2019年7月30日、演劇創造都市札幌プロジェクトのセミナー&クロストークが開催されました。
今回、関係者のみなさまのご協力により、NoMaps実行委員会 事務局長の廣瀬岳史さんによるスペシャルトークと、北海道演劇財団 専務理事・芸術監督の斎藤歩さんと廣瀬さんによるクロストークの内容をd-SAPに掲載させていただくことになりました。
「いま、札幌に必要な◯◯」というテーマで開催された本セミナー。一体どのような内容が話し合われたのでしょうか
(司会=三上敦・演劇創造都市札幌プロジェクト幹事)
NoMaps「北海道から切り開く地図なき世界」
三上敦さん(以下、三上) 演劇創造都市札幌プロジェクトでは、年に3回程度のセミナーを開催しています。いつもは文化芸術関連の方や、演劇関係の識者をお招きしていたのですが、今回は違うジャンルの方からお話を伺おうという事になりまして、札幌で今注目を集めているNoMaps実行委員会の事務局長の廣瀬岳史さんをお招きすることが出来ました。
前半は廣瀬さんから話題提供という形で、NoMapsとはどういったものなのかというお話を頂き、後半は、北海道演劇財団芸術監督の斎藤歩さんにも加わっていただいて、クロストークという形をとらせていただきます。
廣瀬岳史さん(以下、廣瀬) NoMapsは、「北海道から切り開く地図なき世界」をコンセプトに、地図にない領域を自分の手で切り開いてゆくことを目指しています。
土を耕し木を切り倒して土地を開く開拓ではなく、今風の、誰もやったことのないことを自分でやって、ビジネスをしたり、新しい社会を切り開く。そんな方々がたくさん集まるような機会を作って、北海道の人だけじゃなく、道外から現代のフロンティアスピリッツを抱いた方々にも集まっていただき、交流を持っていただきます。
北海道の人たちみんなが、もっとクリエイティブに、イノベイティブになっていただけることを目指したコンベンション事業です。
北海道をもっと面白く。もっと住みやすく、もっと働きやすく。こうした願いが北海道で実現するための一つのきっかけになりたいと思っています。
札幌クリエイティブコンベンションという別名を持ち、クリエイティブを起点としてより良い社会をつくる人たちが札幌に集まって、様々な刺激を受けて、また次の現場に旅立っていけるような現場を目指しています。
「クリエイティブ」って何だかわかんないとか、音楽・映像・デザインと聞くと、ん?と思う人もいると思うんですね。僕は、「クリエイティブ」とか「クリエーター」という意味を広く考えていまして、「新しい価値を生み出す人」をクリエイターと呼んでいるんです。
おいしい作物を作る農家も、今までない方法を使っていたらクリエイターです。料理もそう。狭義のクリエイターではなく、広義のクリエイターを北海道に誕生させる。そんな活動を増やしてゆきたいんです。そのために北海道を「もっと面白く」「もっと住みやすく」「もっと働きやすく」という3つぐらいのテーマに絞って活動をしています。
「もっと面白く」について
北海道の人が、新しいことにチャレンジできる、そんな文化を生み出す取り組みを支援したい。
一つの例として「北海道移住ドラフト会議」というのがあります。NoMapsに近い仲間が始めたことです。どこの街も若い人を呼び込もうとして頑張っていますが、それを野球のドラフト会議のような方法で行うイベントです。自治体や会社が球団。移住したい人が選手。プレゼンして互いの希望を知り合って、くじ引きで移住先受け入れ先を決める。このような新しい取り組み、これもクリエイティブですね。
サッポロビールの取り組みに「ほっとけないどう・北海道」というのがあります。若者のチャレンジしようという気持ちを後押しする取り組みで「ほっとけないバー」というバーを設けて、そこでビールを飲むと、その金額の半分が若いチャレンジャーの取り組みに寄付される仕組みです。
こういった活動をNoMapsが裏でサポートをしています。起業する若者が増えることにつながってほしい。
若い人たちと話すと、「やりたいけど不安だ」という声が多いです。一歩踏み出せず不安に向き合ってしまう。そこで何とか一歩踏み出せる環境を作りたい。変えること、変わることを恐れず、後押しすることも恐れず、まずやってみるということをNoMapsは支援しています。
「もっと住みやすく」について
日本全体の課題が凝縮された北海道は、課題先進地とも言えます。そこで、先端技術で生活を改善することを期待して、北海道を実証実験の聖地にしようと様々な取り組みを行っています。
車の自動走行実験を街中でやりました。これは先進的な取り組みでした。買い物実験では、アバターと呼ばれる分身ロボットを登場させました。これを札幌から操作して、東京の百貨店で買い物をさせるという実験です。未来の買い物行動の実験ですね。タクシー配車アプリもそうです。人工知能を使ったタクシーの配車実験。こういったことのサポートもNoMapsは行っています。
