とても演劇的な作品になっています。できる限りシンプルにした演劇で、どこまで大きなことを描けるかということに挑戦しています。
福原充則、佐久間麻由、三土幸敏の3人からなる劇団「スリーピルバーグス」の旗揚げ公演が、札幌・中富良野にやってきます。
札幌公演の会場は、なんとあの東急百貨店の屋上! 俳優が演技をしながら音響や照明の操作をするという、どこででも上演できるポータブルな完全野外劇です。
劇団結成秘話や作品の魅力を探るべく、作・演出の福原さんと、俳優の三土さんにインタビュー。札幌公演に向けた期待を語っていただきました。
2002年、ピチチ5(クインテット)を旗揚げ、主宰と脚本・演出を務める。その傍ら、「ニッポンの河川」、「ベッド&メイキングス」など複数の演劇ユニットを立ち上げ、幅広い活動を展開、1000人規模の赤坂ACTシアターや野外劇場と、劇場の条件を問わず強烈な個性を発揮する。 2018年、『あたらしいエクスプロージョン』で第62回岸田國士戯曲賞を受賞。2019年のドラマ『あなたの番です』『あなたの番です-反撃編-』で第102回 ザテレビジョンドラマアカデミー賞脚本賞を受賞。最近作は2021年『ミュージルカル 衛生』(主演 古田新太/尾上右近)
92年、明治大学在学中より演劇活動を開始。在学中、サークル騒動舎同期メンバーと劇団「くねくねし」を旗揚げ、すべての公演に出演。解散後は、福原充則率いる「ピチチ5」の全作品に出演。もてない・さえないなど、ルーザーものの演技を得意とする。基本、眼鏡頼りの眼鏡役者。近年の舞台出演作に、『忘れてもらえないの歌』(主演:安田章大/関ジャニ∞)、『秘密の花園』(主演:柄本佑・寺島しのぶ)、『俺節』(主演:安田章大/関ジャニ∞)、など。
過去記事 気軽にどこでも大地をつかむ「ニッポンの河川」初の札幌公演
最初は映像の練習のために集まった
ー 福原さんは複数劇団を掛け持ちされていますが、今回新しく旗揚げする劇団「スリーピルバーグス」はどのような劇団なのでしょうか。
福原 僕はいま8個ぐらい劇団を掛け持ちしているんですけれど、他との一番大きな違いは、自分で始めたことですね。ほとんどの劇団が、誘われたら断らないって方針で、誰かに誘われて参加してきました。
誰にも言われずに自分でやろうと思って始めたのは、2002年の「ピチチ5」旗揚げ以来20年ぶりの2回目になります。
ー 福原さん、佐久間さん、三土さんの3人のユニットとして、最初は映像の練習のために集まったと伺いました。この3人が集まったのはどういう経緯だったのでしょう。
三土 最初に3人が出会ったのは、福原さんが講師として務めているENBUゼミナール(東京にある映画・演劇の専門学校)のお手伝いをしたときでした。それから少しずつ会うようになって。
福原 でも、当時は劇団をやろうと話していたわけではなかったです。僕が映像の練習をしたいことはいろんな役者さんに話していて、「面白いですね、いつかやってみたいです」と言ってくれる方は何人かいたんですけど、実際に「私やります」って言ってくれたのが、佐久間麻由さんでした。三土さんを誘ったのも佐久間さんでしたね。
ー 映像の練習は、どのようなことをされていたんですか。
福原 主に撮影の練習です。撮ってみたいシーンを2ページくらい書いてみて、実際にカメラで撮影してみる。僕は映画監督に憧れてこの世界に入ったんですが、撮影のときの指示の出し方がわからなかったので、練習したいなと。
演劇って、1ヶ月くらい練習して本番の日までにオッケーを出せれば良いですよね。でも映像は、1ヶ月撮影期間があったら、初日に撮ったシーンはその日にオッケー出さなくちゃいけない。その感覚に慣れたかったんです。その時間の使い方の違いが、舞台しかやっていない役者と映像もやっている役者の違いとして大きく現れていると思います。
俳優・野間口徹は舞台でも映像でも一緒にやったことがありますが、明らかにエンジンのかけ方が違ったんです。演劇では、もちろん稽古初日から全力でやるんですけれど、1ヶ月先を見据えていろいろ試しながら作っていく。でも映像は、1カット目から正解を出すつもりでやってくるんで、そのスイッチの入れ方は実際にやってみないとものにならないなと。
ー そうして撮影の練習が始まったんですね。3人で作品発表を行うとなったときに、どうして映像作品ではなく演劇を作ることになったのでしょうか。
三土 いつの間にか演劇にシフトしてたよね(笑)
