世界基準のシュールっぷり・KPR/開幕ペナントレース×札幌演劇人

「僕らのやっていることは「劇を演じる」という意味での演劇の本質を捉えられているんじゃないかと思います。」

2月28日から札幌公演を行う KPR/開幕ペナントレース のみなさまにお話を伺いました。国内だけでなく海外からも喝采を浴びるオリジナルな作風は、フランスの評論家から「カテゴライズを拒否するこのシュールなトーキョー発の作品は、本物のアーティスティックな体験だ」と評価されました。

札幌公演は4年ぶりとなる今回は、札幌演劇人とともに作品づくりを行います。いま最も勢いのある劇団の一つである彼らは、演劇に対し何を語るのか。

 

村井雄(むらい ゆう)

脚本家・演出家・俳優。KPR/開幕ペナントレース主宰。

目黒区職員を経て、2006年に劇団「開幕ペナントレース」(現「KPR/開幕ペナントレース」)を旗揚げする。以降、全作品の構成・脚本・演出を担当している。

2009年のアメリカ・ニューヨーク公演にて The New York Times 他、各種メディアより高い評価を得る。2015年よりスタートした海外ツアーでは、その「恐るべき俳優達による現代演劇作品(Tuniscope:チュニジア)」は「本物の芸術的な体験(La Provence:フランス)」であると脚本・演出作品が賞賛される。また、10000個のトイレットペーパーによる超巨大便器をオールスタンディングのシアタートラムに出現させる(2016年東京公演『ROMEO and TOILET』)等、その唯一無二の空間構成と壮大な美術プランにも注目を集める。海外での評価、芸術関係者からの注目を集めている。

「繰り返し」が僕らのテーマ

1969:A Space Odyssey?Oddity!


ー はじめに、「KPR/開幕ペナントレース」がどのような団体か、結成した経緯も含めて教えてください。

劇団員 高崎拓郎さん(以下、高崎):僕が参加していた劇団での研修期間が終わった後、同期で研修生として参加していた村井が「研修期間が終わってからも自主的に稽古をしよう」と提案して集まったのが、この劇団の初期メンバーです。ただ稽古だけしているのも物足りないので、誰かに観てもらおうという話になり、旗揚公演を2006年の9月に上演しました。

初期メンバーで今も残っているのは僕と村井だけです。現在のメンバーは代表村井雄、G.K.Masayuki(2010年加入)、森田祐吏(2016年加入)、そして僕の4人です。

 

ー 今回札幌で上演される2作品『あしたの魔女ョー[或いはRocky Macbeth]』『1969:A Space Odyssey?Oddity!』はそれぞれどのような作品ですか

村井雄さん(以下、村井):僕らは、古典戯曲の物語を再構築して現代に置き換えるという作り方をしています。今回上演する『あしたの魔女ョー』という作品も、シェイクスピアの『マクベス』を題材にしています。

現代も、マクベスがそうであったように、誰が王様になったとしてもいつか次の王が誕生し、同じ成功と失敗を繰り返す。今のマクベスが倒れたとしても次のマクベスが生まれる。マクベスを惑わす3人の魔女たちの囁きは、いま生きている僕らの囁きでもあります。僕たちが、マクベスを仕立て上げている、ということがテーマとなっています。

さらに、「明日」の素晴らしさを懐疑するというテーマを組み合わせましたので、漫画『あしたのジョー』とこれを掛け合わせて生まれた作品が『あしたの魔女ョー』です。

もう一方の作品『1969:A Space Odyssey?Oddity!』は札幌の俳優たちと作ります。フランス・アヴィニョン演劇祭への参加の際に書いた作品なので、フランスの作家であるサルトルの『出口なし』という作品を題材にしました。タイトルは、『2001年宇宙の旅(原題:2001: A Space Odyssey)』とデヴィッド・ボウイの『Space Oddity』 を掛け合わせました。

