余市の海風を感じる優しい物語|Stokes/Park『フゴッペ洞窟の翼をもつ人』

自分の納得のいく形で上演したいという気持ちがあり、タイミングをうかがっていました。大切な題材だったため、ここまで温めてきました。

白鳥雄介さん率いる劇団「Stokes/Park(ストークスパーク)」が、北海道余市町を舞台にした演劇『フゴッペ洞窟の翼をもつ人』を札幌で上演します。

余市町に実在する「フゴッペ洞窟」は、続縄文時代の岩面刻画が描かれており、歴史的にも非常に価値のある遺跡なのですが、その存在はあまり知られていません。なぜ白鳥さんはそんな洞窟を題材に作品を描こうと思ったのでしょうか。

今回、札幌から上京した白鳥さんによる満を持しての地元公演ということで、作品の魅力とその意気込みをインタビュー。出演される4名の俳優にもお話をうかがいました。

混沌とした、渦巻くエネルギー

撮影:金子裕美

ー 「フゴッペ洞窟」は北海道余市町に実在する洞窟ということですが、これを題材に選んだ理由は何ですか。

白鳥雄介さん(以下、白鳥) 初めて洞窟に訪れたのは、大学生のときでした。当時は社会科の教員を目指していたため、社会教育施設に興味があり、プライベートで立ち寄りました。

初めて入った時の、洞窟に渦巻く「気」がすごかったんです。刻画が本当に話しかけてくるんじゃないかという圧力を感じました。「一体なんだここは…!?」という驚きが忘れられず、その後も何度も足を運びました。洞窟の中に入ると、そのたびに何度もぞわぞわっとして。1500年前の人たちが、何かを伝えようと岩壁を削っていたこと自体、とてもドラマチックに感じました。

自分の劇作においても、ずっと北海道を舞台にした作品を描きたいという思いがあったため、題材として選ぶならフゴッペ洞窟だなと前々から考えていました。

ー 初めて洞窟と出会ってから10年以上経つんですね。いまこのタイミングで作品にしたのには何か理由があったんですか。

白鳥 舞台セットにこだわりたくて、資金面においても自分の納得のいく形で上演したいという気持ちがあり、タイミングをうかがっていました。大切な題材だったため、ここまで温めてきました。

ー 出演する俳優の皆さんは、実際にフゴッペ洞窟に行かれましたか。

川合諒さん(以下、川合) はい。ヨシパという役を演じるにあたり、実際に洞窟にいかないとなかなか実感が湧かなくて。台本を読んでいるだけじゃなく、ヨシパがどんなところで生活していたかを具体的に知る必要があると思いました。

洞窟に入ったら、白鳥さんの言うように、今まで感じたことのない独特な雰囲気がありましたね。パワースポットみたいな、強いエネルギーを感じました。そこに本当に人が生きていたんだってことがわかる、といっても賑やかなエネルギーではなく、何だか混沌とした、渦巻くものを感じました。

楽しそうに描いた絵もあれば、後世に伝えたいという強い思いを感じられる絵もあったり、色々な感情になりましたね。刻画が描かれた具体的な理由は明確に解ってはいないみたいなんですけれどね。

白鳥 現代的な建築物ではなく、何百年、何千年ものあいだ人が生活していた可能性のある場所なので、まとまりがない場所なんですよね。だいたい1500年くらい前と言われていますが、言われているだけで、作者も時代もバラバラだと思います。

撮影:金子裕美

ー そんな謎に満ちたフゴッペ洞窟を題材に脚本を書くにあたって、リサーチが大変だったのではないでしょうか。

白鳥 最初は調べなきゃという思いが強く、図録を貸していただいたり現地に足を運んで学芸員さんからお話を聞いたりと色々やってみたのですが、今回縄文太鼓を演奏していただく茂呂剛伸さんから「縄文時代は想像の余地が沢山ありますよ。一人一説あっていいんですよ」とお話いただいてから、考え方が少し変わりました。

その言葉をきっかけに、楽しく書いていけるようになりました。史実はもちろん大切にするけれど、フィクションを入れ込めるスペースを見つけた気がして、筆が軽くなりました。

ー 今回は縄文太鼓の演奏も演出に取り入れられているんですね。他に縄文を感じさせる演出はあるのでしょうか。

白鳥 縄文太鼓や舞台美術はもちろん、衣装と小道具にもかなりこだわっています。小道具作りは小道具さんがかなり苦戦してましたね。当時の紋様を再現するのが難しかったそうです。

また、アイヌやオホーツク文化の鳥信仰から着想を得て、「翼をもつ人」の翼も木の枝などで作成してもらいました。そういった意味でも目で楽しめる舞台になっていると思います。

縄文太鼓は内田さんもお気に入りですよね。

内田めぐみさん(以下、内田) 本当に、本当に素敵です!!!!

