いよいよ開幕間近となった札幌演劇シーズン2018-夏。今回も目逃せない作品が目白押しです。ぜひ劇場へ足をお運びください。
前シーズンに引き続き、今シーズンに参加している5作品の演出家の方に集まっていただき、それぞれの作品の魅力や、演劇が札幌にどのような影響を及ぼすのかについて話し合っていただきました。
最前線で活躍する彼らの目に、札幌演劇の未来はどう映っているのか…。
参加演出家
札幌市生、北海道大学大学院修士・研究生終了。1997年、寺山修司作品上演を目的に劇団を旗揚げ。2004年、財団法人舞台芸術財団演劇人会議利賀演出家コンクール優秀賞受賞。2005年、ロシア研修(財団法人舞台芸術財団演劇人会議主催)にて「タガンガ劇場」の演出家リュビーモフ氏に師事。2012、13年と韓国に招聘され無言劇を演出。
劇劇作家・演出家・俳優。公益財団法人 北海道演劇財団 専務理事・芸術監督。
北大演劇研究会を経て、1987年に札幌ロマンチカシアター魴鮄(ほうぼう)舎設立。2000年より(株)ノックアウト所属俳優として、東京での俳優・演出家の仕事を開始。2016年4月より、16年ぶりに札幌に移住。2都市での仕事を続けている。
札幌を拠点にした演劇創造、東京を拠点にした映画、テレビ、舞台出演など活動は多岐にわたる。
俳優・演出家・脚本家。早稲田大学卒業後、富良野塾を経て様々な劇団に俳優として参加。処女戯曲作『EASY LIAR!』が北の戯曲賞優秀賞を受賞。同作品を初演出後、演劇ユニット イレブン☆ナインを結成。現在のELEVEN NINESへと形を変えながらも継続して代表を務め、ほぼ全ての作品に携わる。
1989年4月25日生まれ。29歳。北海道室蘭市生まれ。
20歳で北海学園大学演劇研究会に4年所属したのち、その後は札幌でフリーの役者をしている。最近は演出や、舞台の音楽提供など、役者ににこだわらず幅広く活動中。
弦巻楽団代表。脚本家、演出家。札幌生まれ札幌育ち。
高校時代より演劇を始める。卒業後、友人たちと劇団を結成。2006年より弦巻楽団として本格的に活動を開始。
近年は中学、高校への芸能鑑賞公演や、
今シーズン参加作品について
ー 札幌演劇シーズン2018-夏に参加する作品のあらすじや見どころ、前回(初演)の演出と変わった点などはありますか。
こしばきこう(以下、こしば):風蝕異人街はギリシャ悲劇『トロイアの女たち』という作品を上演します。5〜6年前に上演した作品ですが、今回は24人の群舞にしました。演劇シーズンでギリシャ悲劇が上演されるのは初めてかと思います。
トロイア戦争が終わった後のお話です。ギリシャ劇といっても、山形治江さんという現代語訳の作品を上演しますので、すごく分かりやすい普段の言葉です。集団の演出が得意ってもんですから、およそ20人のコロス※ を使っています。
※ 古代ギリシア劇の合唱隊のこと。観客に対して、観賞の助けとなる劇の背景や要約を伝え、劇のテーマについて注釈し、観客がどう劇に反応するのが理想的かを教える。コロスは、悲劇・喜劇が抒情詩作品だった時期の古代ギリシア劇で、重要かつ主要な構成要素だった。(Wikipedia より)
カタカナの人の名前がたくさんで難しく感じるかもしれませんが、相関図や前説での解説がありますので、安心してください。ストーリーは簡単です。トロイア戦争が終わった後のトロイアの女たちが、散り散りになっていく、ただそれだけのお話です。すごく簡単です。
斎藤歩(以下、斎藤):札幌座は、初演と同じシアターZOOで『象じゃないのに…。』という作品を上演します。
『象じゃないのに…。』は韓国戯曲『そうじゃないのに』を脚色した作品です。 今回はこの原作も、韓国から来て札幌で同時上演してくれます。
この作品は政治の内容が出てきます。韓国の原作だと大統領候補がたまたま逃げ出した象に踏み潰されます。それを僕は、北海道知事選挙の現職知事の女性知事候補が踏み潰されるっていう話に書き換えました。初演の時、東京の政治状況は割とデリケートな時期でした。東京都知事選のとき、北海道知事はどういう立場をとるのかというのが題材になっています。
現代の韓国と北朝鮮の問題はデリケートでダイナミックです。彼らと毎年話して感じるのは、韓国の政治・社会問題は常に変貌していて、 日本のそれはどんどん閉塞しているということです。韓国の方がこれをどのように演出するのかということと、日本人である僕がどのようにこの問題を扱えるのかということはとても興味があります。個人的な、今年最大のテーマですかね。
納谷真大(以下、納谷):セットは変えるんですか?