介護・福祉・医療、様々な問題を先端技術で解決すべく、行政とも連携をしながら技術を磨き検証をして、社会に落とし込むお手伝いもしています。スマホもあっという間に当たり前になっていますが、登場からたったの10年です。先端技術が社会に浸透するのは早いんです。先端技術で暮らしが劇的に良くなるということも実は多いと思っています。
「もっと働きやすく」について
近年の、北海道の悩みの一つに、理系の学生が東京に流出してしまうという問題があります。
一方東京の若い人は「機会があれば帰ってきたい」と思っているようなんですね。しかし、仕事がないとか、お給料が安いなどの理由で帰ってこられない。もっと新しい産業が生まれれば、北海道でも働ける現場が生まれるのに。
そこで基幹産業である、農業・漁業・観光、こうした産業を先端技術で魅力的にする取り組みも行っています。牛の母体管理をITで行うことで、魅力的な農業にする取り組みです(十勝ファームノートの例)。もっと農業の労働効率が上がり、農家の負担も減り、若者にも魅力的な農業になるといいなぁと。
十勝大樹町のロケット発射実験が話題になりましたよね。民間のロケット会社です。今年の5月に初めて民間の力で宇宙までロケットを飛ばすことに成功しました。この会社は安いロケットを宇宙まで飛ばすということを頑張っています。安く衛星を宇宙に打ち上げることをビジネスにしようとしているんですね。地元のホームセンターで安い部品を買ってロケットを作っています。
NoMapsが映像を作ったりするので関わっているんですが、宇宙ビジネスというものが、北海道の新しい産業になるのではないかと考えています。
ロケットを飛ばせる会社が北海道にあって、衛星を飛ばせれば、それを活用できる産業(農業・漁業)が北海道にはたくさんあるからです。衛星データを活用できるという事に繋がるからです。十勝に衛星を作る会社があり、衛星データを活用できる産業があれば、十勝に産業のクラスタができるのではないかと考えるからです。宇宙産業を北海道で発展させたいんです。今はまだないですけど、この先、新しい仕事や産業を北海道に作り出せるのではないかと考えているのです。
何かの試算で、65%ぐらいの小学生の子供は大人になった時に、今はない仕事に就くという研究結果があります。そんなことが北海道にはたくさんあるのではないでしょうか。新産業で新しい働き方を北海道でできる。そんなことをお手伝いできればうれしいです。
ざっと、ここまでが、NoMaps全体の様子ですが、もっと細かく説明するとNoMapsというコンベンションに集まった人たちは勿論、それ以外の北海道で働く人たちも、もっともっと、クリエイティブ・創造的な意識を持つことで、それぞれが地図に描かれていない新しい領域に向かって、一歩踏み出して、今はまだないビジネスや働き方、それこそ、新しいお芝居などを生み出してくれるといいなぁと考えています。
NoMapsという名前は元々は、ウィリアム・ギブスンというアメリカのSF作家を追ったドキュメンタリー番組のタイトルからとっています。彼は1980年ごろに、今よりもうちょっと先の未来をイメージした小説を書いた人なんです。地図なき領域を開拓したい。開拓しようという想いを込めています。
NoMapsのコンベンション事業
NoMapsがやっていることは、コンベンション事業です。
先端技術や新しいアイデアをベースにして次の時代の価値観・文化・社会の姿を提案するようなコンテンツをテーマとして、5つの事業をやっています。
- カンファレンス
セミナーやワークショップ、プレゼンテーションをして投資家から資金を集めるコンテストや、とにかく集まってアイデアを出し合う事業がいくつもあります。 - エキシビション
チカホを使って先端技術の展示会を行っています。新しい技術に触れて、体験して、頭の中をアップデートしてもらうことを狙っています。 - イベント
IT、音楽、映画というクリエイティブなジャンルを混ぜたようなコンベンションで、クリエイティブなコンテンツを一般の方にもエンターテイメントとして楽しんでいただく活動もしています。札幌国際短編映画祭に関わったり、音楽ライブサーキットとして市内のライブハウスをサーキット形式でつないで、色んなジャンルの、色んな世代の音楽を自由に聞いて回れるイベントもつくっています。 - ミートアップ
交流の場をつくることなんですが、これが一番やりたいことです。お互いに刺激を受けて新しい取り組みに踏み出してほしい。これがこのコンベンションの大きな目的です。なので、カンファレンスも、エキシビションも、イベントも、作ってる人と作ってるものに興味を持った人が集まって、同じ場で話したり飲んだり、仲良くなって、一緒にやろうとか、もっとこうしようとか、そういうことが同時多発的に起こって、こういうイベントを契機にして新しい何かが生まれる。そんな場になればいいなぁと思って、このミートアップの事業に力を入れています。早い話が飲み会なんですけど、ひたすら飲んで話して何かが生まれるという発想です。 - エクスペリメント
実証実験です。
NoMapsって誰がやってるの?