福原 映像を練習するために集まっただけであって、映像作品を作るつもりは最初から無かったので。作品を作ろうと思った時に、自分たちで映像のための予算を組んで発表の機会を探すというのもなんか違うかなと思って。
だから慣れ親しんだ舞台でやろうという流れに自然になっていったんだと思います。
小さな生活のヒントになるような演劇
ー 旗揚げ公演『旅と渓谷』はどのような作品ですか。
福原 僕は楽しく観られるお芝居が好きなので、今回もそのつもりで作っています。でも、物語全体の底を流れるのは少し物悲しい雰囲気になっちゃいました。人の生死に関わる作品です。
プロットがしっかりとある「物語」ですが、モチーフとなっているのは僕の周りに実際に起こったことですね。
誰もが抱えている、誰にも言わない哀しみや問題との向き合い方を、旅を通して描いていきます。
ー 私小説に近い感じでしょうか。
福原 そうです。……でもこれだとなんか真面目すぎちゃって嫌ですね(笑)。ストレートに真面目に描くつもりはなくて、ニヤニヤ笑っていたら、観終わった後に自然とそういうことを感じ取っていただけるような作りです。
この芝居にかかわらず、僕は観る人の生活のお役に立ちたいっていつも思っています。作品でお客さんの人生を変えたいとかそんな大それたことは言えませんが、芝居を観終わったあとに小さな生活のヒントを受け取っていただけたら嬉しい。
チューブの中に余った歯磨き粉はこうしたら出しやすいとか、シャツの襟の汚れはこんな洗剤で落ちやすいとか、そんなレベルのやつです。知ってたらほんの少しだけ生活が楽になるかもしれない。
悲しい出来事があったときに、この芝居を観ることで少しの間だけやり過ごせるようになるかもしれない。そういうのって、いま悲しい出来事がなくても今後のためにふと思い出して役立つこともありますしね。「水漏れのトラブルはこちら」って電話番号が書いてあるマグネットみたいな、その程度のことかもしれないですけれど。
もっと具体的にいうと、役者4人が一人7〜8役くらい演じ、架空の国の渓谷を上流から下流まで旅をする話になっています。ロードムービーのような感じで、旅人がいろんな土地で様々な人々に出会い、小さなエピソードが積み重なっていきます。
ー 福原さんの前回の札幌公演(ニッポンの河川『大地をつかむ両足と物語』、2017年11月、コンカリーニョ)と同様に、俳優が音響と照明を操作しながら演技をするスタイル、そして野外上演ですね。
福原 そうです。会場には屋根もなく、雨が降ってもそのまま上演する予定です。その場合は、どこへ旅しても雨が降り続けている設定になりますね。
俳優が音響と照明を操作するやり方は、コロナの影響も実はあります。周りの演劇人からも、できるだけ人件費を抑えたコンパクトな企画がたくさん立ち上がりました。万が一全公演中止になったとしても損失をできるだけ少なくするためもあると思います。
そういうのをいくつか見てきて、「いやちょっと待てよ」と。「俺はコロナの前からそういうスタイルを持っていたじゃないか。もったいない、やらなきゃ」って。
三土 役者が演技をしながらライトを点けたり、カセットテープを操作したり。僕は段取りを覚えるのがすごい苦手なので、正直苦戦しています(笑)
でも、この前東京公演の会場を下見してみて、暗くなった野外で照明を当てたときに、ストーリー以外の面白さを感じることができて。もちろん物語としての魅力もたくさんあるんですけれど、物語以外で楽しめるポイントもたくさんあるので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
福原 僕は唐十郎とか大好きですし、野外ってすごい面白いんですよ。でも、しっかりとステージを組んだいわゆる「野外劇」ともまた違ったコンパクトさがありますので、観にきていただけたら嬉しいです。話のタネにはなると思います。
札幌公演への期待
ー 今回は旗揚げツアーとして、東京・札幌・中富良野の3ヶ所での公演となります。大阪や北九州など、演劇が盛んな都市は他にもたくさんありますが、札幌と中富良野を選んだ理由は何でしょうか。
福原 以前ニッポンの河川で札幌きたときにすごい楽しかったんです。お芝居が好きなお客さんがたくさんいる土地だと思いました。そういう都市ってそう多くないんですよね。東京以外でやるってなったときに、まず札幌が浮かびました。
