作品の世界観を作る舞台美術。優れたセットは一目見るだけで「劇場に来てよかった!」と大きな感動を与えます。
今回はそんな素敵な舞台美術を担当される高村由紀子さんにインタビューしました。
「舞台美術」の門を叩いて
ー 高村さんの担当されている「舞台美術」という仕事はどのようなものですか。
段取りを言うと、イメージを出し、舞台のラフ絵、模型をつくり、演出家と打ち合わせして、イメージを固めていきます。寸法、素材などを決め、作り始め、セットを組んで、、、という仕事です。
照明や役者が入ると、イメージがまた変わってくることもあるので、手直しをして。
ー 高村さんが舞台、演劇に触れるようになったのはいつからですか。
22〜23歳の時に、演劇の舞台美術を作り始めてからです。それまでは演劇もあまり観ていなかったし、それどころか札幌に演劇があるなんて知っていませんでした。
大学生の頃は、小学生の頃からの夢だった小学校の先生を目指していましたが、あるとき方向転換しざるを得なくなってしまいました。
そこで、映画が好きだったので、映画美術をやろうと思いました。札幌で映画を撮っているところを探して、鈴井貴之さんの『man-hole』(2001)を観て、スタッフロールで「裏方家」という会社を見つけ、住所を調べ、会社へ行き、ドアをノックし、、、「教えてください」って言って入れていただきました。
社長の中原さんはすごく親切な方で、何もできない私を受け入れてくれました。
入ってみると、仕事は映画よりもCMや舞台がメインで、舞台美術を知ったのはそこが初めてです。同業者である「福田美術」の福田さんと知り合い、舞台美術を始めました。
ー 小学生の先生から、いきなり映画美術。
小学校の先生も、掲示物の装飾などをやりたいと思ったのがはじめだったので、美術とは関係していたのかな。
映画は、ただ単純に好きだったんです。それで、目指そうって思って。若かりしエネルギーでしたね(笑)
現実に戻したくない
ー 舞台美術に対する、高村さんのこだわりはありますか。
手を抜かない、あきらめないことは大事にしています。
舞台美術は作品世界の一部ですので、お客さんが作品に入り込む邪魔はしたくないです。現実に戻したくない。
ー 舞台美術家として活動される中で、ターニングポイントや成長を感じるきっかけになった作品はありますか。
舞台美術には、どの作品にも強く思い入れがあります。それぞれかかる時間は違えど、一生懸命考えて作っているので。ひとつひとつ、毎回得ているものがあります。経験を積んできて、こういう角度はこう見える、とかを知っていっています。
どれかひとつ選ぶとなると、うーん。(笑)
劇場によっても様々ですので、劇場を知ることや、他のスタッフさんとの関わりなども、やっぱり経験から得ることは大きいですね。
ー 照明さんや他のスタッフの方とも、作品のイメージについてやりとりをされるのですか。
実は、そんなに密にやりとりはしないんです。それは何年も前から不思議だなーって思っていました(笑)
私は結構喋りたがりやで、せっかく同じ作品と向き合っているので、イメージとか共有したいタイプです。それぞれ、演出家とは話し合うんですけれどね。スタッフ同士ではあんまり。だから、私は照明家にもメールでイメージを伝えることもあります!
舞台美術家という仕事
ー 舞台美術というお仕事の中で、やりがいを感じる瞬間はどんなときですか。
舞台を組んで、本番で使ってもらっているときは嬉しいです。でも、作品を観て「もっとこうすればよかった」っていう反省点は見つかるので、100%完璧になるまで喜ぶ瞬間はないのかなって思います。
セットよかったって言ってもらえたら単純に嬉しいです。
ー 演劇は記録できない芸術ですが(映像で保存する場合もありますが、本来生で観るものなので)、自分の作品が残らないことに何か感じることはありますか。
残ったらいいなとはあんまり思ったことはないです。それが仕事だから、バラされることを前提でやっているので。
ただのアーティスト・芸術家だったら、自分の中から生まれたものを形にするけれど、私はアーティストではなく舞台美術家です。表現したいこと、好きな色はいっぱいありますが、演出家からの話と脚本をテーマとしてあげてもらうので、それをベースにどうしていくかを考えます。
ー 舞台美術家になるためにはどうしたら良いですか。
門を叩く(笑)
この業界は、基本的にすごいウェルカムです。若手を育てたい!ってみんなが思っている。一方、若い人が全然入ってこないという状況もあります。
私は現場から入りましたが、勉強したい人は学校に行って学ぶのも良いと思いますし、その方が王道なんだと思う。
シーズンの舞台美術
ー 「札幌演劇シーズン」に対する想いはありますか(高村さんは今シーズンの5作品のうち、4作品の舞台美術を担当)。
耐久性のことを考えます。一般の公演より長いので、普通の作り方をしては壊れてしまうかもなぁとか。白いセットはまた塗りに行かなくちゃなぁとか(笑)
多くの人に観ていただけるのはとても嬉しいです。でも、目の前の舞台美術とどう向き合っていくかで一生懸命になってしまって。シーズン参加作品であろうがなかろうが、自分の仕事をしっかりこなしていきます。
ー ミュージカルユニットもえぎ色『Princess Fighter』の舞台美術の見どころはありますか。
今回、ダンスや殺陣や映像など色とりどりなシーンがたくさんありますので、セットは媒体でしかないというか。それらの演出効果や役者の芝居によって、セットも様々に染まっていけば良いなって思います。
ミュージカルですので、私にとっても色々な挑戦があります。殺陣のシーンのためにはこうしたら良いとか、芝居ではあまりないような良い意味での制限があってとても勉強になります。
素敵なミュージカルによって、歌、踊り、光、映像によって見え方が変わっていくようなセットです。
ー 最後に、演劇にはどのような力があると思いますか。
作り手はすごい努力と工夫を積み重ねているので、そういった作品が観ている人に影響を与えないことはないと思います。もちろん、いろんな作品があるし向き不向きもありますが。
みんな「何かのために」演劇をつくっているので、それが社会的問題提起であってもただ楽しいだけの時間であっても、観て得られるものはあるんじゃないでしょうか。
公演詳細
ミュージカルユニットもえぎ色「Princess Fighter」
MY BEST BOOK
ー 高村さんのおすすめの本を教えてください。
ソウルライター、写真家の本です。写真集というより、展覧会に合わせて写真と、この人が残した言葉が一緒に書いてあります。つい最近亡くなったんですけどね(2013年)。
道ゆく人や、日々の暮らしを切り取って作品をつくっているのがすごいなって思います。
適度の色のバランス、結構はっきりした色を入れるんですけれど、それだけじゃない匠の技といいますか。
ー 本と出会った時のエピソードを教えてください。
写真集を買おうと思っていたんですけれど、なかなか買えずにいて、本屋でたまたまこの本を見つけて手に取ってみました。すると、ソウルライターが「色が好き」って言っている文を見つけたんです。
きっとモノクロからカラー写真に変わっていく時代の人だったんだと思います。まだモノクロが主流だったときに「色が好き」と言っているところに共感しました。
私も色が好きなので。しんどくなったときとかも、絵の具を出したら笑っちゃう、みたいな! それで買っちゃいました。
インタビューの様子は、「ダイジェスト動画」でご覧いただけます(下のボタンをクリック!)。
1時間目/稽古場夜回りインタビュー
【稽古場夜回りインタビュー】もえぎ色「Princess Fighter」