東京を拠点に活動する演劇ユニット「ブス会*」を主宰するペヤンヌマキさんと、女優の安藤玉恵さんによるリーディング作品が札幌で上演されます。
谷崎潤一郎の名作『痴人の愛』の登場人物を男女逆転した脚本を、AV監督の経歴も持つペヤンヌマキさんの独自の解釈と演出により、現代的に描いています。
間違いなく、札幌ではなかなか観ることのできない作風です。その魅力と、見どころについて、ペヤンヌマキさんにうかがいました。
1976年生まれ、長崎県出身。ブス会*主宰/脚本・演出家。
早稲田大学在学中、劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。2004年よりフリーのAV監督(ペヤングマキ名義)として活動する傍ら、劇団ポツドール番外公演‘女’シリーズとして、2006年に『女のみち』、2007年『女の果て』を上演。(脚本・演出)
2010年、演劇ユニット「ブス会*」を旗揚げ。以降全ての作品の脚本・演出を担当。第4回ブス会*『男たらし』、第6回ブス会*『お母さんが一緒』が二年連続で岸田國士戯曲賞最終候補作品にノミネートされる。2017年より、女優・安藤玉恵と新たなプロジェクト「生誕○周年記念ブス会*」を始動。第1弾の生誕40周年記念*ブス会『男女逆転版・痴人の愛』はリーディング版で全国ツアーを実施中。
また、フリーの映像ディレクター・脚本家としてテレビドラマなども手がける。
BSテレ東『メンズ温泉』(演出)、テレビ東京『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』(演出)
NHK総合『祝女シーズン3』(脚本)、フジテレビ『リテイク 時をかける想い』(脚本)
NHKラジオ 劇ラヂ!ライブ『ふたり暮らし』(脚本・演出)、テレビ東京『恋のツキ』(脚本)
女性の面白さを描く
ー はじめに、「ブス会*」がどのような団体か、結成した経緯も含めて教えてください。
もともと私は、早稲田大学在学中に ポツドール で演劇をやっていました。旗揚げ時から役者・スタッフをやっていたのですが、2006年に特別公演として<女シリーズ>の作・演出をするようになり、これがブス会*の前身となっています。
ブス会*の作品では、「女性」がテーマとなっています。
ポツドールは男性中心、男目線の芝居が多かったのですが、私は女同士の会話の面白さを描きたいと思っていました。
また、大学卒業後にAV制作会社に就職したという経験も大きいですね。撮影現場でAV女優たちの会話や人間関係を見て、これがすごく面白くて。<女シリーズ>最初の作品『女のみち』は、5人のAV女優の撮影現場での人間模様を描きました。
これがきっかけで、女芝居をやりたいと思い、ブス会*が誕生しました。
ー 今回上演される作品『男女逆転版・痴人の愛』はどのような作品ですか。
ブス会*として、初めて古典作品を原案につくった作品です。谷崎潤一郎の長編小説『痴人の愛』(1925年)はもともとすごく好きな作品でした。若い女におじさんが翻弄されていく様が面白くて。
きまじめなサラリーマンの河合譲治は、カフェでみそめて育てあげた美少女ナオミを妻にした。河合が独占していたナオミの周辺に、いつしか不良学生たちが群がる。成熟するにつれて妖艶さを増すナオミの肉体に河合は悩まされ、ついには愛欲地獄の底へと落ちていく。性の倫理も恥じらいもない大胆な小悪魔が、生きるために身につけた超ショッキングなエロチシズムの世界。
初めて読んだのが10代のときだったのですが、その時は全然意味がわからなかったんです。でもそのあと大学生でもう一回読んでみると、女性側に感情移入できるようになって、おじさんを振り回せる女性に憧れたりしましたね。
それからさらに20年経って、40代になった今読み返してみたら、今後はおじさんの方に感情移入しちゃったんです。自分が年老いてくるについて、自分にはない若さに惹かれる瞬間といいますか。
そこで、この話は男女逆転で描いたら、現代的で面白くなるんじゃないかなと気づきました。
やってみたら、登場人物の性別を逆転しているのに、意外と原作通りでも成立するんです。大きく変えたのはラストシーンのみです。最後は女性ならではの終わらせ方になっています。
