札幌市が考える「文化芸術」と「創造都市」の在り方をわかりやすく解説

わたしたちの街、札幌。日本で5番目に人口が多い大都市で、自然が豊かで過ごしやすい。食べ物は美味しいし、遊ぶところはたくさんあるし、イベントだって盛りだくさん。冬は雪が多くて大変だけれど、雪を活用した「雪まつり」には、毎年世界中から多くの観光客で賑わいます。

今回は、札幌で演劇活動を行なっていく上で知っておくべき「札幌市文化芸術基本計画」についてまとめます。札幌市は芸術に対して、特に演劇に対してどのような計画を持っているのでしょうか。

さっくん

この地で生まれる演劇文化の可能性を、もっと多くの人に知ってほしい!そのような思いで誕生したのが、d-SAPです。
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「札幌市文化芸術基本計画」とは?

札幌市文化芸術基本計画」は、札幌市の文化芸術に関する指針・計画・施策をまとめたものです。現在の計画は、2015年、上田文雄前市長のときに策定されました。

策定の歴史を辿れば60年代までさかのぼります。

1963年
札幌市民憲章
1963年に制定された「札幌市民憲章」の5章では「世界とむすぶ高い文化のまちにしましょう」とうたっており、早くから街における文化芸術を重要視してきました。
1997年
札幌市文化芸術基本構想
市が体系的に文化芸術を振興していくための指針を示す「札幌市文化芸術基本構想」が策定されました。

①札幌の創造性を高める
②未来の担い手をはぐくむ
③広く世界と結ぶ

の3つを目標として掲げます。

2006年
創造都市さっぽろ宣言
9年後の2006年、「創造都市さっぽろ宣言」により、札幌は創造都市としての歩みを始めることになりました。創造都市とは「文化芸術などの創造性を生かしてまちづくりをする都市」のことをいい、そこで暮らす人、訪れる人の創造性(アイデア)を活用して都市計画を進めていきます。

みなさんのアイデアがまちづくりに生かされる都市、それがわたしたちの住む札幌です。

2007年
札幌市文化芸術振興条例
創造都市さっぽろの次なる一歩は、2007年の「札幌市文化芸術振興条例」の制定です。この条例では、豊かな自然と高度な都市機能が両立しているという市の特徴を確認し、「市民が心豊かに暮らせる文化の薫り高き札幌のまちづくりを目指していくこと」(前文より)を決意しました。

このような文化芸術を振興するための条例を市が制定するのは当時は珍しく、政令指定都市では4番目の施行となりました(大阪、京都、川崎は札幌より前に施行していました)。

 

この条例の第6条にはこのようにあります。

第6条 市長は、文化芸術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に実施するため、文化芸術の振興に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。

これにより、札幌は文化芸術振興に関する基本計画を定めることになります。それが、今回紹介する「札幌市文化芸術計画」です。

2009〜2013年度
『花開く創造都市』
条例施行後に計画が完成し、策定されたのは2009年。2013年度までの5年間を目処に立てられた計画のテーマは『花開く創造都市』です。それまでの施設整備中心の施策から、活動や人材をサポートしていこう、という方向性に変わりました。
2014〜2018年度
『創造性あふれる文化芸術の街』
それから5年経ち計画が見直され、次の5年間(2014年度〜2018年度)のために新たに立てられたのが、現在の「札幌市文化芸術基本計画」です。

テーマは『創造性あふれる文化芸術の街』に変更され、それまでの5年間を振り返った時にあげられた課題を分析し、計画を練り直しました。

現在の「基本計画」の概要

テーマである『創造性あふれる文化芸術の街』は、市民一人ひとりの創造性(アイデア)をさらに活用し、まちの活性化やにぎわい、魅力を生み出していくことを意味しています。

創造性がまちづくりに反映されていく様子を植物にたとえ、以下の画像のようなサイクルを進めていきます。

土を耕し、種を蒔き、実らせて蓄える、そしてまた耕す…というサイクルです。具体的には、イベントや施設を充実させ、そこでアーティストに活動してもらうことで、子どもたちへの教育や新たな事業の構築など、未来を意識した取り組みを行う。さらにそのようなアーティストの活動を支援・活用し、彼らの活動を市民に知ってもらうため、今まで以上に広報に力を入れていきます。

