【インタビュー】岩井秀人さん|ハイバイ「ワレワレのモロモロ2024 札幌東京編」

2024年8月8日(木)〜11日(日)に行われる、ハイバイ公演「ワレワレのモロモロ」。参加者が自らのエピソードを元に脚本を書き、自分で演じるというハイバイ独自の演劇企画です。2011年に初開催されて以来、多くの反響を呼び、今回、ジョブキタ北八劇場オープニング企画として、札幌で初めて開催されることになりました。

このユニークな演劇形式を手掛けるのは、演出家の岩井秀人さん。自身のひきこもり経験をもとに最初の劇作を手掛けた後、参加者自身の物語を演劇化する方法に着目。個々の人生のドラマを舞台上に再現し、観客に強烈なインパクトを与えてきました。

この企画の面白さは一体何か、札幌公演を控える岩井さんにその魅力をうかがいました。

Profile

岩井 秀人

2003 年ハイバイを結成。
15歳から20歳まで引きこもりであった自身の体験をもとにし台本を書き、作家活動をスタート。以降、引きこもり、個人の自意識の渦、家族、集団と個人、などをテーマに演劇を中心に作品作りを続ける。

2012年ドラマ「生むと生まれるそれからのこと」で第30回向田邦子賞。
2013年「ある女」で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。

代表作「ヒッキー・カンクーントルネード」「ヒッキー・ソトニデテミターノ」「て」「夫婦」「ある女」「おとこたち」「世界は一人」「ワレワレのモロモロ」など。

本人が自分のモロモロを語る

ハイバイ「ワレワレのモロモロ2022」舞台写真

ー 参加者が⾃⾝のエピソードを演劇化し演じる企画「ワレワレのモロモロ」。初開催は2011年とのことですが、このような劇作のスタイルはどのようにして⽣まれたのでしょうか。

岩井秀人さん(以下、岩井) 僕の一番最初の劇作は、僕自身が16歳から20歳までひきこもりだった経験をもとに書いたものでした。

これが評判も良かったこともあって、自分の身近な問題や家族のことを題材にして脚本を書くようになりました。そうしていくと、誰にでも物語にしたらすごく面白い人生のドラマが一つや二つあるんじゃないかなと思うようになって。

その後、自分で取材して脚本を書くようにもなったんですけれど、それと同じくらいのタイミングで、参加者が自分の身に起きたことを自分で書いて、自分で出演するという演劇の形をやり始めるようになったんですね。これが「ワレワレのモロモロ」の始まりです。

僕は、「一人一演劇」みたいに思っているんですよね。みんな、ある一つの演劇の形に集約されていく感じがするんだけど、本当はそんなことないよな、と。それぞれ生きてきた人が自分の文化や培ったものがあるから、それぞれに違った演劇の形があるんじゃないかと思っています。

ー 演劇初心者も含めた参加者自身が実際に体験したエピソードを演劇にする方法は、物語にはいろいろなバリエーションが生まれる一方、そのエピソードをいわゆる戯曲の構造に組み立てていったり、演出的な視点で舞台作品として立ち上げていく専門的な作業も必要になるかと思います。

そういった意味で、中身のバリエーションを確保するのと、演出家としての岩井さん自身の視点・方針を貫いていくバランスをどのようにとっているのでしょうか。

岩井 僕、戯曲に関してはそんなに強いこだわりはないんです。ないというか、やっぱり一番最初は本人から話を聞いた時に面白いことが大事だと思っていて、そのインパクトがちゃんと残っているかどうかで、その後の脚本作りもずっと見ていくんですね。

むしろ、戯曲としてテクニカルな方に走ってしまうことで、元の物語の面白さを失うことが往々にしてあると思っていて。自分の感覚としては、なるべくプロにならないで、ただ初めてその話を聞く人として、その話を体験できるかどうかに集中している気がしますね。

ー なるほど。参加者の中には、戯曲を書いたことがない方もいらっしゃると思います。その場合は、岩井さんから戯曲の書き方を指導されるんですか。

岩井 指導ってほどでもないんですけど、最初はとにかく話してもらったものをエッセイの形式で一人称で全部書いてもらって、そこからセリフを分けていって……という感じで、どこかのタイミングで「では戯曲にしましょう」っていうよりも、「これ、話してる当事者以外の人が出てきているから、2人で話しているところはちょっとセリフっぽく書きましょう」といったように、段階を踏んでだんだん脚本にしていく感じです。

多分参加者の人も戯曲の書き方を習ったという意識はないと思いますね。いつの間にか戯曲を書いていた、みたいになっていると思います。

ー 面白いですね。いわゆる「戯曲の書き方講座」だと場所の設定、関係性がどうなっていて、プロットがどうで、と構造的なことから学ぶのが一般的な印象ですが、そこから入らずに、あくまでもエピソードを広げていくことを重視する。

