ゲキカン!対談|みんなで創る札幌演劇シーズン2018-夏

大盛況の中幕を閉じた札幌演劇シーズン2018-夏から、早くも1ヶ月と半月が経ちました。今回も胸を打たれる作品ばかりで、演劇の面白さ、奥深さを味わうことができました。

今回は、演劇シーズンHP企画「ゲキカン!」に参加した3名の方に集まっていただきました。今シーズンの作品を全てご覧になった3名とともに、シーズンを振り返ります。

参加者

悦永弘美さん

1981年、小樽市出身。東京の音楽雑誌の編集者を経て、現在はフリーのライター兼イラストレーターとして細々活動中。観劇とは全く無縁の日々を送っていたものの、数年前に演劇シーズンを取材したことをきっかけに、札幌の演劇を少しずつ観るようになる。が、まだまだ観劇レベルはど素人。2015年、仲間たちとともに短編映画を制作(脚本を担当)。故郷小樽のショートフィルムコンテストに出品し、最優秀賞を受賞したことが小さな自慢。

四宮康雅さん

HTB北海道テレビ勤務のテレビマン。札幌在住歴27年目にしてソウルは未だ大阪人。1999年からスペシャルドラマのプロデューサーを9年間担当。文化庁芸術祭賞、日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞など国内外での受賞歴も多く、ファイナリスト入賞作品もある米国際エミー賞ではドラマ部門の審査員を3度務めた。劇作家・演出家の鄭義信作品と故蜷川幸雄演出のシェークスピア劇を敬愛するイタリアンワインラヴァ―。一般社団法人 放送人の会会員。著書に「昭和最後の日 テレビ報道は何を伝えたか」(新潮文庫刊)。

島崎町さん

1977年、札幌生まれ。島崎友樹名義でシナリオライターとして活動し、主な作品に『討ち入りだョ!全員集合』(2005年)、『桃山おにぎり店』(2008年)、『茜色クラリネット』(2014年)など。2012年『学校の12の怖い話』で作家デビュー。昨年6月に長編小説『ぐるりと』をロクリン社より刊行。縦書きと横書きが同居する斬新な本として話題に。

今シーズンをどう観たか

ー 今シーズンの5作品を観て、これまでのシーズン参加作品と比べて全体のバランスはいかがでしたか。

島崎町さん(以下、島崎):今回は作品すべて劇場が違うことが新鮮でしたね。全体のバランスは若い劇があり、落ち着いた劇がありとバランスは取れていたと思います。

悦永弘美さん(以下、悦永):私は、これまでの全シーズン観たわけではなくて、今シーズンで三回目です。バラエティ豊かだなって思いました。毎回違った気持ちで楽しめました。

四宮康雅さん(以下、四宮):札幌演劇シーズンは札幌市から助成金を頂いていて、観客動員数も毎年増やさなければならない使命の中、演劇ファンの裾野を広げると同時に多様な観客を呼びたい、と考えていると思います。そういう中で今回は きまぐれポニーテール が上演したのはとても良かったですね。

悦永:良かったです。

四宮:きまぐれポニーテール は今回初めて観ましたが、ほんと、びっくりするくらい良かったです。たぶん観客動員数は千人超えたんじゃないかな。それと僕は見切れ席に観客を入れるって初めて見ました。見えないんですよ。下手側見切れ席に座ったら下手の役者は見えない。ベンチシートも入れてびっしりで。また、老若男女の幅広いお客さんがいました。

今シーズンのバランスで言うと、ギリシャ悲劇に挑んだ 風蝕異人街札幌座 はストレートプレイでありながら不条理劇のようなツイストがあったし、イレブンナイン は速球で真っ向勝負、弦巻楽団 はラブストーリーと、考えられたバランスだと思います。より幅広い観客層に演劇を見てもらいたいという「情熱」みたいなものを感じたシーズンでした。

 

ー 「シーズンにふさわしい作品」はあると思いますか。あるとすれば、その要素は何で しょうか。(動員数、劇団のキャリア、下ネタ少なめ など)

島崎:ある程度の動員数、クオリティは必要かなと思います。でも、そうじゃないやつも出てきてほしいなって思うこともあります。

悦永:「アピカ」は、芝居が初めてという人にとっても非常にとっつきやすい作品だったと思います。客席の温度もとても高く、初めの一歩に相応しいというか。若い子が演劇を観るきっかけにもなるだろうなぁと思うし、女の子がみんな可愛い(笑)。ハコ(劇場)の感じも良かったです。

四宮:再演という縛りがあり大変だと思いますが、若い劇団の方が積極的にエントリーしてほしいです。今だったら きっとろんどん だったり、若い人の中で人気のある団体が参加して舞台表現や観劇のハードルを低くしたい。そして幅広いお客さんに来ていただきたいですね。

 

対談の様子(左から、島崎町さん、四宮康雅さん)

 

四宮:今回はきまぐれポニーテールが若手ユニットでしたが、おそらく演劇シーズン関係者はびっくりしたと思うんです、あの動員は。札幌に若い演劇が好きな人があんなにいるってことが分かったので、希望としては演劇シーズンに若い団体を入れてほしいと思いました。

島崎:5作品のうち、ひとつは若手だけの枠をつくるっていうのはダメなんですかね。

四宮:それ良いですよね。

悦永:良いですね!

