『ジュリアス・シーザー』の議論を視覚化する|高橋喜代史×弦巻啓太 対談

2019年3月24日から、札幌文化芸術交流センター SCARTSで演劇公開制作・公演を行う弦巻楽団『わたしたちの街の「ジュリアス・シーザー」』。札幌の新たな文化芸術の拠点に、市民共同でつくるシェイクスピア作品が現れます。

今回は、演出の弦巻啓太さんと舞台美術の高橋喜代史さんに対談をしていただき、作品についてやこの企画について話し合っていただきました。

初めての舞台美術

高橋喜代史「ドーン」2007

 

弦巻啓太さん(以下、弦巻) はじめに、高橋さんの自己紹介からいただいてもよろしいですか。

高橋喜代史さん(以下、高橋) 札幌を拠点に美術作家として作品を発表しています。2015年から一般社団法人PROJECTAをはじめ、アートプロジェクトやスクールなどの企画運営の活動も行なっています。

弦巻 僕が高橋さんの作品を初めて観たのは、2010年に札幌駅アートボックスで展示された「バーン」という作品でした。「わぁ、面白い!」と感動し何枚も写真を撮ったのを思い出します。

いつか何か一緒にできたらとずっと思っていたので、こうして舞台美術として作品に関わっていただけるということでとても嬉しいです。

高橋 僕自身、舞台美術を手がけるのは今回が初めてなんですよ。

弦巻 舞台美術をやるにあたって、何か抵抗というか、考えることはありましたか。

高橋 これまでそんなにたくさんの舞台を観てきたわけではないので、自分の中にデータみたいなものは蓄積されていないんですよね。お話をいただいたときも、プレッシャーはけっこう感じました。

舞台美術と聞いて一番最初に想起したのは、アントニー・ゴームリーでした。彼の作品は多くの舞台美術に影響を与えていると思います。僕が今まで観た舞台美術の中でも、特に素晴らしいと感じます。

あんな感じにできたらいいなぁとも思いつつ、でもそんな簡単なもんじゃないよなぁと考えて取り組みました。

弦巻 高橋さんは普段どのようにして、どういった発想で作品を作りますか。ゼロからイチが出てくる瞬間というか。

高橋 作家として、そこが一番の根幹ですよね。

たとえば、文字を立体化した最初の作品である「ドーン」(2007)のときは、テレビでサッカー選手のインタビューを見たことがきっかけでした。インタビューが終わると自分も何か気持ちを表現したくなって、サササッとスケッチを描きました。そのときの僕の気持ちを表すことばが「ドーン」だった。

「ドーン」のスケッチができたときは既に、これは自分の代表作になるんだろうな、と思っていました。これを発表したらしばらくこれを超えることはできないだろうなと思って。

弦巻 普段から色んな刺激が蓄積されていて、何かのきっかけでその蓄積とピタッとはまる形が思いつく、という感じでしょうか。

高橋 まさに、そうですね。作品によってケースバイケースなところもありますが。

弦巻 高橋さんの作品は、鑑賞者に何かを働きかけようとする意志みたいなものが伝わるんですが、ご自分では意識されているんでしょうか。

高橋 多分あんまり意識していないです。僕がそもそも美術好きじゃなかったんですよ。もともと漫画家志望だったので。

美術ってすごくわかりにくいものだから、まず僕がわからないと嫌だった。第一の鑑賞者としての僕が理解できる作品を、無意識のうちに作っているのかもしれません。

 

シェイクスピアに挑む

高橋喜代史さん

 

弦巻 舞台美術に挑戦するにあたって、何か考えていることはありますか。

高橋 映画の美術についても少し考えました。映画の中で美術やセットがあまりにも主張しすぎているものはあまり好きじゃないんです。そうはなりたくないなと思った。

かと言って、自分じゃなくてもできるようなものだったら僕がやる必要ない。そこのバランスをどうするかということはけっこう考えますね。

弦巻 作品がシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』なのですが、そこに関してはいかがですか。

高橋 シェイクスピアには興味があったので、まずは戯曲を読んでみました。読んだ感想は、なんていうんでしょう、面白いっちゃ面白いけど、鼻につくところもあるというか…。シェイクスピア、本当に賢い人なんだなって思います。

議論、セリフの応酬でドライブしていく面白さはすごく感じました。

弦巻 今回は作品を上演するだけではなく、公開制作の時間を設けて市民参加で作品を一緒に作っていく企画でもあります。何か期待すること、楽しみなことはありますか。

高橋 そうですね。今回の公演は弦巻楽団の劇団員じゃない方々も含めた色んな方が参加されていますね。

そこにさらに札幌市民交流プラザに行き交う市民の方々も交えて共に作品を作っていくということで、どういう化学反応が起こるのか興味があります。

弦巻 高橋さん自身も、人を集めてスクールやワークショップを企画運営していますよね。自分の作品作りだけじゃない、市民を巻き込んだ企画を実施する動機はなんですか。

高橋 僕はもともと美術があんまり好きじゃなかった。でもそれは、その面白さや楽しみ方を知らなかっただけだったんです。多くの方々にその楽しみ方を伝える機会があったらいいなという思いがありました。

美術だけでなく色んな種類の芸術文化に触れて、自分の身近にたくさんの表現があるというのは、人生がすごく広がっていくと思います。

 

議論が活きるはさみ舞台

弦巻 では、具体的な舞台美術のプランについて。はさみ舞台になりますね!

