熟成した人間から出てくる味わいを|ぷらすのと☆えれき『沼部、陸へ上がる』

ラボチによるお持ち込み記事です

札幌の演劇ユニット・のと☆えれきが実力派俳優の胸を借りる公演企画「ぷらすのと☆えれき」。第2弾となる『沼部、陸へ上がる』の札幌公演がまもなく開幕します。

昨年の東京公演の中止から1年ぶりに稽古で再会したのと☆えれきとのお二人と、大阪から参加する野村有志さんに話を聞きました。

しばらくぶりっていう感じがしない

能登英輔 野村君がどう思ってるかわからないですけど、めちゃめちゃやりやすいです。勝手にとても仲良くやらせてもらってます。本当は怒ってたらごめんね(笑)。

小林エレキ だいぶ合わせてくれてたりして。

能登 帰ってめっちゃ枕殴ってたり(笑)。しばらくぶりっていう感じがしないくらい、話が合うっていうか息が合うっていうか。楽しくやらせてもらってます。

野村有志 ホンマですか?エレキさんもですか?

エレキ 舞台上でもそうですね。

能登 野村くんはそう思ってないっていうこと?

野村 いやだから…。

エレキ そこで言い淀んだらだめですよ。

野村 そんなことよりさ、

能登 そんなことよりさはよくない(笑)。

野村 もうちょっと中に入れたりするといいなとは思いながらも。二人がそう思って下さってるんだったら僕の思い過ごしというか、勘違いかもしれない。

ー どの辺りで中に入れてないと感じているんですか?

野村 まだ台本を見てる時間があって物語というか景色があまり見えてないからかもしれないですけど、アイコンタクトができてない。自分のセリフの時は台本を見ていて、自分のセリフじゃない時に2人が喋ってるのを見すぎているのかもしれない。

能登 お芝居初心者みたい(笑)。

野村 だから距離の詰め方みたいなものもまだ探り探りですけど、この二人とできるのは嬉しいです。前作(『我が生涯、痛恨のダ・カーポ』2020年)と同じく距離感が大事な3人の作品で、前回と違うのは登場人物が一人多い。

能登 台本読んだ時ちょっとびっくりしました。

エレキ 3人芝居でオーダーしたはずなのに。

野村 第三者が入ってきた時の距離感がまた違うんだろうなと思いながら。

能登 基本は高校の時の同級生だけど、そんなに同級生感を出さなきゃとは思わないですね。

野村 それは前作のおかげなのか。

能登 スッと入っていけたなとは思います。

くすんでるあなた達に贈る

今作「沼部、陸へ上がる」は、飛ぶ劇場の泊篤志さん書き下ろしによる新作です。

ストーリー

水生生物の採取観察を趣味にする男3人のグループ「沼部」が、偶然新種のイモリを発見してしまったことで、あっという間に地域のちょっとした人気者になっていく。しかし、ある事件をきっかけに沼部は解体。それから12年、沼部のことを取材したいという男が現れ振り返るうちに事件の真実が炙り出されていく。

ー それぞれどのような役なのか教えてください。

野村 沼部のリーダーの赤星っていう役ですけど。真っ直ぐというか余計なものを見ずに行きすぎた結果、フリーターになっていたり。自分の夢や好きなところ以外何も見ていないっていう真っ直ぐさがあるのを表現できたらいいなと思いつつ、「ダ・カーポ」に寄せない感じでやりたいです。

能登 のめり込むタイプの人だよね。

野村 この人が真っ直ぐ走っていかないと、お話が成立しないだろうから。真っ直ぐ感が必要な役なんじゃないかなと思っています。

能登 リーダーですからね。僕は小沢っていう役ですけど、お調子者で流されやすい感じの人かなと思います。多分、沼部に対しても、身近に熱い赤星ってやつがいて、やるかやるかって乗っかっていく感じ。ちょっと軽い感じの人ですね、そこまで深く考えてない。

野村 逆にエレキさんの役はしっかり、生き方に芯がある。

エレキ 俺は海内って役なんだけど、自分に自信がないからしっかりしたところから離れられないっていう弱さ、その分、人一倍情念は強いっていうか、煩悩が強い男です。

能登 一歩踏み出す勇気はないけど、その分うちにこもった何かがある。

エレキ そうですね、どうしようもないやつですね。基本3人ともどうしようもない。

能登 その辺は「ダ・カーポ」と共通している。

エレキ この3人を素材にして何か物語を作ってくださいっていうと、どうしようもないやつになる。

能登 うだつの上がらない30代、40代みたいなのが。

エレキ ピタッとはまるんでしょうね。

ー どうしようもない人たちに共感できるところってあるんですか?

