文化芸術のあれこれを気軽に話し合える場|文化芸術は誰のもの?「おかわり」がスタート

2022年8月31日、北海道の文化芸術支援を考える新しい学びの場 文化芸術は誰のもの?「おかわり」が開催されました。(札幌演劇シーズン実行委員会 × d-SAPの共催企画)

「おかわり」は、8月2日に開催の北海道シアターカウンシルプロジェクトのキックオフシンポジウム「文化芸術は誰のもの?」に参加した10代~30代の若者層を中心に、シンポジウムの時間だけでは語れなかった文化芸術のあれこれや、文化芸術に関する素朴な疑問やお悩み、文化政策や文化行政、文化振興に関する意見などを話し合う場です。

第1回は、お互いの関心やモヤモヤを共有する有意義なものとなりました。d-SAP編集長の佐久間も参加したため、当日の様子をご紹介します!

話し足りないから「おかわり」しましょう

「おわかり」がスタートするきっかけとなったのは、2022年8月2日に開催された、北海道シアターカウンシルプロジェクトのキックオフシンポジウム「文化芸術は誰のもの?」です。

北海道シアターカウンシルプロジェクト

2022年に新しく始まった、地域における文化芸術の支援体制のあり方を検討したり、次世代の文化芸術を担う人材を育成したりするプロジェクト。札幌演劇シーズン実行委員会らが主催する「JAPAN LIVE YELL project in HOKKAIDO 2022」のプログラムの一つ。

シンポジウム前半では2名の講師による基調講演が行われ、後半にはクローストークがありました。講演を聞いた感想や疑問に思ったことを、参加者同士、参加者と講師とで自由に意見交流をしました。

クローストークは活発に行われ、とても有意義な議論となったのですが、白熱しすぎて時間が足りなくなってしまいました。シンポジウム終了後のアンケートでも「クロストークの時間が短すぎた」 「もっと議論に時間をとるべき」等の意見が、特に若い参加者から多数寄せられました。

そこで生まれたのが「おかわり」です。「おかわり」はシンポジウムに参加した10代~30代の若者層と、幅広い年齢層で構成される「地域と舞台をつなぐクリエイティブ講座」受講生が参加し、北海道の文化芸術のいまとこれからを存分に語り合い、意見を交流する場として定期的に開催していく予定です。

高校生から60代まで、多様な背景を持つ方が参加

8月31日に開催された第1回目の「おかわり」には、高校生から60代まで14名が参加。初対面の方も多くいるため、自己紹介やアイスブレイク中心の会となりました。初めての試みということもあり、参加者も運営側も少し緊張気味です…。

当日は北海道演劇財団芸術監督の清水友陽さんがファシリテーターとなり、ワークショップ形式で進んでいきました。

当日の様子

参加者は文化芸術関係者だけでなく、教育やまちづくり関連の方まで、多様な背景を持つ方がいらっしゃいます。

シンポジウムへの参加も、「おかわり」への参加も、みなさんそれぞれ違った動機があります。まずはその「違い」をよく知ることが大切です。

自己紹介だけでなく、ペアとなった人へインタビューして、その人のことをみんなに紹介する「他己紹介」も行われました。お互いのことを知るにつれて、それぞれの関心ごとが見えてきます。

小グループに分かれてさらに深めます

自己紹介でお互いのことを(何となく)知ることができましたので、次は少し本題に近づきます。3〜4人の小グループに分かれ、「おかわり」で話し合いたいテーマについて意見交流を行いました。

実際に文化芸術活動を行う当事者なのか、文化芸術の周辺の仕事をしているのか、観客として文化芸術を楽しんでいるのか。その関わり方によっても、関心ごとや話したいことは異なります。自分とは違う考え方・関心を持っている人の話を聞くことで、自分の考えも少しずつクリアになっていきます。

意見交流は30分ほど活発におこなわれ、その結果、それぞれのグループから以下のような意見が発表されました。

  • 支援を受ける対象はどこまで広げるべきか。「アーティスト」とは誰のことか。プロを目指して活動している人と、趣味活動の一環として続けている人と、同じ支援で良いのだろうか。その線引きは引けるのだろうか。
  • 助成金・経費負担ではない支援はどんなことがあるだろうか。(劇団・劇場経営に関するコンサルティング、困ったことがあったときの相談窓口など?)
  • 文化芸術が経済的に自立していくためには新規の観客を育てていくことが重要。そのためには批評文化を育てていくことが大切。
  • 劇場費が高く、公演活動がなかなかできない問題をどうしたら良いか。
  • 俳優を育てるためにはどうしたら良いか。
  • 劇団四季の活動モデルを参考にできないか。
  • そもそも文化芸術とは何か。ぼんやりしすぎていて、人々の日々の暮らしに根付いていない?
  • 「役に立つ/役に立たない」論から抜け出さないと、文化芸術を語ることはできないのではないか。そもそも「役に立つ/役に立たない」論は、文化芸術が私たちの生活に根付いていないから出てくる議論ではないだろうか。文化芸術に携わるものとして、この現状をどのように考えていけば良いか。

お互いの意見を共有するところでタイムアップとなってしまいましたが、まずは第1回目、お互いのことを知れる良い時間となりました。

次回以降の「おかわり」は、これらのテーマをさらに深めていけるような話し合いを目指して開催される予定です!

