北海道内の学生が札幌に集い演劇を競い合う短編演劇祭「札幌学生対校演劇祭」、通称「対校祭」が、6月15日(土)〜16日(日)に開催されます。
今年で10回目を迎える今回のテーマは「X」。それぞれの学生演劇団体は、このテーマにまつわる短編演劇を上演します。
今回は、対校祭の魅力をもっと知ってもらうために、特別対談を行いました。対校祭の意義やねらい、また札幌の学生演劇の現状を探ります。
対談参加メンバーは、今年度の実行委員長である藤田美由貴(劇団宴夢 所属)さん、前年度の実行委員長であった大橋拓真(yhs 所属)さん、2014年から対校祭に参加し現在実行委員4年目の榎本成美さん、2011年から対校祭の運営に毎年携わっている加納絵里香さんの4人です。
切磋琢磨というねらい
ー 札幌学生対校演劇祭の趣旨・意義・ねらいはなんですか。それらはこれまでの対校祭で達成されましたか。
大橋拓真さん(以下、大橋) 「学生演劇の質を互いに高める」という目的は、達成されていると思っています。
札幌で大学が集まって競うことのモチベーションが、昔はいまいちなかったんじゃないかなと思って。全国大会が出てきて、近年、対校祭に対するモチベーションが各団体上がってきているんじゃないかな。
団体ひとつひとつのモチベーションが上がると、大会全体としてのクオリティも上がってくる。他の団体が面白いものをつくっていたら悔しいし。
切磋琢磨し合うというねらいは、綺麗事じゃなく達成されていると思います。
藤田美由貴さん(以下、藤田) 私もそう思います。同年代が集まって、ザ・大会!って雰囲気は、対校祭じゃないと味わえないというか。サークルの年一回の目標になっています。
どうやったら勝てる演劇を作れるかという考えにもなるので、普段の活動とはまた違った面白さもありますね。 私の所属する劇団宴夢は「笑いでぶちのめしてやるぜ」と思ってやっているので、切磋琢磨というねらいは、達成されていると感じます。
榎本成美さん(以下、榎本) 各学校ごとに芝居の色味・個性は違うものですか。
大橋 学校によっても、正直、年度によって面白いかどうかは変わってきますね。良くも悪くも、学生の演劇サークルは人の出入りが多いので。
その年のメンバーによって全然違うので、大学ごとにカラーが違うって感じはあんまりしないかな。
藤田 強いていうならデンコラ(札幌市立大学)は、いつも他とは違うオシャレ感がありますね…。
大橋 デザイン学部があるからですかね。芝居のジャンルが違うというよりは、学風みたいなものの違いは感じますね。
横のつながりを作るっていうが対校祭のもう一つの狙いだと思うんですけれど、これに関してはもう少し頑張らなくてはと思います。理由は、実行委員会に人が全然こないからです…(笑)
対校祭は、当日にそれぞれの芝居を上演するだけで、他校のつながりは楽屋でしゃべったりとか、それくらいしかない。だから、ディープなつながりは、実行委員会として一緒に運営することで作れると思います。
でもそうしない限り、なかなか仲良くなることはできないし、何より実行委員会は人気がないんです。めんどくさいことはやりたくないからですかね…。
榎本 実行委員は何人いるんでしたっけ。
大橋 グループLINEには40人くらいいるんですが、ちゃんと動いているのは7〜10人くらいが現状です。ミーティング参加者も多くて20人くらいですので。
参加者ひとりひとりがどのくらいモチベーションあるのかわからないです。
札幌の演劇団体の方々って、横のつながりを作りたいってあんまり思っていないのかなとも思います。
榎本 横のつながりを作るという意味だと、対校祭と合同祭って割とセットなのかもしれないですね。
藤田 対校祭は中間発表っていうのがあるんですけれど、その時に合同祭(さっぽろ学生演劇祭)の募集があったりはしますね。昨年これがなくなっちゃったので、仲良くする機会が失われた感じはしますね。対校祭と合同祭はセットでやらないとって思います。
対校祭だと、他校と交流する機会が少ないので、なかなか仲良くなれないですね。
大橋 全国大会ができたことによって各団体のモチベーションと作品のレベルが上がり、対校祭全体のクオリティも上がったということは、一番言いたいことです!
藤田 毎年レベルが上がっている感覚はありますね!
