東京と札幌の演出家対談|弦巻楽団×Pityman「秋の大文化祭!」に向けて

2021年11月26日〜28日に弦巻楽団が主催する演劇祭「秋の大文化祭!」。劇団代表作、演技講座生による発表公演などが上演される中、東京を拠点に活動する劇団・Pityman(ピティーマン)も新作『おもいだすまでまっていて』で参加します。

この度、Pitymanの初札幌公演を記念して、弦巻楽団代表の弦巻啓太さんと、Pityman主宰の山下由さんの特別対談(Zoomにて)が行われました。

演出家として、劇作家として、地域の違う二人が、演劇の奥深さについて語ります。

自分には自分のやり方がある

弦巻啓太さん(以下、弦巻) では、よろしくお願いします。お互いのことをもっと知るために、交互に質問をしていくことにしましょう!まずは僕から。ずばり、「今までで一番ひどい失敗」はなんですか!言える範囲でいいですよ!

山下由さん(以下、山下) 失敗は色々としてきているんですけれど…。一番は、劇団として比較的大きな規模の、色んな人を巻き込んで行う公演で、全く台本が書けなくなっちゃった時ですかね。

稽古始まっても全然書けてなくて。それまで本を書くことをちゃんと勉強したことがなくて、フィーリングでずっと書いていたんです。そのせいか、急に書けなくなっちゃった。

その公演は、なんとか無事終わらせることができたんですけれど。うまくいかないことも多くて、出演者とぶつかったり、降板しちゃったりすることもあって。終わった後のダメージが大きかったですね。演劇をすることが怖いなって思うような。それが僕の中では一番大きい失敗でしたね。これを機にちゃんと勉強するようになりました。

弦巻 そんなことがあったんですね。ありがとうございます。僕も、弦巻楽団の前に在籍していた劇団で、似たようなことがありました。

小劇場演劇に影響を受けて、常に毎回新しいことにチャレンジしようと思って作品作りをしていたんですが、全然台本が書けなくて。書けても、なんか苦しくて、無理してて、ストレスがかかって。公演が終わった後も「こんなことやっていちゃいけない!」って、すごく苦しくなってしまって。「自分はお客さんを騙したんじゃないか!」とさえ思うようになりました。

これをきっかけに、僕は「普通の物語」をやろうと思うようになりました。革新的なことや実験的なことをやるのではなくて、普通に物語として楽しめる作品をやりたい、むしろそういうものしか僕にはできないんじゃないか、って。

山下 そうですね。僕も、色んな人の演劇を見て、カッコいいな、面白いな、って思って影響を受けるんですけれど、それはその人がやるから面白いのであって、自分には自分のやり方があるんですよね。

「自分のやり方はダサい、つまんない」って思っちゃうこともあるんですけれど、そういうことこそ、側から見たら興味を持ってくれるようなことだったりする、みたいな。

弦巻 そうそう。本人の資質に合うやり方ってきっとあるんだよね。

山下 じゃあ次は僕から。「この作品を書こう!」と思うきっかけはありますか?

弦巻 テーマみたいなものは、日頃ぼんやり考えています。次新しいもの書くなら、こういうテーマで書きたいな、みたいな。それとは違った、次やるなら明るい話がいいなとか、暗い雰囲気がいいなとか、作風についてもぼんやり考えています。

実際公演やるってなったときは、出演予定のメンバーを眺めながら、やりたいなって思っていたテーマと作風を思い出して、「このメンバーなら、こういう作品がフィットして面白くなるんじゃないかな」っていう風に考えて書いていきますね。追い込まれて絞り出す感じです。

何かアイデアが思いついたらネタ帳とかにメモするんですけれど、いざ書き始めるときにそのネタ帳からスタートすることは一度もないですね。

山下 わかります。これを書きたい!と思ってメモしておいても、時間が経ってから見返すとあんまり面白く感じられなかったり。アイデアは腐るんだなって思いますね。

弦巻 「腐る」っていい表現ですね。鮮度がありますよね。これが面白い!と勘違いし続けられる勢いみたいな。

 

札幌で演劇を続けること

弦巻 次は僕から質問です。「客演を呼ぶ基準」ってありますか?まず脚本があって、それに合う俳優を探すのか、俳優を見つけてからそれに合う脚本を書くのか、どっちですか?

山下 どっちのパターンもあります。基準って言っていいかわからないですけれど、稽古場が嫌な感じにならない人がいいですね。

弦巻 (笑)。それって稽古が始まらないとわからないんじゃないですか?

山下 そうですね。だから本当に全く知らない人を呼ぶことはあんまりないです。和気藹々やるのが良いっていうわけじゃなくて、真剣に作品作りできるメンバーがいいんですけれど、それにしても意味のない嫌な感じとかがあると、稽古も進まないし、やっていても楽しくないじゃないですか。モチベーションも下がるし。

だから単純に、稽古場を嫌な感じにしない人がいいなって。真剣になることと、嫌な感じにするのは別のことだと思うんです。

弦巻 わかります、わかります。僕の現場でも、僕が全く知らない人に声かけることはあまりないですね。稽古場を嫌な雰囲気にしない人がいいですよね。プロ意識が高いのはわかるんだけれど、未熟な人にきつく当たる人とも、一緒にものづくりできないなあって思います。

弦巻楽団は、僕も含めて、まだまだ未熟な人間も集まります。でも未熟な僕たちでも、ちゃんと舞台として楽しめる作品を作っていくことこそが、「札幌で演劇を続けること」なんじゃないかとさえ思うんです。頂を目指すか、裾野を広げるかって話なんですけれどね。

