iaku横山拓也に聞く・作品の魅力と札幌公演をするワケ

「iakuの作品は、初めて演劇を観る人にも十分に届くエンターテイメントだと思っています。」

大阪を拠点にして活動する劇作家・横山拓也の作品を日本全国で上演する演劇ユニット iaku。多面的な人間観と、関西弁のテンポの良い会話が好評を呼び、数々の賞を受賞しています。

そんな人気絶頂のiakuが2017年初演の『粛々と運針』を札幌で披露します。作・演出の横山さんに作品の見所や、iakuの作風の特徴などをうかがいました。

横山 拓也 Yokoyama Takuya

1977年生まれ。大阪府出身。劇作家、演出家。2012年に演劇ユニットiakuを立ち上げる。鋭い観察眼と綿密な取材を元に、人間や題材を多面的に捉える作劇を心がけ、ある問題に対して議論や口論の構図を作り、正解に辿り着けないもどかしさや、アイデンティティの揺らぎなど、誰もが生活の中で経験する事象をエンタテインメントに仕立てる作風を得意とする。「消耗しにくい演劇作品」を標榜し、全国各地で再演ツアーを精力的に実施。

《受賞歴》
第15回劇作家協会新人戯曲賞『エダニク』
第1回せんだい短編戯曲賞大賞『人の気も知らないで』
第72回文化庁芸術祭新人賞(関西)『ハイツブリが飛ぶのを』の脚本

誰もが突き当たる普遍的な問題を描く

ー 今回上演される作品『粛々と運針』はどのようにして生まれたのですか。

僕は今年で41歳になります。このくらいの年齢になると、演劇やっている仲間も、演劇と関係ない仕事をしている友人も、みんな子どもの問題と親の問題が身近に出てくるようになります。僕自身も、30代になってから、子どもを持つのか持たないとか、家族と演劇との兼ね合いとか、色々考えました。この作品のテーマは、意外と日常にあふれているんですよね。やっぱりそういう話は自然と耳に入ってくるし、作家としても、この話題は常にストックしていたんだと思います。

自分自身を投影している部分もありますし、初演を観ていただいた方からは「私この話したっけ!?」と言われるくらい、多くの人にとって身近な問題が描けたのかなと思います。

以前札幌でも上演した『人の気も知らないで』もそうですけれど、これまでのiakuの作品は、一つの場所と一つの時間の中で、なるべく暗転も挟まないというスタイルでした。しかし、今回の作品を書くにあたって、今までのやり方に固執することは、演劇的な豊かさを最初から放棄しているのではないかと考えました。

この作品は、3つの場所と、2つの話題が同時に進んでいきます。物語の中盤で脈絡なくその空間を合体させて、話題に突然第三者が入ってきたらどのように議論が深まっていくのか、というのが大きなチャレンジです。

親の問題、子どもの問題、命の問題が主題です。

 

iaku『粛々と運針』

iaku『粛々と運針』6月23〜24日@シアターZOO

 

ー 実際に作品を観ましたが、登場する男性の主張の仕方と、女性の主張の仕方に違いを感じました。男性である横山さんが女性的な主張の仕方を描くときは、何からそのヒントを得ているのでしょうか。

どうなんでしょう。僕自身が、男の人が書いてんのかこれ、って思うことがあります。どう書いているのかは説明できないですね…。きっと観察の賜物だと思います。普段作品を書くときは、喫茶店など外で書くことが多いんですけれども、そういう場では耳をダンボにしています。

別に僕が女性のことをよくわかっているというわけではないですし、むしろ女性的な感覚で書いているとは思っていません。男女で口調の違いをつけるとか、特にそこまで意識してはいなくて。きっと役者がセリフを発する時に、人格が立ち上がっていくんでしょうね。

 

ー 横山さんの作品は「会話」が非常に面白いという印象があります。「会話」や「口論」を書くときに意識していることはありますか?

