2019年10月19日、札幌演劇シーズンは2021-冬からの参加作品選定において、これまでの公募制からプログラムディレクター制に変更し、初代プログラムディレクターに公益財団法人北海道演劇財団・芸術監督の斎藤歩さんが就任することを発表しました。
これまで行ってきた作品公募は従来どおり実施されますが、2021-冬からは必ずしも公募作品からプログラムが編成されるわけではなく、プログラムディレクターの意向が強く反映され長期的な視点に立ったプログラム作りが行われるようになります。
2012年にはじまった札幌演劇シーズンは、札幌でつくられた優れた作品たちに触れる機会を提供し続け、2021-冬にちょうど10年目に突入します。これはさらなるプログラムの充実を図るための、演劇シーズンの新たな挑戦だと見ることができます。
今回は、札幌演劇シーズン実行委員会事務局の三上敦さんに、プログラムディレクター制に変更となった背景や今後の展望について伺いました。
なぜプログラムディレクター制を導入したのか
札幌演劇シーズンは年間およそ1万5千人の動員を達成していますが、まだまだごく限られた “演劇好き” のお客様にしか観ていただけていないのが現状です。
もっと多くの方々に札幌でつくられた演劇を観ていただくため、当面の目標を年間2万人の来場としています。
この目標を達成するために最も大切なものは「作品」です。どんな作品を上演していくのか。これが、最も重要なポイントであると考えています。
これまではシーズンごとに上演作品を公募し、応募で集まった中から上演作品を選んでいましたが、蓋を開けてみるまで、応募が何作品あるのか、シーズンにふさわしい作品がいくつあるのかわからないという、非常に不安定な状況にありました。
またこれまでは作品選定部会(メンバーは日頃から演劇をよく観られている方たちで、 ボランティアで参加)における議論によって上演作品を選定していましたが、現状のメンバー以外にはなかなか選定委員のなり手が見つからない、という課題もありました。
こうした人的な不安定要素もあり、より安定した持続可能な運営を実現していくためにも、新しい作品選定方法の検討が必要ではないか、という議論があり、 協議の結果、プログラムディレクター制を導入していくこととなりました。
プログラムディレクター制は、札幌演劇シーズンのようなフェスティバルでは、作品選定の方法として広く採用されている制度で、決して新しい方法ではありませんが、それだけに実績があり、他のフェスティバルなどを参考にすることもできるのではないかと考えています。
今後は、公募を含め、プログラムディレクターが幅広く情報収集した中から上演作品を選定するため、少なくとも「応募が何作品あるのか」という心配はなくなります。
また、プログラムを充実させていくためには、どんな作品をどの会場で行っていくのか、 つまり作品だけでなく会場の手配も欠かせないポイントとなります。
しかし、これまでの公募制は1年後の作品の募集であったため、会場をおさえることができず、「せっかく良い作品が集まったのに、希望する会場で公演できない」というケースもありました。こうした事態を回避していくためには2年後、3年後を見据えたプログラムづくりが必要ですが、 公募で3年後に上演する作品を募集する、というわけにもいきません。
しかし、プログラムディレクター制では会場の手配を含め、先々を見据えた長期的視点に立ったプログラムづくりを行っていくことができます。また、そうしていくためにプログラムディレクターの任期を5年としています(初代プログラムディレクターの斎藤歩さんの任期は2021-冬〜2025-夏)。
プログラムディレクター制の導入は、どのような議論の過程を経て決定したのか
札幌演劇シーズン実行委員会には、シーズンの運営全般を検討する機関として「事業部会」という部会があります。
事業部会は2ヶ月に1回程度の間隔で定期的に開催されていますが、ここで作品選定の今後のあり方を検討し、現状の課題、今後のシ ーズンのあり方などさまざまな意見が出される中で、プログラムディレクター制への移行が決まりました。
また、 誰がプログラムディレクターを担うのかという点についても、事業部会の中で協議がなされ、北海道演劇財団 芸術監督の斎藤歩さんが適任ではないかということになりました。
その後、臨時の実行委員会を開催し、実行委員からも承認され、正式な発表となり、現在に至っています。
懸念される問題点は何か
「一人の好みにより作品が選出され、作品に偏りが生まれるおそれ」などといったリスクを回避するために、プログラムディレクターによって選ばれた作品は、事業部会の承認と実行委員会の承認という過程を経て、正式決定となります。つまり、逆に言えば事業部会と実行委員会の双方が承認しなければ、正式なプログラムにはなりません。
偏りが生まれるおそれは全くないのかと言われれば、偏りが生まれるおそれはゼロではありません。
しかし、それは従来の公募制(作品選定部会による選定)でも同様です。何度もシーズンに出ている劇団もあれば、何回も応募しているにも関わらず一度も参加できていない劇団もあります。
つまり、どんな選び方をしても結果として偏ってしまうことはあるのだと思います。問題なのは、偏っているかどうかということよりも、その結果が、きちんとした過程を踏んだ上で得られた結果なのかどうか、ということではないでしょうか。
シーズンでは事業部会と実行委員会という2重のチェックがあります。その上で選ばれた作品は、きちんとした過程を踏んで選ばれた作品だと言えるはずです。
さらに言えば、作品選びにおいて最も大切なことは「偏らない」ことではなく、お客様に対して優れた作品を提供していくこと、それがすべてだと、演劇シーズンは考えています。
とはいえ、だからと言って「このシステムは完璧。これで全ては解決」というわけではありません。はじめたばかりで手探り状態であることは確かです。しかしこれまでにようにリスクを抱えたまま、不安定な状態のまま進んでいくよりは、新しい方法を取り入れて「まずはやってみよう」というのが、演劇シーズンの運営に関わる人たちの総意なのだと思います。ご理解をいただけると幸いです。
2021-冬から、初代プログラムディレクター・斎藤歩さんの編成する札幌演劇シーズンがスタートします。プログラムディレクター制は、札幌演劇シーズンのさらなる成長のための新たな挑戦です。
今後もこの地で優れた作品に出会えることが楽しみです!
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