ー むしろ、男女逆転したからこそ発見される新しい面白さもあるのでしょうか。
男性が主人公の原作は、少女を妻として良い女に育て上げるという目的なんですけれど、主人公が女性になると、相手が美少年になり、夫としてというよりも息子として育て上げるという、新しい関係性を見出すことができます。母性が出てくるんです。
息子として、というのは建前でもあるんです。この子を立派な男性に育てようという母性と、少年を恋人のように見てしまう恋愛感情がどちらも出てくるようになります。
このように、男性主人公よりも、女性主人公の方がより複雑な心理の動きが見えてきます。母性と性欲との間で葛藤する女性の姿が見どころですね。
ー 男女逆転する際に、キャスティングはどのようにこだわられましたか。
もともとこの作品は、安藤玉恵さんと私が同い年で、40歳記念公演として2人で何か作ろうと言って始まりました。『痴人の愛』は、安藤さん主演でやるのがぴったりだと思って選びました。
美少年ナオミの他に数人の男性が出てくるのですが、これは1人の俳優に何役もやってもらいます。ナオミ以外の男を、1人で演じ分けてもらいます。
ー 今回はリーディング公演ですが、これには何かこだわりがあるのでしょうか。
実はこの作品は、2017年12月に演劇として上演しています。もともとリーディングは、これのプレ公演として上演したものでした。
文学作品がもとになっているので、台詞がそのまま生きるリーディングというやり方がすごくフィットしていました。セットもいらないので、地方公演もしやすいんです。
言葉の響きを生かすために、谷崎さんの文体をそのまま使用し、文学の世界へいざなうような翻案・演出にしています。
リーディングと言っても、割と役者は動きます。ただ朗読するだけではなく、視覚的にも楽しめる場面は多くあります。スクリプト・イン・ハンドという形式に近いですね。
さらに、ヴィオラとヴァイオリンの生演奏もあり、語りと音楽の一体化した表現を楽しんでいただけると思います。
初めての札幌公演
ー 札幌で公演するのは初めてということですが、どうして札幌公演を企画されたのですか。
私は北海道が大好きで、よく観光でも行っているんです。一度は公演したいなと思っていたのですが、セットを持っていくのは予算的にも難しいことが多いので、今回リーディングだったら行けるかなと。
この作品はこれまでも、古民家や茶室など、各地方の劇場ではない場所で上演してきました。札幌すすきのにも良いお寺があると聞いたので、ここでできたら面白いな、と。
セットを組むわけではないので、せっかくならその会場自体の良さを活かしたいと思っています。
ー 札幌の演劇環境についてどう感じられますか。
あまり詳しくはないのですが、地方都市の中ではかなり盛んだとは聞いています。
ー 札幌は現在、「演劇創造都市札幌プロジェクト」や「札幌演劇シーズン」といった活動を通して、札幌演劇を札幌の財産にしていく取り組みを行なっています。まちに演劇が文化として根づいていくために必要なことは何だと考えますか。
演劇はチケット値段が高く、観るハードルも高いですよね。観に行っても自分の好みじゃなかったら、もういいやってなっちゃうことも多い。
今回の作品は劇場外でやるので、劇場に普段行き慣れていない人にも、こういうのもあるんだって気軽に足を運んでいただけたら嬉しいです。
ー どのようなお客さんに観に来て欲しいですか。
観る年代によって、感じ方が様々だと思いますので、ぜひ若い方にも観ていただきたいですね。特に、若い男性がこれを観たらどのような感想を抱くのかは気になります。もしかしたら「女は怖い」と思うかもしれません(笑)
女性の方は、共感できる内容だと思います。地方でこれまで上演したときも、子育てのことを思い出したという感想をけっこういただきました。
ー 最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
このリーディングツアーは、日本全国の女性を元気にしたい!というスローガンでやっていますので、札幌の女性は、ぜひ観て元気になって欲しいです。男性にとっては、物珍しいものとしてうつり、人それぞれの感想を持たれると思います。
ー ありがとうございました。
ありがとうございました。
2019年4月24日
東京都内某所にて