登場人物が表層的に語っている言葉に内在していること、表出されてこない言葉、みたいなものを用意するようにしています。ストレートにものを言わないというか。脚本を書いているときにはあまり意識しないんですけれど、演出する中で、「あれ、この人は本当は今喋っているようなことを思っていないよね」っていうことが発生するんです。

本当に人ってうまく嘘ついて生きていると思うんですよ。本音をストレートに伝えることの方がやっぱり少なくて。例えば、眠たそうな人がいて、「眠たいの?」って聞くと、「ううん」って絶対誤魔化すんですよ。そういう姿から人間味が漏れてくると思います。嘘つかなくてもいいのに嘘ついたり、嘘ついている意識もないのに嘘ついたり。そういう姿を舞台上にあげる(つまりセリフにする)ことで、俳優に演技的な手がかりを与えているんだと思います。

段々それが、物語が進むにつれてどんどん本音で語るようになっていく。日常ではありえないぐらい議論をぶつけ合っていく。このグラデーションが、演劇的なエンターテイメントかなと思っています。

あとは、できるだけ日常に転がっている言い間違いとか、「そこ指摘してやらんといてよ」っていうものを舞台上にあげると、やっぱクスってきますよね。深刻な話題をするにあたって、導入しやすいアイテムとして「ユーモア」はふんだんに取り入れます。

 

ー 劇中、登場人物の口論に交わりたくなるほど楽しかったです。

そういう感想ってすごくありがたいです。今までは、「他人の口喧嘩を覗き見している感覚」と取材の時に言ってきたんですけど、今おっしゃってくれたみたいに、自分がその議論に入っている感覚というか、自分も同じ場にいて口を挟みたくなる感覚が、実は僕の作風なのかもしれません。なので、そういう風に感想をいただけると嬉しいですね。

 

ー 『粛々と運針』の見所はどこでしょうか。

30代以上の男女が必ず突き当たる問題に向きあうことができると思います。子どもの問題、親の問題、命の問題というのは普遍的な問題で、きっと誰もが自分自身を投影せざるを得ないドラマになっています。一緒にこの問いに浸りにきてもらえたら嬉しいです。

 

札幌で公演をするということ

ー iakuにとって、この札幌公演はどのような意味があるのでしょうか。

iakuとして初めて札幌で公演したのは2014年『人の気も知らないで』の全国ツアーでした。会場はキャパが小さいオノベカだったということもあり、もう散々なぐらいお客さん少なかったです。でもその時に、今回の受け入れをしてくださるラボチの小室さんや関係者の方々に観ていただいて、2015年に札幌の俳優と一緒にラボチプロデュース公演を実現させることができました。

今回も、小室さんから「ぜひ、『粛々と運針』を札幌で」とお声がけいただいたのがきっかけです。外の地域で公演することをただの思い出公演にせずに、小さくても繋げていくことが大事なんだと思います。みなさまのおかげで、連続で呼んでいただけるようになっていますし、札幌の演劇人のみなさんとも仲良くなっていると思いますので、今回の公演でも色々と交流できたらなって思っています。

 

ー 札幌で上演したときに何か感じたこと、期待していることはありますか。

正直、iakuの作品に対する反応はどこでやってもそんなに変わらないんです。

でも、あえて印象を言うとすれば、これは札幌に限らず、大阪や名古屋、福岡、仙台など都市部で小劇場というジャンルがある土地はどこも似てると思うんですけど、みんな自分の好きな劇団を観にいく。演劇というジャンルが好きというよりは、好きな劇団を応援したいという人が多いような印象があります。本当は演劇全体を盛り上げていってほしいとは思うんですけど、それはやっている側の勝手な願いです。

そう言う意味で、iakuの作品は、初めて演劇を観る人にも十分に届くエンターテイメントだと思っています。大阪から来る劇団だと思って斜に構えずに、気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

公演詳細

タイトル iaku『粛々と運針』札幌公演
劇 団 iaku(from 大阪)
会 場 扇谷記念スタジオ シアターZOO
日 時 6月23日(土)18:00
6月24日(日)13:00/17:00
※開演の45分前受付開始、30分前開場
概 要 年老いた母親の見舞いから帰って来た中年の男兄弟。病室にいた老紳士は母の恋人なのだろうか。一方、つくらない約束だった赤ん坊を授かってしまったかもしれない夫婦。命は誰のものか。時間だけは平等に、粛々と進んでいく。
脚本・演出 横山拓也
出 演 尾方宣久(MONO)、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、市原文太郎、伊藤えりこ(Aripe)、佐藤幸子(mizhen)、橋爪未萠里(劇団赤鬼)
Web 公式サイト
チケット 【一般】予約:2800円、当日:3000円
【U-25】(前売・当日共)2000円
【高校生以下】(前売・当日共)500円※U-25は25歳以下の方が対象です
※U-25、高校生以下の方は、年齢が確認できるものを受付にてご提示ください
※未就学児入場不可

チケットお買い求めは公式サイトより。