産官学の連携でオール北海道体制の、実行委員を組織してやっています。初音ミクの伊藤さん、ウエスの小島さん、IT企業の社長、札幌市、経産局、大学などが連携をしています。
パートナーとして地元のメディアやビジネス関係の業界団体にも入ってもらって、オール北海道体制で、「クリエイティブ」「新しいもの」「イノベイティブ」などをキーワードにして、これらを起点にして新しいことを始めたいという取り組みの数々です。
他の地域でもクリエイティブをテーマにしたイベントはあるんですが、北海道は官公庁ががっちり組んでくれていることが大きいです。まあ、官公庁と一緒にやることは大変で、まとめるのも苦労するんですが、何とかやれているという点で北海道は珍しいとも言えます。
今年は10月で、3回目。2016年をゼロ回目と位置付けました。札幌市内のいろんな会場を使って、先ほど紹介した5つの事業を行います。今年はロゴも新しくして、ビジュアルも山を意識したものにしました。
今年3回目ということを契機に、コンセプトの見直しをし、NoMapsがベースキャンプとしての役割を持てるように頑張ります。ベースキャンプって山に登る前に、装備や体調を整えたり、情報を整理したり、そういう場ですね。
我々が考えているNoMapsの役割は、目指す場所は千差万別でも、そこに上る前に、情報や仲間を得、装備を充実させるためのベースキャンプになってほしいです。未来という名の最高峰を自分の中に設定しようという呼びかけを行っています。
具体的な中身についてお話します。
「カンファレンス」としては、10月16~18日、30セッションのテーマでカンファレンスを行います。様々な有識者・経営者の方が来ます。技術だけではなく、マーケティング・教育・地方創世もあったり、なんでもいいけどアップデートしたい人がいたらセッション作ろうぜっていう感じで、いろんな人が交わるようにしたいと思っていまして、必ずしもテクノロジー一色ではありません。
東京だと、ブロックチェーンだけだとしても、一日せいぜい一つだけのセッションしかできないことが多くて、その周辺の人しか集まれないことが多いんですけど、札幌の規模であれば、ブロックチェーンをやっている人と自在型教育をやっている人がうまく混ざるんじゃないかというのが、札幌の魅力でもあります。
色んなものをセッションして最後に飲む。この、「飲む」のがとても重要です。チカホでの展示も、創世スクエアにも広げて先端技術の展示もやります。短編映画祭もぜひ見てください。1回見たら面白さがわかると思うので。
音楽では、ジャンルを超えたライブをやりますし、厚別のプラネタリウムを使って、ドームムービーの上映会なども実施します。交通局さんが地下鉄の整備場を使っていいよっていうので、そこをライブ会場にしようかみたいな流れで、イベントも企画しています。いろんな人が来られるように、来たら飲むということで進めています。
実証実験では、関係省庁に相談しながら、企業同士の競争プラットフォームもやったりとか。
以上、こんな感じの事業です。
パスを販売していまして、定価8千円。北海道の人はこの値段で、お金を払って情報を取りになかなか来ないですね。あ、あと、服はリラックスしてきてほしいです。
今日のテーマは「今札幌に必要な◯◯」ということで、この後斎藤歩さんといろんな話ができると思うんですが、NoMapsの流れで言うと、新しく変えるということがやっている意味だし、使命なので、そういうムーブメントが札幌に生まれるといいなぁと思っています。
ここでいったん私の話は区切りたいと思います。どうもありがとうございます。