若い演劇人は育っていくか
ー 札幌の学生演劇の現状として、若い演劇人が育っていくような仕組みは十分であると考えますか。不十分なところがあるとすれば、どう改善するべきだと思いますか。
藤田 私は、やる気ある人はどんな環境でも育っていくんじゃないかと考えますね。仕組みがあるから必ずしも育つとは限らないじゃないですか。土と水と太陽があっても、タネ自身が芽を出そうと本気で思わなければ、育っていかないと思います。
対校祭や合同祭など、学生演劇が一般のお客さまの目に触れる機会はあるので、自分たちで頑張って宣伝して、観に来ていただいて、気に入っていただけたら大人の劇団の方々に客演で呼んでいただいて、という学生もいるので、仕組み自体は十分なんじゃないかと思います。
ワークショップも色々開いてくださっている方もいますし。やる気次第じゃないでしょうか。
大橋 僕もやる気次第で変わるなとは思いますし、そもそも、本当に若い演劇人を育てなくてはいけないのかという問題を僕は考えますね。
人生の中で、演劇はやらなきゃいけないことじゃないし、やるには時間も体力もかかるじゃないですか。歴史を振り返っても、たとえば歌舞伎役者は「かぶき者」と言われてやっぱり変な人がやってきたんですよ。今でこそ認知は進んできていますけれど、少なくない数の演劇で反社会的な側面もあると思いますし。
そう考えると、若い演劇人をわざわざ頑張って育てる必要はあるのかなと思いますね。ほとんどの人は就職すると思いますし。副業としてやるにしても就職しないで演劇一本でやるっていうのも負担としては相当辛いことだと思います。
仕組みを整えないと成長しないような人は、仕組みを整えても成長しないと思います。
まあでも一つ思うのは、札幌演劇人は保守的な人がけっこういるのかなって。たとえば「学生演劇サークルの◯◯です」というと「へえ、学生演劇か〜。せいぜい頑張ってね」って感じになるけど、「xxという社会人劇団で演劇歴〜年の◯◯です」っていうと、「お、じゃあ使おうか」みたいなことになるイメージ。
それが良いか悪いかはわかりませんが、「学生演劇の所属」か「学生演劇じゃない所属」かで見る目が変わるのか、と考えることはあります。人を、自分の目で見て面白いかどうかじゃなく、学生演劇かそうじゃないのか、みたいなところで評価しているっていうことじゃないですか。
僕は、所属やコネじゃなく、実力で若手を見て欲しいと思いますね。
みんな、本当に若い演劇人育ってほしいと思っているのかな。
榎本 演劇創造都市札幌プロジェクトは、100人の演劇人が食べていけるような仕組みを提言していますよね。札幌演劇をブランディングして観光資源にしたいという意見もあります。
そういった中で、上の世代の方々は、若い人を育てていくためにはどうしたら良いかと嘆いているんじゃないかと思います。
大橋 うーん、文化行政的なことを俺たちが考えてもしょうがないですけどね。
それこそ、平田オリザさんが学長となる演劇の大学(国際観光芸術専門職大学(仮称))が兵庫に新しくできるし、大学や養成所をたくさん作るとかそういう話になっていくんじゃないですかね。
榎本 難しいですね、こういった話は。
これまでの歴史と新しい未来をつなぐ
ー 今年の対校祭のテーマ「X」にはどのような思いが込められていますか。
藤田 このテーマは、対校祭を最初に立ち上げた、現NPO法人コンカリーニョ職員の米沢春花さん(劇団fireworks)にお願いして決めていただきました。
対校祭が今回で10回目を迎えるので、ローマ数字での10という意味と、あとは数学とかで使う「エックス、未知数」としての意味もあると思います。
大橋 実行委員会では、せっかくの節目の年なので、もう一度原点回帰しようという話になりました。それならば、せっかくなら対校祭を作った方にテーマを決めていただこう!ということなり、米沢さんにお願いしました。
これまでの歴史と新しい未来をつなぐ、節目としての今回です。
各団体このテーマにあった作品を作るので、それぞれ頭を悩ませていると思います。「X」という記号が様々な意味にも取れるからこそ、面白いものができると思います。
ー 札幌という街にとって、対校祭はどのような役割があると思いますか。
大橋 札幌というくくりでは、特に役割はないんじゃないかなあ。
藤田 会場が新札幌なので、少し札幌の中心部とは離れているんですけれど、街中じゃなくても演劇みられるぞ!ってことを伝えられるかもしれないです。
大橋 たとえば10年後、札幌演劇全体がめっちゃ盛り上がっていれば、「20年続く対校祭」の役割が見えてくるんじゃないかと思います。
藤田 今ははっきりとした役割はないんじゃないかなと思います。
大橋 対校祭を語らずして札幌市は語れない!ってなっていくよう頑張れたらいいですね。
加納 対校祭は、札幌演劇のこれからを担う若手が集まることになるので、彼らを育て、札幌演劇界に輩出していく役割はあると思います。
ー 最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
大橋 対校祭は、年々芝居のレベルも上がり盛り上がっています。来て、絶対損をしないイベントなので、ぜひ来てください。興味ある方は、実行委員会にもぜひ参加してください!
藤田 500円という破格の安さで観ることができます。多くの大学のお芝居を一度に観られるので、「学生演劇か〜どうせなぁ…」とならずに、偏見なしで一回来ていただければ嬉しいです。
加納 札幌学生対校演劇祭とうたっている以上、学生演劇というフィルターを通して評価されることは仕方がないというか、至極当然だとは思うんですけれど、年々クオリティが上がっているっていうのは確かで、大学名や学生演劇っていうフィルターを通さずとも楽しんでいただける作品が揃っています。
特に、「学生演劇だから」と少なからずネガティブな感情を持っている人にこそ観に来て欲しいと思います!
榎本 1ブロックのチケット料金が非常に安いというのもそうなのですが、通し券もご用意しております。こちらは1200円です。元々かなり安いのにさらにお得になります。とてもおすすめです!
2014年からほぼ全作品を観てきましたが、札幌の学生演劇は着実に面白いものになっていってます。毎年動員数も伸びていて、昨年は土曜日の3ステージ分の前売券が開幕前に完売しました。
6月15〜16日はサンピアザ劇場へ是非お越し下さい。札幌学生演劇人、実行委員会一同お待ちしております!