札幌市は、このような取り組みは自治体だけが頑張るのではなく、NPO法人やボランティアと協働して進めていくべきだと考えています。市民や企業などの持つノウハウも生かし、まさに市民の創造性によって創り上げていく…。基本計画の中では、これを「共創」と言っています。

ひとつずつ見ていきましょう。

創造性の土を耕す

市民の誰もが楽しめる芸術イベントを企画したり、文化施設を整備したりします。2014年より始まった「札幌国際芸術祭」はこれを代表する取り組みと言えるでしょう。

2018年10月7日には「札幌市民交流プラザ」がオープンします。

  • 2300席を超える大劇場「札幌文化芸術劇場 hitaru」
  • 市民の芸術活動をサポートする「札幌文化芸術交流センター SCARTS」
  • WORK、LIFE、ARTに特化した専門図書館「札幌市図書・情報館」

これら3つが複合された、これからの札幌の文化芸術の拠点となる公共施設です。

道外のアーティストの拠点となる「さっぽろ天神山アートスタジオ」の運営も、この計画によるものです。世界各国から札幌に来たアーティストの中には、この施設に滞在しながら芸術活動を行う人も少なくありません。

さっくん

イベントや施設をより充実させて、市民に芸術を身近に感じてもらおうとする事業です。

演劇に関する取り組みでは、「札幌演劇シーズン」や「TGR 札幌劇場祭」も事業例としてあげられています。

創造性の種を蒔く

子どもたちが文化芸術に触れる機会を増やしたり、他分野の事業と連携したりします。具体的な取り組みとしては、市内の小学6年生全員を対象としたミュージカルの鑑賞(劇団四季)や、Kitaraでのクラシックコンサートなどがあげられます。

また、中文連の演劇発表会の会場として教育文化会館を提供する旨も、計画には書かれています。

さっくん

たくさんの市民に芸術を身近に感じてもらうためには、子どものときに優れた文化芸術に触れることが大切です。

中学演劇部の発表の場として札幌市教育文化会館が使われていますが、あれだけの素晴らしい施設を中学生が使えるこの事業は、全国的にみても珍しいようです。

創造性を実らせる

札幌で活躍するアーティストからの相談に応じ、補助制度や、広報などの活動支援をします。計画の中には、「演劇創造活動に対する支援」という項目があり、数あるアートの中でも特に演劇の支援を推し進めていきたいという方針が伺えます。

これに対し、市民からは「他のジャンルと比べて、演劇だけ偏った支援じゃないか?」という意見もあるようです。これに対し札幌市は「札幌は他の都市と比べても劇団数が非常に多いため」と回答しています。

さっくん

遊戯祭17」の企画であった「札幌劇団コンパス」によると、札幌で活動している劇団数はおよそ125あるそうです。札幌演劇の可能性の大きさがうかがえます!

創造性を蓄え、伝える

市民や観光客にとって魅力的かつ利用しやすい情報発信の機能が求められています。具体的には、人通りの多い地下歩行空間などをうまく活用して、札幌の文化芸術の取り組みを知ってもらうなどします。

さっくん

たくさんの市民に芸術に触れてもらうためには、広報に力を入れることは必要不可欠です。

札幌演劇シーズンでも、毎回キックオフステージというイベントを行い、各参加団体が独自のパフォーマンスをしています。


札幌の文化芸術施策は、演劇に関係のあることがらだけを見ても、非常に充実しているように見えます。もちろん課題もありますが、確かに創造都市としての歩みを進めていると言えるでしょう。

平成29年度 文化芸術意識調査

基本計画が策定してから、札幌市は毎年「文化芸術意識調査」を実施してきました。郵送およびインターネットを用いたアンケートで、およそ1500人の文化芸術への意識を調査しています。

2018年4月10日に、最新版となる平成29年度(2017年度)の調査結果が公表されたため、こちらも演劇に関係のある分野に注目して見てみましょう。この結果は、基本計画が改定されてから4年目の成果としてみることもできます。


