札幌で20年以上演劇を創り続けている劇団コヨーテ主宰・亀井健さんと、平和の鳩主宰・横尾寛さん。
40オーバーのオジサン二人が今年新たに立ち上げたユニット「鳩と狼」が、5月15日~19日に演劇専用小劇場BLOCHのプロデュースで演劇を上演します。
作品は、二人が敬愛する別役実の名作戯曲「天才バカボンのパパなのだ」。不条理劇の巨匠が描くナンセンスの世界をどのように創り上げるのか。
4月某日。「鳩と狼」について、作品について、亀井さんと横尾さんのお二人にうかがいました。
取材 鶴岡ゆりか(演劇専用小劇場BLOCH)
「鳩と狼」が別役実を上演
ー 新しく立ち上げられた演劇ユニット「鳩と狼」。2人でユニットをつくろうと思った経緯やきっかけを教えてください。
亀井健さん(以下、亀井) なんでこんな劇団作ったんですか?って聞くのって…不思議な質問ですよね。どう答えていいか難しいですけど
横尾寛さん(以下、横尾) 難しいですね。そうやることが自然だったから…ってのも頭悪そうだしね。
じゃあ真面目に答えますけれど、2018年11月に 劇団コヨーテ の『優しい乱暴』という作品で亀井さんとご一緒させていただいて、その時期札幌で上演していた作品の中ではおそらく一番素晴らしい作品だったんです。亀井さんのことは昔から知っていたんですけれども、一緒にやるのはそれが初めてでした。
その時に、オリジナル作品はコヨーテでやるだろうから、今度は既成のホン(脚本)やりましょうかって話になりました。ちょうどBLOCHさんからお声がけいただいていたということもあります。
脚本候補は色々あがりました、アラバール(劇作家:フェルナンド・アラバール「戦場のピクニック」等)とか。だけど、結局日本のやりましょうかってなって。
亀井 二人芝居しようかとも考えたんですけど「二人じゃ寂しいね」ってことで。
横尾 僕たち結構恥ずかしがり屋なので、二人だとちょっと気まずいかなと。大和田さん(出演:大和田舞)みたいな人がいたほうがやっぱりやりやすいんでね。作ろうと思った経緯はそんな感じですね。
ー いまの札幌で、別役実作品を上演することの意義とはなんでしょうか。なぜこの作品を選定したのですか。
亀井 「いまの札幌で」という意味がちょっと分からないのですが…いまこの国で、と言われると思うところはあるんですけれども。
横尾 これは表現行為をやっているからこういうことを聞かれるのかなあ。聞かないでしょう?ラーメン作ってる人に「いま札幌でこの味噌ラーメンを作っている意義ってなんですか」と。
亀井 別役作品を選んだのは、面白いから。
横尾 ただなぜこの作品を選んだのかとなると…。
亀井 あの、最近僕はなんとなく窮屈な気がしているのですが、最近になって「なんで札幌なのか」とかよく聞かれるようになったなあと思って。
札幌が演劇都市だ!とか言ってるのもよくわからない。そんな都市、この国にはないですよ。
横尾 豊田市は工業都市でつくば市は学園都市かもしれないけど。
亀井 これからそういう都市になったらいいねと思ってる人がいるんだろうけれど。
横尾 それはねえ…ならない!
亀井 ならないですよね、この国に演劇が好きな人がどれくらいいるのか考えると。
横尾 東京以外で公共予算を突っ込んで芸術劇場を作って、偉い人呼んできて文化創造都市にしようという試みは日本各地でやっているけれども。
そして、それはまあ東京じゃなくても色々観れる、ひょっとすると東京でも観られない出し物を観られるまちにはなっているかもしれないけれど、じゃあそのことが演劇都市というのか…?