斎藤:すこし変わるけれど、前回のセットが良かったのでほとんど同じにします。前回見た方は同じかと思われるかもしれません。
しかし、演劇って時代のセンサーですから、今の僕は初演の時の僕と違う捉え方をすると思います。わざわざ再演を上演する演劇シーズンですから、同じテーマを扱っていても時代が描く影が違ってくる。だから僕らは再演を繰り返す。
以前、演出家の佐藤信さんと対談した時、「これは凄い企画だ。全国的に何でこれ知られてないんだ」って仰ってました。それだけ演劇を大事にする姿勢が企画の根底にはあると思うんです。初演から一年しか経ってませんが、政治的な状況は大きく変わってきているため、その違いを互いに確認できたら嬉しいです。
公演情報 札幌座「象じゃないのに…。」
納谷:イレブンナインは『12人の怒れる男』をかでる2・7という大きな劇場で、レパートリーシアターとして上演します。昨年の『あっちこっち佐藤さん』では、5000人動員を目指すと大風呂敷を広げて結果的に4300人の動員となりました。これを原動力として、今回は6000人呼ぼうと思っています。
戯曲『12人の怒れる男』は映画にもなっていて、 何度もリメイクされている名作です。イレブンナインがこれまで上演した作品の中でも最も動員している作品なので、内容に関しては全く心配していないです。 今回も最高のキャスティングが揃いました。これまで以上に面白い役者バトルをご期待ください。
行政や消防の方と交渉をし、様々な準備と苦労を経て、かでる2・7にこれまで見たことがない舞台が現れます。舞台上にも客席を作り、前回同様に多方から観ることのできる舞台となっております。
あと、最初のシーンに裁判長の声が流れるんですけれど、前回は、斎藤歩さんがやってくれていました。
斎藤:今回はクビになりました。
納谷:出るんですから、斎藤さんご本人が。だから今回は、東京で活躍されている浅野和之さんという俳優さんにお願いしました。
斎藤:大好きな役者です。
遠藤洋平(以下、遠藤):きまぐれポニーテールは『アピカのお城』という作品を上演します。男性禁制の女性限定シェアハウスのお話です。だらだらとシェアハウスで過ごしていたらあっという間にアラサーになってしまった女性たち。新しく入居して来た若い女の子を通して、30代になるという女性特有の壁にぶちあたっていくコメディです。
今回は、舞台セットの印象を大きく変えようと思ってます。女の子の内面を表すような、抽象的な舞台セットします。劇場も狭く使って、閉塞的な舞台の中で女の子が縦横無尽に駆け巡るようなお芝居にしたいです。
今シーズンの他の作品は重厚感があって見ごたえ抜群ですが、僕らの団体は逆に敷居の低さが売りです。よりライトに、ポップにという感じです。若者たちで元気一杯、作っていきたいなと思います。
公演情報 きまぐれポニーテール「アピカのお城」
弦巻啓太(以下、弦巻):弦巻楽団は演劇シーズンの最終ランナーとして、『センチメンタル』という作品を上演します。妻と死別した旦那が、その後20年以上の時間を生きていく中で多くのものを得たり失ったりしながら、死別した妻の存在の喪失と向き合う、という作品です。