岩井 そうですね。文学的な言い回しとか、技術的なことを先に教わっちゃうことで、絶対に取りこぼす部分ってあると思うんです。

そういうのじゃなくて、本当にその人の体感をなるべく邪魔せずに出せることが、一番大事だと思います。

ハイバイ「ワレワレのモロモロ2022」滞在制作中の稽古の様子

ー そのような方法で、これまで全国各地で開催されてきた「ワレモロ」。過去の参加者やお客さんからはどのような反響、感想がありましたか。

岩井 一番のインパクトは、やっぱり劇中で起きる事件の当事者本人が舞台に出てくることですね。例えば、実の父親とのものすごい確執とか、そういう話を本人が出てきて語るっていうのは強烈みたいですね。

「いま現在はどれくらいこのことを思っているんだろう」とか、「当時のことをどれくらい体感として思い出しながら、父親役に向かって怒鳴っているんだろう」とか、いろいろ考えますよね。

でも、今こうしてそのことを話せているっていうのは、それがトラウマ的な体験だったとしても、一番最悪の状況からは抜け出してどこかに向かおうとしている兆しは見えるみたいで。

同じような体験をしてすごく辛い思いをした人たちからも、辛い時期を乗り越えて、舞台上で話せるようになっている姿に勇気をもらえるという話をよく聞きます。

あと、実際にあったら本当に悲劇なことでも、演劇で見るとなんでこんなに面白いんだろうって感じることもよくあるみたいですね。

ー それがこの企画の面白いところですよね。基本は参加者本人が体験した実話だと思いますが、劇を面白くするためのフィクションを入れることもあるんですか。

岩井 あんまりないですね。話の筋をわかりやすくするために、ちょっと盛って話すくらいはあるかもしれないですね。少し極端な表現、くらいに抑えている感じです。

ー すると、話の流れや展開にはフィクションはほぼなく、ドキュメンタリーの要素が強いのでしょうか。

岩井 そうだと思います。この体感って、又聞きともまた違う、変な距離感なんですね。

やっぱり当事者が話し始めたっていう入口が強烈みたいで。その事実を受け止めた身体が目の前にあって、そのことを語っていることは強いインパクトがあるみたいですね。

ー 今回「ワレモロ」札幌初開催です。オーディションも行われて参加者が決まりましたが、どういった作品・人が集まりましたか。

出演の5名。左から、足立信彦さん、納谷真大さん、南雲大輔さん、滝沢めぐみさん、板垣雄亮さん

岩井 オーディションは完全にエピソードの内容で絞っちゃいました。だから、選ばれたのは南雲大輔さんだけです。ダントツでめちゃくちゃ面白い話でした。

札幌編だって言ってるけど、札幌はほとんど一瞬しか出てこないんです。南雲さんの話は、アメリカが舞台です。

年々やってきて、話が面白いのはもちろん大事ですが、観客がその作品を見て、自分のもう一つの人生を思えるような作品があったら良いなと思うようになってきたんですね。特に南雲さんの話は、演劇だとあんまり取り扱われにくい「ザ・資本主義」みたいな話だし、あとは東京からの滝沢めぐみさんの話も、演劇だとやや遠ざけられるかしっかり切り込むかの「宗教」の話です。

こんな考え方はあんまり演劇にする必要ないかもしれないですけれど、10代の方とかこういうのを見たらこの先の人生いろいろ考えながら生きていけるようになるかもしれません。

ー この後、札幌での滞在制作が行われます。これまでもハイバイ公演で札幌に来られていますが、岩井さんから見て、現在の札幌の演劇シーンについて、どのようなイメージを持っていますか。

岩井 札幌は、働きながら演劇している方が比率としては多い気がします。やっぱりそれが健全だなって最近は思うんですよね。

昔は僕も「演劇一本!」みたいな考え方で、「働きながらなんて」と思っていたんですけれど、東京にいると、健康的じゃなく演劇に関わっている人も結構いて。出番がない時はただ出番がないという生き物として存在してしまっているみたいな。

だからそういう意味でも、演劇ではない別の好きな仕事をしていたり、生活をちゃんとしている人がいて、その上で演劇を楽しもうとしている、幸福の上にさらに幸福を乗っけようみたいな、そういうバランスの取り方は健康的で良いと思います。

これから、ジョブキタ北八劇場もできて、札幌が専業の演劇家を生んでいこうとするときにベースになるのが、働きながらやっている兼業の方だと思うんですね。ちゃんと体力を持ったままそれを目指せる感じがする。

演劇だけにフルコミットじゃないというか、それくらいが本当に良いと思うんです。

ハイバイ「ワレワレのモロモロ2022」舞台写真

ー ありがとうございます。最後に「ワレモロ」札幌初開催に向けて、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