1969年はアポロ11号が月面有人着陸を人類史上初めて成功した年として知られています。人類はアポロ計画で「ここではないどこか」を手に入れたはずだけれど、その後はいまだに容易く月には行けていない。他にも、アメリカで「ウッドストック・フェスティバル」という音楽史的に重要なイベントが開催されたりと、1969年は人類にとって意味深い年になっていると定義しています。

「我々は、永遠の1969年を繰り返し生きている」というテーマです。作品も1969年の状況設定をコラージュして作っています。今我々が生きている現在も、1969年だと言える状況を作り出しています。このような「繰り返し」が僕らのテーマなのかもしれないです。

 

ー KPR/開幕ペナントレースは、一般的な会話劇とは違った、抽象的でシュールな演出方法が特徴と言えると思いますが、こういったスタイルはどのようにして生まれたのですか。

村井:日常会話の中にも、抽象的なことっていっぱいあると思うんですよね。それは聞き手の中で具体的に捉えればいいことであって、話し手が具体的なものに変換してお互いに確認し合う作業は無くても大丈夫だったりもする。しかし演劇は不思議なもので、10%の抽象があると観客はそれを100%と捉える。よく「すごく抽象的でしたね」とか言われるんだけど、「イヤイヤ、日常でもこのくらいの抽象は存在するでしょう」と。

実際、僕らの作品は、「シュール」「不条理」「ナンセンス」という評価をものすごくたくさんされる。しかし、フランスでいただいた劇評の中にあった「ホンモノの芸術的体験だ」というコメント、こっちが僕らの狙いなんです。「どういうお話だったか」ではなく、「どう感じたか」「何を体験したか」を話し合えるような、そんな作品を作っていきたいと思っています。

ただ、あくまでも、これはKPR/開幕ペナントレースのやり方であって、これが全てというわけではありません。観客として観に行くときはオーソドックスなものが好きだったりします。でも、この団体では、少し刺激的なことをやりたいなって。

というのも、僕が演劇をはじめたのは25〜6歳のときで、それまでは普通の公務員だったんです。ひょんなことからズブの素人として演劇界に飛び込んでしまった。もっと若い時にはじめていれば色んなやり方を試すことができたかもしれないけれど、少し遅い。どうせやるなら、僕たちにしかできないことをやろうと考えました。他と違うことをやるぞ!という気持ちが異常に強かったのかもしれないです(笑)

高崎:当初から村井は、人とは違う面白さを作れる人でした。稽古中に何度も出た質問が「村井、これ本当に面白いの?」でした。確かに稽古場で爆笑だっったのですが「これがお客さんに通用するの?」って役者が不安になるような挑戦的な演出を要求してくる。村井の答えは「絶対面白いから、やってみて」。そうして不安なまま迎えた本番は、結果すっっっごいウケたんです。

村井:細かく計算してましたので、ウケると思ってました。この動きをしたら客席の3割が笑う、一旦この動きで笑いを止め、こっちを向きながらこうするとこのあたりの客席から笑い声が起こる…など。計算通りのリアクションが返ってきました。嬉しかったですね。

だからなのか、僕の台本はト書きがものすごく多かった。ルールが多い。客席の反応が逐一書かれている。

高崎:台本だけ読むとシュールなのかもしれないけれど、観てくれる人は喜んでくれるんです。観客とのコミュニケーションの余地がある作り方とも言えるかもしれないです。

村井:KPR/開幕ペナントレースは「面白いんだけど、なんて説明したらいいのかわからない」とよく言われました。劇場で、びっくりしたり泣いたり笑ったりできるんだけど、友だちになんて説明したらいいかがわからない。「本を上演する」スタイルが主流となっていますが、僕らのやっていることは「劇を演じる」という意味での演劇の本質を捉えられているんじゃないかと思います。

高崎:舞台美術もこだわっています!札幌で初演と同じようなセットを組めるかどうかはわかりませんが、楽しみにしていてください。

 

