複数のグループが同じ日に同じ場所でステージングをする「対バン」、これの演劇版「対劇」が札幌に誕生しました。
「対劇」とはどのようなイベントか、なぜ複数のグループが同時上演するのか。そのメリットと可能性について、7月に上演される「対劇 vol.2」に参加するお二人の演出家にお話を伺いました。発案者でもある佐々木龍一さんは、今回初めての演出兼出演に挑戦され、松浦尚紀さんは、「対劇 vol.1」を観劇して今回参加することを決めました。
「回数を重ねて、皆さんに「対劇」というイベントの周知をしていければと考えています。」
1983 年 11 月 29 日生まれ、34 歳。 代々木アニメーション学院札幌校を卒業後、恵庭で演劇活動を行っていたが、札幌への憧れを抱いて 札幌へ。
やがて、偶然の出会いからラジオの世界を紹介され、2008 年より Radio D FM ドラマシティ(現在は Radio TxT FM ドラマシティ)にて、9 年間ラジオパーソナリティとしてラジオの世界に身を投じていた。 現在は役者、音楽、MC やイベント企画、ラジオドラマ制作、ネットラジオ「D’s Bridge Bar」のパーソナリテ ィ等、多岐に渡って活動をしている。
札幌ビジュアルアーツ タレント・俳優科卒業。上京し俳優活動を転々とした後、演劇の地域性に着眼す るため帰札し、現在は札幌で俳優・演出の活動駆け出し。
「対劇」にかける思い
ー 『対劇』はどのようなコンセプトの公演ですか。開催のきっかけも含めて教えてください。
佐々木龍一(以下、佐々木):対劇は音楽ライブでよく言われる「対バン」の演劇版として立ち上げました。 「対バン」は、ミュージシャンやバンド、アイドルなどの歌手がライブを行う際、単独名義ではなく、複数のグループと共演(競演)することです。
演劇は基本的に旗揚げ公演、そこから第二回、第三回とナンバリングを重ねていくのが基本だと思って います、これって音楽に置き換えるとワンマンライブを続けていくということですよね。ワンマンライブって絶対お金掛かります。演劇もそう、お金掛かりますもの、だから単独で続けてきて、どんなにいい作品を生み出すところだって、違う側面で限界があったりするんじゃないかって、勝手ながら思っていました。続けるには作品を作ることへの情熱も必要かもしれないけど、先立つものはお金じゃないですか、生々しい話(笑)。じゃあいっそ、色んなバンドが出演する、経済的に優しいブッキングライブみたいなものを演劇版で作ることが出来ないかな、と思い、2団体共演という形でまずは発足しました。
現在向き合うものが多くて大変ですが、そこはトライ&エラーでよりよいイベントに出来るよう、まずは回数を重ねて、皆さんに「対劇」というイベントの周知をしていければと考えています。
内容としては劇団同士、ユニット同士、または役者同士という形で、様々なブッキングを行い、「こことここの作品がいっぺんに見られる!いいね!」っていう感じのものを目指しています、役者同士の対劇の場合は、役者のブッキング次第でその時しか見られないメンバーで作品を作ったりもする機会にもなるの で、思わぬ組み合わせも見られたりするかもしれませんね。
上演時間は一本30分以内という時間に制限して、短めの作品をまずは御観劇いただきます。その劇団やユニット、役者が気に入れば、そこを追いかけて本公演、長い時間の作品を観に行ってもらう為の橋渡しになれたらって思っています。 あと、「劇場が入りにくい!」ってよく聞くので、いっそ劇場外でやろうと、今はライブハウス内にある実際の Bar カウンターを使っての上演を行っております。 なので、当イベントは1ドリンク付きです。飲み物を飲みながらの観劇が出来ます。
発足のキッカケは、自分が FM ドラマシティにて担当していた番組が 200 回目を迎えた最終回の時、出演して下さった様々な方に今後やりたいことみたいなのを聞いていって、最終的に自分も答えることになって「演劇のイベントを作る」って宣言したことです。この発言、生放送の終わり際に言ってしまったんです、これはもう逃れられません。
ちなみにこの時、発言直後に星くずロンリネス代表の上田龍成くんが「言ったな〜♪」と、ニヤ ニヤしながら言っていたのを思い出します。 上田くんは、当時担当していた番組のアシスタントを隔週でしてくれたり、色々ラジオで助けてくれた心強い仲間の一人です。そんな彼ととある日、地下鉄で帰った時にふと「俺は色々なことをやって、楽しんでいる龍一さんがもっと見たい」って言ってくれたことがあって、今思えばそれも様々なことに挑戦する原動力の一つだったのかもしれません。
