2018-冬シーズン参加演出家対談|札幌演劇の未来を語る

札幌演劇シーズン2018-冬の開幕間近となりました。厳しい寒さの札幌ですが、お芝居はアツい!ぜひ劇場へ足をお運びください。

今回は、今シーズンに参加している5団体のうち、札幌を拠点に活動している4名の演出家の方に集まっていただき、札幌演劇について話し合っていただきました。札幌演劇の発展のためにはどうするべきなのか、熱い議論が交わされましたので、その模様をお届けします。

納谷真大(なや まさとも)

俳優・演出家・脚本家。早稲田大学卒業後、富良野塾を経て様々な劇団に俳優として参加。処女戯曲作『EASY LIAR!』が北の戯曲賞優秀賞を受賞。同作品を初演出後、演劇ユニット イレブン☆ナインを結成。現在のELEVEN NINESへと形を変えながらも継続して代表を務め、ほぼ全ての作品に携わる。

武田晋(たけだ すすむ)

テアトルアカデミー所属。オフィスティンブル所属。俳優・劇作家・演出家・ナレーター・演技講師。

1989年、総合芸能学院テアトルアカデミーに入所。1992年、札幌の演出家イナダ氏主宰の劇団「イナダ組」「オーパーツ」を経て、1996年に独立して劇団「ジー・ウイルス」を結成する。以降10年間主宰として全作品の作・演出を務める。

メディアではローカル番組のМCやナレーターなどを務めながら裏方として放送作家などもこなした。またタレントスクールや専門学校の講師なども始める。

弦巻啓太(つるまき けいた)

弦巻楽団代表。脚本家、演出家。札幌生まれ札幌育ち。

高校時代より演劇を始める。卒業後、友人たちと劇団を結成。8年後独立。外部で脚本演出や、演技指導の講師を各地で始める。2006年より弦巻楽団として本格的に活動を開始。札幌劇場祭大賞をはじめ、数々の賞を受賞。2015年、日本演出者協会主催若手演出家コンクールにて最優秀賞を受賞。

近年は中学、高校への芸能鑑賞公演や、国内だけでなく海外での公演も行う。現在クラーク記念国際高校クリエイティブコース講師。また北海道演劇財団附属劇団札幌座のディレクターも務める。日本演出者協会協会員。

南参(なんざん)

yhs代表。日本劇作家協会北海道支部副支部長。演出家・脚本家。

1997年、yhs結成。ほぼ全作品の脚本・演出を担当。にぎやかなコメディ作品からシリアスなドラマ作品まで幅広い作風を手がけ、TGR札幌劇場祭2017では歌舞伎を原作とした「白浪っ!」で大賞を受賞。札幌市内の小・中学生向けの演劇ワークショップなどにも多く関わる。

今シーズン参加作品について


ー 札幌演劇シーズン2018-冬に参加するみなさんですが、普段から交流はありますか。

弦巻啓太さん(以下、弦巻):あんまりないですね。

納谷真大さん(以下、納谷):プライベートでは全くですね。劇場で会ったときとかに挨拶はしますけれど。まあ、ライバルですからね!

ー 今回のシーズン参加作品についてひとりずつ教えてください。あらすじや見どころ、初演と比べ変えたいと思っている演出はありますか。

納谷:イレブンナインは『サクラダファミリー』という家族の物語を上演します。夏のシーズンでは『あっちこっち佐藤さん』というコメディをやったので、今回は泣ける話に挑戦します。自分の経験から生まれた物語で、家族に会いたくなるような作品にします。

初演は完成させるのに一生懸命になってしまったので、今回はもっと役者ひとりひとりの演技を突き詰めて考えていきたいと思います。

公演情報 イレブンナイン「サクラダファミリー」

武田晋さん(以下、武田):『誰そ彼時』は、2016年にイナダ組若手公演として上演されたのが初演でした。脚本を任されたときに家で色々大変なことが起き、そのときの自分の心情をすべて言葉にしました。「作品を作ろう」という思いというよりは、過去の自分や今の自分と掛け合いをしているような、ストレスをはけ出したような作品なんです。

