濡れそぼつけど、最後に愛は勝つ?|信山プロデュース『堀が濡れそぼつ』に聞く

タイトルの『堀が濡れそぼつ』のとおり、人間関係や理不尽な運命によって、僕がどんどん濡れそぼって、ずぶ濡れになっていくお話です。

信山E紘希さんが面白いと思った既成作品を上演する演劇ユニット「信山プロデュース」。コロナ禍で2年半ほどのお休みを経て、2022年11月16日〜21日に待望の公演を行います。

今回の作品は、櫻井智也(MCR)さんの『堀が濡れそぼつ』。主演を演じるのは、札幌を代表する俳優であり、信山プロデュース皆勤賞の遠藤洋平さんです。

信山さんが「面白くならないわけがない」と自信たっぷりに語る今作の魅力を知るために、出演の遠藤洋平さん、山下愛生さん、信山さんの3名にお話を伺いました。

濡れそぼって、ずぶ濡れになる

写真撮影:珠生実紅(@tamaki_miku39)

ー 通し稽古を拝見しましたが、皆さんなかなか大変な役どころですね。特に山下さんは、これまでやったことがないような役なのではないでしょうか。

山下愛生さん(以下、山下) そうですね。私は遠藤さん演じる「堀」の妻役なのですが、最初のシーンから、普段言うのが小っ恥ずかしい言葉(性的な単語)のオンパレードです。最初台本を読んだときは自分がどの役を演じるかは知らなかったのですが、この役はおそらくないだろうと思ったくらい、挑戦したことがない役どころです。

これを自分が演じるとなったときに、何をどう踏ん切りをつければいいんだろうと……(笑)。任せてもらえるのはとても嬉しいですし、やってやるぞという気持ちでいます!

ー 遠藤さんと夫婦の役ということもあり、二人の間に信頼関係がないと稽古も難しいですよね。お二人はこれまで共演経験はあるんですか?

遠藤洋平さん(以下、遠藤) 実は今回が初めましてなんです。

山下 いつも引っ張っていただいています…。最初はすごいどきどきしました。

ー そうなんですね、初めてとは思えないほど、最初のシーンから夫婦の距離感を感じました。

遠藤 それはよかったです!

山下 嬉しいです。

ー 遠藤さんは信山プロデュース皆勤賞ですが、今回の脚本はどう読まれましたか。

遠藤 今回は「堀」という役で、主演を努めさせていただきますが、最初に脚本を読んだときは、俺よりも周りの人がとにかく大変そうだなって思いました。特に山下さんは妻役なのですが、大変な役ですよ。男同士でふざけあって出るくらいの、品の無いワードがぽんぽん出てくるもんね。

山下 そうですね。でもやっていくうちに気にならなくなりました。最初はどうやって言おうかな…と思っていましたが、その場で起きている会話に必死で、それどころじゃなかった。恥ずかしがっている余裕はなかったです。

遠藤 タイトルの『堀が濡れそぼつ』のとおり、人間関係や理不尽な運命によって、僕がどんどん濡れそぼって、ずぶ濡れになっていくお話です。 僕がどういう状態になっているか追っていくことで、舞台の降水量がわかってくると思います。

山下 でも、愛についてのお話でもあるんです。

遠藤 そう、「必ず最後に愛は勝つ」じゃないですけど、すごいロマンチックな脚本ですよ。

ー 設定が面白い脚本ですので、俳優がそこにどう食らいついていくか、シュールやダークな世界観に耐えうる演技が求められる、難しい作品だと感じました。

山下 振り切れるシーンがないんですよね。常に気持ちがぎりぎりというか、楽しいとしんどいの中間で、溢れるでも溢れないでもない心の状態を作っていく、このバランスが難しいですね。 振り切ってしまったらその途端に面白く無くなってしまう。

遠藤 状況を受け入れている部分と、それに抗う部分と、両方持っていないとできないですよね。

信山プロデュースのねらい

写真撮影:珠生実紅(@tamaki_miku39)

ー 今回は、プロデューサーの信山さんは出演だけでなく、演出もされています。信山演出はいかがですか?

遠藤 実は信山プロデュースとしては、第1回公演『桃の実』でも信山さんが演出しているんです。…でもあれと今回とはまた違うか。

信山E紘希さん(以下、信山) 違いますね。今回はキャスト14人で、過去一番の大所帯ですしね。

遠藤 信山演出は、思っていた以上に柔らかいですね。伝え方も、スタンスも、すごく柔らかいです。

山下 私は今回初めてご一緒するんですけれど、萎縮しちゃうような空気感を作らずにいてくださる演出家さんです。「ここまでやらなくちゃいけない」じゃなくて、「もっとこうしたいな」という気持ちで稽古に臨める空気を稽古場に作ってくださいます。

信山 もともとそんなにビシバシ演出をつけていくつもりはなかったんです。とても優秀な俳優を揃える役目はプロデューサーとしての信山が果たしたので、そこまで僕がガツガツいかなくても、良いものを作ってくださるだろうという信頼感があります。

あとは、昨年僕がプロデュースしたクラアク芸術堂『あゆみ』のときに、鎌塚慎平という演出家がとても柔らかい雰囲気で作っていたのを見て色々気づくものがあり、それを今回実践できているのかなと思います。

ー 信山プロデュース5回目の公演となりますが、いつものように「※5(第5回公演)」とせずに「kinkiyou公演」と銘打っているのはどういった理由があるのでしょうか。

