2024年12月6日(金)〜15日(日)にジョブキタ北八劇場の人材育成プロジェクト「KITA8NEXT」として上演される『エンギデモナイ』。2005年にイレブン☆ナインで初演、2013年に札幌演劇シーズンで再演した作品を、劇場のトレーニングワークショップで出会ったメンバーと共に上演します。
ジョブキタ北八劇場が若い世代と共に作品づくりをする意図は何か、芸術監督の納谷真大さん、出演の神成悠平さん、稲垣碧さんに企画や作品の魅力について伺いました。
(聞き手:佐久間泉真)
劇場を自分たちの創作の場にしてほしい
— ジョブキタ北八劇場の企画「KITA8NEXT」(キタハチネクスト)として上演される『エンギデモナイ』。この企画のコンセプトを教えてください。
納谷真大さん(以下、納谷) 今年オープンしたジョブキタ北八劇場には、大きく2本柱の活動があります。そして、その2つはシンクロしていきます。
1つ目は、「5カ年計画」と呼ばれるもので、5年の間にロングラン公演ができるような強固な作品を生み出していくこと。
そしてもう1つが、作品だけでなく、優秀な演劇人を生み出していくこと。人を生み出していくっていうと、少し横柄に聞こえたりするかもわからないですけど、若い才能をちゃんと育てていきたいなと思っています。
こけら落としの『あっちこっち佐藤さん』は、ああいう形でロングラン公演を6年目からやっていきたいということ示すものでした。そして、ちゃんと若者たちに繋いでいくことを、この「KITA8NEXT」で挑戦します!
ー 次の世代につないでいくことを重視しているんですね。
納谷 そうです。まだ劇場がオープンする前、今年の1月から参加者を募ってトレーニングワークショップを行いました。これは、劇場のメンバーシップのようなイメージです。
俳優は、皆さん劇団やそれぞれの活動拠点を持っている方もいると思うんですけれど、やっぱり劇場が主体になって作るものに積極的に関わっていくメンバーを作りたかった。僕たちはプロフェッショナルを養成したいと思っているので、そこに向かっている人たちが、自分たちのプロダクションや劇団などの壁を取っ払って、劇場に人が集まる仕組みを目指しました。
その中で、できるだけ若い才能、新しい才能を集めて、僕も含めて一緒に育っていければと思っています。
ー トレーニングワークショップはどのような様子でしたか。
納谷 2024年1月から始まり、定期的に2か月程、全部で78時間のプログラムでした。その参加者が、劇場メンバーシップの一候補という位置付けで、『エンギデモナイ』ではそのメンバーを中心にキャスティング、オーディションをしています。
ー すると、出演者のほとんどは稽古が始まる前から共に劇場で時間を過ごしたメンバーなんですね。
納谷 そうです。劇場をどんどん次の世代に渡していく企画にしたいと!