 

ゲキカン!を書くことについて

ー 「ゲキカン!」を書くことのメリットはなんでしょうか。

島崎:僕は書くことを仕事にしているので、ちょっと斜に見ちゃう事がたまにあります。偉そうに批評しちゃいがちです。「ゲキカン!」は、良いところを書こうとしています。良くも悪くも無理して褒めていたのが慣れてくると、ちゃんと良いところを素直に見ることが出来るようになりました。それが書き手としての僕のメリットでした。

悦永:私は演劇の感想を書くという機会がこれまでなく、知識もないため、素直に楽しむことを大切にしています。「あー面白かった!」って無邪気に楽しんじゃってます。「トロイアの女たち」は非常に好みで、ゲキカン関係なく、もう一度観たい!と思って、二回も観に行ってしまいました。ただのファンですね(笑)。

四宮:「ゲキカン!」はお客さんだけじゃなく、演出家や役者も読んでいるので、「ここはこうした方が良かったのではないか」とか、脚本や演出、役者を褒めたり、スタッフワークやプロデューサーワークの良いところを書くようにしています。劇評ではないので、読んでくれた劇団や関係者の方の励みになって、作品の仕上がりにプラスになれば良いな、と思っています。

少し話が変わりますが、そういう思いでやっているからこそ、演劇シーズンの紹介でゲキカン!のお知らせをちゃんとやって欲しいです。演劇シーズンで「ゲキカン!なんて企画があって、まぁ、見なくても良いんですけどね」みたいなことを前説で平気で言う方がいて、カチンと来たことがあります。私たちは完全にボランティアでやっています。書いてくださいって依頼されて書いているのだから、紹介では普通に「読んでください」ってことを言って欲しい。実行委員の方々や、劇団の方々は少しでも見てもらいたいってことで演劇シーズンをやっていると思いますので。

その点、きまぐれポニーテールの寺地ユイさんの「まだ他の劇場でも上演しているので、ぜひ足をお運びください」って言葉は素晴らしいと思いました。お互いにお客さんに見てもらいたいって気持ちがあると思います。ゲキカン!も同じ思いです。それを改めて知っていただきたいです。

島崎:前説って舞台の一部ですよね。前説でお客さんがどう受け取るかを考えるところまで演出して欲しいと思います。また、演劇シーズンのトレーラームービーも頑張っていると思いますが、客入れの雰囲気と合わせるのは難しいですね。

演劇シーズンの前説で良かったのは「象じゃないのに」でした。格子の向こう側から紹介があって、ひと笑いあって。そういう舞台の内部に引き込んだ演出があると良いと思います。

 

ー 一般の方が手軽に感想書くためのアドバイスはありますか。

島崎:感想で良いところを上げることはできると思うんです。でも文章で書くのは難しいので最初は箇条書きでもいいんじゃないでしょうか。たとえ一つ一つが繋がっていなくても良いと思います。

四宮:それが10個あったら、結構なボリュームになりますよね。お芝居をそこそこ見ている人だったら、「全体的に面白い」「最初は引き込まれなかったけど、中盤から引き込まれていった」「エンディングで涙が止まらなかった」とか何かあると思うんです。そういうのをゲキカン!に載せてみるのも面白いと思います。劇団側が選んで、「〇〇代男性or女性」って紹介で匿名で載せてみるとか。

悦永:とても良いと思います。

 

未来の札幌演劇シーズンのために

ー 札幌の演劇シーズンの観劇人口を増やすにはどうしたら良いと思いますか。

四宮:札幌はまだ、「今夜、ちょっとお芝居でも観に行こう」と思ってくれるカジュアルな演劇ファンというか、お芝居を観に行くことのベース(基礎、土台)が少ないと思います。演劇シーズンは、キックオフイベントをチカホで行うなど市民との接点を増やそうと努力していますが、普段の劇団の定期公演は、劇団や役者、演出家についているお馴染みのお客さんだけで飽和していて、なかなか大化けしません。一方、街全体で演劇シーズンを盛り上げている雰囲気もあまり感じられません。もう少しPRというか、マーケット戦略を考えないと観劇人口は伸びないように思います。