参加者の意見

第1回目「おかわり」に参加した方からは、以下のような感想をいただきました(匿名で一部抜粋)。

ファシリテーターの清水さんを始め参加されている皆さんが発言しやすい空気感を作ってくださり、回数を重ねると話し合いがさらに活発になりそうでわくわくしました。

批評がないため、内輪褒めに終始してしまう札幌演劇界の構造について話したところ、同じグループの方からも賛同を得られたのは大きな収穫であった。

芸術版のミシュランがあったら、また、いろんな層の人々が、芸術鑑賞をするようになるのではないだろうか。

そもそも「芸術って?」「文化って?」という問いを、コロナ禍になって表現に関わる者はみんな問い返したと思います。公の支援政策、そのあり方についての多かれ少なかれ言葉にした。その時に、改めて言葉の定義や、社会の中での意味を考える必要があったと思う。それらを共有し洗練させる場がたりないと、私は思っていたところがありました。先日のシンポジウムでも取上げられていましたが、文化芸術基本法や、いわゆる劇場法を読み返すような作業は、もっとあっていい。

食物を栽培するように、地表の花や実を刈り取って、それを収穫物として喜ぶだけではいけない。(AFFなど、公的支援策の多くは、この収穫物を求めているだけなのかもしれない)。それを繰り返せば、やがて土は痩せ細る。人工的な肥料を入れなくては、作物も育たなくなる。地表も地中も、多様な生態系が維持されて、はじめてそこに何かが生まれる。科学や産業、経済も、その何かじゃないのだろうか。だから「文化」を土壌や地層とイメージする時、最も表層にあるのはエンターテイメントかもしれないけど、だからといって「不要」ではない。文化は、もっと動的なものとして捉えるべきなのかもしれない。

同業者同士の文句交換会にならないことだけ祈っています。

地域のニーズを考え、それに合わせて提供するものの内容を企画立てるのか?(興行重視)。良いと思っているものを、地域に送り込んでいくのか?(作品重視)。どこに価値を置くべきか、いつも葛藤する二つの視点がある。

私たちは何か問題設定をすると、たとえば、演劇を生活に根ざすために、あるいは演劇を継続するために「どうするべきか」を考えがちなのですが、おそらくこの方向性はあまりうまくいかないだろうと直感します。一般的に「どうするべきか」についての議論は、手がかりが少なくて深まらず、とおりいっぺんのものになりがちだからです。むしろ、現状は「どうなっているのか」について調べて共有したりするほうが筋がよいかと思いました。

可能なら、内容をレポートにしてアウトプットして、より多くのフィードバックを得られるようにする工夫も必要ではないだろうか。このような内容をわざわざ時間をとって集まって話し合う機会は貴重なため、参加者以外の人にも伝わる工夫がいっそう求められる。

様々な分野で活動されている方が集まっていたので、それぞれの分野からの視点での意見や考えは興味深く、とても刺激的でした。

いろいろな観点で芸術とは何か?といつも考えますが、すぐに答えが出ない、簡単に答えが出せないからこそ、芸術というのは魅力であり、色気があり、追求心や探究心が絶えない、人を虜にさせるものなのかな、と改めて感じました。

おかわりは前回のシンポジウム同様、私にとっては楽しいものではなかったと思います。むしろ考えなければいけない、と強く思いすぎるあまり、ワクワクするような未来を描いたり話したり出来なかったと感じています。

ただ、(大変おこがましいですが)このシンポジウムやおかわりに参加した人がたくさんいる、ということ自体が価値だと思っていて、私のように一つ一つ立ち止まり立ち戻りで考えてしまう人だけではなく、色々な考え方の人たちがこの課題について考えているというのがとても嬉しいです。

今後もゆっくりでもいいので続いていってほしいです。

いろいろな知見を持ったメンバーによるグループでの話し合いにより、新たに学んだことも多く、大変有意義な時間であった。特に日本の補助金助成の問題点や、ヨーロッパにおけるアーティストに対する支援の違い、また、演劇に対する一般的なイメージと、演劇当事者の演劇観では隔たりがあることもわかった。


文化芸術支援や文化政策について、それぞれの関心ごとを気軽に話し合える「おかわり」は、第2回、第3回と続いていきます。

一度にたくさん「おかわり」するとお腹いっぱいで苦しくなってしまうため、少しずつ、でも1杯1杯を大切に、意見交流を続けていきます。

第1回目にご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!次回もお楽しみに!

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sapporodsap@gmail.com(佐久間)