「僕らが舞台上でけっこうひどいことしているんで、観に来たお客さんには共犯になってほしいと思います。」
クラアク芸術堂内のユニット「信山プロデュース」第3回公演『噂の男』が2019年4月18日〜20日にコンカリーニョで上演されます。
福島三郎とケラリーノ・サンドロヴィッチによって描かれた、いやーな男たちの、いやーなお話。演出はきっとろんどんの井上悠介さんです。
プロデューサーの信山さんと、出演者のみなさんに作品のみどころをうかがいました。
最底辺の男たちが生きてる様を
ー 信山プロデュースとはどんな団体ですか。どのような活動コンセプトがありますか。
信山E紘希さん(以下、信山) 信山プロデュースは、既成の上質な舞台作品を主に札幌の俳優で上演することを目的とした団体です。信山が過去に触れた作品の中から上演作品を選定します。
この作品のこの役をこの役者さんが!?という驚きをお客様に提供するべく、厳選したキャストでお送りします。
ー 『噂の男』という作品との出会いを教えてください。
信山 大学の授業で初めは見ました。演劇をはじめたときから救いのない作品を書けないかなと思っていたのですが、ほぼ理想形の作品に出会ってしまったので、いつか必ずやるとあたためていました。
ー なぜ『噂の男』を上演しようと思いましたか。この作品を札幌で上演することの意義を教えてください。
信山 札幌は寒いです。シベリアとかオイミャコンと比べたらまだましかも知れませんが、日本の中では寒いです。その中で私たちは春を待ったりしています。
日本全体がなんだかわびしかったり息苦しかったりしてる中で、寒い中最底辺の男たちが生きてる様をみて、カタルシスを得られるんじゃないかと思ってます。
ー 信山プロデュースは、これからの札幌演劇の中で、どのような立ち位置で活動をしていきたいと考えていますか。
信山 Gフランケンやプロトパスプア(どちらも同じクラアク芸術堂内のユニット)よりいい位置でやっていきたいとは思ってます。
脚本も演出も俳優も毎回変わるのに、信山プロデュースとして続いていく、札幌演劇の中では決して王道はいかない、アウトローな立ち位置でいたいです。
エグさだけでもお腹いっぱい
ー 初めて『噂の男』の脚本を読んだ時、どのような印象を持ちましたか。
能登英輔さん(以下、能登) 「うっわぁ」って。
村上義典さん(以下、村上) 満場一致で、みんな「うっわぁ」って思いました(笑)
遠藤洋平さん(以下、遠藤) 実は、脚本よりも先に映像を見たんです。純粋に、とんでもなくエグいな、と感じましたね。
深浦佑太さん(以下、深浦) なんて混沌な話なんだろうって。
有田哲さん(以下、有田) 笑うしかないですよね。ブラックすぎて。
遠藤 生理的に嫌なものとか、理性的に受け付けないもの、人間の闇の部分とか、色んなエグさがありますね。
有田 不謹慎なネタも多いですよね。
遠藤 この舞台を観たらエグさだけでもお腹いっぱいになるんじゃないかな。
深浦 ひどいことばかりが起こるので、笑える話になるのかなって不安はありました。でも、稽古をしていくと、あんなにエグいシーンもなんだか笑えてくる。
能登 たしかに、稽古中は笑いが絶えないよね。あまりにもひどすぎて、笑える。
有田 血のりとかもたくさん使うので、視覚的な気持ち悪さもありますね。
能登 遠藤くんなんて、最後の方真っ赤っかだもんね!
国門紋朱さん(以下、国門) 誰なのかわからなくなるくらいぐちゃぐちゃになりますよね。
有田 もえぎ色の子どもたちも観にくるのかな。
国門 みんな来たいって行ってくれているんですよね…。誘うか悩みますよ!
能登 ショッキングなシーンが多いからね〜。エロ、グロ、なんでもありです。
遠藤 この前稽古見学に来てくれた方も、「私のためにわざわざひどいシーンを抜粋してくれているの?」って聞かれました。
いやいや、抜粋しているのではなく、どのシーンもひどいんだぞ!(笑)
能登 毎稽古で、必ず誰かは「ひどいなぁ」とつぶやきます。
村上 自分出ていないシーン全部ひどく見えますよ!