川合 僕は東京公演を観客として見ていますが、お芝居もあって生演奏もあってと考えると、すごいお得だなって思いました。縄文太鼓のファンになったので、CD買って帰りました。

内田 稽古の合間に少し触らせていただいたんですけれど、全然同じ音が出ないんですね。

田中達也さん(以下、田中) 湿度の影響で皮の伸び縮みがあると音色に大きく関係するみたいで、毎日細かく調律されていました。

山科連太郎さん(以下、山科) 実際の縄文土器の焼き方で土器を焼いて、そこに鹿など動物の皮をなめして張って、と茂呂さんがご自身で作られている楽器なんです。

ー 2022年7月に東京公演が行われましたが、お客さんの反応はいかがでしたか。

白鳥 色々なご意見をいただきましたね。演劇の先輩方からもご意見をいただいて、札幌公演に向けてさらに良い舞台にしようとさまざまな変更を加えました。より洞窟の持っている混沌さを表せていると思います。

嬉しかった感想としては、「実際にフゴッペ洞窟に行ってみたい」という声が多かったことですね。お芝居をきっかけに、北海道に体験しに行ってもらいたい。劇場だけで完結させずに次の体験のきっかけを作ることを大切にしています。

その取り組みの一つとして、余市町の特産品を劇場で販売する「よいちマルシェ」を開催します。

余市町の観光協会さんにお願いして、余市町でしか買えない物品を特別にBLOCHで販売します。僕自身が食べて、心から美味しいと思ったものだけを厳選しました。余市町の魅力を感じていただけるようなものを取り揃えています。

りんごやニシンの加工品、ウイスキー・ブランデー・アップルワインが入ったチョコレート、アンコウの干物など、全部めっちゃ美味しいです!よいちマルシェで買っていただくと、劇のアフターストーリーとしてちょっとした短編作品もお渡しします。お芝居を見た後にお土産として買っていただければ嬉しいです。あ、あと劇団Tシャツもあります!(笑)

東京と札幌、演劇シーンの違い

稽古の様子

ー ご自身の劇団としては、初めての札幌公演となりますね。やはり前々から札幌で公演したいという思いはあったのでしょうか。

白鳥 そうですね、やっぱり地元の人に見てもらいたいです。自分でもとても気に入っている作品なので、さらにパワーアップさせて、目指せ余市公演という気持ちで取り組んでいます。

フゴッペ洞窟は、北海道の方でもあまり知られていない場所だと思います。北海道独自の時代区分で、確かにそこに人が生きていたということに興味を持っていただいて、僕が愛してやまない余市町に足を運んでいただけたら嬉しいです。

ー 白鳥さんは、札幌と東京どちらの演劇シーンも経験してこられました。両者の一番の違いは何だと感じていますか。

白鳥 そうですね……商業舞台があるかどうかっていうのはやはり大きいと思います。演劇をお仕事にしていくということが、東京では想像しやすいです。

給料も青天井です。東京は上がっていきやすい場所だと思います。

いまの夢は、東京芸術劇場のシアターイーストで公演を打つことです!どんどん規模を大きくしていきたいですね。

山科 ある程度長く活動すると、札幌の演劇界隈の人はみんな知り合いみたいになるし、「今度◯◯の劇団で、誰々がこんな芝居する」っていうと話が通じる。お互いを知っているのが強み!それがすごい札幌の良さで、札幌演劇の面白いところだと思います。

東京はショービジネスのお芝居が沢山あります。お互いが常に競い合っている環境があります。

白鳥 東京は競争社会が強い土地柄なんでしょうね。でも、東京でやればやるほど札幌の人ってめっちゃ上手いんだなっって感じます。

山科 別のお仕事を持って、制約のある中で稽古しているっていうのもあるのかもしれないですね。演劇が本当に好きな人たちが集まっているんだなって思います。

ー ありがとうございます。では最後にこの記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

川合 僕自身、東京公演を見てすごく救われました。僕はくよくよしやすい性格なんですけれど、そういう負の感情が浄化された気分になる作品ですので、ぜひ見ていただけたらと思います。

田中 フゴッペ洞窟という空間が劇場に現れます。この芝居を見て、劇場の外に出た時に、一つ明るい気持ちを持って前に進むことができるような作品になっています。楽しんでいただけたら嬉しいです。

白鳥 余市町の現在と昔の洞窟の周りにあった、僕が肌で感じたあの風を、空気を、優しくなびく海風を感じていただけるような、優しい物語となっております。配信公演もありますので、ぜひご覧ください!

内田 東京公演を経て、どんどんパワーアップしています。絶対面白くなるなと感じているので、本当にたくさんの人に見てほしいです。劇場公演はお席が残り少なくなっていますが、配信でもお楽しみいただけます。

山科 札幌の皆さん、覚えておられますでしょうか、山科です。過去と現在が交差するお話ですが、家族の在り方など根底に変わらないものが感じられる、見応えのある作品になっています。北海道の良さも詰まっています。劇場で、配信で、ぜひお楽しみください。

Stokes/Park『フゴッペ洞窟の翼をもつ人』

その洞窟の壁には、びっしりと「刻画(こくが)」が描かれていた。
人、舟、4本足の動物・・・壁という壁に。およそ見えるところ全てに。
北海道余市(よいち)町に実在する「フゴッペ洞窟」、日本で続縄文時代の岩面刻画が描かれた洞窟は、隣町小樽にある洞窟のほかには、ここだけ。
そこで一際目を引いたのが「翼の生えた人」の刻画。
そこにはあった。人間が伝えようとするエネルギーが。「翼の生えた人」を描いた誰かのエネルギーが。
飛べる・・・きっと飛べる・・・
語りかけてくる刻画たちと暗闇から飛び立とうとする男の子の話。

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090-5951-9639(制作)
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