今回は、札幌演劇シーズン×d-SAP連携企画「女子大生 夜の稽古場参観日」として、8月16日~23日にコンカリーニョで『わたし−THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY−』を上演するintroの演出イトウワカナさん と、出演のしろゆう子さん にお話を伺いました。
お二人のユニークな語り口で、introならではの興味深いお話を沢山語っていただきました。その言葉の一つひとつからは、作品、そして演劇に対する愛を強く感じました。
「きっとアトラクションみたいなものだと思って貰えるのが一番良いかもしれないです。」
演劇で音楽を作りたい
ー introという劇団について教えてください。
演出 イトウワカナさん(以下、イトウ):2006年は私一人のプロデュースユニットでした。2009年から劇団にして、のしろさんはそこから。去年が10周年でした。
はじめは役者をしていて、演出や作家になろうとも思っていなかった。でもある⽇突然、演出できるなって思ったんです。演出をやりたいと思っていた時、ちょうど intro やる前にいた劇団の演出家が辞めた。その時遊戯祭に出る作品で演出を始めて、そのまま独⽴しました。
常々、音楽を作りたいなって思ってやっています。これは去年頃から声高に言うようにしました。ツールは演劇なんですけど、音楽にアプローチできないかなと。
出演 のしろゆう子さん(以下、のしろ):ここ2〜3年、シーンを起承転結じゃなくてAメロ、Bメロにしました。シーンを4つぐらい作って、これはAメロ、Bメロ、Cメロ、サビ、みたいに構成をやり出した。
イトウ:曲進行みたいな感じでシーンを捉えるようにするとしっくりきました。物語みたいなものも分かるようになった。最初は『食卓全景』(2015年)から。それまではシーンが一曲で、全体がアルバムみたいなイメージでした。
ー のしろさんは初期メンバーですね。
のしろ:劇団化する前の、遊戯祭の公演で声を掛けてもらいました。そこで1位になったので次の年また呼んでもらった。その公演終わった直後に劇団化したので、劇団化した後で言うと初期メンバーです。
イトウ:それこそ、その遊戯祭で投票で勝ち抜いて優勝した作品がこの『わたし』の前身の作品です。その年(2008年)の遊戯祭のテーマが太宰治で、『女生徒』をモチーフに作った。
ほんとはそれを2013年に再演しようと思ったんですけど、全然違うものになっちゃって。更に今回再演で、女生徒を使って作品を作るのは3回目です。
ー 再演で、違うものになっちゃったのはどうしてですか。
イトウ:そんなつもりはなかったんですけど。(2013年に)スタッフ陣がガラッと変わったんです。東海林くんが入ってきたり、色々な人が入ってきた時に共同作業が物凄く面白くて。
その時、昔の作品に囚われるのは間違ってるな、と思った。今みんなで持ち寄れることで作ったほうが圧倒的に面白いと思ったんです。
最初は原作だったのを原案に途中から変えて。インスパイアしかされてませんみたいなとこまで来てしまったので(笑)自分がどうこうしようと思ったというよりは、人との関わりの方が大きいですね。
ー 遊戯祭では、なぜ『女生徒』をモチーフに選んだのですか。
イトウ:私、太宰治嫌いなんですよ。でも太宰でやらなきゃいけなくなって、読んでみて、驚いた。おっさんが書いたとは思えない。とにかくすごく面白かった。
後から調べたら、太宰ファンの女の子が日記に書いたことを太宰が書いたみたいな話らしいんです。だから瑞々しいすごい若い女の子が言っているような事だったのにも納得がいった。少し偏屈なおじさんと若い中学生高校くらいの女の子とがどうして上手くいって面白くなったのかが不思議で。そしたらおじさんと若い女の子って凄く近いんじゃないかみたいな事を考え始めました。
ー 『女生徒』に対する、面白いという感覚は今も変わっていませんか。
イトウ:同じです。度々読み返してますし、再演するたびに昔全然気にならなかったところが引っかかったりしています。
それでもベースに流れている感覚は前と一緒。ベースに流れている感覚が一緒っていう不思議さというか。そんな昔の女の子にどこか共感してしまう私の不思議さ、こんな事私も若い時あったわ、と思ってしまう不思議さとか。
なんでだろう?って思った所からスタートしているので、変わらないです。
稽古場は共同作業をする場
ー 演出プランはどのように作りましたか。
イトウ:2013年(再演)は、ほぼ役者と稽古場でディスカッションをして作りました。女の子って何なのか、今日面白くなかったこと、よかったこととかをひたすら話し続けて。そこから私がフックをかけたことを家で本にして持って行っていた。
発端が自分の頭じゃなくて、みんながワイワイ話してたことから始まったというか。半分くらいはそういう作り方をしました。
あまり私は演出プランはきっちり立てて持っていくタイプではない。ふわっと書いて持っていって役者さんに見てもらって、さあどうしよう!ってタイプなので。稽古場は共同作業をする場だと思っています。
ー そのような演出プランに対し、役者さんはどう思っていますか。
のしろ:トータル面白い。時々えっ!?って思う瞬間もあるけど、やってみたら面白かったり楽しかったりする。いろんな面白さがあるので、楽しく過ごさせていただいています(笑)
ー 共同作業で作っていって、それでも最後まで仕上げないといけない。公演日までに完成しないんじゃないかということは考えませんか。
イトウ:ないですね。やります。
ー 「できた」となる基準はありますか。
イトウ:厳密に言うと「できた」はないです。人前に出していい、見せていい、そしてもう見せたいっていう時が来たらもう大丈夫。
その基準は、私自身にある。私が作ろうと思っていたところとか、やりたかったところを役者が超えた時ですかね。私はそのジャッジをする権限しか持っていないと思っているので。
ここで、稽古は終わりだなっていう瞬間もある。これ以上大きくできない、限界だなと全てのリミットが来る瞬間。それは複合的なもので、時間とかアイデアとか。
