人間は優しさでできている|札幌ハムプロジェクト『ルビコン河を渡る』

4月18日〜21日よりシアターZOOにて、札幌ハムプロジェクト全体興行『ルビコン河を渡る』が上演されます。

久しぶりの新作である本公演は、札幌・東京・沖縄での3都市で上演され、キャスティングはそれぞれの都市で活動する俳優たちで構成されます。

今回は、脚本・演出のすがの公さんにインタビューし、作品の魅力と意気込みをうかがいました。

死ぬことは大変なことだ

稽古の様子


ー 『ルビコン河を渡る』は、札幌・東京・沖縄の3都市で、それぞれ違うキャスティングで上演されます。この企画はどのようにして決まり、作られていったのでしょうか。

一番最初に決まったのは、東京公演でした。札幌ハムプロジェクトは東京に支部があり、積極的に活動をしています。

下北沢にのOFF・OFFシアターという劇場があるのですが、まだそこで公演したことがなかったので、ぜひやってみたかった。本多系列と呼ばれる有名な劇場なのですが、普段は2年先くらいまで埋まっちゃっていたり、ある程度顔がきかないと貸してくれなかったりと、場所を予約するのがなかなか難しい。

いつか本多系列でやってみたいと思っていた矢先に、東京支部長・竹屋がコンタクトを取ることに成功して、OFF・OFFシアターで公演させていただけることになりました。

これをきっかけに、今回の全体興行の中身を考えていきました。

 

ー 劇場を押さえられたことが始まりだったんですね。

そうです。でもやっぱり札幌でもやりたいなって思い、そこから台本とキャスティングを同時進行で決めていきました。

東京も札幌も、僕の好きな人たちに集まっていただきました。すごくいい人たちが集まったんですよね。ほっといてもうまくいくだろうと、信頼のおける俳優たちです。

 

ー 『ルビコン河を渡る』は、「重大な決断、行動をすることのたとえ」として使われる故事のことわざですね。

この作品は、高齢化社会が一つの切り口になっています。僕の親も老化してきて、僕自身も年をとったことを実感することが多くなった。

子どもが生まれると、自分が死ぬことについて考え始めるようになりました。僕は45歳なのですが、いったい自分はどのタイミングでどうやって死ぬんだろうと考えるんです。

死ぬなら老人ホームで死にたいですか?

 

ー うーん…(考え込む)

ほら、どうしよって感じでしょ。調べれば調べるほど、死ぬことは大変なことだと知ります。

今の日本の介護や介護医療の現状、年金の回り方がここまで人口が増えることを考えて作られていない。

昭和36年に年金制度ができたのですが、そのころの平均寿命は67歳です。今の平均寿命が女の人で87歳、男の人で81歳。お年寄りがどんどん増えていくと、現役世代の人たちが困窮してくる。60歳から87歳までの27年間を仕事しないといけない人も増えていく。

高齢化社会に対する政策は、整っていないんだと。こんなに破綻しているんだって、書き始めた時に気づきました。

この現状を、ちゃんと切り取らないといけないなって思います。この芝居で日本の年金制度を変えられるわけではないけれど、観てくれるお客さんの、考えるきっかけにはなるかもしれない。

 

ー 高齢化社会の問題ということで、勝手に介護施設の中での問題を切り取っているのかなと思っていました。年金のお話とても勉強になりました。

確かに、はじめはその問題を描こうとも思ったんだけど、そもそも介護を受けるためのお金がない人たちがいるんですね。それはこの先どんな人でも、そうなる可能性がある。

きっかけは些細なことです。それこそ親の介護や自分の病気、結婚相手の親の介護など、高度経済成長を支えてきた、60歳まで立派に働いてきた人たちが困っている現状がある。

 

ー あらすじには「彼らにだけ見える神様」とありますが、どのような神を想定しているのでしょうか。

いたらいいなって思ったんです。僕は、自分がおじいちゃんになることが想像できない。若い子からしたら、45歳にもなるとそろそろ老後を考えているんじゃないですかって思うかもしれなけれど、年を取れば取るほど、日本のおじいちゃんたちが何を軸として生きているのか、ますますわからないです。

僕たちは面白いか面白くないかでいろんなことを決断して取り組もうと思えるけれど、身体が弱ってきて頭もぼけっとしてきて好きなことができなくなっちゃったら、いったいどうなっちゃうんだろうってね。

だから、誰かに悟っていてほしいしょ。想像つかないんだもん。

沖縄に住み始めてから、霊とかそういったものをそんなに毛嫌いしなくなったっていうのもあります。沖縄は霊とかお守りとかが根付いていて、シーサーとかもいて、守られているっていいなと思います。

北海道は明治以降に開拓されたから、土着の神様というか、あんまり信じるものがないんだよね。

もし神様がいて守ってくれたら、ってことを想定して生きていけたら、救いになるんじゃないだろうかって思います。

 

人間は優しさでできている

脚本・演出 すがの公さん


ー 作品を作っていく中でこだわっているところや、見どころを教えてください。

札幌ハムプロジェクトは、最近ダンボールシアターという企画を行いました。舞台美術や小道具、役者までをダンボールで作ったコンパクトな劇です。

今回の作品は久しぶりに大人数で作っているので、人間が生きていることで生まれるドラマを大切にしたいです。

東京と札幌で違うキャスティングですが、誰が演じるかで見えてくるものが変わってくるなと思います。俳優たちが生きていている様に僕の書いた物語が加わるとどうなるのか、見届けようと思っています。

できるだけ役者の思いに任せています。正直、あんまり演出していないですよ。「そこ、ぶつかるよ」とかしか言わないかも(笑)

 

ー 最後に今回この記事を読んでくださる皆様にメッセージをお願いします。

社会問題を扱っていますが、笑いもありながら馬鹿馬鹿しい話でできています。骨にはちゃんと「人間は優しさでできているんだなあ」と感じられる芝居になっていると思います。

自分がお世話になった人のことを思い出しながら観ていただければ嬉しいです。観終わった後に、自分ももう少し優しくしてみようかなと思えるんじゃないかと思います。基本的には笑いに来て、ついでに得るものがあればいいなあって。

人間って、演劇って、良いものだなあと思えるものをつくろうと思っております。

 

公演情報 札幌ハムプロジェクト全体興行 『ルビコン川を渡る Cross the Rubicon』


参考
札幌ハムプロジェクト公式サイト