岩井 「ワレワレのモロモロ」という企画は、自分の身に起きたことを自分で話して、自分で演じてという、演劇の一番根源的な形なんじゃないかと思っています。

札幌だとそんなに演劇の敷居が高いとは思われていないかもしれないんですが、非常に見やすいですし、そこら辺で生きている人の中にもこんな面白いドラマを持っている人がいて、街の中で普通に歩いてるんだなと思ってもらえるんじゃないかと思います。

あとは、納谷さん(ジョブキタ北八劇場・芸術監督。「ワレモロ」出演)の話は、「納谷さん悲願のワレモロ札幌公演」な上に「芸術監督として自ら参加」なのに、、その話やるの?な感じです!(笑) そこは本当に楽しみにして欲しいです。

ちゃんと狙い通りに広いレパートリーになったし、生々しさを持ったドキュメンタリーテイストの作品になっているので、自分の人生を見つめ直したりすることもできるかもしれない、ということも含めて、ぜひ気軽に遊びに来ていただけたらと思います。

2024年7月某日
オンラインにて

公演情報

ハイバイ/ジョブキタ北八劇場オープニング企画

ワレワレのモロモロ2024 札幌東京編

『ワレワレのモロモロ』は、参加者が自分の身に起こった出来事を書き、それをそのまま演劇化して本人を中心に演じる企画。
2024年北海道・札幌に誕生した〈ジョブキタ北八劇場〉にて約3週間の滞在制作後、東京・下北沢、演劇の聖地〈ザ・スズナリ〉で上演します。

日程

札幌公演
2024年8月8日(木)〜8月11日(日)
全5回

8月8日(木) 19:00〜★*
8月9日(金) 19:00〜★*
8月10日(土) 昼の部13:00〜、夜の部18:00〜
8月11日(日) 13:00〜

★・・・終演後トークあり
*・・・特典付き前半回(特典は当日受渡し)
※開場は開演30分前
※当日券販売は開演の60分前
※自由席

会場

ジョブキタ北八劇場

札幌市北区北8条西1-3 「さつきた8·1」 2階

上演作品

構成・演出・脚色:岩井秀人
出演:板垣雄亮、足立信彦、滝沢めぐみ、南雲大輔、納谷真大

[上演作品]全4作品
・足立信彦(東京)「僕の夢、社長からハト
・滝沢めぐみ(東京)「クローゼットのほとけさま
・南雲大輔(札幌)「アメリカで起業したら大変だった件
・納谷真大(札幌)「恵比寿発札幌、仕方なき弁

チケット

各種プレイガイドにて発売中

・一般(前売):4,800円
・ペア(前売):9,000円
・U30(前売):4,000円
・U20(前売):3,000円
・一般(当日):5,000円

※すべて税込 ※未就学児入場不可
※ペア、U30、U20は前売のみ
※U30、U20チケットをご購入の方は当日年齢を確認できる身分証をご提示ください
※車椅子でご来場の方は事前に劇場までご連絡ください

ローソンチケット
一般発売開始:6月1日(土)10:00〜
販売URL:https://l-tike.com/search/?lcd=11737

道新プレイガイド
一般発売開始:6月1日(土)10:00〜
①TEL:0570-00-3871
②オンラインストア:https://doshin-playguide.jp/
③セイコーマートマルチコピー機:セコマコード:D24080803
※セイコーマートでの販売は、各公演日の7日前までとなります。


【市民交流プラザチケットセンター】
窓口販売:札幌市民交流プラザ2階(札幌市中央区北1条西1丁目)
10時~19時、札幌市民交流プラザの休館日を除く


【演劇最強論-ing】
販売URL:https://www.engekisaikyoron.net/waremoro2024/
※登録不要・手数料無料

スタッフ

ドラマターグ:谷澤拓巳
音響:中村嘉宏
照明:株式会社ラセンス
舞台監督:河内崇
衣裳:イトウワカナ (intro)
記録写真(東京公演):平岩享
映像撮影(東京公演):安達亨介
ドキュメンタリー撮影:尾野慎太郎
宣伝美術:土谷朋子(citron works)
WEB:斎藤拓
票券(札幌公演):澤田未来
票券(東京公演):安達咲里、村松里美(ローソンチケット)
制作(札幌公演):小島達子、笠島麻衣
制作助手:及川晴日、林紗弥
制作:後藤かおり

協力:アレ、イマジネイション、ジェイ.クリップ、tatt、シバイエンジン
企画・製作:WARE、ハイバイ


[札幌公演]
主催:(公財)北海道文化財団、(一財)田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)
協力:WARE、ハイバイ

[東京公演]
主催:WARE、ハイバイ
創作協力:(公財)北海道文化財団、(一財)田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)

お問い合わせ

(一財)田中記念劇場財団
office@tmtf.jp