松浦尚紀(以下、松浦):僕は以前の公演の「対劇 vol.1」をお客さんとして観劇しまして、そのコンパクトな上演スタイルと、主催の佐々木さんが職場の元先輩だったので、お、これは!ってなって、参加しました。結果的に、今回は職場の先輩後輩で 演劇バトルするイベントになっちゃいました。
ライブハウスでの公演で、お酒飲みながら見れるのが魅力的です。近頃はそこまで目新しさはないかもしれませんが、上演の長さも 30 分×2=60 分に休憩 10 分で合計 70 分ほどです。比較的ゆったりとご覧頂けます。
ー それぞれの作品のあらすじや見所を教えてください。
佐々木:今回 Team 佐々木が上演する「Black-out」は、記憶を消すことの出来るお酒がもしあったら、という、ファンタジックな要素を含んだ作品となっております。 記憶を消すことの出来るとされているお酒、Black-out を保有している Bar G・G、そこの情報を調べて 1 人の女性がお店に入ってくるところから、物語は始まります。
今回脚本を手掛け、出演もするのですが、実は人生で初めて舞台作品の演出に挑戦をしております。 ガッツリ会話劇でして、その中で出て来る 4 人の人物の言葉の端々に気を配りながら、稽古を進めています。見どころとしましては、Black-out を飲みにくるお客さんの葛藤でしょうか。自分の記憶を消すことが出来るって、実はすっごく重大な決断で、その後の人生も左右しかねない物事、それをヒトはどう向き合っていくのか、という部分を、30 分以内という決して長くはない時間の中で、描けたらなと思って います。
松浦:僕の作品は、外の世界が荒廃して無人のバーに取り残された少年が、生き別れた少女にずっとラブレターを書き続けてるんですけど、意識が朦朧としてきて、だんだんと見えないものが見えてきてしまう、という話がベースです。
佐々木さんのが会話劇なのに対して、僕のはあまり人とのそれらしい会話がなく、抽象的なのが特徴かもしれません。作品のトーンは、ちょっと奇妙で退廃的な感じに仕上がってきてて、向こうは僕のよりもずっと明るい感じ。お互いの作品が全く雰囲気違う感じなのが対比きいてて面白みを感じて頂けるかもし れませんね。
因みに僕のチームの上演は「恋文ミ、文字も掠(かす)れ、揺(たゆ)タウう」というおかしなタイトル。恋文に 「ミ」はいらず、「揺タウう」は片仮名と平仮名がごちゃごちゃに。
劇中では手紙を書くことを象徴的に描いてるんですが、同時に人為によるエラーというのも隠れた想いと して、タイトルも変な感じにしています。
初めて演劇を観る人のために
ー どんな方に観にきて欲しいですか。
佐々木:演劇初めて!って方には特に来てほしいです。一本数百円の観劇料金、実にお手頃に演劇を楽しめる機会と思っていますから、チャンスと思って欲しい。 普段の劇場とは違う雰囲気の上演環境で、ソフトドリンクやお酒を飲みながらの観劇は、乙なものと思います。
勿論、演劇大好きな人や、演劇をやっている人にも来てほしいです。あわよくば演劇やっている人は「対劇やってみたい」って思ってくれると尚嬉しいです、何せ今回 2 回目を迎える対劇相手の松浦は、1 回目のお客さんでしたから。
松浦:よく演劇は身内で閉じるって言いますよね。外部の人に見せなきゃいかんぞ〜、というか。
その通りなんですけど、僕の場合はまず、職場の先輩後輩とか、僕の親族とか、そういう人にアプローチ かけるって意識がどっかにある気がしてます。ママとパパに発表する、みたいな。自由研究みたいでなん かちょっとアホくさいですけど。
そういう気持ちがまず大事だと思います。じゃないと、その外部にもアプロー チにならない気がして。僕と、僕の周りで作ったもの、こんな風になっちゃいましたよ、という報告精神です。
閉じるんなら、まずは徹底的に閉じてしまう。それが、かえって開くことにも繋がるっていう考え方を片隅 に持ってやっています。
ー これからの札幌演劇環境が、こんな風になったらいいな、という理想はありますか。
佐々木:大雑把な言い方をすれば、演劇が娯楽の選択肢になってほしいです。演劇に出会うキッカケってなかなかに希薄なもので、大体が友人とか知り合いがやっているから観に行くというのかはよく聞きますね。自分もそうでした。
