今回は、札幌演劇を代表する大人気舞台俳優、yhsの 小林エレキ(@kobaere)さんにインタビューさせていただきました。
彼にしかできない何かが憑依したような怪演は、演劇ファンはもちろん、初めて観る者をも惹きつけます。その魅力の源は一体何なのでしょうか。お忙しい中、丁寧に答えていただきました。
スラムダンクに憧れて
(http://01.gatag.net/0007023-free-photo/より)
小林エレキさんが演劇をはじめたきっかけはなんですか。
小林エレキさん(以下、小林):高校生のときに演劇部に入ったのが最初でした。中学生くらいのときにスラムダンクが流行っていて、「俺も高校生になったらバスケ部に入るんだ!」と勇んで高校に入学しましたが、バスケ部はすごい人気で、部活動紹介のとき部長が「うちは経験者しか取っていません」って言っていたので断念しました。6月くらいまでフラフラしていたんだけど、何か青春っぽいことがしたかったんです。それで、「演劇部に入って照明とかやったらいいんじゃないか」と思いついて入部しました。しかし、演劇部って今もそうかもしれないんですけど、慢性的に男性不足なんです。入部してすぐにオーディションに出されて、子どもの役をやることになったんです。ランニング着て短パンで胸毛と脇毛とすね毛を全部剃れって言われて。
胸毛はそのときからあったんですね。
小林:胸毛は高一から! 最初は腹毛で、こいつが侵略してきた。
高校時代の部活でライバルはいましたか。
小林:ライバルっていうライバルはいなかったですね。でもすごい負けず嫌いなので、他の部員が良い演技すると、すごいなと思う反面、イラっとしていました。それで、今のは何がすごかったんだろうって考える癖がついて、良い演技の分析をしていました。こういうタイミングでセリフを言ったから良かったんだ、こういう脚本の読み方もあるんだ、というような。そういう意味では、周りの人は全員ライバルだったかなあ。「華がある」ってよく言うじゃないですか、あの「華」っていう言い方が嫌いで。華のある演技も分解していけば、いろんな動きが合わさって構成されているわけだから、そういったパーツひとつひとつを理解できれば、俺だって華が持てるはずだ!と思ってやっていました。
高校卒業後はどのように活動されていましたか。
小林:南参(yhs代表)さんが同じ部活の2コ上の先輩で、高校のときから仲良かったんです。「劇団つくったら入る?」と誘われて、「あーじゃあ入ります」っていう軽いノリで小劇場に入りました。高校卒業後、釧路の大学でちょこっと演劇やったんだけどあんまり性に合わなくて。夏休みとか長期休暇の時に札幌に帰ってきて、yhsの公演や客演として出させてもらっていました。年に1回か2回、やるかやらないかって感じでした。
出演したyhsの公演で印象に残っている作品はありますか。
小林:2013年に教育文化会館でやった短編演劇集「テッペンパレード」でも上演した「英語で無理矢理カツ丼の作り方を教えるコント」ですかね。初演(「きっと空を少し」(1999年))のとき、初めてお客さんに笑ってもらえた作品でした。必死になったらみんな笑ってくれるんだと思って。
yhsの作品と他の劇団の作品で違うところはありますか。
小林:演出家には3タイプいると思っています。演出家タイプの演出家、脚本家タイプの演出家(弦巻啓太さん等)、役者タイプの演出家(納谷真大さん等)。南参さんは、演出家タイプの演出家です。動きやミザンスは伝えてくれるんだけど、中身を埋めるのは割と自由にやらせてくれます。逆にいうと、何も考えずにやってもある程度のものはできる演出方法なんじゃないかなって思います。
お芝居ってこんなにめちゃくちゃでもいいんだ
今まで観た演劇作品の中でもっとも印象に残っている作品はなんですか。
小林:松尾スズキ(大人計画)さん作・演出の『悪霊 -下女の恋-』です。「お芝居ってこんなにめちゃくちゃでもいいんだ」っていうのが衝撃でした。グロありエロあり殺人あり、若い時に映像で観たんだけどね。ブラックなやつが好きです。
小林エレキさんは舞台の他に映像作品にも出演されていますが、舞台と映像の違いをどこに感じますか。
小林:けっこう映像やる人はよく言うんだけど、アップで撮られるので迂闊にまばたきできないのが大変でした。まばたきひとつでも意味ができちゃうので。目線の動きとかも舞台よりシビアになるので、細かな所作がアラとして出てしまう危険があって気をつけなくちゃいけない。
役者に必要なことはなんだと思いますか。
小林:脚本を疑いながら読める役者はいい役者かなって思います。例えば「愛している」って書いてあっても、「本当にこの人は愛しているの?」とか「誰に向かって言っているの?」とか。ひねくれて読む方が面白味が出てくる気がするんです。あとは、やっぱり身体は鍛えていた方がいいんだろうなって思います。
これからの札幌演劇が発展していくための課題はなんだと思いますか。
小林:課題…かぁ。やっぱり、まだ観たことがない人にとって演劇は敷居が高いんだと思います。仕事終わりに気軽に芝居を観にいくというくらいにお芝居をやっていることが当たり前になっていったら、お互い楽しんじゃないかな(観る側もつくる側も)。何やっているのかわからないから敷居が高くなるんでしょうね。難しそうだって思っている人がたくさんいると思います。お芝居をまだ観たことがない人が、一回何かの間違いでもいいから自分たちのお芝居を観たときに、「あ、おもしろい!次も観に行こう」って思ってもらえるような作品をつくっていきたいです。
いろんなことに興味を持った方がお得
演技を子どもに教えるお仕事もされていますが、「人に教えること」を通して何か学んだことはありましたか。
小林:最近学んだことは、もっと生徒さんを信用していいんだってことです。せっかちなところがあるので、全部動きをつけちゃいたくなることがある。でも、しばらくその人なりにやってみてもらって、その人のカラーで良くなっていく方が、結果的に作品が面白くなるんです。手取り足取り教えるよりは、ざっくり「やってみて」って言う方が、いろんなことを考えてくれるんだなあって。
演劇をやっている中高生に向けてのメッセージはありますか。
小林:偉そうになっちゃうけど、いろんなことに興味を持った方がお得ですよってことは伝えたい。「あんまり面白くなさそうだ」って思った瞬間にその可能性が消えてしまうから、例えばアニメが好きな人でも、音楽聴いてみたり美術館に行ってみたり映画を観たりしたら、何かしら刺激を受けると思う。もし面白くなかったら、「どうして自分はこれを面白くないと感じたか」を考えることが糧になると思います。若いうちから興味の範囲を狭めない方が、面白い。
次の出演舞台「わが町」の見どころを教えてください。
小林:小学生から中学生までの子どもたちがメインで演じているお芝居です。テーマが「引いた目線で見る人間の生活」です。子どもたちが大人の役を演じる中で、子どもが言うからこそ響くセリフがあるんだなと思います。
本日はありがとうございました。
小林:こちらこそ、ありがとうございました。
1979年7月11日生まれ。O型。
劇団「yhs」副代表。札幌を拠点に活動する舞台役者。他劇団の舞台作品にも積極的に参加する傍ら、近年では映画、TVドラマ、TVCM、ラジオドラマ、ナレーションなどにも出演。毎週月曜23時からyhsの能登英輔とツイキャス番組「のと☆えれき」放送中。
- 3月25日(土)〜26日(日)「わが町」出演 @教育文化会館
- 4月19日(水)〜23日(日)ELEVEN NINES「分泌指南vol.2」出演 @BLOCH
- 7月22日(土)〜29日(土)yhs「忘れたいのに思い出せない」出演 @コンカリーニョ