札幌演劇界で最も注目されている若手演劇ユニットのひとつ、「きっとろんどん」所属の3名にお話を伺いました。
きっとろんどんは、井上悠介、久保章太、山科連太郎、リンノスケの4人により2016年に旗揚げされた演劇ユニットです。旗揚げ公演の『〜探偵写楽弥太郎シリーズ〜 kidnapping the riceball』では2日間で300人動員し、第2回公演の『発光体』では3日間で400人、さらに第3回公演の『ミーアキャットピープル』では470人と、着実にその勢いを固め、飛ぶ鳥を落とす勢いで活動しています。
そんな彼らの次回公演『宅飲み』は、比較的大人数が出演した今までの公演とは違い、初めての4人だけでの公演ということで期待も高まっています。
彼らの成功の秘訣とは。彼らが向かって行く先とは。ぜひご一読ください。
結成と初演
ー 4人の出会いを教えてください。
山科連太郎さん(以下、山科):4人の出会いは、2015年のさっぽろ学生演劇祭です。『アニマ』という公演をやりまして、その時の脚本書いたのが井上くんだったんです。その時に仲良くなりまして。
リンノスケさん(以下、リンノスケ):帰り道が一緒でね。
山科:そう。それで、打ち上げの時に席にこの人達(リンノスケ、久保章太)がいて。「なんかやりたいと思ってるんだよね」って言ったんですよ。そしたら「いいですね、やろうやろう」と。久保君は多分あんまり本気にしてなかったよね(笑)
久保章太さん(以下、久保):そうね、「できたらいいね」くらいのね。
山科:でも「脚本書くやつがいねぇ、どうしよう」ってなって、「井上くーん」って呼んで。「なんかやりたいんだけど書いてくんない?」「おおわかった」って。これが結成の口約束。それで2016年から何回か集まったりして…
リンノスケ:そう。まずユニット名を考えなきゃいけないってとこから始まった。ユニット名の由来は…どうなんだろうね、特にまあ…ないっちゃないんだけど、語呂も良いし、「ろんどん」って入ってたらおしゃれだろうみたいな。
山科:結局「きっとろんどん」に決まったのが半年後くらいで、公演のために動き出したのはそこからです。
リンノスケ:そうね。半年間名前考えるだけのユニットだったよね。
久保:飲み会行く度に名前考えてね。
ー 第1回公演から成功を収めましたが…。
リンノスケ:チケットをとにかく自分たちで売る、っていうことを最初は意識してて、連太郎が結構売ってくれたのもあって、たくさんのお客さんに観てもらえました。1回目を観たお客さんが気に入ってくれて、第2回公演にもたくさんの方が来てくれました。
山科:僕ら4人とも学生だったので、学校の友だちが結構見に来てくれました。Twitterとかに感想も書いてくれたので、そうやって広がったってのはありますね。
ー やはり手応えは大きかったのでしょうか。
山科:1回目より2回目の方があったかな。
久保:1回目はやり方がわかんないからがむしゃらにやって、ありがたいことに4ステで300人の席が埋まって。
山科:で2回目になると「来て来て!」って僕らが直接声をかけなくても来てくれるお客さんが少しづつ増えてきたんですよね。それでだんだん楽しくなってきて(笑)
脚本と個性
ー 作品はどのように作られているのでしょうか。
リンノスケ:脚本を書くのは井上くんだけど、書く前に僕たちに「どんなのやりたい?」って聞いてくれます。
山科:言ったとおりになったこと無いけどね!(笑)
僕はね、毎回「モテたい!」って言ってるんですよ。モテる役をやりたいって。でも井上くんは「うーん」みたいな(笑)でも『発光体』のときは、リンノスケくんが「ちょっと変な気持ちの悪い役をやりたい」って言ったんです。そしたら宇宙人の役だったんだよね。
リンノスケ:そういうこともたまにある。
ー その脚本も稽古の中で変わっていくのでしょうか。
山科:いや、井上くんの本は初稿で1発OKみたいなことが多いですね。最初の時点でなかなかのものを出してくるので。
久保:細かい文字を稽古の中で細々変えるってことをやるだけで、大きくガラッと変更になるっていうことはほぼないですね。
リンノスケ:あとはもう僕たちのアイデアで色んなことを取り入れたりするのはありますね。そこがきっとろんどんの個性になるんじゃないですかね。井上の本に対して僕らが演技で味付けをする。
山科:井上くんは基本当て書きなので。
久保:よく知らない人でも当て書きできちゃうからね。僕が声かけた人で、なんとなく雰囲気とか写真を送っただけで脚本いざやってみたらすごく合ってたみたいなことはあります。それはもう彼のセンスですね。
リンノスケ:今は脚本演出は井上くんが担当していますが、連太郎も最近助演出として活躍してるので、これからそのあたりのレパートリー増やせたらいいなとは思います。
きっとろんどんという居場所
ー 演劇活動をする上で影響を受けた作品はありますか。
リンノスケ:多分僕ら4人とも漠然とTEAM NACSを憧れにしているところはあるんですよ。そこに完全に寄せるわけではないけど、そういう風になりたいなという気持ちはどっかにあるんじゃないかと思います。
山科:井上くんはもともとお芝居を今までやってなくて。
リンノスケ:僕もね。
