めちゃったら褒めちゃったで、それまで考えていたものとは違う道が開けていっちゃうわけだから。彼らの未来に関わる、すごく大きなことなので。

櫻井:以前女子中高生と一緒に「転校生」というお芝居をやったとき(2016年3月)、出演した女子高生の半分以上が演劇など舞台の専門学校や養成所に行きましたね。行きたいなら行けって私は言ったんですけど…。

増澤:そこは無責任に「演劇は良いものだよ」って言っていいんじゃない?

櫻井:まあ、最終的には本人が選ぶからね。

生産性があるかないかで評価される社会だけど、演劇が教えられるのは、何ができるかじゃなくて、そこに存在しているだけで価値があるっていうメッセージです。これを伝えられるのだとしたら、演劇には意味があるのかもしれません。

立川:それが演劇の売りだっていうことを社会に理解させる人も必要ですよね。

櫻井:演劇シーズンに、一年をかけて子ども達や先生と作品作りをする企画があればいいのに。そういう取り組みが町にあるってすごく豊かなことだと思うんです。

どれだけお客さんが入ったとか数の問題が注目されるけれど、そうではないところに価値を見出せる企画があればいい。

南参:演劇シーズンは、動員を増やして演劇で食べていける人を100人を作ろう!というところからスタートしました。それはそれで一つの道だけれど、これからは教育現場などにも演劇人を派遣させられるような仕事作りができればいいかもしれませんね。

櫻井:数字ばっかり見ていると、大衆的なもの、たくさんお客さんが入るものが良いってことになっちゃうじゃない?

でも演劇って、人がそこで生きているということを見せる場所だから。そういうものが町にあるという豊かさを基準に評価してほしい。そういういった活動に対してお金を使えるシステムを作りたいですね。エンターテイメントとしての演劇、だけじゃなくて。


演劇シーズン参加団体の演出家が集まって、演劇の教育的可能性について話し合う良い時間となりました。

それぞれの体験談を交えた、興味深いお話がたくさんありました。演劇を通して得られるもの、演劇が得意とする領域、演劇の持つメッセージ、、、これらを活かして本当に意味のある演劇教育が発展していくことを願います。

また、作品を上演するためだけのイベントにとどめず、街の子どもたちが一緒に演劇に作る企画を演劇シーズンで行えないかという提案もありました。演劇が持つ教育ツールとしての可能性もまだまだ探れそうです。

参加いただいた演出家の皆さま、ありがとうございました!

演劇の教育的役割について、みなさんはどう考えますか?


参考
札幌演劇シーズン公式サイト

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札幌演劇の社会的役割を考える|演劇創造都市札幌プロジェクト代表・蔵隆司

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