初演ではステージ数も少なかったですし、もっとたくさんの人に観てもらいたいので、今回はさらに高みを目指していきたいです。

公演情報 円山ドジャース 公式戦「誰そ彼時」

弦巻:弦巻楽団は『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』という作品を上演します。恋をしたことがないことがポリシーのシェイクスピア専攻の大学教授が、ラジオから流れてきた声に一方的に恋をする話です。それまでの恋を否定するような学説や持論を全部かなぐり捨てて、でも生まれ変わるんじゃなくて、なんとか「今まで言ってたことは間違いなんじゃなくて、こう解釈して欲しい」と屁理屈をこねくり回して、恋を成就させようとしていくラブコメディです。

僕という人間のことをちっとも知らない人が観に来ても、「あっすごい、面白かった」と言ってもらえるような作品を目指そうと思って書いたのが2005年。それがありがたいことに2007年に再演することになって。その時、教育文化会館だったんですよ。今回と同じ。

武田:僕そのときの公演見てますよ。

弦巻:ありがとうございます! 2013年に再び上演し、演出が一新されます。2016年に演劇シーズンで再演。今回で5回目の上演になります。今回の見どころとしては、さらに一新される舞台美術と、これまで松本直人さんが演じていた主人公が、青年団所属の永井秀樹さんに変わるというところですかね。

納谷:それについてちょっとだけ意地悪な質問してもいいですか。実は僕、キャストを見たときに、「まじか…」と思ったんですよね。これまでの4回とも主演をつとめてきた松本さんの気持ちって折り合いついてんのかなぁって。

弦巻:そうなりますよね。

納谷:なると思うんですよね。僕はやっぱり俳優としての面子があるから、松本さんはこれをどう捉えているんだろうっていうのは考えますよ。そこは折り合いついてんの?

弦巻:誰よりも先に、まず松本さんと話しました。「今この時期に再演するってどう思いますか」って。「2016年にやったことと同じことをやるっていうのは、ちょっと違う気がする」って話をして。そしたら松本さん、「もし他の人とやってみたいというなら、全然構わない。『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』はありがたいことに今までの評判もよかったし、手応えも感じていた。だけど、僕は客席でこの作品を一度も見たことないんだ」って。「むしろ僕はすごく見たい」って言ってくれて、こういった形になりました。

公演情報 弦巻楽団#29「ユー・キャント・ハリー・ラブ!」

南参さん(以下、南参):『ちゃっかり八兵衛』は、時代劇コメディです。元禄時代の遊郭の布団部屋が主な舞台で、そこにお金を払えないで居残りをさせられている八兵衛という主人公がいる。様々な悩みを抱えた友達や、忠臣蔵に出てくる大石内蔵助とその息子の大石主税の二人が息子の筆下ろしのためにその遊郭にやってきて…というのがあらすじです。

時代劇をテレビで見ている人がどんどん少なくなってきています。僕が子どもの時は結構やってたんですけど。遠山の金さん、必殺仕事人、桃太郎侍や水戸黄門…。

弦巻:水戸黄門ってもうやってないんでしたっけ?

南参:BSで新しく始まったみたいです。

納谷:今誰が黄門さんなの?

南参:武田鉄矢です。

納谷:マジで?!

南参:『ちゃっかり八兵衛』には落語のパロディや時代劇のパロディがたくさん出てきます。たとえ時代劇を知らなくても、老若男女、どんな人でも楽しめるような仕掛けをいっぱい駆使しています。

公演情報 コンカリーニョプロデュース公演 「ちゃっかり八兵衛」

たくさんの方に観てもらうために


ー 自分の劇団の公演で行っている宣伝方法や集客のための工夫はありますか。

納谷:営業です。これまでものづくりにしか興味がなかった僕が、昨年のシーズン参加作品『あっちこっち佐藤さん』で5000人動員を目指すことにして — まあ、結局目標に到達はしなかったんですけど、情けないことに — 札幌演劇の現状を考えると、いままでと同じことをやっていては、膨大な数の増加は見込めない。だから、営業を始めました。

色々な場所へ行き「すみませんが、劇を見に来てもらえないでしょうか」とお願いをしに行きます。その営業方法は、それぞれ劇団で考えればいいんですけれど。

面白いことやれば人は増えるはずだって信念だってまだ捨ててないです。でも、現状として今から1ヶ月後の公演に膨大な数の人を呼ぶということは、大変なことです。

弦巻:僕は、当たり前のことしかやってないというか、やれてない気がしています。例えばチラシを作って、色んなところに置いてもらうとか、そういうことくらいしかできていないですね、情けない話ですが。

