第4回 弦巻流「シェイクスピアの読み方」

シェイクスピアに挑戦してみたいけれど、なんだか難しそうでどこから読んだらよいのかわからない!という方のために、弦巻楽団 の弦巻啓太さんに「シェイクスピアの読み方」を教えていただく企画。いよいよ最終回です。

第1回〜第3回をまだ読んでいない方は、そちらから先に読むことをおすすめします。16世紀イギリスの劇作家がうんと近くなった気がします。

第一話 シェイクスピアの世界へようこそ。なぜ彼はヒットしたのか。
第二話 どうしてシェイクスピアは難しく感じるのか。難しくしているのは、わたし?
第三話 詩として読んで、物語として楽しむ。英語の日本語の文化の違いも影響?

何故5世紀も廃れずに、彼は評価され続けているのか…。 それでは最後までお楽しみください!

 

弦巻啓太(つるまき けいた)

弦巻楽団代表。脚本家、演出家。札幌生まれ札幌育ち。

高校時代より演劇を始める。卒業後、友人たちと劇団を結成。8年後独立。外部で脚本演出や、演技指導の講師を各地で始める。2006年より弦巻楽団として本格的に活動を開始。札幌劇場祭大賞をはじめ、数々の賞を受賞。2015年、日本演出者協会主催若手演出家コンクールにて最優秀賞を受賞。

近年は中学、高校への芸能鑑賞公演や、国内だけでなく海外での公演も行う。現在クラーク記念国際高校クリエイティブコース講師。また北海道演劇財団附属劇団札幌座のディレクターも務める。日本演出者協会協会員。

一つの長い呪文のように

弦巻楽団演技講座「(秋も)舞台に立つ」『リチャード三世』(2017年@サンピアザ劇場)

シェイクスピアの作品への入り口に…と自分の経験を思い返しながら書いてきた。うーん、かえって面倒くさいなあ、じゃあ読むのやめよ、となってしまったんじゃないかと一抹の不安がある。この文章で書いたことが理解の一助になれば嬉しい。じゃあ読んでみよう!と弾みをつけられたならとてもとても嬉しい。

数をこなす、というのも馬鹿にならない。慣れは大切である。現在、弦巻楽団が主催する演技研究講座では数年前からシェイクスピアに積極的に取り組んでいる。台詞の改変は行わずに、上演時間を2時間以内に収めるためにカットだけで対応し上演まで行う。

参加者は中学生から50代以上と幅広く、未経験者から参加可能な講座である。誰でも参加できます!と謳う割には、なかなか硬派な取り組みだと自分でも思う。前回、前々回のような説明を行い、みんなで考えながら取り組むことを大切にしている。ちなみに今取り組んでいる作品は『ハムレット』で、3月末に上演予定である。

2年、3年と続けて参加してくれている受講生もいる。最初は読むこと自体に苦労していた参加者も、一作品上演まで付き合うと、別の作品を理解するのがずいぶん容易になったようだ。前回公演『リチャード三世』に参加していた受講生は口々に今回の『ハムレット』を「わかりやすい」と評していた。

習うより慣れろ、というのは真理かもしれない。

公演情報 弦巻楽団演技講座「舞台に立つ」​『ハムレット』


さて、最後にもっともっとシェイクスピアを楽しめる方法は、何と言っても声に出して読むことである。それもできれば複数で。上手に演じようとすることはない。初めから上手に読もうとすることはかえって内容をわかりにくくしてしまう傾向だってある。

まずはもし一緒に読んでくれる仲間がいたら、配役を決め、大きな声で朗読のように台詞を読み合っていこう。気持ちをこめようとしなくて良い。気持ちはまだわからない。大事なのは日本人のように相手役を思いやることなく、大きな声で、酷い台詞も、素敵な言葉も遠慮なくぶつけ合うこと。そうしている内に胸に去来する感情や、声を出し合っているその空間に浮かび上がってくるドラマを観察してみよう。気持ちは行動した後やってくる。気長に待とう。

シェイクスピアの書いた台詞を、戯曲一冊丸ごとを、一つの長い呪文のように、そこにいるみんなで詠唱する訳だ。

マクベスとしてマクベス夫人の叱責や怒りをぶつけられている内に、惨めな気持ちになるかもしれない。側でそれを見ていれば、マクベス夫人がマクベスの中で、一度は消えかけた王様殺しの火を再び燃え上がらせる瞬間が見えるかもしれない。

ジュリエットとしてロミオのくどい愛の告白を延々と聞いている内に、気恥ずかしい気持ちになるかもしれない。側でそれを見ていれば、二人の周りが見えなくなっちゃってるっぷりに、やれやれと言った気持ちになるかもしれない。

そこから作品はあなたたちのものになっていく。シェイクスピア作品は遠い昔の、偉大な劇作家が書いたありがたい戯曲ではなく、あなたたちがドラマを生み出していく台本になる。登場人物を理解しなくてもいい。理解したらやばいかもしれない(笑)登場人物たちの行動や言動をなぞって、事件を再現するのだ。気持はあとからやってくる。登場人物の動機は観客が見出してくれる。

シェイクスピア作品に流れる激烈な怒りや、喜びや、恋や、悲しみや、いたたまれなさや、絶望や希望を体験してくれることを、願う。

これは、あなたたちの物語だ。

 

推薦映画

先述(第3回参照)。

現代的な設定に置き換えているのに、台詞は「ほぼ原典のまま」作られた映画。ちょっと画面がやかましいが面白い。

推薦図書

シェイクスピアは誰か?という謎を独自の推理(複数説?!)で描く、シェイクスピアが主人公の漫画。現在、『7人のシェイクスピア NON SANZ DROICT』と改題して週刊ヤングマガジン(講談社)で連載中。

 


 

シェイクスピアを黙々と読んで楽しむこともできます。でも、これらはもともと上演されるために書かれたもの。声に出して読んでみると、これがまた面白い!

ここで注意するべきことは、決して「演じよう」としないこと。書かれている情報をもとに、シェイクスピアが描いた物語をサクサクと進めていくことです。「気持ちは行動した後にやってくる」、です。

全4回でお届けした「シェイクスピアの読み方」、いかがだったでしょうか。読んでみたくなった!余計に難しく感じた…。様々な感想があるかと思いますが、シェイクスピア作品に触れるきっかけとして最も簡単なのは、実際に上演されている作品を観にいくことではないでしょうか。

弦巻楽団では、演劇経験者と未経験者が一緒にシェイクスピア作品を作り上げる「舞台に立つ」という企画のもと、3月29日からシアターZOOにて『ハムレット』を上演します。シェイクスピアの最高傑作とも評されるこの作品、初めてのシェイクスピアにはぴったりです。

どうぞお気軽に劇場に足をお運びください。

今回登場したシェイクスピア作品

  • ハムレット
  • リチャード三世
  • マクベス
  • ロミオとジュリエット

 

このシリーズに関するご意見・ご要望お待ちしております。

お問い合わせ

sapporodsap@gmail.com(担当:佐久間)