深浦 でも不思議と、自分が出ているシーンは別にそうでもなく感じるんです。映像をみると、登場人物が理解できない言動をすることもあるんだけれど、自分が演じてみると、彼らにとってはそのひどい言動は理にかなっているんだってことに気がつく。
遠藤 『噂の男』のエグさって、クエンティン・タランティーノ監督の「レザボアドッグス」とか 「パルプフィクション」といった映画と似た要素を感じます。笑っちゃいけないんだけれど、笑っちゃうほどの不条理な描写というか。
登場人物たちは、決して悪いことをしようとしているのではなく、ただ人間の根の部分が出てきちゃっているだけなんじゃないかって思うんです。
だからあえて悪く見せようとしないで、楽しんでやりたいなと思いますね。暗い話ではなく、明るく明るく!
ー 関西弁でしゃべる役も多いですね。
能登 関西弁だと、独特なリズム感や文化があらわれるんですよね。「〜〜やろ、ボケ」とか言っても、その「ボケ」にあんまり意味を含めずに言える。
村上 方言指導の方に教えてもらっています。概ね大丈夫ですと言っていただいていますが、遠藤くんは、、、
遠藤 注意されるのは毎回僕です(笑)
有田 遠藤さんしゃべる量も多いですからね。
遠藤 一人で喋る時間がめちゃめちゃありますね。
能登 遠藤タイムがたくさんあるんですよ。
遠藤 頑張ります!
お客さんには共犯になってほしい
ー 観た後に、どのような感想を抱いて欲しいですか。
有田 僕はけっこう、観終わった後もやもやしたまま帰るのが好きなんです。「なんていう気持ちにさせてくれたんだ!」って。そんなお客さんがいてくれたら嬉しいです。
でも、これを観て絶対満面の笑顔で帰る人もいると思うんですよね!ブラックジョークが好きな人にとっては、ツボにはまる作品になると思います。
能登 それぞれの役者のファンの方も衝撃を受けるかもしれないね。みなさん他の作品では良い人の役が多いから。
有田 能登さんなんてその代表じゃないですか。いつも良い人の役で出ているのに、この作品では暴れ倒しますからね。
能登 全員悪い奴なのよ、今回は。
遠藤 でも、「アウトレイジ」のようなかっこよさはなく。ダサくて気持ち悪い。
深浦 綺麗事はひとつもないです。地上波では放送できないような作品が好きな人は、絶対好きだと思います。
遠藤 コンプラでアウトなものを詰め込んでますよね。
村上 今後僕たち学校公演とかに出られなくなっちゃうかもしれない!
ー テレビとかでは放送できないようなものを、お芝居で見せるということに対する意義とはなんでしょうか。
有田 確かにひどい描写もたくさんあるけれど、面白いんですよ、この作品。
村上 本当は僕は、こういう作風が好きではないです。でも、めちゃくちゃ面白い。
僕の好みとしては、綺麗なお話、ハッピーエンドが好きなんです。この作品にそんな要素全くないんですけれど、でも観ると面白いんです。
「好きじゃないけど面白い作品」ってどんなだ!?と気になっていただけたら嬉しいです。
遠藤 エンタメなんですよね。エグいけれど、娯楽として楽しめるものです。
村上 不謹慎なことって日常では笑えないけれど、舞台として観ると笑えますね。
深浦 僕らが舞台上でけっこうひどいことしているんで、観に来たお客さんには共犯になってほしいと思います。
村上 劇場にいるみなさんだけの共通の秘密ですね。劇場の外では絶対にやっちゃいけないことを、劇場では堂々とやって、それを笑うんです。
能登 ただ、お笑いとかみたいに腹抱えてゲラゲラ笑うって種類のものではないかもしれないね。ブラックコメディだから。
ー この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
能登 札幌じゃなかなか観られないタイプのお芝居だと思います。
深浦 海外戯曲は札幌でも少しずつ増えてきていますが、現代の日本の名作を上演する機会は多くないですからね。2000年代の大阪戯曲。
村上 出演者に興味を持ってきてくださる方にとっては、なかなか観ることができない僕たちをお届けできると思います。今までで最低の能登さんを観られます。
遠藤 笑いづらいブラックジョークが盛りだくさんなので、それを体験してほしいです。「うわぁ、胸底悪くなった」と思えるのも、お芝居の素敵な体験の一つだと思います。
ー ありがとうございました。本番が楽しみです!