野村 沼部を演劇に置き換えたりすると…。

能登 分かる分かる、みたいなところはありますね。

野村 悲しくなってきます(笑)。

能登 大きな夢みたいなのがありつつ、そこに縋りたい気持ちとか少し日の目を浴びて嬉しいとかそういうのとかは結構あります。

野村 見ている人からすると、うねりのある事件は起こらないかもしれないけれど、心の機微的なものは見えてくる。

能登 なんてことない日常の中における普段の俺達の気持ちの変化。

野村 こういう3人の方が圧倒的に多いでしょうしね。キラキラしている人よりは。同世代に届けたい、男女問わず。

エレキ くすんだ人々(笑)。

能登 くすんでるあなた達に贈る(笑)。宣伝しづらい(笑)。

野村 狭間を感じるといいなと思いますね。

エレキ 40代は役者に限らずだと思うんですけど、社会的にも狭間ですよね。老人と若者の狭間に揺れる。

能登 傍から見てたらキラキラして生きてる人でも、当人は平凡な人生だなって思ってることが割とあったりすると思うので。幸せそうだなーって傍から思ってても、平凡な人生でっていう人の方が多いと思う。

野村  ほんとそうだと思います。

能登 そういう人たちの中にも普段いろいろなドラマが実は隠されている、そういうところが垣間見えたらいいなって思います。

芳香な香りがする物語

ぷらすのと☆えれきは、2019年ののと☆えれき『私の名前は、山田タロス。』大阪公演を観劇した野村さんが「のと☆えれきに入りたい」とツイートしたことから企画が始まりました。

翌年すぐに『我が生涯、痛恨のダ・カーポ』を札幌と大阪で上演。コロナ禍で東京公演は中止となり、リベンジを試みた翌年も再び中止に。今回、新たな作品で札幌・大阪・東京の三都市ツアーに挑みます。

野村 大阪で見た時にすごい二人がいるなぁと思って。ご一緒できたらいいなぁっていう、実現しないであろうファンみたいな気持ちで呟いて、いつのまにかご一緒にするようになって。

何回目かよく分からないくらいご一緒させて頂いてる気がしますが、慣れることなく素晴らしい二人とご一緒できるのは幸せだなぁと思いますので、今回も邪魔にならないように出来ればなと。こんな凄い人たちがいるんだよ、っていうことを僕がいることで、大阪で一人でも多くの人に知らしめられたら。

能登 ぶぶ漬けメソッド出してきた。

エレキ 野村さん京都の出身なのでね。

能登 褒め言葉には裏がある。

野村 本当に本心からです。

ー のと☆えれきのことすごく褒めますよね。

野村 むちゃくちゃすごいですから。

エレキ 京都の人ですから(笑)。

野村 もう何言ってもあかんやん。

エレキ 野村さんが気まぐれにツイートしてしまったばっかりに。

能登 何日か後くらい?すぐだったでしょう?

野村 体感ではその日の夜ぐらい感じです。

ー 野村さんのツイートを見て打ち上げで盛り上がりましたね。

能登 打ち上げの席で周りの大阪の方々が、「野村さんがこんなこと言ってる!」って盛り上がってて、我々はまだ野村さんのことを知らないときに。

野村 それから中止も含めたら3年、ありがたいです。

エレキ 野村さんがどんどんお忙しくなっていく中で時間作っていただいて。

野村 何をおっしゃいますか。

能登 今、映画に舞台に大忙しでしょう

野村 そんなことないですけど。「さようなら」がボリビアの黒猫国際映画祭に入選したんですよ。

エレキ おめでとうございます!

野村 ボリビアも黒猫映画祭も知らないですけど(笑)。これから忙しくなっていくとしてもまたご一緒できたらと思っています。

能登 本当ですか?

野村 ほんとに。

エレキ 言質取りましたよ!

能登 今回、やっぱり無理ですわって言われるんじゃないかと思って。

エレキ 190cmの役者、他にいるかなーって。

野村 190cmもないし!またご一緒できるように、この作品が評価されるよう、評価が全てじゃないですけど、納得できる作品にできればと思います。

ー 最後に一言ずつお願いします。

能登 今まで何度もコロナによって東京公演がストップをかけられるっていう状態だったので、今回こそは東京のお客様にお届けできたらいいなと思っておりますけど。最初にも言いましたけど、野村くんとは勝手に仲良くさせてもらってので、いい力の合わせ方で、いいもの、いい舞台にしていきたいなと思ってます。

エレキ 三都市ツアーと銘打ってますけど、とりあえず目先のことしか考えられないので、まずは札幌。舞台というのはすべからくお客様あって完成するのだと思っております。お席は芳醇に用意しておりますので。芳醇?

能登 潤沢。

エレキ 芳醇な香りのする客席が潤沢にございますので、是非とも劇場に足をお運びいただけたらと思います。

野村 とりあえず札幌で良い作品にできればなと思っていますし、お席の方も芳醇な香りが。スモーキーな、でもワインのような何年かちゃんと熟成した人間から出てくる味わいがないと成立しないような作品ですので、お席はたくさんあって芳醇な香りのする物語になっておりますので是非お越しください


今回は、札幌市の文化芸術創造活動支援事業として公益財団法人北海道演劇財団が行っている「質でゆとりのある作品創造のための稽古場支援事業」に採択され、劇場入り前の9日間、舞台の実寸がとれるスペースで稽古を行っています。腰を据えて集中した稽古が連日展開されています。

ぷらすのと☆えれき『沼部、陸へ上がる』は、11月3日よりシアターZOOにて。12月には大阪、東京で上演です。

ぷらすのと☆えれき『沼部、陸へ上がる』

水生生物の採取観察を趣味にしている男3人。グループ名は「沼部」。偶然新種のイモリを発見してしまったことからテレビに出演したり地域のちょっとした人気者に。それから10年、40代になった彼らのもとに、当時を取材したいという男が現れる。仲間、恋、嫉妬、その男の取材で当時を振り返るうち、過去の事件が炙り出されてくる。10年前、何が起こったのか起こらなかったのか。両生類はなぜ陸地を目指したのか…。