廣瀬岳史氏×斎藤歩氏のクロストーク
三上 では斎藤さんにも入っていただいて、クロストークを始めていただきます。
斎藤歩さん(以下、斎藤) よろしくお願いします。私はつい先日廣瀬さんと初めてお会いしました。NoMapsは、一昨年ぐらいからちょっと気になっていて、何をしているんだろう?とは思っていたんですが、参加したことはありませんでした。
今のお話の中で、札幌で仕事をしたいんだけど、東京へ行ってしまう人材が多いというお話がありました。私も札幌で演劇を始めたんですが、俳優という仕事をある規模で始めてしまうと、やっぱり東京にいなければならなくなってしまって、2016年までの16年間東京にいたんですね。
3年前にやっと札幌に帰ってくることが叶いました。帰ってきた当初は大変な環境で、これは無理かなぁとか思った瞬間もあったんですが、3年でようやく何とかなりそうな、やって行けそうなところまでは来たんです。
そんな今、廣瀬さんのお話を伺っていて、廣瀬さんご自身も、札幌にいて相当思い通りにならないことを感じてフラストレーションをお感じなのではないかなぁと思います。廣瀬さんが今札幌で、このままでは、ここから先に進めないと感じている、具体的なフラストレーションは何ですか?
廣瀬 私は以前シンクタンクにいて、官公庁から依頼を受けて仕事をしていた立場にあったので、あまり偉そうなことは言えませんが、行政に頼っている感じがどんなジャンルにもあって、産業構造上、民間があまり強くないことですかね。自分で何か新しいことをやろうという人たちが、札幌土着の人たちの中にあまり多くない、外から来た人たちの方が元気があるという現実が、寂しいなぁとか、負けたくないなぁとか感じてます。
斎藤 僕も同じことを実は感じています。僕は北海道で生まれたものの、育ったのは本州のあちこちなんですね。で、北海道にある種のフロンティアスピリッツのようなものを感じたり、幻想を持って北大を受験してしまったりして、今に至るんですが、北海道の人たちって実は、それほどフロンティアスピリッツとか新しい領域に踏み出そうとする人に対して、それほど寛容じゃないんですよね。
いやでもね、20年以上前までは北海道知事を選ぶとか、国政に代議士を送り出す道民たちの判断て、こんなじゃなかった気がするんですけどね。こういう土地だったのかなぁ?近年特にその傾向が強まっていると感じます。
演劇創造都市札幌プロジェクトを最初に起こした私の先輩たちが「札幌演劇シーズン」というのを始められて、それを今僕は引き継いでいるんですが、最初は、民間だけで始めたんですよね。2012年にスタートした時に、民間の会社の社長さんたちが「我々札幌の演劇人が!」って仰ったのを見て、僕も「これはやばい」って思って、割と無理をして東京から札幌に通いながら演劇シーズン初期には作品を出し続けました。かなり冒険的だったんですね。
でも、もう7年も続けていると、やっぱりどんどん行政に頼る雰囲気が強くなってしまっているんじゃないかって感じていて、もっと自分たちが先に進んで行って、あとから行政が追随して支えてもらうとか、応援してもらうスタイルにならないかなぁって思っています。
観客からの質問「演劇はどこか閉鎖的な印象を持つが、NoMapsとのコラボで劇場に足を運ばない一般層を取り込むことは可能か?」
廣瀬 演劇に関わっている方って、演劇にしかかかわっていないんですかね?例えば今日ここにいらっしゃる皆さんの中で、「演劇以外のコミュニティにもかかわっているよ」って方はどのぐらいいらっしゃるんですか?