島崎:難しいですよね。札幌には演劇シーズンや国際短編映画祭などイベントがありますが、どうすれば、街に根付くのかって言うのはみんな苦労していることではあると思うのですが、まだ出来てない、途上だと思っています。

悦永:プロモーションって難しいですよね。演劇シーズンはそれでも出来ることはやっていると思うんですが、知らない人は私の周りにもまだまだたくさんいて。一般の方が演劇シーズンに触れる機会をどうやって作れば良いのだろうか、と考えることはあります。

例えば、札幌国際短編映画祭も、映画製作サイドは盛り上がっているし一大イベントではあるものの、他の人にとってはそうでもない。演劇シーズンで、周りを巻き込むような化け物みたいな作品が生まれたりすると周知されるのかなぁ。

島崎:今年、「カメラを止めるな!」って言う映画が話題になって、誰かが盛り上がっていると、他の人もとっても気になりますよ。作品自体がもつエネルギーが人を動かすって思います。

 

悦永弘美さん

 

ー 演劇シーズンが出来てから、札幌演劇はどのように変わったのでしょうか。また、これから札幌演劇を発展させていくためにはどうしたら良いと思いますか。

島崎:演劇シーズンが出来て、動員は伸びたんじゃないでしょうか。イレブンナインの集客もとても多いですし。イレブンナインは演劇シーズンを上手く使おうと戦略的で、とても良い印象を受けます。

悦永:私は以前を知らないのでなんとも言えませんが、演劇人的には良くなったんですかね。

 

チケット料金を3000円にすることの抵抗感が無くなったって聞いたことがあります。

四宮:それは札幌市から助成が出ているメリットですよね。あとはコンクールって言う側面もあると思います。審査があって選ばれるわけですから、劇団同士が切磋琢磨するようになった。それと、市民の関心も少しずつ向いてきてると思います。でも料金についてはあと300円でも安くして欲しいです。シニア割とかもあったら良いな、と思います。

悦永:確かに、初めてみる方にとっては3,000円だと勇気が入りますよね。一回観てくれたら、納得してもらえるんですけどね。

四宮:あと、前売りと当日が同じ料金になったのも疑問に思いますね。

島崎:前売り当日同じ値段なのは、当日行きやすいことがメリットだとは思いますがね。例えば、歌舞伎みたいに安い席があるっていうのも良いかもしれませんよね。

四宮:そうですね。劇場に来てもらうハードルを下げるっていう意味で、見切れ席やベンチ席とかを1000円で売るとか良いと思います。

 

ー まだお話足りないことがありましたら、お聞かせください。

四宮:札幌ってアフターシアターってないと思うんです。下北沢だと毎日芝居やっていて、居酒屋がたくさんあって、観劇後に語り合う場所がある。だけど、札幌は語り合う文化が無い。だから札幌の真ん中に劇場が出来るっていうのは素晴らしいと思うんです。札幌市民交流プラザのこけら落とし公演「ゴドーを待ちながら」はぜひ成功させて欲しいですよね。

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悦永:確かに、すぐに語り合える場所って少ないですよね。

島崎:すぐに帰ってしまいますよね。

悦永:東京の音楽雑誌で編集者をしていた頃、取材後にバンドさんと下北沢で飲む機会があったのですが、隣の席で演劇人が飲んでいて、すぐそばには観客がいて、感想をぶつけ合ったりしていて。とても盛り上がっていたんですよね。札幌ではまだ、そういう光景を見たことがないかも。

島崎:個別な人をもっと、凄いよって盛り上げてもいいんじゃないでしょうか。深浦佑太さん(弦巻楽団「センチメンタル」主演)が凄い!とか、風蝕異人街の三木美智代さん(「トロイアの女たち」主演)が凄い!って役者を推していくのも良いと思います。

悦永:良いですね。観たことない人が、役者の魅力をインタビューして、その記事を見て足を運ぶってことはあるような気がしますよね。作品と人物にスポットを当てると良いような気がします。

四宮:シーズンにもTGRのオーディエンス賞のようなお客さんが参加できる企画があると、認知が進むように思います。シーズンで一番印象に残った役者さんは誰ですか?みたいなアンケートを取ってみるとか。役者さんの励みになると思いますし。

島崎:役者さんはもっとスポット当たって良いと思います。もちろん、スタッフワークにも触れることができたらいいとは思いますが。あと、札幌の劇評が載ってるサイトがあって、「札幌観劇人の語り場」というんですが、そういうところも盛り上がってほしいですね。


シーズンを観続けている御三方だからこそわかるシーズンへの期待と要望。これからの札幌演劇の発展のために考えるべきヒントをたくさん見つけることができました。

シーズンをただの演劇上演の場所にしないよう、常に進化し続ける必要があります。一人ひとり何ができるのかを考え、みなさんで一緒に札幌演劇シーズンを盛り上げていきたいです。

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