初演が18年前の2000年、僕が20代前半の若かった頃に作った作品です。
音楽家の橋本啓一さんに劇中曲の作曲を、造形作家の藤沢レオさんに舞台美術を依頼しました。二人のお力も合わせて、色々なものが時の流れの中で移り変わってく様を、空間的に表現していきたいと思っています。
稽古の進捗は当時の18年前の台本をみんなで読み合いながら、どこを残すべきでどこを変えていくべきかを検討している段階です。
公演情報 弦巻楽団#31「センチメンタル」
ー 札幌演劇シーズンは、札幌市の行政計画の中で動いている取り組みですが、演劇は札幌のまちづくりにどのような影響を及ぼすでしょうか。
納谷:演劇はライブ感が売りだしそこに面白さがあると思うので、どうしても1〜2時間はお客さんを会場に閉じ込めてしまう。時間厳守の、言うなれば面倒くさい芸術ですよね。そんな演劇が札幌にもたらす影響って…どうなんでしょうね。
斎藤:みんなで考えましょう。さっき遠藤さんが「敷居の低さが売り」っておっしゃっていましたが、確かに演劇シーズンには、重厚感のあるものだけじゃなくて気軽に観られるも必要です。これはシーズン実行委員会も札幌市も同じように考えていることじゃないでしょうか。
テレビや映画と違って、演劇は劇場に来た人にしか伝わらないメディアです。納谷さんの言う制約もありますが、演劇にしかできないことだってあるはずです。限られた人にしか伝わらないメディアだから、濃いコミュニティーをつくることができるんじゃないかなあ。
斎藤:こしばさんはどう思います?
こしば:私は20年も寺山作品をやっているんだけど、何年か前に初めてシアターZOOで上演した際に「すごい新人が出てきたな」って言われたんだよ。風蝕異人街がやっているようなアングラをこれまでに見たことない人がそのとき初めて観てくれて、人の輪が広がっていくことを実感した。
僕はね、演劇が直接まちづくりにつながらないと思うよ。でも、演劇を作っていくことは人を作ることだということは信じている。そういう意味で、札幌には化学反応が起きつつあると思います。
斎藤:こしばさんが言っているのは、まちづくりを俯瞰して見るのではなくて、演劇がひとつの細胞でありたいってことですね。行政のような俯瞰する立場にいかないっていうのは、演劇人の意地だと思う。
納谷:札幌市が、僕らをまちづくりのパーツとして取り入れようとしてくれているように感じますね。
斎藤:でもこれは、僕ら50〜60代の意見ですよ。世代が違うと考えも違うはず。
弦巻:作り手の立場でいる人が俯瞰する立場でいることが果たして良いことなのか、それを意識してモノづくりをすることは「純粋なこと」と言えるのか、考えますね。
ただ、俯瞰的に見て50〜60近いおじさん達がこれだけ好き勝手言える状態が担保されているのは、いいことだと思いますよ。
斎藤:ちょっと待って、それじゃあ僕らがアホみたいじゃない!