実はこの辺なのかなぁって思うんですよね。どれぐらい自分の関わるコミュニティをバランスよく増やしている人というか、増やすことに興味を持っている人がいるかどうかが、閉鎖的かどうかにかかわっているんじゃないかと思うんですよね。
斎藤 演劇を創っている側の人って、圧倒的に余裕がないんですよね、経済が。演劇を創る時間以外に、生活を支えるために何らかの仕事をしなければならない。一日8時間~10時間、演劇とは関係ない時間に人生を割かなければならないという事情もあって、創る側の人間には、その余裕がないという現実があることはあります。
大部分がプロフェッショナルではないのでね。閉鎖的にならざるを得ない事情は確かにあるんです。皆友だちにチケット売るんですけど、続けていると友だちはどんどん減りますし、そうすると、演劇人同士でチケット売り合ったりしててね。気の毒ですよね。
廣瀬 今回の場が、何かのきっかけになるといいなぁと私も思っていて、私は演劇に界隈性は持っていませんが、NoMaps以外にもいろんなコミュニティを持っていて、いろんなジャンルの人を演劇のコミュニティに連れてくることも考えられますし、逆に演劇の人にもNoMapsに来てもらうという事も期待します。
こういう網の目を増やす活動を、演劇の人たちにもやってもらえたら嬉しいです。
とはいえ、皆が皆やる必要はないと思うんですよ。何というか、外枠の人?本当のコアな方々は演劇に没入すべきなんですけど、いろんなコミュニティを行き来している人たちが上手くつながって、その境界線をグレーにしてゆく必要が絶対にあって、これはNoMapsも同じなんですよね。
どうしても外から見ると、映画とか音楽とか先端技術だけに見られがちなんだと思うんです。NoMapsの人間も、思いもよらないところとつながって、例えば、教育とか、介護とか、演劇とか、そういうことが今必要だと思っています。
何が起こるかわかりませんが、やってみないと何も起こりませんしね。その役割を誰か担ってよ、じゃなくて、自分でやってみようって言う人がどれぐらい増えるかだと思います。
斎藤 演劇で言うと、俳優とか演出家とか劇作家にもそういう視点は必要ですけど、やっぱり、今の札幌の現状で言うと、まずはプロデューサーですね。制作者もそうだし、劇場の人もそうですね。
廣瀬 NoMapsに対して「意識高めの人しかいちゃいけないんでしょ?」みたいなことをよく言われるんですよ。そんなことないんですけど、外からはそう見えちゃってるみたいなんですよね。やっぱり、演劇のコミュニティもそういう界隈なんですかね?「演劇」って言うハードル、結構高いと思われてますよね。
斎藤 そうですね、ただ、今の札幌の演劇って、東京から眺めていたんですけど、独特の進化を起こし始めていて、東京では創れない演劇が札幌では創れるんじゃないかと感じていたんです。
東京って、今演劇が先鋭化していて、よっぽど尖がらないと目立たないんですね。何だか数もいっぱいあって大変なんです。ハードルをどんどん高くしてるんです。
日本の演劇には、まだまだ、新しく演劇にフラッと入って来る人にとって、もっと呑気にドアを開けて入れるような店構えが必要なんです。今札幌にはオーソドックスな店構えを整えて普及させるにはちょうどいい環境というか、サイズなんじゃないかと思っているんです。
廣瀬 僕は芝居に関心は無い方なので、僕が芝居に行くときは、誘われた時なんです。まだ多くの人がそんな感じだと思うんで、友達増やせよってことだと思うんですよね。閉鎖的にならないためにはね。
観客からの質問「NoMapsと演劇のコラボは地域活性化につながりますか?」
廣瀬 私たちが絶対に貢献できるとは言えませんが、可能性はあると思います。NoMapsの場でやる意味のある演劇があるのかもしれませんし、そういったことを今後一緒に考えられると嬉しいなぁと思います。
斎藤 でもね、時々乱暴な相談をされるんですよね。「町興しのために、ここでなんか演劇やってよ」みたいな。でも、できないんですよ、そう簡単に演劇は。皆さん割と低予算で丸投げしてくるんですよ。ただね、僕らの側ももうちょっと研究して、「できるよ!」って言ってみて、やってみることも必要かなぁ。
観客からの質問「実際に市民・若者が新しいことをしたい、北海道を変えるクリエイティブな活動をしたいという方が、NoMapsさんに後押しを願う場合、どうすれば?」
廣瀬 つまり「NoMapsは何をしてくれるの?」って言う事だと思うんですけど、すべてに対してきめ細やかなサポートをできるというわけではないんですが、一旦持ち込んできてさえくれれば、それがNoMapsを盛り上げるのか、社会のためになるのか、いいなと思えるものがあれば、何かしら考えます。