高橋 いやー、失敗したな。すごい難しい(笑)

正月明けにめっちゃ良い案を思いついたんですよ。はさみ舞台じゃないとできないような。

弦巻 すごい面白い案でしたね。

舞台美術案第一弾

 

 

 

 

 

はさみ舞台の真ん中をうすいレースのカーテンで区切る。反対側の出来事は透けて見える。

高橋 でもね、弦巻先生からダメ出しを受けまして…。

弦巻 ごめんなさい、僕にはちょっとやりきれませんって(笑)

高橋 そうなんですよね、あの案はさっき言った、舞台美術が主張しすぎちゃう案だったんです。だから、無理だろうなって思っていました。

弦巻 美術が主張しすぎているっていうのもそうかもしれませんが、演出が「どうだ、やってやったぞ!」という感じが出すぎていやらしいかなとも思ったんですよね。

シェイクスピアだったら、他の作品、『ハムレット』や『マクベス』だったら合ったかもしれません。『ジュリアス・シーザー』は議論のお芝居なので、もう少しフラットにしたかった。

高橋 わかります。この前稽古を見学させていただいて、すごくわかりました。

第一案は却下されるかなって思って案の定却下されたんですけど、でもあの案が出たときに、僕も舞台美術できるなと自信になりました。手応えはあったんです。

そこからまた試行錯誤を重ね、議論を抽象化して視覚化するために舞台の上の方にフキダシを吊るす、という案でいくことにしようかなと。

あんまり舞台上に何もない方が、演技のダイナミズムが活きてきて良いんじゃないかな。

弦巻 吊り下げる、ということによって『ジュリアス・シーザー』の持つ”不安定さ”みたいなものが見えてきますね。

高橋 物語の主軸が2転3転と変わっていくので、そういった不安定さ、宙吊りされた状態を表したいと思いました。浮遊感を感じてもらえればいいな、と。

舞台美術決定案

 

 

 

 

 

上からフキダシやフレーム、演台を吊るす。舞台上には何も置かない。

弦巻 予定だと、はさみ舞台の大きさは、2.4 × 15 メートルの長い廊下になります。

高橋 横長だと、お客さんも関係ないところを見たくなりますよね。物語の核心部分ではなく、端っこの別の人を見ちゃったりとか。それもいいですよね。ちょっと目を離しているすきに色んな重要な出来事が起こってしまっているとか、現実世界でもそんなもんじゃないですか。

 

作品が立ち上がっていく過程も楽しむ

弦巻啓太さん

 

弦巻 稽古を見てみて、いかがでした。

高橋 演出家って大変なんだなと思いました。作品作りに色んな人が関わっていて、多くの種類の意見が出てくる。その現場をどうやっておさめていくんだろうなって見てました。

目の前でどんどん作品が立ち上がっていく過程を見ることができたのは、とっても面白かったです。稽古の様子をもっと多くの人に見て欲しいと思いました。

弦巻 あ、本当ですか。演出家としては稽古を見られるのは恥ずかしいところもあるんですよね…。

高橋 そうだとは思うんですけれど。出来上がっていく過程を見ることはすごい面白いですよ。面白さがわかりやすく伝わるんじゃないですかね。

弦巻 それはよかったです。今回は公開制作という試みで、24日から28日まで仕込みと稽古をすべて公開します。やっぱり作っていくことが楽しいと思うので、それをもっと多くの人に知って欲しいです。

演劇の現場には色んな人がいます。締めるところは締めなきゃいけないし、かと言って締めすぎると良いものはできない。

高橋 難しいですよね。でも、そんなみんなが一緒になって作品を作っていく過程、明らかに良くなっている過程を見ることにはすごく面白さを感じますよ。

 

現代にも通じるシェイクスピア

弦巻 観客にどのように届いて欲しいと思いますか。

高橋 札幌文化芸術交流センター SCARTSという開かれた場所での上演となるので、気軽に演劇に触れてほしいですよね。作っている段階から興味を持ってほしいです。

『ジュリアス・シーザー』という作品も、シェイクスピアが何百年も前に書いた作品ですが、今の現代社会に通じるところが多々あるだろうし、自分の人生と照らし合わせて感じることもあると思います。

結構ブルータスがやらかすんですよね!彼の危機管理能力が低いせいで!とイライラしますよ。でも最終的に憎めないところもあって…。そういう人って今でもどこにでもいるじゃないですか。

弦巻 そういう意味でも、本当に現代的な作品ですよね。

高橋 現代にも通じるようなものをシェイクスピアが捉えているんですよね。

弦巻 今回の公演タイトルは『わたしたちの街の「ジュリアス・シーザー」』となっていますが、脚本を書き換えたりはしていません。

しかし、公開制作や札幌のみなさまと共に作品を作るという試みや演出によって、ローマの話だけど、わたしたちの街の話でもある、という風になったらいいなと思っています。

本日はありがとうございました。

高橋 こちらこそありがとうございました。よろしくお願いします。

 

赤レンガテラス5階 テラス計画 にて


参考
わたしたちの街の『ジュリアス・シーザー』弦巻楽団 公式サイト


参考
TAKAHASHI KIYOSHI高橋喜代史 公式サイト

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