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議論の場としてのカフェ、劇をつくる|市川草介×弦巻啓太 対談

札幌市民交流プラザの1階で営業するカフェ「MORIHICO. 藝術劇場」。こだわった店内デザインや味わいのあるコーヒーを楽しむことができ、いつも多くのお客さんで賑わう人気店です。

このカフェの隣、SCARTSコートで上演されるのが、弦巻楽団『わたしたちの街の「ジュリアス・シーザー」』です。3月24日から公開制作が始まり、29日〜4月1日に本番を迎えます。

今回は、MRIHICO.代表取締役の市川草介さんと演出の弦巻啓太さんに対談をしていただきました。劇場とカフェという2つの異なるフィールドで活躍する2人が語る、議論や表現の価値とは。

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作品を作らなきゃ

株式会社 アトリエ・モリヒコ 代表取締役 市川草介さん

 

弦巻啓太さん(以下、弦巻) 市川さんはプロデューサーでもあり、実演家でもありますね。

市川草介さん(以下、市川) そうですね。僕がプロデューサーになりたいと思ったのは、尊敬するプロデューサー・浜野安宏さんの本を読んだのがきっかけです。浜野さんは、例えば東急ハンズやAXIS、横浜みなとみらいの開発にも関わった方です。

読書家だった父の影響で、中学生のときに浜野さんの著作『若者株式会社』(1976年、ビジネス社)を読みました。これからの時代は誰かが敷いたレールの上を走っていたって、その先は断崖があるだけだぞ、と。

自分で道を切り開く挑戦をしたい!と鼓舞されました。この時から浜野さんの著作を片っ端から読みまくりましたよ。

弦巻 浜野さんの影響を強く受けて、プロデューサーになることを決意したんですね。

市川 そうです。でも、いざプロデューサーになろうと思っても、プロデューサーの学校ってないんですよ。

弦巻 どうやってなるんですかね、プロデューサーって。

市川 誰に聞いてもわからないって言いますよ。僕の場合は、グラフィックデザインを学んだり、ものづくりの専門学校に行ったり、設計事務所で図面描いたり、色々やりました。

そんな中で、結局プロデューサーは何かの作品を作り、自称する人のこというんだということに気づきました。

弦巻 なるほど。そこは演出家と似ていますね。作品を作り、自称する人。

市川 僕も作品を作らなきゃと思って、一号店「森彦」の前身となる茶室「月庵」を作ることにしました。

弦巻 「月庵」を始めるにあたっての最初の着想・イメージはなんだったんですか。

市川 あるとき、千利休の本を読み、彼のプロデュース能力に大きな驚きがありました。「わび茶」という作品を作った人です。

当時は庶民はお茶を飲むことができなかった。茶の湯を楽しむことは大金持ちや貴族・高僧の文化でした。しかしそれを庶民の手に渡し、茶の楽しみを世に広めたのが千利休でした。

この話を読み、僕も茶室を作りたくてどうしようもなくなっちゃった。

そうして作った「月庵」は、お茶会もできるけれどギャラリーの要素も持つ、人が集まるスペースになりました。日夜色んな作家たちが展覧会をやってくれるんです。

弦巻 面白い!それが「森彦」というカフェスタイルになっていくんですね。

市川 そうですね。僕は10代のときからカフェマニアというかコーヒーマニアだったので。

弦巻 カフェを自分で始めるにあたって、こんなカフェにしたい、といったイメージはどのようなものでしたか。

市川 茶房を作りたいと思いました。本当は、僕がやりたかったのはカフェという”お店”じゃないんです。その先の、精神文化を作りたかった。

弦巻 精神文化、ですか。

市川 日本の茶室にも、西洋のカフェにも、古くからそういった所は文化人が集まる場所でした。権力者はそこで交わされていた議論を危険視し、ヨーロッパではコーヒーサロンが閉鎖されていた時代がありました。

弦巻 劇場と似ていますね。劇場も人々が議論したり疑問を持ったりする契機になる場所であるため、権力者によって演劇が禁止されていた時代がありました。

市川 まさに同じですね。劇場もカフェも、人と人が出会う場所だ。権力者からすれば、劇場やカフェで話される話題が権力者の地位をおびやかすことに繋がりかねないから、嫌なんですよね。

弦巻 危険なことをしているんですね、僕たちは。劇団主宰者とカフェのオーナーが会って話すなんて。

市川 しかも白昼堂々と!弾圧されますよ(笑)

弦巻 劇場もカフェも、思考のための場所、思索を深める時間、空間なんですね。

 

人と人が出会う場

弦巻 札幌市民交流プラザ1階「MORIHICO. 藝術劇場」が市民にとってどんな場所になってほしいか、ねらいはありますか。

市川 この場所は札幌の新たな文化拠点になりますね。決して経済合理性のみに価値を置いていない、良質な文化を享受できる場所です。

ここでは、世界中からやってくる一流アーティストたちと、私たち札幌市民が一緒の空間でコーヒーをすする体験を作り出せたらと思います。まさに劇場のような場所に。

象徴的だったのは、店名を考えるとき。「MORIHICO. 交流プラザ」なんて案も出ていたんですが「ばかやろう!ここは藝術劇場だ、藝は旧漢字だ!」と。藝術劇場と名付けてこんなに違和感のないカフェないですよ。