すごく大雑把なんですけど、場所を創るとか、お金を創るための事業申請をするとか、スポンサーを探すとか、一緒にできる協力者を探すとか、出来るだけ協力します。お手伝いします。
今私が関わっている案件ですと、学生さんなんですけど、高校生があるイベントをやりたいって言ってきて、「じゃあやろうよ!」って色んな大人をくっつけたり、相談するにはタダですし、面白いと思ったら一緒にやろうよっていうスタンスで、お手伝いしています。
なので、ガンガン言って来て欲しいですね。こういう人はいい、これはダメとか、実はあまりないんで。します。言い切っちゃいますここは。なので、ください。
観客からの質問「【東京で創れないものを札幌では創れる】をもう少し聞かせてください」
廣瀬 NoMaps的なことで言うと、東京で創れないという事ではないんですが、キャパが丁度良くて、いろんな分野を混ぜやすいということですかね。あと距離も近いし、簡単に会えるとか。東京でやられている仕事のスピード感にはかないませんが、人と人とがつながるスピード感は早いですね。規模がちょうどいい。派閥的な何かがない。足の引っ張り合いも他に地域に比べて少ないですね。
斎藤 演劇のことで言うと、東京ってものを創るために必要な基本的な体力が札幌よりはるかに必要なんですね。不動産価格が全然違いますから、稽古場を維持するだけで一月物凄い金額ですしね。1日2万円とか普通にかかりますので、60日借りたら120万円ですよね。
劇場を押さえるのも大変です。そこで暮らす人たちが稽古場に通う通勤距離も札幌の2倍以上あるんじゃないでしょうか。それでもやっている体力や根性が東京の演劇人にはあるんですけどね。そのことで失っているものもあるんじゃないかって思っていて。
逆に札幌はすごく呑気にのんびりしていて、もっと楽にできるんで、そこまでのガッツがなくても楽にできちゃうっていう不満もあって。
だから、東京でやって行けるぐらいガッツというか体力や意欲のある連中が、この北海道に来て、滞在して創るということで、モノが良くなる。また他の作品との競争に関してとか、評価という点に関しても、おかしな尖がったところで評価を競うのではなくて、もっとピュアで落ち着いた評価に向かうことが出来ると思うんです。
だからヨーロッパ演劇の正当な作品を、おかしな色付けと演出で見せ合うんじゃなくて、その作品の持ち味をきちんと描いてお客さんに観てもらうためには、北海道で創るのが程よいと思っていたんです。
北海道でやれることって言うのはそういう事なんじゃないかと思い始めていて、人間にとって必要なサイズのものを人間に向けてクリエイトできる環境なのではないかと。これからはそういうプロダクト・商品が必要とされる時代なのではないかと。オリンピックが決まった瞬間にもう、僕は逃げなければと思いましたね。あれ以上人が増えたらどんなになっちゃうんだって。
廣瀬 東京にしかないもの、都会にしかないものというのは勿論あるんですけど、全く別の軸で眺めてみると、暮らしやすさ、生活の幸せさというものがあって、だからこそできるものがここにはあるんだと思うんです。
観客からの質問「東京では好きなことをやって生きていけるけど、北海道では難しい?」
斎藤 いや、東京にはねえ、好きなことをやって生きて行ける環境はないですよ。何をやりたいのかにもよりますけど、北海道は貧乏だっていう事実もありますけど。
廣瀬 土地によって、好きなことをやって生きて行けるかは、変わらないんじゃないかと思っています。環境の問題は勿論若干影響しますけど、やるかやらないか。やろうとする気持ちはどこにいても持つことが出来るのではないかと思います。北海道だからできない理由なんてないと思います。環境づくりはしていった方がいいとは思いますけど。
斎藤 話は飛びますが、2016年の2月に雪まつりの大雪像で観光客相手にシェイクスピアの「冬物語」を見てもらうという事をやったんですけど、折角海外からのお客さんも多いんで、日本語での上演に外国語の字幕を付けようという話になった。5か国語。ところが、昼も夜も野外の大雪像ステージにプロジェクターで字幕を投影するとなると、かなり大きなプロジェクターをレンタルする必要があって、それだけで物凄いお金がかかるので、諦めようかという話まで出たんですけど、諦めきれなくて、皆で考えたことがあったんです。
若いスタッフって、ほらITとか、パソコンとか詳しいから、彼らに「何か考えろ!」ってね。そんな時、私は東京と札幌を行ったり来たりしていたんですが、千歳空港で飛行機を待っている間、目の前を沢山の中国人の団体が行ったり来たりするんですけど、彼ら常にスマホを見てるんですよ。それを見てて「あ、これだ!」って思って、当時の演劇財団の若いスタッフにすぐにメールをしたんです。