一同:(笑)
弦巻:せっかくオブラートに包んだのに!(笑)
弦巻:演劇の強みとしては、人間そのものや生き方の多様性を提示できるという意味で、影響力は強いんじゃないでしょうか。
遠藤:この対談に向けて、いろいろ考えたんです。「お芝居でまちづくり」って何だろうって思って。
例えば、プロ野球には色んなチームがあって、方針は各チームで違う。でもプロ野球には共通ルールが存在しているから、すべてのチームがまとまっている。音楽では、それぞれジャンルやグループによってルールが違うのにフェスができるのは、大衆性があるから。
でもお芝居は大衆性やルールがうまくかみ合わないから、実はまちづくりには難しいんじゃないかって。
斎藤:そうだよね。なにが「演劇のオーソドックス」なのかは誰にもわからないからね。
納谷:それにね、演劇以外のメディアもたくさん発展していますから、「演劇でまちづくり」というよりは、演劇がまちづくりにどう寄り添うか、ですよ。
斎藤:札幌演劇は、ものすごく補助金をもらってるんですよ。演劇やってる人間はそういうことを俯瞰して見る必要はないと思いますが。でも、まちづくりに重要な「数値化」をするとしたら、それは演劇人の仕事じゃなくてアカデミズムと結びついてやった方がいいんじゃないかな。
弦巻:「数値」として表れるものだけが演劇の基準になるんだったら、それは演劇の本来の良さを失ってしまい意味がないものになってしまう。 むしろそこから溢れるものがあっても良い筈ですし。札幌が演劇創造都市になったらいいなあとは思うけど、受け入れられやすいモノだけが残されるのでは貧しい状態だと思い
斎藤:「数値」に依存するのは良くない。でも、誰かがやらなきゃいけないと思う。
北海道演劇財団は、地域のために演劇のワークショップを開催するために補助金をいただいています。その効果をやったからどれくらい医療費が減ったか、少年犯罪が減ったかっていう調査が行われてる。この前、日本経済新聞で、岐阜県嘉義市の演劇ワークショップの費用対効果が約9倍って結果が出たの。だから100万円投資したら900万の経済波及効果が出たって。これは、北海道でも出すべきだよね。本来それは、演劇人がやることではないのだけれど。
ー ここから先は、SNS等で一般公募した質問です。稽古中に、役者(特に若手)に求める力は何ですか。
こしば:うちは基礎をしっかりやるように言っています。
納谷:僕がよく若手に言うことは、自己判断をしてほしいってことです。演出家から何か餌をもらうことを待っている役者が多いんじゃないかって。表現者でありたいわけだから、若手は演出家が言ったことをただそのままやるだけになるのは良くないと思いますね。自分でやったことに責任を持って欲しいし、こちらが面白くないというと「僕は面白いと思います」って声を聞きたいんです。それくらいの覚悟でいて欲しいです。
ー 生まれ変わったらもう一度演出家をしたいと思いますか.
こしば:私は芝居はやりたいなぁと思いますよ。
斎藤:俺は宇宙飛行士になりたい。
納谷:僕ミュージシャンになりたい。劇って1〜2時間やってつまんないとか言われるじゃないですか。でも音楽は3分で人を感動させられる。だからダンサーとかミュージシャンに憧れる。
斎藤:だって彼らは突然何かやれって言われてできるけど、演劇人何もできないからね。
弦巻:セッションとか羨ましくないですか?
斎藤:でもみんながそう言うなら、俺生まれ変わったら演劇やりたい。
一同:(笑)
斎藤:弦巻は?
弦巻:考えたことないですね。生まれ変われるならもうそれでいいです。
斎藤:演劇ができるような生き物になれるかわからないからね。
納谷:遠藤君は?
遠藤:いやぁ、働きたいなぁ。
斎藤:ちゃんとね(笑)
遠藤:29歳なので、同世代からボーナスって言葉を聞いたりするようになったんですよ。働きゃよかったぁって(笑)
こしば:さっきの街の活性化の話にもつながるけれど、演劇人はまずご飯食べられるようにならなきゃね。
斎藤:僕らはもう、生きてるうちにあと何本芝居できるかってカウントダウンが始まってるんですよ。でも、若い人はまだまだ年間十数本も芝居ができる。僕らは演劇しかやってないからまちづくりの視点はわからないけど、演劇としての裾野は広がってきているんじゃないかな。演劇シーズンによって、社会の外でとんがっていたやつらが社会に入っていける。
正直、札幌の演劇人は演劇のことしか考えてないよ。でも、それでいいんじゃないかとも思っている。まちづくりのことはシーズン実行委員会が考えることにしてさ。誰かが演劇人をマネージメントしてさ。そろそろ猛獣使いがいないと。きっとそれは若い人たちから出てくるんだろうね。
2018年6月19日 札幌市内某所
取材:d-SAPスタッフ(佐藤、佐久間)
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