ー 稽古の計画はどのように考えているのですか。
イトウ:共同作業で作っていくと、大体かかる時間はこれぐらいだろう、ここのレベルまで上げたかったらこれぐらいの時間が必要だということは一応計算しています。
それから、無理はさせないタイプ。相当頑張らないと無理だなっていう課題があったとして、それを頑張りで超えることに対してあまり興味が湧かない。自分が今持っているものでもっとよく見えるための努力や、頑張りとか工夫をしたほうが作品が豊かになるだろうと思ってしまうタイプなので。
ー イトウさんにとって、演出とはなんですか。
イトウ:多岐に渡りますね。旗も降るし、線も引くし、餌も与えるし、占いみたいなこともするし(笑)
自分の作品には、その役者さんが一番素敵な状態で出て欲しいんです。その状態にできるようにする努力は惜しまない。その為に声がこうとか立ち方がこうとかはします。
演出家は、その状態に持っていく人。一緒に行くこともあるし、引くときもあるし、突き放すこともある。結果素敵な人になってもらう為に。
ー では、役者とは。
のしろ:…そこにいる人…かなぁ。
ー 演じていて面白いと感じる瞬間はどこですか。
のしろ:演劇という意味では毎回違います、基本は同じですけど。今回に関しては初演とは全然違う面白さがあります。たぶんintro がそうなんだと思います。
ー 今回の作品「わたし−THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY−」はどんな人におすすめですか。
イトウ:初演の時も言ったと思うんですけど、おじさんと若い女の子、ですね。何が楽しいのか分からないけど、おじさんには好評でしたね。私が多分心におじさんを飼ってるからかな(笑)
のしろ:アイドル見てるのとおんなじ感じなんじゃないかな。熱量もそうだけど、そこで死ぬ!みたいな、なんの余裕もなく、ただひたすらやるのみ!みたいな瞬間が後半20分くらいから訪れるので。それがグッと来たりするのかな?
でも折角演劇シーズンなので。ほかの演目を観る方にも観て欲しいです。しっかりしたあらすじとかはあんまりないですけど…そういうものを観たことがない方に、少し⼈⽣経験の⼀つとして観てもらうのも。(笑)
イトウ:違う国の食べ物だと思ってもらうのもいいかもしれない!もしかしたら口に合うしれない!
のしろ:前菜とメイン好きじゃなかったけどこのスープは美味しかったみたいなことがあるかもしれないし。
イトウ:そんなに難しくないんですよ。難しくしてるつもりもないし。
のしろ:全部分かろうとしてしまうって、もったいないと思うんですよね。感覚で得られるものの方が、ストンと落ちてくると思っています。それがうち(intro)なんだと思います。全部が全部、⾒て分かる訳じゃないのに、なんで分かりたいと思ってしまうんだろうと思って。うち(intro)も他と変わらないよと私は思う。
この作品はどこを切っても同じものしか出てこないと思っています。だから何を感じるか、考えるかは自由でいいと思っています。
私が劇団に入る前に観たときにも、なんか分かんないけどすごい面白いって感じた。だからそれで良いんじゃないかなって思うんです。
イトウ:ただ、初演の時よりはもうちょっと言葉にできることがあって。劇場に来ないと全く分からないことを私は絶対しようとしていると思います。映像では絶対に分からない、劇場じゃないと分からない事しかするつもりがないんです。
それが人によってはいいものかも知れないし、大変傷つけることになるかもしれない。嫌な気持ちになるかもしれないんですよ。という事を思いながら作っています。
シーズン作品コンパス
今回の作品『わたし−THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY−』がどのような作品なのか、作品コンパスを振付師の東海林さんを含めた3名で作っていただきました。
「どれだろう?」「全部じゃない!?」と賑やかに作業されていて、取材同様笑いの絶えない空間でした。
そうして、完成した作品コンパスがこちら!
introの作り上げた「わたし−THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY−」という音楽を鑑賞する。
そんな見方をしてみると、2013年の初演をご覧になった方も、初めてintroを観る方も同じように新鮮な気持ちで観劇出来るのではないでしょうか。
公演詳細
intro「わたし-THE CASSETTE TAPE GIRLS DIARY-」
MY BEST BOOK
ー イトウさんのおすすめの本を紹介してください。
イトウ:畠山直哉さんの写真集です。文字のものがあまり家にない。距離感が測れなくて、映画見たりとか小説読むのが苦手なんですよね。小説ははっきり言うと避けてます!
石の採掘場でダイナマイトを爆発させてる写真とか、人物というより街とか工場とか。そもそもコンビナートとかが大好き。7〜8年前に見かけて買ったと思う。街でも水滴でも岩でも、なんだかずっと同じ温度な気がして、落ち着くんです。
人と接しすぎたとき、たくさんの情報を取り過ぎたとき、頭を休めたいときに見ます。
ー この写真集が作品のヒントとなることはありますか。
イトウ:それはない!お風呂と同じだから。
ー のしろさんのおすすめの本を紹介してください。
のしろ:土屋賢二さんがすごく好きです。週刊文春に、『ツチヤの口車』というユーモアエッセイを書いていて。
この『公開詫び状』なんか4頁に渡って講演会に行かなかった理由をずっと書いてるんですよ。「わたしにできることなら何でもします、気が向けば」、みたいな。
本当に何でもない時、部屋のそのへんに置いてあって、ふと目について読んで。これを読むと考えなくても生きていけるなって思う、変なこと考える人いるなって。このぐらいの事を考えられる人になりたいです。
インタビューの様子は、「ダイジェスト動画」でご覧いただけます(下のボタンをクリック!)。