ー なぜ次の世代を育てていくことが大切だと思うのでしょうか。
納谷 僕が20代だったら、そう思わなかったかもしれないですけど、僕ももういい歳になってきて、少しでも早く若い人が北八劇場を自分たちの創作の場にしてほしいと本当に思っています。
僕が若い頃、言葉は悪いですけど、自分よりも先輩やベテランの人に早くいなくなれ!って思っていて、でも気づいたら自分がその立場にいるということを痛感するんですよね。僕が時代の変革にちゃんとついていけていないことも感じますし、若者たちが「時代遅れの人がこんなこと言ってたよね」としてでも、今の子たちにどうにかバトンを繋いでいきたいんですよね。
だから、かなり意識的に、自分より若い世代の育成を銘打っていかないといけないなと思っています。
ー 次の世代、若者の育成を重視されている一方、北八劇場のもう1つの柱として、商業的に成立させていくロングラン公演やプロフェッショナルな演劇人を養成していく方針も大切にされています。
「育成」にもいくつかの考え方があると思うのですが、結果として少数精鋭のプロフェッショナルを目指していくのか、それとも参加者の多様な演劇との関わり方を想定し、広く裾野を広げていくのか。どちらに重きを置いてるのでしょうか。
納谷 どっちとは言えないですね。二段構えが良いんだろうなと。トップランカーたちがプロとして活動するカテゴリーもあり、アマチュアが劇場で創作するカテゴリーもあるし、そしてそこをお互いに跨いでいけるような……というのが最も理想だと思います。
ただ、現実的に考えると、やはりプロフェッショナルが育っていくのにはとても長い時間がかかる。
だからこそ、一般の企業で働きながら演劇として面白いものを作ろうと目指す取り組みも重要だと思いますし、プロフェッショナルにこだわっていく道も捨てずに、お互いに影響を与え合いながら、札幌の演劇環境を考えていければと思っています。
僕個人としては、あくまでお金(商業としての成功)じゃなくて、面白い劇を作るんだと言い続けたいなとは思うんです。うまくいくかどうかは別として。
ー なるほど。北八劇場はアマチュアよりもプロフェッショナルを育てていくところ、というイメージがあり、次の世代の育成についてどのように考えているのかが気になっていました。プロを目指す人や、”選ばれた”人が使える場所としてハードルを上げていくのか、間口を広げて、初めて創作体験をする方やアマチュアを増やしていくことを重視していくのか。
納谷 ちょうど美味しいとこ取りになれば良いなと思います。例えば、8月にはイトウワカナさんを講師として中高生向けの「KITA8TEEN project」(キタハティーン)というものを開催しました。こういった形で、北八劇場を身近に感じられるような企画もしっかりと実施していきたい。
もちろん、KITA8NEXTも含めて、お客様にチケットを買っていただいて公演するので、しっかりとしたクオリティは保証していかないといけない。
間口が広く誰でも参加できる「トレーニングワークショップ」や「KITA8TEEN project」もありながら、プロフェッショナル養成を目指す北八劇場のメインプログラムがあり、それらをつなぐ立ち位置として「KITA8NEXT」があるようなイメージです。
ー トレーニングワークショップに参加され、今回の『エンギデモナイ』に出演される神成悠平さんと、稲垣碧さん。お二人が、ワークショップに参加しようと思ったきっかけはなんでしたか。
神成悠平さん(以下、神成) すごく安直ですが、チャンスがあるなら飛びつくしかないと。この企画は未来を見据えているし、この先何があるかわからないので、とにかくやってみようと。
ー 神成さんにとっての「チャンス」とは?
神成 もうやり切った!と思えるほど素晴らしい舞台に立ちたいと思っているので、そこに近づけるんじゃないかなと。
ー KITA8NEXTが、そこに向かっていけるような企画だと感じたんですね。
神成 そうです。
稲垣碧さん(以下、稲垣) 私は元々東京の方で活動していて、北海道に来てまだ5年ちょっとぐらいなんです。北海道は学生演劇からの流れが強く感じていて、舞台に出演する機会を得るのが難しく感じていたときに、この企画の募集を見つけました。
所属団体とかプロダクションにかかわらず、いろんな人たちが集まるところでやってみたいなと思って飛び込みました。あとは単純に納谷さんの作るものを経験してみたかった。
ー ありがとうございます。実際に参加された78時間のトレーニングワークショップは、どういう内容のプログラムでしたか。
納谷 割と基礎から応用までやりました。『エンギデモナイ』を上演することは決まっていたので、テキストを用いてシーン作りをしたり、ダンサーのきたまりさんによる身体のトレーニングも行いました。
「演劇を続ける理由を探せ」
ー KITA8NEXTの初回として上演される『エンギデモナイ』は、2005年イレブン☆ナインによる初演でした。もう20年近く前の作品ですね。
納谷 そうです。初演のときは、まさに自分のことを書いていました。昨年ELEVEN NINESで『オトン、死ス!』という自分の父親が亡くなった話を劇にしているんですが、これも同じように、セミドキュメンタリーと言いますか、劇団で演劇を作っていくことの難しさを扱った作品です。
仙石という演出家の役も僕自身だし、仙石に怒られる劇団員も僕だし、制作サイドも僕だし。
ー 納谷さんが2005年当時に実際に体験したことがベースになっているんですね。
納谷 だから、20年経って読み返すと恥ずかしいですよ。台本の言語も時代とともに移り変わるんだなと痛感しています。とてもこのままじゃ上演できないと思い、みんなの力も借りながら修正しつつ、2024年の『エンギデモナイ』に変わっています。
「演劇を続ける理由を探せ」という物語なんです。辞める理由はいくらでもある。でも僕らは、続ける理由をなんとか探してきて続けてきてしまっていて。でもこれってポジティブなことだと思うんですね。これから演劇を続けようとしている若い世代が物語の登場人物と重なる。
そういう意味でも、面白い作品になっているんじゃないかなと思います!