ほんとそういうのって、誰が考えるんだろうね。
亀井 不思議ですね、この最近の傾向。
演劇が面白ければ(都市に)人が集まってくるだろう、という思いはあるんです。けど、観劇人口の割合なんてものすごい少ないわけじゃないですか、それは世界各地どこでもそうで。
で、作る側としてまずはその「演劇を見てる人全員に観てほしい」から始めないといけないはずなんです。なのに皆「演劇を見たことない人に足を運んでもらいたい」とばっかり言っている。
そんなことを考えていると、別役さんの作品はいいなあと思ったわけです。難解なセリフとか一つも出てこないですからね。聞く相手を選ばない。哲学的でも詩的でもなく日常がずれていく感じ。そのズレが見るに値するんじゃないかと僕は思うんです。
横尾 いまの札幌だからこれをやろう、とかは全然考えてないです。まあ別役さんの作品は昔から読んでるんですけど、バカボンも昔からいいなあやりたいなあとは思っていて。
で、亀井さんとユニットを作るとこいういうのがやれるんじゃないかと。
ただ、上演するハードルはかなり高いと思っています。
こういう言い方は差し障りがあるからぜひ記事に載せていただきたいんですが、馬鹿ではできないなと思っていて。
亀井 (笑)
横尾 このハードル高い作品をいまやるのは、自分にとって意義があるってことかなあ。そうじゃないとやる意味がないので。
札幌にとって、とかお客さんにとっての意義とかは…差し障りがある言い方だけど(笑)、興味がないというか。
自分にとっての意義がすごくあるということですかね、別役さんのこの作品に今のこの状況で取り組むということが。20代の頃はやらなかったし、60代になってもやってるかもしれないし。だから「札幌」にとってどういう意義があるかは…正直わかりませんなあ。
亀井 わからないですね。僕はなぜ自分が札幌に住んでいるのか?って考えるのは高校生くらいでやめました。
横尾 それを考えてくとなぜ生きてるのかを考えることになっていくからね。ま、考えてもいいんだけど。考えることも、あるけどねぇ。
亀井 日常生活のなかではね。
横尾 みんなたまには考えるでしょ。
亀井 僕は演劇をやればやるほど、なぜ生きてるのかを考えてるかもしれないです。誰かの評価がほしいわけでもない、でも必死に演劇をやってる僕はなんなのかって考えます。
自分に褒められたらちょっと嬉しいかもしれない。でも自分で自分を褒めることなんて人生で何回あるんだっていう。
横尾 ないですねえ。
亀井 「面白かったよ」と言われるのは嬉しいですけど。でも面白かったとも言えないくらい悩んでくれたほうが嬉しいかもしれない。
「一週間、頭にこびりついて離れなかった」とか。その人の人生の何かに少し影響を与えられたら嬉しいなあと。
亀井 僕が演劇を初めてみたのは芝居をはじめた17歳の時で、イナダ組と『花札伝奇』と『亀、もしくは…。』です。生で観るのは初めてだったからすごく新鮮でしたね。
横尾 どれが一番つまんなかったです?
亀井 つまんなかったのは…イナダ組ですね(笑)
意味がわからなかったですね。ゲイの二人が愛し合ってるのはわかったんですけど、それ以上のストーリーが全くわからなかった。ナックスの二人がただただ愛し合いたいんだなあ、と。
横尾 ほほう。
亀井 『花札伝奇』は大通でテント公演で。寺山修司をやってたんですけどとても素敵でした。『亀、もしくは…。』は初演でした。
横尾 あの頃は、全国的にもそういう時代だったんだと思うけど、社会の中で演劇が持っていた熱量が大きかったんだと思うんですよね。
まちと演劇の関係の本質的な部分で、あの時代と今とどっちが幸せかというと…俺はわかんない。やる環境としては今の方が恵まれてると言われたりもするけどねぇ。
亀井 恵まれると衰退するのが芸術ですからね。
横尾 だいたい、こういうジャンルって恵まれてるやつがやってるのを見て面白いかね。
クラシックなジャンルは別ですよ。圧倒的な訓練と素養が必要なジャンルに関しては、恵まれた環境で3歳からお稽古してきた人じゃないと出し物として成立しないから。
でも僕らがやってるのてそういうものではないから。みんなそんなに…俳優修行してないでしょ。
亀井 してないですね。昔よりもさらにしなくなったなあと思いますね。
横尾 本読んでないしねえ。
亀井 誰でも役者になれる感が強いですね。まあなれるんですけど。
横尾 やっぱり環境が恵まれてくれば、演劇に関わって人を集めて公演を打つということのハードルが低くなるじゃないですか。