札幌が決まると、コンパクトでどこでもできるお芝居ということもあり、中富良野のカフェでもやらせていただけることになりました。中富良野の会場である cafeてくり は、オーナーの竹内裕介さんがFICTIONという劇団の俳優さんでもあり、佐久間さんと何度も共演したことがあることがきっかけになっています。
昨日てくりの下見に行きましたが、ご飯がめちゃめちゃうまかったです。眺めもすごく素敵なところでした。
ー 以前のインタビュー時は福原さんがまだ札幌に来る前で、「『札幌は他の都市よりも、僕のやりたいことをわかってくれるんじゃないかな』と勝手に期待している」とおっしゃっていました。その期待は裏切られなかったということでしょうか。
福原 そうですね。そもそも僕がなんでこんなに札幌に期待しているかというと、一番最初に札幌の演劇人と関わったのがパインソーとのワークショップだったんですね。パインソーの人たちはみんな変人でした。
こんな変人がいっぱいいる土地なら、僕たちのこともきっと受け入れてくれるだろうと(笑)
ニッポンの河川のときに、札幌のお客さんはちゃんと作品を楽しんでくれているって肌で感じることができました。しかも、ちゃんと一周回って、鼻で笑って楽しんでくれていたんです。
あのときは劇場公演だったので、今回はようやく札幌で僕らの野外劇をお届けできるのが楽しみです。
ー 野外は野外でも、札幌公演の会場は東急百貨店の屋上ですね。
福原 札幌公演の制作をしていただいている小島達子さんと会場を相談している中で、東急百貨店を紹介していただきました。
札幌での初めての野外公演なので、アクセスが良く、でも誰も行ったことがないような面白い場所でやりたいという矛盾した条件を満たしてくれる会場です。
昔は遊園地や植物園があったみたいなんですが、今はずっと使っていないスペースなんだそうです。演劇を上演したことももちろんないみたいなので、どこまでやっていいのかはこれから相談します。
野外劇の魅力の一つは、普段知っている場所の見え方が変わることです。みなさんが知っている東急百貨店で芝居を観ると、次そこで買い物をするときも不思議な気持ちになると思います。
ー デパートの屋上で演劇を観る。忘れられない体験になりそうです。
福原 『旅と渓谷』は、とても演劇的な作品になっています。できる限りシンプルにした演劇で、どこまで大きなことを描けるかということに挑戦しています。
最初は映像の練習で集まった3人ですが、映像の練習を通して、演劇の魅力を再発見できたのかもしれません。ぜひ観にきていただきたいです!
2022年4月
札幌市内某所にて
札幌公演は2022年5月25日〜27日、中富良野公演は5月30日〜31日。上演時間は約50分です。
荒天でない限りは雨天でも上演されるとのことなので、雨具・防寒は各自の判断でご用意いただきたいとのことです(傘は禁止、雨ガッパはOK)。
札幌ではなかなか観られない、福原流野外劇の魅力が詰まった本作。ぜひお見逃しなく!
公演情報(札幌公演)
スリーピルバーグス 旗揚げ野外ツアー
『旅と渓谷』
日時
2022年5月25日〜27日
25日(水)19:00/21:00
26日(木)19:00/21:00
27日(金)19:00
※受付開始は開演の40分前、開場は20分前より
会場
住所:札幌市中央区北4条西2丁目 屋
作品について
私が中学生の頃、安いギターとアンプとチューナーに「今ならピックと弦もプレゼント!」という初心者セットの広告が漫画雑誌にいっぱい載ってました。世間はバンドブームで、中でも人気だったビートパンクなるジャンルのバンド達にはお世辞にも上手いといえない演奏力のバンドも多く、でもそれが中学生達に「俺でも出来そう!」と初心者セットに飛びつかせる魅力となっていた気がします。
手が届きそうなテクニックと安価な機材が、思春期の初期衝動を冷まさせないし覚まさせない。「弾けない!」「買えない!」の壁をなくしていた。
そんなことを40半ばで思い出し、シンプルな演技メソッドとホームセンターで買える安価な機材を揃え、小屋代のかからない野外で、青臭い芝居をやって、中学生の頃の俺にカッコいいと言われるタイプの演劇をやろうと思ってます。
楽器を演奏しながら歌うバンドマンよろしく、役者が音響照明の操作も兼ねつつ台詞を吐くスタイルの4人芝居でございます。
作・演出 福原充則
脚本・演出
福原充則
出演
佐久間麻由
永島敬三
佐藤貴史
三土幸敏
チケット
<全席自由席>椅子もしくは立ち見
一般:2,500円
U-18:1,000円
Web
主催
スリーピルバーグス