武田:俺は、人たらしになって、頭のいい大人に協力してもらって、なんかやってもらう。

一同:(笑)

納谷:営業もまさにそこですよ。ちゃんと経済力もあって人脈持ってる方たちに協力してもらうっていう。

武田:そのためにまず、やってること(=演劇)を好かれなきゃね。

ー 札幌演劇を観る人の割合は、一般の方よりも演劇関係者が多いという現状があります。演劇制作に関わりのない、純正観劇人を増やすにはどうしたら良いと思いますか。

納谷:メディアの力を借りるのが一番早いと思うんですよ。テレビや新聞で宣伝してもらったり。公演の情報だけでなく、例えば週に1回でいいから、新聞の小さい欄でコラムのような感じで、稽古の様子を連載させてもらうとか。そうすると少しずつ演劇というものが認知されていく。

でも、そういう企画はメディアには通らないんですよ。テレビ局に宣伝してほしいと頼んでも、強力なコネクションがあってようやく情報番組で数分宣伝させてもらえる。なかなかに難しい。それでもやっぱり、マスメディアの力は大きいです。道新に掲載されるとすぐにチケット伸びますからね。

武田:僕今年で(演劇を始めてから)30年になるんですけど、「どうやって人を呼ぶのか」というのはずーっと変わらないテーマです。

僕はこれまでの試みの中で、コミュニティーではなく、公共の波(テレビ・ラジオ)に露出する努力をし、営業をすることで絶大な効果が出る反面、「ムーブ」や「タレント性」「話題性」がなければ頭打ちが見えてしまう怖さを体験しました。

例えば僕が以前運営してた劇団は、テレビ各局の情報番組のレポーターや深夜番組のローカルタレント、ラジオパーソナリティーなどを輩出しました。公共機関に頼ることなく、自ら露出を増やして認知される。告知無きモノは無いに等しと活動してました。

南参:逆説的になっちゃうかもしれないけれど、僕は、やる人がもっと増えて欲しいと思います。草野球や草サッカーなどと同じように、草芝居があってもいいと思うんですよ。下手でもいいから、やる人が増えることによって観る側も興味が湧くんじゃないかなって。俺は野球とかは全然やってないけど、プレイヤー人口が多いからプロ野球も高校野球も盛り上がる。

話は少し変わるけれど、日本ハムファイターズのボールパーク構想ってすごいなって思うんです。アメリカのメジャーリーグの球場の周りにはショッピングモールやアミューズメントパークがあって、同じようなことを日ハムはやりたいと思っている。買い物のついでに、じゃあ野球も見に行ってみようみたいな人が増えるかもしれないと期待しています。球場中心とした街づくりなんですよね。

納谷:海外では、劇場中心の街づくりが実際に行われていますもんね。演劇フェスティバルに合わせて街が動いている。

弦巻:外国の人たちは、一般の人たちの演劇に対する価値観の磨き方が違う気がする。演劇はエンターテイメントだけど、もうちょっと日常に根ざしているというか。海外では演劇は教科として扱われていますからね。数学、国語、理科、社会、演劇、みたいな感じで、そういう教育としての価値が認められている。

僕も子どもたちや中高生と演劇をつくる時は、演劇のエンターテイメントとして以外の価値も感じてもらったりするように心がけています。一人ひとりの意識を変えていけないかなって。遠大な計画とならざるを得ないんですけどね。

納谷:僕は富良野で演劇を学んできました。富良野はそういう劇場中心の街づくりをはじめて15年近くになりますが、ようやく駆動しはじめているんです。ちょっとずつ街を変えていくって、やっぱり膨大な時間がかかると思う。

即効性のあるものと、長いスパンでちょっとずつ育てていくこと、ということですよね。即効性のあるものでいうと、やっぱりテレビに流してもらうことがいいんじゃないでしょうか。すでに上演された作品の映像を、深夜の時間でいいから流してもらう。テレビつけた時に「なんだこれつまんねーな」って思われても、そういったことで、すこしずつ演劇が身近なものとして捉えられると思うんですよ。ソフトがないわけではないんだから。

ー 札幌に演劇があるということを、ちょっとずつ認知させるということですか。

納谷:それが大事なんじゃないかな。

南参:教育にいれるっていうのもひとつですね。今だと、演劇に触れる機会は学習発表会とかしかないですもんね。

納谷:学習発表会や学芸会の劇では、主役を4人ぐらいがやったりする。あのシステムは演劇を殺しているよね。

南参:あれ本当に意味わかんないですよね(笑)

納谷:ほんとねぇ!「自分の子どもが主役じゃない」ってお母さんたちに怒られるからってね、主役が変わっていくんです。演出上の意味もなくですよ!