山科:そう、だから井上くんの本を見てるとね、コントに影響を受けてる部分が多いなって思うことはあります。それが面白いんじゃないかな。演劇演劇してないというか。よくあるじゃないですか、「総合芸術 演劇」(仰々しく)みたいな。それは好きじゃないですね。
リンノスケ:あとの二人はもう高校の時から演劇やってるし、俺と井上は大学入ってからだった。僕はちっちゃい頃からテレビっ子だから、「志村けんのバカ殿」とか、ウッチャンナンチャンの「笑う犬」とか、「水曜どうでしょう」とかのバラエティ番組をずっと見てきたので自分の中のユーモアはそういうところで形成されてると思います。
久保:僕は子供の頃からずっと『ミスター・ビーン』ですね。自分の笑いのセンスは『トムとジェリー』とか『ミスター・ビーン』みたいなあまり喋らない系のギャグとかコメディなんですよね。
山科:僕は舞台で言うとTEAM NACSの『下荒井兄弟のスプリング・ハズ・カム』はすごく好きでしたね。あとは何だろう。僕80年代、90年代のロックが好きで、ライブの映像とか見るとあれってすごい目立ちますよね。ああいうライブパフォーマンスって舞台上だからこそできるものじゃないですか。あの「俺を見ろ!」っていう感じに憧れた部分はありますね。
ー 公演を行う中で、これだけは守りたい、大事にしたいということはありますか。
リンノスケ:毎回反省点が必ず出てくるんですよ。それを修正して次に活かしたいっていうのはまずありますね。
山科:あと、こっちだけ楽しいみたいな舞台は嫌ですね。
リンノスケ:独りよがりな感じのね。
久保:内輪みたいなのはちょっとね。あと、良いルールっていうか、「何しても良い」っていうのはあります。劇団じゃなくてユニットなので。帰ってこられるのがきっとろんどんっていう場所であればいいなと思います。
リンノスケ:あと例えば、スタッフとか裏方の方たちも含めてチームきっとろんどんなので、そういう方たちにもちゃんと気遣いを持って、っていう…
山科:もう一回スタッフを頼んでも快くやってくれるといいなと思ってやってますね。
リンノスケ:お客さんにももう一回来たいと思わせられるようにするけど、スタッフの方に対しても「またきっとろんどんとやりたいな」と思わせられるように僕ら4人はどこかで意識してて、そういうアプローチはしてると思います。
きっとろんどんのこれから
ー これからやりたいことはありますか。
山科:結構脚本に関しては井上くんに任せっきりなところが多いからなー。
リンノスケ:結局井上くんの書いたのが俺らのやりたいことになってるのかもしれないですね。
山科:だって俺らがあれやりたいこれやりたいって言っても井上くんが思いつかない限りはね、もうね。きっと俺がモテる設定じゃ思いつかないんだろうね。
久保:話ができないから(笑)
山科:モテないから。当て書きのしようがないっていう(笑)
リンノスケ:こういう感じで井上くんが脚本演出やるから、周りからは井上が代表みたいに見られてるけど、きっとろんどんは代表がいないんですよ。だからその分メンバーが各部門ごとに分かれてるんです。僕は美術・宣伝、連太郎は制作、久保君は物販っていう。
ー きっとろんどんの次の目標を教えてください。
リンノスケ:近い内に1000人のお客さんを呼ぶってことですかね。
山科:あとはまあね。続けられるといいよね。足枷とかなく。
リンノスケ:そうだね。でも勢いは持ってやりたいね。
山科:そうね、あと個人的な俺の目標だと、きっとろんどんのことをお芝居やってない人でも知ってくれてる状態にしたい。「ああ、きっとろんどんね」ってなるのはまだお芝居を観てる人とかやってる人だけじゃないですか。
リンノスケ:札幌の演劇って、演劇シーズンとかのおかげでわりと知名度は上がってると思うんだけど、それでもライブとかの音楽に比べると「演劇観に行こうぜ」ってなかなか娯楽としてないから、そういう人たちに浸透できたらいいと思いますね。
ー 次回公演『宅飲み』への意気込みをお願いします。
久保:初めて客演を呼ばずに4人だけでやる舞台なのでわくわくも緊張もありますね。
山科:このメンバーのことが好きになるか嫌いになるかだよね(笑)
久保:「4人だと別に…」ってなるのが一番怖いね。
山科:「4人だと全然ダメだね、他も呼んだほうが良いんじゃない?」って言われるのはすっごい嫌だよね。(笑)
リンノスケ:いい意味で、短編エンゲキ祭に参加させてもらう形で4人の力を試すってところはありますね。
山科:宅飲みをしたことある人が共感できる内容になっています。なんかこう…友達に会いたくなるような…(笑)
リンノスケ:今回の公演を通して、これを面白いと思ってくれた人が次の公演にも繋がるっていうのが一番いいかなと思います。
ー ありがとうございました。
公演詳細
タイトル | 「北海道短編エンゲキ祭‘18 ~明日、あの子が会いに来る~」出場作品 きっとろんどん『宅飲み』 |
会 場 | コンカリーニョ |
日 時 | 5月5日(土)14:00 5月6日(日)14:00 |
脚本・演出 | 井上悠介 |
出 演 | 井上悠介、久保章太、山科連太郎、リンノスケ |
Web | 『北海道短編エンゲキ祭‘18 ~明日、あの子が会いに来る~』公演紹介ページ |