「字幕をプロジェクターで投影するんじゃなくて、インターネットとか、ツイッターとか、俺にはよくわからんが、そんな手法で、舞台上の台詞とシンクロさせて配信する方法を考えろ!」ってね。
そしたら彼らが「チャットサイト」というのを考えついて、無料のサイトで、あらかじめ用意しておいたコメント、それがつまり台詞なんですけど、それを、オペレーターが舞台を見ながら同時にどんどんアップしてゆくという方法でした。
割とうまくいったと思っていたんですが、やはり問題もあったようで、観光客って、スマホで写真を撮りたがるんですよね。ところが、字幕をスマホで観ていると写真が撮れないとか、冬なので、外でずっとスマホを見ていると、すぐに電池切れになるとか。
あの時、うちの若いスタッフだけじゃなくて、例えば廣瀬さんのような人に相談したら、もっと別な方法も見つかったり、その研究から別のものが生まれたりとかしたのかもしれないなぁと、今日、廣瀬さんのお話を聞いてて思いました。
廣瀬 私自身もテクノロジーがわかっているわけではないので、私の所に来た情報をどこかに出したら、何が起こるかわからないので、考えが広がるじゃないですか。共感してくれる人が現れるかもしれませんし。
斎藤 NoMapsが何かをしてくれるんじゃなくて、そこに集まる人たちの中に解決の糸口があるかもしれないということですかね?
廣瀬 うちが何かをするのではなく、何かが交わる場所というか、ステージを作るだけで、踊るのは皆さんです。
観客からの質問「演劇で地域は活性化するのか?」
廣瀬 演劇に詳しくない私が言うと火傷するかもしれませんが、とにかく外に向かって表現するという行為ですから、「活性化」につながる可能性は孕んでいると思います。
若い人たちが叩かれることを嫌う風潮があるようですね。怒られ慣れていないとか。失敗したくない。怪我をしたくないという風潮を変えて、外に向かって表現をする、チャレンジをしてくれる環境を整えたいですね。
斎藤 北海道を現場として考えて、例えば大阪のクリエーターが入ってきてもいいんですよね?
廣瀬 そうです。
斎藤 演劇にも他の地域の優れたアーティストが北海道に来て、観客も北海道まで観に来る、そんな劇場環境が北海道にできればいいと思っています。
廣瀬 テクノロジーが進むと、その土地が持っている”意味”が、ますます重要になって来ると思うんで、そこで生まれるものに、もっともっと注目すべきです。
三上 札幌に必要な〇〇は挑戦。廣瀬さんがそう言いましたが斎藤さんは?
斎藤 被っちゃったんだよね。挑戦とか、冒険とか…僕もそんな方向性を用意して、今日は来てました。ただね、いま聞いてくださっている人から上がってきたこれ、
「成熟した穏やかさを備えた大人の都市を目指すということ」
まさにこういうことが言えるといいなぁって思うんですがね。ただ、敢えてもっと挑発できればいいかなあと今日は来ているので、一旦「成熟」とか「落ち着いた」というキーワードは棚に上げてみようかと。
昔はね、もっと実現不可能な夢とか幻想を語る奴がいたんじゃないかって思う。テクノロジーがきっと未来を豊かにするんじゃないかって思ってました。
今は弊害ばかりが語られて、風潮の中に何か自己規制的な堅苦しさがあるような気がするんです。途方もない、あり得ない夢を語って、実現をするためにはどうすればいいかって語るような場が札幌にあった方がいいんじゃないかという事を先月ぐらいから急に感じていて、今日は随分若い人たちにも声を掛けたら、たくさん来てくれているんですけどね。
先ほど廣瀬さんのお話の中で「若い人たちが怒られ慣れていない」とか「叩かれることを恐れて新しいことを始めない」とか「指示待ち」とか「様子見」みたいな若者分析がありましたけど、実はそういう社会を作ってきたのは私の世代なのではないかって思ったんです。
私はそろそろ死にゆく身ですから、これから途方もない未来を描く人たちが、それこそ地図のない未来ですか?そんな地平を描けるような社会を用意することが、僕の残り少ない余生のミッションなのではないかと、つい先日思いまして、今日はそういう着地点で来ています。
NoMaps、今度、ちょっと覗いてみますね。
三上 何か一緒にやれるといいですよね
斎藤 若い人がどんどん行くべきだよね。演劇のプロデューサーは行ったほうがいいんじゃないかなあ。
三上 斎藤さんが3年前に札幌に戻って来て、札幌の演劇がどう見えているのか、これからの課題とか?斎藤さんなりの見え方はいかがですか?