山下 弦巻さんは札幌で演劇を生業としていますが、北海道・札幌の演劇環境について教えていただけますか。

弦巻 そうですね。今の自分は、ありがたいことに演劇のみで生活ができている状態です。きっと、10年前よりは、演劇・芸能で収入を得ている人が増えたんじゃないかな。

一つは、映像関係の仕事(ナレーション、ラジオ、CM出演)や、専門学校の講師とかで収入を得たりする人が増えたのかもしれません。あと、昨今は「コミュニケーション教育」が謳われているので、そういう取り組みの一環として演劇人に声がかかることもありますね。そうやって、演劇を継続しながら生活する人が増えたんじゃないかと思います。

あとは、今回の札幌劇場祭TGRが毎秋に、札幌演劇シーズンが毎夏冬に開催されており、「演劇を札幌の文化として誇っていこう!」という運動を盛んに行ってくださっている方々がいて。僕より上の世代の方々です。そういう方々のおかげで、演劇活動がしやすくなってきていると思います。

山下 都市の名前がついた演劇祭って確かにあんまりないですよね。新進気鋭の劇団が出てくる頻度はどうでしょう。東京だと、毎日のように新しい劇団の名前を見る印象ですが。

弦巻 どうだろう。人口が全然違うので比較が難しいですが、札幌ではあまり新しいムーブメントみたいなものは起きないですね。現代口語演劇の流れとか、そういう日本の演劇界の潮流みたいなものには乗っていない印象ですね。

山下 最近はインターネットで演劇の映像が見られる機会も増えましたが、東京の演劇が札幌に影響与えることはありますか?

弦巻 うーん、それでもあんまりないんじゃないかな。そんなにたくさん札幌の若い劇団を見られてないってのもあるんだけれど。例えば、ままごとの柴くんや、マームとジプシーの藤田くんがやっているような脱構築的な作品に刺激を受けているような若い劇団は知っていますが、そこから自分たちの新しい理論や理屈を持っているような劇団は無い気がする。それは、東京を含めて日本全国で新しい潮流が生まれていないってことだと思うんだけれど。

山下 そうですね。最近はあまり「これがめちゃくちゃ流行るぞ」っていうような話は聞かないですね。

弦巻 それが悪いことだとは全く思わないです。僕自身、先鋭的なことや実験的なことを全然やっていないですし…。

 

クリエイターとして生きる

山下 弦巻さんが「いま興味があること」は何ですか?

弦巻 そうですね…。自分はこの先大丈夫なんだろうかっていう点には興味がありますね。

山下 (笑)。確かに、東京じゃないところで、自分の作品を作り続けながら演劇を生業にしているっていうのはあまり聞かないですよね。プロデューサーとも違って、職業俳優でもなくて、クリエイターとして生計を立てている人。

弦巻 商業演劇の演出家として収益を上げていくことにシフトするか、もしくは文化人としてどこかにポストを見つけるか、だと思うんです。僕はどちらにもなれないので、中途半端なところに来てしまったなあって。

山下 一番いい形じゃないですか?

弦巻 いやあ、この先どうなるかわからないので。

山下 短大や専門学校の先生になると、カリキュラムとして演劇に関わることになるので、クリエイターとして自分の作品を作ることはできないんですよね。それは演劇家として幸せなのかなって考えることがあります。そういう意味で、自分の劇団で自分の作品をクリエイトし続けられるのはすごく良いなって思います。

弦巻 もうちょっと何とかしないとなって自分では思っているんですけれど…。やっぱ戯曲で賞を取らないと、世の中の評価は変わらないんだな!って(笑)

山下 わかります。僕も、「大きい戯曲賞を何か取った方がいいね」って言われます。取らずに売れる人もいるじゃないですか。そういう人に憧れもあるんですけれど、やっぱり取った方が見栄えはするんだなって。

弦巻 そうなんだよね。自分がまだまだそこまでのものを書けていないってことなんだけれどね。

山下 賞への応募はしているんですか?

弦巻 出せる時は出しています。でも、応募のためだけに作品を書くっていうのが中々出来なくて。でもそういうのはコツコツやらないといけないと思っています。

札幌で劇団作って始めてからちょうど25年くらい経つんだけれど、いざ振り返ってみると、自分がちゃんとやったことだけが形に残る気がしていて。売れるためにこういうことしようとか、名を残してくれるような所と一緒に何かやるのは全然出来ないタイプの人間だけど、自分でやるぞって決めたものや頼まれたものはちゃんとやる。裏切らずに手元に残ってくれているものってそういうものだと思うので、誠実にやっていくしかない。

まあでも、戯曲賞に応募したり、欲しい評価はちゃんともらっていこうという気持ちもある。……北海道来たらゆっくりそういう話もしたいね。

山下 そうですね!

弦巻 色々話を聞けてまた山下くんのことがわかって面白かったです。札幌で公演を打つのが初めてということで、お互いに良い刺激になるといいね。

山下 そうですね。僕は単純に北海道でやれることが嬉しいし楽しみです。折角行くのでお互いに次に繋がるような旅になったらいいなと思います。

弦巻 今度はもっと色々な人も交えてこういう話したいね。じゃあお互い稽古頑張って、気をつけて来てください。

山下 ありがとうございました。

 

公演情報




Pityman『おもいだすまでまっていて』




弦巻楽団#36 3/4『死にたいヤツら』

Pitymanも参加する、弦巻楽団主催「秋の大文化祭!」は11月26日〜28日、サンピアザ劇場にて。

チケットのご購入・ご予約は公式サイトから。

お問い合わせ

一般社団法人 劇団弦巻楽団
メール:tsurumakigakudan@yahoo.co.jp
電話:090-2872-9209​