弦巻 たしかに、しっくりきます。

市川 この「藝術劇場」が、人と人が出会う場になってほしいです。面白い人たちが出会って、新たな創作が生まれる場。

弦巻 僕たちは「MORIHICO. 藝術劇場」隣のSCARTSコートで公演を行いますが、劇を観る前にコーヒーを飲んだり、上演後に出演者とお客さんがここで一緒に時間を過ごしたりとかできたらいいなって思います。

市川 演劇もカフェも、世の中が平和だからできることですね。劇を観た時、コーヒーを飲んだ時、それを感じて欲しいですね。

お腹を空いたからご飯を食べるというのは別の次元で、精神を満たすというところで僕たちには何か役目があるんじゃないかな、と思いますよ。

弦巻 精神を満たす、というのは大きい言葉ですが、すごく共感します。

市川 人間はいつも何か足りないんですよ。渇望している何かを埋めることが、芸術でありコーヒーだと思います。

僕自身、アートやデザインに強い関心があるので、劇世界を味わった時に興ざめしないカフェ空間を作っているつもりですし、弦巻楽団の演劇もそれだけ良いものになると思います。

 

議論の場としてのカフェ、劇をつくる

弦巻 上演演目である『ジュリアス・シーザー』も人と人が出会って議論する話です。コーヒー飲みながらやっても面白いかもしれないですね!

市川 コーヒーは覚醒と陶酔の飲み物ですから、議論にはぴったりですよ。

『ジュリアス・シーザー』で描かれる議論・討論の様は、現代日本へのアンチテーゼになるんじゃないかと思います。

小学校では「日本は民主主義です」と習うじゃないですか。でも生活していく中で、ここは本当に民主主義なのかと疑う場面に何度も遭遇する。

そしてこの現状を、政府や権力者のせいにしている時点でそれこそ民主主義じゃなくてね。

弦巻 いやぁ、すごくわかります。

市川 民主主義の根幹は、国民の政治参加です。徹底的に議論をすることです。だから議論する場、人と人が出会う場を作ることがいかに大切か。

弦巻 討論すること自体が悪とみなされているような感じもありますよね。

市川 日本はずっと農耕民族だったからかもしれませんね。民主主義というルールは狩猟民族から生まれたものです。

農耕民族は討論をしなくても、隣の畑で種を蒔いたのを見て、それを真似して同じように種を蒔けば良かったんです。その結果育ったのは、自発性ではなく周りを見て合わせるという能力だった。

弦巻 実は、海外戯曲に挑戦するにあたって根本であり最大の障害も、そこにあります。海外戯曲に描かれる登場人物のコミュニケーションは、基本的に議論であり対話なんです。

しかし、日本人の会話はそうではない。ひとりごとをしゃべり合っていると言っても良いかもしれません。

だから、日本人がシェイクスピアの戯曲に挑戦するとき、普通に読んでいるだけでは成立し得ないことが多い。相手と対話するという難しさがあります。

市川 日本人の根本的な課題、壮大なテーマですね。根本的なところに挑戦するのは、アーティストやクリエイターの使命です。

 

MORIHICO.オリジナルカップを持つ市川さん

 

弦巻 今回ははさみ舞台になっていて、お客さんは常に反対側の客席に座っているお客さんと向かい合っている状態で舞台を見ることになります。

演劇を観ることで、自分も観られる側として参加するという仕組みです。

市川 民主主義にとって大切なのは参加することですね。傍観者ではなく、自分も参加してるんだという意識。

森彦のカップにも、実は似たような工夫が施されています。持ち手を右にしたときに、ロゴが向こう側に見えるように作っているんです。普通は逆で、コーヒーを飲む人がロゴを見られるように作られているカップが多いんですが。

これは、主体と客体を考えるという意味での問いなんです。お客さんは、カフェでは壁にかかっている絵を見たりと「見る側」にいるつもりでいる。でも、カップのロゴを反対側に描くことで、自分は「見られる側」であるということも意識させられます。

カフェ空間を見ているようで、実はカフェ空間を作っている(=参加している)んです。人はいつも、主体になったり客体になったりする。

弦巻 お客さんなんだけれど、いつの間にか自分も参加させられているというのが、演劇の一番の強みだなと思っています。出会うってそういうことですよね。

市川 楽しみだね。カフェ空間も劇場もすごく似ているんだ。映像や紙面といったメディアに切り取られない、そこで参加することでしか味わえないものがある。実体に触れること。

弦巻 そんなことも含めて、カフェも演劇もお客さんに楽しみにしていただきたいです。

 

札幌市民交流プラザ1階 MORIHICO. 藝術劇場 にて

参考 わたしたちの街の『ジュリアス・シーザー』弦巻楽団 公式サイト 参考 MORIHICO.公式サイト