斎藤 札幌で我々の先輩たちが演劇シーズンのようなことを創られて、これは東京の演劇人から見ると、驚異的な取り組みなんです。
最初、うちのシアターZOOと、コンカリーニョって言う2つの民間劇場だけで始めたんですよね。それをいくつかの企業の方々が支えてくださった。2回目からは札幌市も加わってくれて実行委員会ができたんです。そんな演劇シーズンも、2022年に10周年になります。
恒常的に発展させて、そもそもは「札幌で100人の演劇人が食える」という状況を目指してプロジェクトがスタートしたんですが、10年前よりははるかに環境は整っていると思います。オーソドックスなものが育ち始めていると思います。
王道があって、カウンターがあるはずなんですよね。サブカルチャーって、主流のカルチャーがあるからサブなんでしょ?昔はサブとかカウンターだらけだったんでね、演劇って。
斎藤 「今札幌に必要な〇〇」。僕にとって、この〇〇は、「野心」ですかね。野心を抱き続けられる体力も必要ですが。
三上 廣瀬さんは、「挑戦」ですか?
廣瀬 他の町に行って、色々な話を聞いていても、札幌の若者の新しいことにチャレンジする動きは、比較すると弱い、少ない、足りないと思います。誰かの背中を見て周りの人がチャレンジするんですけど、誰も動かなかったら、何も起こらない。
今の若者よりも、もっと若い世代が20歳になった時の社会のためにできることをできるだけやりたいと思っていて、今の若い人よりも、もっと若い人が、それよりも年上の若い人のことを見ていて、「あの人のようにやりたいなぁ」と思えるような環境を作りたいと思っています。
なにか「やろう」と思えるような、気概を持っていいんだと思えるような、そんな北海道になるといいなぁと思っています。
斎藤 何か、被っちゃったよね。
廣瀬 きっと演劇だからとか、経済だからとかじゃなくて、こういう時代に生きていると、そう感じてしまうんじゃないでしょうか。ジャンルを問わず、クロスすることを増やしてゆきたいです。フォワードがもっといた方がいいので、もっともっと、悪だくみをしてゆきたいです。
三上 今斎藤さんが抱いている「野心」はどんなことですか?
斎藤 恥ずかしくて言えない。
三上 いやいや。
斎藤 やっぱりここに世界中から人が来ることかなぁ。ちゃんと基礎的で専門的な能力を持った人たちが、ここにきて、ここで創って、ここから輸出する。
去年、そういう実感を得ることが出来る仕事が札幌でいくつかできたので、そういうことをこっち主導でやる。あっち主導で「あそこで創ると安く作れるぞ」ってなると植民地みたいになっちゃうんで、こっちが主導でというのが大事なんですけどね。
廣瀬 「どうやったらクロスできますか?」という質問もあったんですけど、中身にもよるんですけど、いつでもどんな話でもウエルカムというのがスタンスですので、出来る限りサポートをして北海道を面白く、済みやすく、働きやすくするための活動をやって行きますので、この後の名刺交換とか、色々喋りましょう。
三上 今日は皆さんにも、沢山、拾いきれないほどの質問やご意見を頂いてありがとうございました。今日はこの辺で終わりにしたいと思います。お二人とも、どうもありがとうございました。
2019年7月30日
北海道教育大学札幌駅前サテライトにて
セミナー&クロストーク『いま、札幌に必要な○○』|演劇創造都市札幌プロジェクト2019
TEL/011-520-0710(北海道演劇財団)
Mail/ayumu@h-paf.ne.jp