ー 総勢27名の出演者が3チームに分かれて複数キャストで上演されます。
納谷 チームごとに上演回数が異なる、ちょっと変則的な構成にしています。参加者の年齢層や職業もバラバラなので、それを考慮してチーム決めをした形になります。
複数チームに出るけど配役が違う人もいるんですよ。神成くんはまさにそうですね。
神成 はい。赤チームでは、トミヤマクンというタイ人の役です。1人だけ蚊帳の外、というような役どころで劇団のいろんな問題を外側から見ている存在で、なんか神様みたいなポジションだなと感じています。
一方青チームでは、矢部タケシという劇団の看板俳優の役です。演出家・仙石と衝突する、一番問題の内部にいる人です。
ー 全く違う役どころなんですね。
稲垣 私は3チームとも出演しますが、全チーム共通の役で。看板俳優の矢部は劇団内で唯一事務所に所属していて、その担当マネージャー役です。
納谷 この役は初演にはなかったんですよ。今回書き加えました。
初演当時は、富良野塾のメンバーと一緒に作っていたんですが、芸能界とか演劇業界とか全くわかってなくて。その後僕も東京とかでいろいろ見てきて、プロダクションの存在は外せないなと。メディアに出すためのマネジメントと、作品を作ろうとする劇団と、ちょっと相反することもあったりするじゃないですか。劇団の外からプレッシャーを与える存在にもなりますし。
ー 稽古をしていく中で、チームごとの違いは感じますか。
稲垣 各チームで劇団員の人数が変わってくるんですよ。黄チームは赤チームより2人も登場人物が多いんです。赤チームでは一人で喋るセリフを、黄チームは3人が分配して喋ることになります。
物語は一緒なんですけれど、人が変わるだけじゃなく人数が変わっちゃうので、かなり違った作品になると思います。
納谷 いろんな職業の方が出演されるので、人数の配分もありましたし、たとえば高校生に出演者が夜遅くや昼間の稽古は来られないとか、そういった制約もありました。それなら、3チームまるきり同じことやるんじゃなくて、それぞれのチームごとに特色を出していこうと。
稲垣さんみたいに全チーム通して出る方は大変ですよね。
稲垣 そうですね、混乱しながら稽古しています。楽しみにしていただきたいです。
ー 今回は、山木将平さんの生演奏も魅力的ですね。
納谷 チームごとに人間も人数も変わりますので、生演奏の音楽も違ったものになるかもしれません。芝居が変わると音も変わるというか、俳優も山木さんに成長させてもらっています。
山木さんの音楽を生で聴けるだけでも、チケット代以上の価値があるんじゃないかと思います!
