チケットを売るのは大変ですけど、やっぱり勝負は演技だなと思います。僕らは「演技至上主義」ですから。
札幌を拠点に活動する演技至上主義集団・ELEVEN NINESが、2023年1月28日(土)〜2月4日(土)に舞台『ひかりごけ』を上演します。
本作は、武田泰淳原作の小説『ひかりごけ』の舞台版。TGR札幌劇場祭2021で大賞を受賞、出演の菊地颯平さんが俳優賞を受賞した作品です。今回は、札幌演劇シーズン2023-冬参加作品としての再演となります。
公演を間近に控えた稽古場にお邪魔し、作品の魅力や創作の背景をインタビュー。作・演出、出演もつとめる劇団代表の納谷真大さんにお話をうかがいました。
小説『ひかりごけ』の舞台化
ー 2021年に初演を迎え、札幌演劇シーズンでの再演となる『ひかりごけ』。武田泰淳の名作を舞台化しようと思った経緯を教えてください。
納谷真大さん(以下、納谷) ELEVEN NINESは、たとえば『12人の怒れる男』が典型例ですが、名作を下敷きとした舞台作品をつくることに以前から挑戦しています。代表作『あっちこっち佐藤さん』も、レイ・クーニーの喜劇『Run for Your Wife』という原作があります。
本作も、プロデューサーの小島達子が「原作『ひかりごけ』がいいんじゃない?」と勧めてくれたのがきっかけでした。海外戯曲だけじゃなく、バラエティに富んだ方がいいだろうというのもあったと思います。また、事実に基づいた作品をやることにも興味がありました。
原作を読んだのは30年くらい前のことなので、もう一度改めて読み直してみると、実は原作は戯曲の形式で書かれているんです。これを僕たちで劇にしたら面白いなと思いました!
小島達子(ELEVEN NINESプロデューサー) ずっとやりたいと思っていた作品でした。でも、キャスティングとか、タイミングとか、色々考えてなかなか実現できなかった作品でもあります。
そんなときに、札幌座の斎藤歩さんと一緒に創作することが増え、キャスティングが見えてきた、という感じですね。『12人〜』の時もそうだったんですけど、やりたい作品はいくつかある中で、作品に合う素敵な俳優さんと出会ったときに言い出すパターンが多いですね。
納谷 もっと言うと、TGR2020で僕らの作品が賞を取れなかったことが悔しくて、そこはかなり意識した企画になっていましたね。「TGR2021は大賞取りに行きます!」って宣言していたし、興行としての戦略もありました。
ー 『ひかりごけ』を初めて読んだときの感想、第一印象はいかがでしたか。
納谷 僕が20代のときですね。最初は映画で知りました(1992年。監督:熊井啓)。船長役を三國連太郎が演じていたので、小説を読む時も、三國連太郎が動いている画が浮かんでいました。
実は、映画はそんなにハマらなかったんですよ。でもそれもわかるというか、やはり元が戯曲なので、そこを映像作品としてやるのは難しかったんだなと思います。この小説を書いたときには、事件に関わった実在の人が生きていたわけです。だから作者は、メタファーのメタファーといった間接的な戯曲表現にしないと描ききれなかったんじゃないかと思います。
そういった初めて読んだときに感じたことを、自らの手で舞台化する際に読み直して思い出しましたね。舞台だからこそできる表現を、今回の作品でも考えながら作っています。
ドラマトゥルグとの創作
ー 原作を脚色するにあたって難しかったこと、苦労したことは何でしたか。
納谷 ゼロから自分で物語を作ろうと思うと、神様目線になります。登場人物がどう動いていくのかを操れる。その作業は物怖じするし、そんなこと自分がやっていいのかと思うことがあります。
でも、脚色って、もう既にできている作品に対して文句言ってるような作業になります。「こっちの方が面白いぞ」と、いろいろ筆を加えたり減らしたりする。そういうのは割と向いているんだと思いますね(笑)
今回も原作に文句をつけるつもりで書き進めていき、第1稿をドラマトゥルグの斎藤歩さんに見せたら、「台本で説明しすぎだ」と指摘を受けました。最終的に出来上がったのは、第1稿の半分くらいの文量になっています。
よく歩さんに言われるのは、「お前は俳優なのに俳優を信じていない」ということです。つまり、書く台本に接続詞が多いんですね。「でもさ」とか「だけど」とか。接続詞がなくても、俳優の演技で表現できるじゃないかとということで、徹底的に接続詞をカットされます。
僕にも言い分はあって、たとえば下手な役者がやると、接続詞がないとどういう会話の流れなのかわからないんですよ。でもそれは「俳優を信じていないよ」ということで、指摘されましたね。
原作を戯曲にするにあたって、なるだけ説明セリフではなく、人間を動くことを前提に作品を成立させるということを、ドラマトゥルグの歩さんを通して教わりました!
ー ドラマトゥルグという役割について。現場によっても考え方は様々あると思いますが、今回の斎藤歩さんのドラマトゥルグは具体的にどういった役割なのでしょうか。
納谷 演出家のタイプにもよると思います。僕はもともと下っ端気質なんです…。アニキがいて、「ういっす」とヘコヘコしている方が向いているんですよ。なのに、劇団代表なんかやっちゃって、自分が中心にいることがちょっとしんどい時もあって。
だから、ドラマトゥルグという立場の方がいて、僕のやり方に色々アドバイスいただける環境にあるのは、すごくやりやすいです!