それが演劇というものにとって幸せなことかどうかはわからない。わからないってことは不幸なんだと思っているんだけど。「(演劇は)そんな簡単なもんじゃないんだ」とか言いたいわけじゃないんだけど。
亀井 簡単なもんじゃない、とは言いたくないですね。
横尾 でも環境が良くなればなるほど、やってる側はそのことに対して自覚的じゃないと。
なぜ演劇を続けるのか
ー 演劇を作り続ける、演劇に関わり続けるお二人のモチベーションはどのようなものですか。
亀井 難しいですなあ。
ー 亀井さんは、演劇をはじめて何年経ちましたか。
亀井 はじめたのが17歳からだから…25年? 役者だけやってる頃はただ楽しいだけだった。
でも人の書いたものをしゃべって、なんとなく上手くやるってのがあんまりおもしろくなくなっちゃった。だから自分で脚本書こうと思ったんだけど。20歳で旗揚げしてもう23年くらい書いてます。
モチベーションってなんだろうなあ。でも自分で書いた方が楽しいかも、自分の思いを伝えられるかも!と思ってたのに、いま別役をやるていう。
若いころは別役さん素敵だなーとは思ってたけどやりたいとは思わなかったんですね。誰かがやればいいじゃんて思っていて。やっと自分でそれを面白がって作れるようになったんだなと思います。
書かれていないものを、さもカタチあるものかのように表現したくなったんですよね。最近ハマってるんです、言葉を超えなければいけないってことに。書かれていないものを表現すること。
なんか原点に立ち返った感じがしますね、役者だけやってた頃はそこばっかり目指してたはずなのに。自分で脚本書いたり演出するようになって、囚われ過ぎてたなあって。
だから役者もセリフ言ってるばっかりじゃダメじゃんって思って。
横尾 モチベーションね。演劇をなんでやってるんですかってことなんだろうけど。
あのね、「演劇はとにかく面白くなくちゃ」とか「結果がすべて」みたいな言葉が本当に嫌いで。「結果がすべて」なんて言われたらあたしゃとっくに死んでなきゃいけないしさあ、そんなこと言うなよーって。
やっぱり演劇っていうのは出し物だし見世物だから、お客さんがお金払って観に来てくれるでしょう。
そうすると、まあ、形としては舞台上で人が何かちゃらちゃらやってるから「ショー」ということになってますわね。そして、ショーってのは「面白い」ということにどうやらなっているらしいんだけど…。
ただ、僕は、“人々がエンターティンメントのショーを見て喜んでいる”ということにあんまり興味がない。自分がショーをみて「わあー」ってなる方じゃないから。
じゃあ、演劇ってそうじゃなきゃ存在できないのかと。残念ながら僕、エンターテナーになる訓練受けてないしね。本物のエンターテナーっているからさ、世の中に。僕はそうじゃないんですよ。
いや楽しんでもらいたいんだよ、もらいたいんだけどね。
亀井 うんうん。
横尾 人間にはさ「思索」っていう行為があるじゃないですか。それってとても大事な行為だなあと思っていて。
演劇が、思索の過程で発生するものと考えてもいいんじゃないかと。
別に、観て「楽しむ、喜ぶ、ワクワクする」じゃなくても、誰かが何かを考えて作ってみたという過程や結果をみて楽しむということがあってもいいんじゃないかと思っていて。別に大笑いも大泣きもしないけれど。
だから自分にとってのモチベーションてのは…考えてる、考えるのがモチベーション、かなあ。
亀井 普段なにがモチベーションかなんて考えてたこともないですからね。
横尾 なんでやってんのかってことでしょ。
亀井 生活するため。
横尾 そういったら格好いいけどさ。
ー 横尾さんの経歴をお伺いしてもいいですか。
横尾 僕は演劇はじめるの遅いんですよ、23か24から始めて。それまでは山とかばっか登ってたんで。芝居なんてあんな…汚らしいって思ってました。「あぁーつまんなそうだな」つって。
ー いきなりHAPP(ハップ、作演出・北川徹の劇団)に入ったんですか。
横尾 そうです。HAPPはじめてすぐの頃に、べんと箱(代表・舛井正博の劇団「芝居のべんと箱」)がルネッサンス・マリアテアトロ(旧札幌本多小劇場)で『ラヴィータ』をやってんの観て。あれ亀井さん入ったばっかの頃でしょ?
亀井 そうですね、2年目か3年目くらい。あの頃は「セリフ覚えて上手になるのはお前らしくない」って言われて無茶苦茶やろうとしてた頃ですね。「演技は上手にやるもんじゃない」って。
横尾 舛井さん?