稲垣 各チーム本当に違った作品になっていますので、ぜひお時間あれば複数チーム観ていただきたいです。
公演情報
KITA8NEXT #1
エンギデモナイ
ジョブキタ北八劇場と共に、これからの札幌演劇シーンを支える人材育成プロジェクトです。
ジョブキタ北八劇場芸術監督である、納谷真大主宰のイレブン☆ナインにて2005年に初演、2013年に再演し、いずれも高評価を得た『エンギデモナイ』を11年ぶりに上演します。若手からベテラン俳優まで、総勢27人を3チームに分けてお届けします。
チーム【赤】明逸人、岡部泰征、坂口紅羽、菊地駿斗、原千咲、菊地颯平、内崎帆乃香、宮沢りえ蔵、小岩井周作、神成悠平、小野寺愛美、稲垣碧
チーム【青】宮沢りえ蔵、梅原たくと、五十嵐みのり、神成悠平、小野寺愛美、向山風汰、河部愛、志田杏樹、明逸人、伊達昌俊、和泉諒、猪俣和奏、稲垣碧
チーム【黄】明逸人、小岩井周作、志田杏樹、梅原たくと、沼田花香、星加悠介、理承珀丘、駒津花希、相田佳璃奈、宮沢りえ蔵、有田哲、菊地颯平、山田葵、稲垣碧
2024年12月6日(金)〜12月15日(日)
全15ステージ
12月6日(金)19:00【赤】
12月7日(土)17:00【青】
12月8日(日)17:00【黄】
12月9日(月)19:00【赤】
12月10日(火)14:00【赤】/19:00【青】
12月11日(水)14:00【青】/19:00【黄】
12月12日(木)14:00【青】/19:00【赤】
12月13日(金)14:00【赤】/19:00【青】
12月14日(土)13:00【黄】/18:00【赤】
12月15日(日)13:00【青】
※開場は開演30分前
※チケット受付開始は開演45分前
ジョブキタ北八劇場
札幌市北区北8条西1丁目3番地「さつきた8・1」2階
前売・当日共通〔自由席〕
一般:3,500円
学生:2,000円
中学生以下:1,000円
※すべて税込
※未就学児入場不可
※学生の方は学生証をご提示ください
※車椅子でご来場の方は事前に劇場までご連絡ください。
ローソンチケット、道新プレイガイド、市民交流プラザチケットセンター、ジョブキタ北八劇場にて販売中
【ローソンチケット】
Lコード:11410
販売URL:https://l-tike.com/search/?lcd=11410
【道新プレイガイド】
①TEL:0570-00-3871
②オンラインストア:https://doshin-playguide.jp/
③セイコーマートマルチコピー機:セコマコード:D24120602
※セイコーマートでの販売は、各公演日の7日前までとなります。
【市民交流プラザチケットセンター】
窓口販売:札幌市民交流プラザ2階(札幌市中央区北1条西1丁目)
10時~19時、札幌市民交流プラザの休館日を除く
【ジョブキタ北八劇場】
ジョブキタ北八劇場でのご購入はお電話またはチケット予約フォームより承ります。
電話:011-768-8808
(平日:月〜金、9:00〜17:00)
作・演出:納谷真大
音楽:山木将平
舞台美術:高村由紀子
照明:手嶋浩二郎
音響:奥山奈々
舞台監督:上田知
技術監督:伊藤久幸
演出助手:内崎帆乃香、梅原たくと、米沢春花
衣装補助:上總真奈
小道具補助:菊地颯平
プロデューサー:小島達子
宣伝協力:岩田雄二
制作・票券:澤田未来、猪俣和奏、服部一姫、笠島麻衣
宣伝イラスト:角田貴志(ヨーロッパ企画)
宣伝美術・写真撮影:馬場結子
制作協力:tatt Inc.
主催:一般財団法人田中記念劇場財団
助成:札幌文化芸術交流センターSCARTS 文化芸術振興助成金交付事業(公益財団法人札幌市芸術文化財団)
ネーミングライツ企業:ジョブキタ
ジョブキタ北八劇場オフィシャルパートナー:伊藤組土建株式会社、大和ハウス工業株式会社、大和ハウス工業株式会社・住友不動産株式会社・東急不動産株式会社・株式会社NIPPO 共同企業体、大成建設株式会社、株式会社インサイト、JBEホールディングス株式会社
ジョブキタ北八劇場パートナー:株式会社札幌振興公社、東京建物株式会社、スターツコーポレーション株式会社、株式会社あいプラン