問3 あなたが、この1年間に鑑賞した文化芸術の分野についてあてはまる番号にいくつでも◯を付けてください。

「演劇」に◯をつけた人は、全体の8.5%でした。

1位は、29.7%で「メディア芸術(映画、CG、アニメ、マンガ等)」でした。続く2位は「ロック・ポップス」(23.6%)、3位は「西洋画」(22.7%)。映画やアニメ、音楽は日々の生活で楽しみやすいですが、西洋画が意外と高かったのはすこし驚きです。

なお、このアンケートでは「演劇」と「ミュージカル」「お笑い・漫才」「落語」「日本の伝統芸能」「ダンス・舞踏等」「オペラ」「バレエ」「日本舞踊」はそれぞれ別の項目として存在しています。


問4 あなたが、この1年間に自ら文化芸術活動を行なった分野についてあてはまる番号にいくつでも◯を付けてください。

「演劇」は全ての項目の中で最下位、0.6%でした。

演劇をよく観る人ならワークショップや住民劇の存在も知っているかもしれませんが、やはり自ら参加したことのある人数は少ないようです。ちなみに1位は「写真」で5.4%でした。


問5 あなたが、札幌市において力を入れて振興した方が良いと考える文化芸術の分野は何ですか。あてはまる番号に3つまで◯を付けてください。

「演劇」は全体の6番目で14.2%でした。

歌舞伎や能などの「日本の伝統芸能」が1位で23.3%で、そのあとは「メディア芸術」(21.9%)、「クラシック」(21.7%)と続きます。


問8 札幌市の文化芸術イベントについて、あなたが知っているものはありますか。あてはまる番号にいくつでも◯を付けてください。

演劇に関するイベントの周知度はおよそ1割でした。

「札幌演劇シーズン」は13.7%、「TGR 札幌劇場祭」などのイベントが開かれる「さっぽろアートステージ」は11.7%と、思ったよりも低いという印象です。

ちなみに、「サッポロ・シティ・ジャズ」は64.3%、「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」は59.3%と、音楽系は半分以上の人が知っていると回答しました。


問20 あなたが、札幌市が行う文化芸術や文化財、歴史的資産に関する取組に関し、課題と感じる点や要望について、下記の欄に自由に記載してください。

最も多かった意見は「情報発信」について、次に多かったのが「文化芸術イベントの実施・参加機会の創出」についてです。

「イベントの数を増やすことも大事だが、知らせる努力をした方がいいと思う。」「ホームページやSNSばかりに片寄らない、使えない人もいる。」などの意見がありました。演劇をやっている方なら、情報発信の大切さとその難しさを知っていると思いますが、さらなる工夫が必要そうです。

市民がもっと参加したいと思うようなイベントをやってほしいという意見も多くありました。「わかりづらい先鋭アートだけでなく、もっと万人が楽しめるイベントを企画してほしい。」との声も。

また、演劇などのイベントを増やしてほしいという意見も記されていました。


いかがでしょうか。この調査結果はすべて札幌市ホームページから見ることができますので、さらに知りたい方はぜひご覧ください。

さっくん

多くの札幌市民にとって演劇はどのような位置付けなのか気づくことができました。この調査をみなさんの演劇活動の参考にすることもできるはずです。

次の計画を考えるのはあなただ

現在の「札幌市文化芸術基本計画」は平成26年度(2014年度)〜平成30年度(2018年度)の5年間を想定しているため、今年をもって今の計画は見直され、次の計画が策定されることになります。

そこで札幌市では、市民と一緒に計画を考えたいという思いから「札幌文化芸術基本計画検討委員会」の委員を募集しています。札幌在住の18歳以上の方なら誰でも応募することができます。

※募集はすでに終了しています。

これからの札幌の文化芸術がどのような方向に進んでいくのか、計画段階から携わることのできるまたとない機会です。

詳しくは、札幌市ホームページをチェック。

 

お問い合わせ

sapporodsap@gmail.com(佐久間)