亀井 舛井さんは、役者は勝手にやればいいって感じですね。
横尾 劇団を一緒にやってた北川ていうやつが、マイムをやってたのね。
マイムの基本は脱力とか、力を抜いて歩くとかそういう考え方で、初期のHAPPはそんな稽古ばっかりしてた。
だからよくアンケートに書かれましたよ「なんでみんなあんなだらしなく立ってるんだ」「手、だらしない!」って(笑)
亀井 ほんとは僕、舞台になんか立ちたくないですからね。人に見られるってすごい苦痛ですからね。
横尾 あ、そうそう。亀井さんともう一回やろうとおもったのは「日常をちゃんと舞台に持ち込んでるな」って思ったんです。
よく、舞台になると変身する人いるでしょう。俺、変身できないから。
亀井さんて、舞台で変なこととか思いついたこととかいっぱいやるんだけど、それを、そうやってる自分をどっかでバカだなーって思いながら客観的に見ているんだろうなって思って。
観に来てくれる人は友だちじゃなくて他人だから、こっちにそんな興味ないでしょうって知りながらやっている。だってみんな別にファンじゃないから。
ファンの集いならいいですけどね、何やっても喜んでくれるから。
亀井 そのレベルに至ったらいったい何が起こるんだろうって、それはそれで興味深いですけどね。
横尾 でも何やっても笑うって状況はたぶん辛いんだろうね、本当に。だから、一時期、柄本さんの 劇団東京乾電池 とかがやっぱりそうだったんだって。
「客がなにやっても笑う」ってがっかりしたって。で、飽きてつまんなくなっちゃったんだって。
不自然なことを普通にやりたい
ー 作品『天才バカボンのパパなのだ』について教えてください。
亀井 面白いですよ。すごく人間の業が渦巻いてる。
横尾 僕、今回は頭から最後までずっと出てるもので稽古を見てるってことがないもんでね。
亀井 舞台に最初に出るのって大変ですからね。
横尾 この前通してみて思ったのは…時間の進み方が変わることを要求しているのかなあ、脚本が。
次々に人が登場するってことは、そこに何かがあるはずなんだけど。
これがよくあるシチュエーションコメディならわかりやすいんだけど、人が入れ違って食い違いが起きて笑いが起きて物語が進展するっていう。
でもこのホン、ドラマの進展の仕方がめちゃくちゃじゃないですか。変なことを言う人がいてそれでドラマが進んでいってしまうっていう。
セリフに囚われちゃいけないといいつつ、もう一度セリフをやっぱちゃんとしないといけないなと。言葉自体をね。
あ、みどころみたいなことも言った方がいいのかな。
ー 実はBLOCHのこけら落としラインナップに、横尾さんはHAPPで、亀井さんはANDでそれぞれ出演していただいておりまして。18年の年月を経て横尾さんと亀井さんのユニットをプロデュースできるというのは非常に感慨深く、個人的に見どころだと思ったりしてます。
横尾 ああー!そういや、そうか。
亀井 18年って長いね。高校卒業できるもんね。
横尾 18年前と考えてることはたぶん全然変わってると思うんですよね、僕なんかは。今言ったようなことなんか全然考えてなかった。
亀井 あの頃はずっとピリピリしてました。舞台に立つ人間の意義をずっと考えてました。たぶんみんなにも要求してたと思います。
横尾 我々は演劇をやったりしているけれども、そうじゃないみんなも一生懸命生きてる。生き方の一つでしかないなあというのは強く意識するようになったと思いますね。人間として生きている自体が特別でありふれたことだから。
ただまあ普通の人が普通に生活してるよりはちょっと多くの人に見ていただければうれしいなあと。普通に生活していて町内の人たちくらいの人数に注目されるって火事だとか夜逃げしたとか、ね。
人前でちゃらちゃらセリフをしゃべりますけれども、まあ普通にやりたいなあと思っております。
亀井 普通に、が一番難しいですからね。舞台に上がること自体普通じゃないですからね。
横尾 「自然な演技」とかいうやついるでしょう。
亀井 いますね。頭おかしいですよ。
横尾 こんな不自然なことやっててよくそんなこと言うわって。
だから、こう、ちゃんと、人前でしゃべるっていう不自然なことを普通にやりたいなあというふうに考えております。
亀井 そうですね。
横尾 見に来ていただけたら嬉しいです。こんなところでしょうか。
亀井 はい。今日はありがとございました。
スープカレー「万屋マイキー」にて
今回、二人がお邪魔したのは「万屋マイキー」。濃厚なスープに新鮮野菜がざくざく入ったスープカレーが人気のお
BLOCHからすぐなので、公演期間中は劇団員もよく利用してい
参考
curry store 万屋マイキー公式Twitter