これまでも、ドラマトゥルグとは言わないまでも、色んな方の意見を受けてやってきたつもりなんですけど、関係性が中途半端なせいで、なかなかうまくいかないことも多かったんです。
そういう意味でも、ドラマトゥルグはその役割として指示していただけるので、例えばアイデアがどっちのものとかそういったトラブルが起きにくい。稽古を見ていただくとわかると思うんですけど、歩さんが作・演出みたいになる瞬間もあります。でも歩さんはドラマトゥルグなのでそれでいいんです。
実情は、だいたい僕が叱られています。特に初演の時なんてめちゃめちゃ叱られましたよ。殺されるかと思った。
それでもやっていけるのは僕と歩さんの人間関係があってのことなので、他の方にドラマトゥルグをお願いするのは現状難しいとも思います。そういう意味でも、とても良い形で、多くのことを教わりながら作ることができています。
ー 納谷さんにとっても、ドラマトゥルグという役割がいた方が作品作りにとって良い影響があるということですね。納谷さんと歩さんの関係は、2018年『ゴドーを待ちながら』の頃から始まったものかと思います。お互いにどんな影響を与え合っているのでしょうか。
納谷 僕が歩さんに与える影響はあまりないかもしれません。あるとすれば、多くの観客に観てもらえた方が良いんじゃないかという視点は、少し強くなったのかもしれないですね。
作品についてはやっぱり僕が叱られることが多いです。でも、歩さんは押し付けはしない。この前の『農業少女』でも、稽古を見にきていただいたとき、叱られかけたけど、最終的には「お前がやりたいことをやればいい」とグッと堪えていただきました。僕の考えと歩さんの考えも違います。でも、歩さんは理性と感性がうまくバランスとれているので、「俺は嫌いだけど、納谷がそうしたいならそうすればいい」と言ってくださいます。
そういった親分とのやり取りの中で、僕自身もやりたいことが浮き彫りになり、研ぎ澄ませることができます。意見が違っても嫌な空気にならず、本心から「やりたいことをやればいい」と言ってくださる方は、あまりいないですね。尊敬もできるし、頼れるし、色々言われるのは怖いですけど、それくらいの方が僕は良いのかなって思います。
演技至上主義として
ー TGR2021で上演して以来、約1年ぶりの再演となります。前回も観た方のために、前回と変えているところなどがあれば教えてください。
納谷 僕らの劇団は「エンターテイメントとして大勢の人に観ていただきたい」という思いが根幹にあり、とにかく沢山の人に、と頑張ります。プロデューサーも、みなさんどんどんチケット売ってくださいとプレッシャーをかけてくれて、それは団体として必要なことだと思います。札幌はそういうことにムキになる劇団も少ないですし。
ただ今回は、1年ちょっと前にやったものの再演なので、なかなか手売りが難しいんですよ。ましてや、前回は3,500円だったのが、今回は4,000円です。観に来てくださいと伝えても、「あれ、これ去年もやっていなかった?しかも値上がりしたの?」と。これは結構ツラいところで…。
基本的に、大きく演出や構造を変えたりはしません。キャスティングも一緒です。その分、演技をブラッシュアップさせます!演技をどこまで深められるか。前回は劇団員の菊池颯平が俳優賞を受賞しているので、そのハードルをどのように越えていくか。俳優賞を取ったんだから、その責任はあるわけですよ。「さすが俳優賞だ」「前回よりも良くなっている」と思ってもらうことが、TGRの俳優賞の権威を上げることにもなりますし。だからそこは追い込んでいますよ。
演技の深度を高める。一度上演して、もう出来上がっているものを深く掘るというのは、能力や才能の問題ではなく、単純に作業として、なかなかしんどいものがあります。だからこそ勝負だと思っています。
そこが、札幌でプロの俳優が芽生えていくかの瀬戸際です。演劇シーズンで再演という機会に、若者たちがどこまでストイックに進化していけるのか。
チケットを売るのは大変ですけど、やっぱり勝負は演技だなと思います。僕らは「演技至上主義」ですから。
ー 最後に、今後のELEVEN NINESの活動の展望を教えてください。
納谷 もちろんまだ公開できない情報もありますが、このあとは夏に『ひかりごけ』のツアーを控えています。また、今年は若者たちだけで何かできないかというのと、さらには僕の新作を上演したいと思っています。僕の私演劇で、タイトルは『オトン、死ス』です!(予定)
あとは、劇団員がそれぞれ俳優として色々な活動を控えているので、ぜひ観に来ていただけると嬉しいです!
ELEVEN NINES『ひかりごけ』
2023年1月28日〜2月4日 シアターZOO
「あなただったら食べますか?」
「食べるかもしれません。生きるために。」
生きることの意味を問いかける衝撃作を、札幌演劇シーズン参加作品としてオリジナルキャストで再演!
ELEVEN NINES
電話 011-252-9473/090-2814-8575(制作)
メール eleven9tatt@gmail.com