信山 いつもの信山プロデュースは、だいたい1年半くらい前に遠藤洋平にオファーするところから企画が動きます。ただ今回は、彼に声をかけたのは半年前なんです。これは大変だ、急がなければいけない、緊急公演だと思ったんです。

でも、「緊急公演」と漢字で書くと禍々しいじゃないですか。何があったんだ、もう終わるのか信山と思われてしまうかもしれない。

僕はKinKi Kidsが好きなんですけれど、2008年頃、彼らが最近コンサートやっていないからといって「KinKi you コンサート。」と銘打って開いたんです。そこから拝借することにしました。

半年前にもかかわらず、よくこんな素晴らしい俳優たちが揃ってくださったと思います。本当運良くといいますか、他の劇団が信山プロデュースのために残しておいてくれたんだなと思いました。

遠藤 信山プロデューサーは動きが早いし、持ってくる脚本がそれはそれは面白いので、安心してオファーを受けました!

ー 『堀が濡れそぼつ』は、※2『櫻井さん』ぶりの櫻井智也(MCR)さんの脚本です。この脚本を選んだ理由を教えてください。

信山 僕は10年以内に上演したいと思っている脚本リストを作っていて、その中の1つでした。

実は、当初は戦争を題材とした作品を上演しようとしていたのですが、2月にロシアがウクライナに侵攻したことを受け、考え直しました。違う作品で、カタリナスタジオでできる作品はなんだろうと考えたときに、『堀が濡れそぼつ』だなと思いました。

そもそも、この本と出会ったのは、※2『櫻井さん』(2018年、ことにパトス)の上演時に遡ります。そのときの後説で、「東京で本家MCRが『堀が濡れそぼつ』という作品を上演するので、皆さん見に行ってください」と紹介したので、タイトルはその時から知っていました。ただ、その初演は僕がちょうど海外旅行に行っていたので、観にいけませんでした。

それからコロナ禍になり、YouTubeで配信公演があったため作品を観ることができ「これは面白いぞ」と!

初演の主演を演じられた堀靖明さんは、全演劇界の中で世界一のツッコミができる俳優なんです。という風に、おがわじゅんやさんという俳優が言ったら、堀さんが「いやシェイクスピアの時代にツッコミいねぇよ!」とツッコんだんです。もうこれで間違いないぞ!と。世界一のツッコミであることをその場で証明してしまったんです。

遠藤 血統書付きの(笑)

信山 そんな素晴らしい方が濡れそぼっている作品を、遠藤くんならできるだろうと思い、上演に踏み切りました。

ー 信山プロデュースとしての今後の展望・野望があれば教えてください。

信山 せっかくカタリナスタジオがあるので、ここでやるからこそできる作品にもっと挑戦したいですね。札幌の中心部にあり、60人くらいのキャパのこの場所を活かしてやりたいです。今回断念した戦争を題材にした作品にもいつか挑戦したいと思っています。

ー 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

遠藤 今、札幌ではTGRという賞レースをやっています!この作品はエントリーはしてませんが、もしエントリーしてたら大賞を取れるようなクオリティの作品をと、オファーを受けた時からずっと考えておりました。もちろん俳優賞も!

素敵な脚本と素敵な嫁と座組に恥じない主演ができたらなと思います!皆さんも会場で一緒に濡れそぼちましょうー!

山下 私は堀家の妻を演じますが、他の出演者の方も本当に素敵で、全体的にカラフルな作品になっています。闘い方が人それぞれ違うのがとても面白いですし、見ていて勉強になります。ぜひ観に来てほしいです!

信山 スタッフ陣はいつも一緒にやってくれる人をそろえて、盤石の体制となっています。その上で、俳優陣がこの14人で間違いない作品になっています。もし面白くなかったら演出の僕のせいです。もちろん、面白かったら皆さんのおかげです。

写真撮影:珠生実紅(@tamaki_miku39)
通し稽古を見て

濡れそぼつ「堀」役を演じるのは、信山プロデューサーが愛してやまない俳優・遠藤洋平さん。

ほぼ全てのシーンに登場し、妻との関係や、昔の恋愛、宗教、職場内トラブルによってどんどん追い込まれていきます。とてもかわいそうなのに何だか笑えてしまう。堕ちていく様が面白い。遠藤さんの俳優としての大きな魅力の一つです。

インタビューでもお話いただいたとおり、失礼で、非常識で、倫理観がめちゃめちゃな人間が沢山出てくるからこそ、どれだけ俳優がそこに正当性を作ることができるかが求められる作品です。シュールな設定にシュールな人間が出てきてしまっては、観ている方は「シュール」を感じられない。明確な黒幕がいるわけじゃないのに、結果として「理不尽な状況になってしまう」を作る難しさ。全14名の芸達者で素晴らしい俳優の演技にも注目です。

演劇は体験です。お芝居の中身はもちろんですが、椅子が柔らかく、アクセスも良いカタリナスタジオというだけで期待感が高まります。本番は11月16〜21日。ぜひ劇場でご覧くださいませ。

信山プロデュース『堀が濡れそぼつ』

2022年11月16〜21日 カタリナスタジオ

「オナニーばっかりしてると、ファンキーな子供が生まれてきちゃうってことなの」

札幌を代表する俳優、遠藤洋平がことごとく濡れそぼつお芝居です。既成の名作戯曲を上演する信山プロデュースの次なる挑戦を見逃すな!

お問い合わせ

clark.nobuyamap@gmail.com

090-2974ー4752