でも逆に、これしか出会いがないって考えたら、当たる確率メッチャ低い!もっと演劇、舞台という世界が札幌の土地に浸透していったら、いい環境が出来上がるんじゃないかな、と思っています。具体的な方法論が途端に浮かんでくるわけではないのですが、少なくとも普段生活していて「演劇観に行くんだよね」って、気軽に言える環境になったらいいなって思っています。
松浦:演劇は、人の心の中にまで突っ込んでったり、変化を起こしたりしちゃいがちじゃないですか。だからこそ、価値観も規律も多様化するし、何かを固定したりするのって難しいですよね。それは作る上でも、作るのをサポートする上でも、見る上でも。
だから、そういう多様な人たちが、それぞれできちんと棲み分け出来るような環境になってほしい、みたいな願望があるんです。ああ、あいつはこれやってるから、おれはこれやるか、という。
ある特定のイベントやカリスマ性によって演劇人を牽引する精神も大事ですが、自分たちの単一的価値観を普遍化しようってベクトルに陥るのはよくない。
自分の価値観を一度保留して、外の価値観に耳を傾ける。価値観が複数あることを想定して、それを評価出来る視点。複数の価値観が隆盛出来るよう、牽引者が環境作りのサポートをすること。芸術的な文脈での社会包摂、というか。
札幌演劇でも、複数の価値観がより複数として、より円滑に共存するための精神が広がると、もっともっと豊かになるんじゃないかなと思います。漠然としちゃって、すみません。。
ー 最後に、この記事を見ている方にメッセージをお願いします。
佐々木:演劇って面白いですよ、お客さんとお芝居をする役者との距離感の近さは、映像では当然実現不可能だし、その熱量がひしひし伝わる感じが堪らないんです!お届けしますは、毛並みの全く違う作品 2 本。片や会話劇、片や会話しない劇、正反対の作品が揃いました。7月13〜14日の2日間、この記事をお読み頂けているみなさんのご来場をお待ちしております!!
松浦:札幌演劇シーズンの傍らでひっそりと、されど熱量はさながらなコンパクトな演劇イベントになっております。「対劇」というタイトルの通り、佐々木と松浦でバチバチと切磋琢磨して作った短編劇 2 本の上演です。ぜひ、お互いの舞台を見比べに Space Art Studio までお越し下さい!
公演情報
タイトル | 演劇ブッキングイベント「対劇 vol.2 Team佐々木 龍一×Team松浦 尚紀」 |
会 場 | Space Art Studio |
日 時 | 7月13日(金)17:00/20:00 7月14日(土)14:00/17:00/20:00開場は上記開演時間の30分前より。 お互いのチームの作品上演時間は1本30分以内、イベント自体は70分程を予定しております。 |
概 要 | ~「対劇」とは?~ 音楽ライブにおけるブッキングライブ「対バン」の演劇版を作りたい!ということで、2018年2月より開催された演劇イベント。 当イベントの作品上演時間は一本30分以内と、従来の演劇における時間より短めとなっており、札幌を近郊に活動するユニットや劇団、または役者さんにチームを作って頂いたりして、上演を行っております。 公演場所も、一般的に劇場と呼ばれるところではない場所で行いたいという思いから、現在は実際のBarカウンターを使っての公演を続けております。 キャッチフレーズは「一度の観劇で二度オイシイ演劇イベント」Team 佐々木 龍一 「Black-out」 あらすじ Barと言えばお酒、皆さんにも一つや二つ、お酒に飲まれて消してしまいたいようなお話、ありませんか? Bar G・Gへようこそ、ここはそんなあなたの為のお店です。 お酒を飲んで綺麗サッパリ忘れ、明日からのあなたの人生を、少し楽にしませんか? これは、ヒトが持つ記憶が織りなす、ちょっと不思議なお話です。Team 松浦尚紀 ネスフォ「恋文ミ、文字も掠れ、揺タウう」 あらすじ 人の社会が滅びゆく最中、無人のバーに一人取り残された少年モノロは、離れ離れになった少女ミニエにラブレターを書き続けている。 ある日、無人であるはずのバーに、傘を差した不審な少女が現れた。 |
出 演 | TEAM佐々木 龍一 脚本・演出 佐々木 龍一(〆N’s) 出演 ただの こー(〆N’s)、長谷地 彩夏(北海学園大学 演劇研究会)、小島 梨紗子2号(演劇集合体マキニウム)、佐々木 龍一(〆N’s)TEAM松浦 尚紀 脚本・演出 松浦 尚紀 出演 大橋 拓真、岩田 知紘、成田 果穂 ほか |
Web | |
チケット | 前売1200円、当日1500円 上記の料金に1ドリンク500円が追加となります。・予約フォーム |