札幌は面白い土壌


ー 『1969:A Space Odyssey?Oddity!』は札幌の俳優で上演するということですが、札幌を選んだ理由は何ですか。

村井:2010年に演劇専用小劇場BLOCHで上演した『ROMEO and TOILET』が初めての札幌公演でした。その年以降、ほぼ毎年ワークショップや公演をやらせていただき、札幌演劇界とはずっと関わっていました。札幌に行く度に知り合いも増えていき、東京の団体の中では、彼らの面白みを一番知っているのは僕らだという自負もあるし、札幌の俳優と何かしら関わりたいなという思いはずっとあったんです。そうして今回で念願の実現となりました。

KPR/開幕ペナントレースは、外国都市などに積極的に出て行って公演したいという思いがありますが、それと同時にどこかに定住したいという気持ちもあり、定住地の候補として札幌がある。札幌は作品を発表するのにとても面白い土壌なんです。お客さんの反応もあるし。

高崎:他の地方よりも演劇が盛んなイメージもありますね。

 

ー 他地域と比較したときに、札幌の演劇環境やお客さんに違いを感じることはありますか?

村井:札幌の中にも様々な種類の演劇があると思うのでなんとも言えないですが、札幌は団体間の交流が盛んだなという印象はあります。

高崎:東京でも、横のつながりはあるとは思うんですけど、数が多すぎるので。交流するのに、札幌は規模がちょうど良いのかもしれないですね。

 

海外へのワクワク


ー 初めて海外公演を行なったきっかけは何だったんですか。

村井:旗揚げ公演を観てくれた先輩たちが、「この劇団は海外向きだ」と勧めてくれたのがきっかけでした。当初は海外に行きたいなんて少しも思っていなかったんですが、結成3年目の時に、今のうちに行ってみてもいいかなという思いが強くなって挑戦してみました。

助成金が取れているわけでも、コネクションがあったわけでもないので、不安は大きかったです。全て自費でしたし、慣れない英語で現地の劇場の人とメールでやり取りしましたが、その劇場が本当にあるのか、僕たちを迎え入れてくれるのか…。パスポートもビザもそのとき初めて取りました。

高崎:満を辞して臨んだ初日は、お客さん5人くらいしかいませんでした。でも、終演後は日本以上の大喝采だったんです。すごく大きな拍手が聞こえてきた。たまたま観に来てくれていた The New York Times の記者に劇評を書いていただきました。彼はすごく信頼されている記者だったので、記事が出た次の日からすごくたくさんのお客さんが来てくれるようになりました。初めての海外でこんな体験、今でも忘れられません。

海外に行くと、演劇に対する扱いが日本と違うなって感じます。税関で村井が職種を聞かれた時に「stage director」って言ったら、担当者がとても丁寧に扱ってくれたことに感動した。日本で「舞台の演出家やっています」って伝えたら「ん?」って聞き返されるんでしょうけど、海外ではとても大切にしてくれるんです。

村井:僕たちは、自費で海外公演して評価されて、次の年の演劇祭から正式にオファーされるという経験をしています。この実体験や海外に対するワクワクをお話しさせていただく機会があればいいなとも思っています。劇団員の高崎は札幌出身ですし、彼が何のノウハウもない中で海外に行って、喝采を浴びて、こういう展開があって、こういう出会いがあって、というようなひとつの発展の可能性を話すことはできる。

高崎:もちろん、すべての団体が僕たちのやり方で通用するとは思っていませんが、ひとつのモデルケースになると思うんです。実際に、「海外どうやって行ったんですか」と聞かれることも少なくないです。

村井:そうやって、僕たちの体験談をシェアする機会になってもいいかもしれませんね、今回の札幌公演で。

 

ー 最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします

村井:札幌は、僕たちのやっているスタイルを、理解してくれる場所だろうなと勝手に思っています。そうであったら嬉しい。これからもKPR/開幕ペナントレースは、札幌の演劇シーンに食い込みたいなと思っています。札幌のお客さんは新しいものに敏感だと思うので、ぜひたくさんの方に観に来ていただき、伝播してほしいです。

 

 

2018年1月27日
浅草駅付近の飲食店にて

公演情報




KPR/開幕ペナントレース「あしたの魔女ョー[或いはRocky Macbeth]」




KPR/開幕ペナントレース「1969:A Space Odyssey?Oddity!」