南参:平等を間違っていますよね。

納谷:あれをやっていると、演劇に未来はないと思うよ。

武田:僕にも小学生の子どもがいるからわかるんですけど、小学校が演劇に使える時間を捻出したのは、それだけでもすごいと思います。今の小学生、やらやくちゃいけないことが色々あるんだよ。その中でお芝居に触れる時間がちょっとでもあるということは、よくなってきたことだと思う。

納谷:演劇専門の公立高校できたら、ちょっと変わったりしない? スポーツ専門コースの高校がある地域はやっぱり、スポーツに熱いんですよ。演劇も、それで全体の空気は変わるような気がしますよ。

弦巻:急に現実的な話になりますが、今その、演劇の高校ができたとしても、一般の人の演劇に対する意識が変わって、「演劇の学校できるのは良いことだね」みたいにはなかなかならないと思います。一般の方にとっての演劇やっている人たちは「みんなの前で人気者になって喜んでる人」というイメージがあるんじゃないかな。彼らはいい思いしているでしょ?って。その人たちを学校として育てる意味あるの?ってなっちゃうと思うんですよね。

演劇はエンターテイメントだけど、みんなを楽しませることを楽しむためだけにやっているわけではなくて。観る側とやる側で起こる交流や、演劇を観ることで色々なことを感じることができるという意味での、「教育」としての確固たる価値がある。これを感じ取ってもらえた上で学校が必要とされたらいいなって思うんですよね。

ー 演劇の教育的価値をどうやってわかってもらえるか。

弦巻:価値のために演劇やるっていうのは良い言い方じゃないけれど。でも、演劇のそういう面を、第三者の誰かが指摘して欲しいなって思います。やってる僕らが言っても胡散臭いじゃないですか、「僕ら教育的価値ありますよ!」って。第三者だったりとか、メディアだったりとか、そういう外部の側から、演劇と一般の方をつなげてくれる人が現れてくれたらいいなって思うんだけれど。

納谷:僕は、日本の演劇が発展しない大きな原因の一つは、学芸会の体験が間違っているからだと思っています。だって先生は最初に言うじゃないですか「前を向いて、大きな声でセリフを言いなさい」って。あれじゃあ面白い演劇はできない。でもそれは先生が悪いんじゃなくて、学芸会というシステムが悪いんですよ。演劇という専門的な分野を、学んだことない先生に任せるなんて、めちゃめちゃ大変なことですよ。

これを打破するために、朝日町では「センセイノチカラ」という取り組みを行なっています。演出家が学校の先生方と一緒にお芝居を作るんです。先生自身に演劇の作り方や面白さを体験してもらって、それぞれの学校での文化祭や発表会で生かしてもらうという取り組みです。

南参:朝日町の先生が言っていたんですが、学校で公演1週間ほど前から授業の代わりに演劇の稽古しかやらないようなスケジュールにしたそうなんですが、その取り組みの前後で学業の成績を比べたら、取り組み後の方が良くなってたらしいです。

一同:へぇー。

南参:結局、行政には数字じゃないと評価されにくいんです。演劇をやることでこれだけ良くなりましたっていう証拠を数字で提示しないと。

弦巻:数字だけを信用するっていう世の風潮のそものに対して、批判精神があるからなぁ(笑)

南参:確かに、僕らは数字が全てじゃないから芝居やってるんだけど(笑)

弦巻:子どもたちの成長も、数字に現れる成長だけじゃない。先生たちも、親御さんに「なんでうちの子前に出てこないの?」と言われた時に「いや、演劇としてはこっちが正しいんです」ってちゃんと言えるようになったらすごく嬉しいですね。

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