2025年11月29日(土)~12月7日(日)の前期、12月24日(水)~28日(日)の後期、ジョブキタ北八劇場で全20ステージ上演される『納谷版~藪の中』。芥川龍之介の名作を、芸術監督の納谷真大が真冬の札幌を舞台に大胆に翻案した本作は、札幌劇場祭TGR2025の大賞エントリー作品でもあります。
今回、劇場の「シリアスシリーズ」として上演される本作について、出演者の内崎帆乃香さん、柴田智之さん、そして脚本・演出を手がける納谷真大さんにお話を伺いました。
(聞き手:佐久間泉真)
原作にない「新しい視点」が生まれる

── 今回『納谷版~藪の中』に出演されるお二人ですが、原作がある作品を現代の人間として演じることについて、どのような難しさや面白さを感じていますか。
内崎帆乃香さん(以下、内崎) 『納谷版~藪の中』に出てくる登場人物は、芥川龍之介の原作『藪の中』をベースにしながらも、オリジナル要素がたくさん盛り込まれています。
たとえば、私の役・武山凛は、原作における検非違使(平安時代の警察・裁判官のような役職)のポジションです。原作では検非違使の視点で語られることはないのですが、今回の私は、お客さんの目線に一番近いところで物語を進めていく役どころとして登場します。これは、今回の舞台ならではの視点じゃないかなと思います。
柴田智之さん(以下、柴田) 原作はそんなに長い文章じゃないので、すぐに読めると思うんですけども、これを現代に置き換えるのは大変そうだなと思っていました。でも、その辺は納谷さんがすごくちゃんと伝わるように、一文字ずつこだわられているので、古い言葉も、とてもわかりやすい言葉に変換していただいています。
原作は、事件があって、それについて周りの人たちが語るんだけれども、ちょっとずつ言っていることが違う。最後の最後まで読んでもなんかスッキリしない話というか。暗くて、迷宮に迷い込むような、不信に陥るようなお話です。
今回の納谷さんバージョンも同じように事件があって、その証言が変わっていく。ちょっと違うのが、その証言が一人称で主観で語られているだけじゃなくて、実際にその場面を演じるんですね。おかしいぞ、さっきと言ってること違うな、というのを、一人で語るんじゃなくて、実際に登場人物で場面を作って見せるという形になっています。
── なるほど。構造は『藪の中』だけれども、ストーリーは納谷さんのオリジナルということですね。
柴田 そうです。完全オリジナルです。
あらすじ
真冬の札幌、吹雪の夜。 とある飲み屋の周年パーティーで、ある騒動が起こる。 数日後、そこに居合わせた一人が遺体で発見される。警察はそれを事故死と判断するが・・・。
それぞれが持つ「あの日の記憶」。 それは語る者によってどこか食い違い、 視点がぼやけ、証言は互いに矛盾していく。 誰もが語り、誰も同じことを語らない。
果たして真実はどこにあるのか? 事実を突き止めることはできるのか? 真実と事実が、幾重にも交錯する・・・。
芥川龍之介が『藪の中』に描いた“証言の迷宮”が、 現代社会においてどこにでも起こりうる人間関係とシンクロする。 真実は、それぞれの言葉の中に 事実は、藪の──。
理想のイメージに向かって

── 柴田さんは北八劇場では、2025年3月「不条理劇×日本文学 【演劇】別役実 と【朗読】芥川龍之介」、6月『病は気から』と出演されていますが、これまでの創作で感じた納谷演出の特徴について教えてください。
柴田 朗読劇(3月)の時は、あんまり「こうしてください」という演出はなく、色々自由にやったものを「いいね、やってみようか」という風に言っていただいた印象でした。その後『病は気から』でコメディも挑戦させていただきましたが、コメディもシリアスも変わらないこだわりがあるということを感じています。
脚本はものすごく考えて書かれているので、言葉の発声の仕方や動きのイメージが、納谷さんにははじめからすごくあるんですね。稽古では、それに近づくということを求められているかなと私は感じています。
それと、納谷さんは若手の育成ということをすごく思っていらっしゃるんです。だから自分の経験を手渡しているというような、そんな印象もあります。私自身にも、この経験を通して、渡されてるな、と感じます。まだまだ成長できるぞって私も信じていますので。
── 納谷さんが提示する、目指すべき「理想」があって、そこに向かって俳優みんなで作り上げていく、というスタイルなんでしょうか。
柴田 そうですね。納谷さん自身も、これまでイレブンナインでやってきたところから、北八劇場さんで作品を作るにあたり、何か方針がきっとシフトしていて、それはきっと、劇場が目指す目標とか想いを背負ってらっしゃるんだと思います。
── 内崎さんはイレブンナインの劇団員でもありますが、納谷さんの演出について印象的なことはありますか。
内崎 柴田さんのおっしゃるとおり、納谷さんがまず完成形を提示して、それに向かって稽古をしていくことも多いです。
一方で、今回はいつもに比べて、俳優の方から思ったこととか考えたことを納谷さんに共有して、納谷さんも「そっちの方がいいね」ってなったら修正して、という感じで稽古が進んでいるなという印象ですね。
新作ですので、納谷さんも含め、割とみんなで一緒に探ってる状況です。
物語を通して伝えたいこと

── この作品を通して、お客さんに見終わった後にどんなことを受け取ってもらいたいですか。
柴田 原作の『藪の中』って、結局みんな何言ってるのかわからないで、すっきりしないまま終わるというお話です。それが、人間のある側面をすごくわかりやすく描いていると思うんですね。人間を俯瞰できる作品だなと。
今回は、それを納谷さんが現代に置き換えており、よく考えて作られています。エンターテインメントな仕掛けとか、舞台の仕組みが回り舞台になっていたり、きっと楽しんでいただけると思います。
原作がありながらも、ストーリーは納谷さんのオリジナルですので、必ず何か感動できるポイントがあると思います。納谷さんがいままでも描いてきた、家族のつながりや人との絆にも重なる物語です。ぜひ期待していただきたいです。
内崎 現代社会は情報が多く出回って、何が本当で何が嘘かわからない。本当とか嘘とか、真実とか事実とか、そういったものを冷静に、俯瞰して見る、視野の広がる物語になっています。
原作の『藪の中』を読んでも、それは十分に感じ取れはするんですけど、舞台では実際に目の前で人が動いて、演出で色々な見せ方をしていくので、きっとそういった視野の広さみたいなものを獲得できるような作品になると思います。
柴田 お客様の中には、実際に自分の人生で「藪の中」にいらっしゃる方もいるかもしれませんしね。
内崎 そうですね。真実だと思っていたことでも、視点が変われば見えてくるものも変わりますし、一つの視点だけにとらわれないということを感じ取れるんじゃないかなって思います。
朗読劇を舞台に差し込む、独自の演出構造

── ここからは、脚本・演出の納谷真大さんにお話を伺います。今作は、ジョブキタ北八劇場のシリアスシリーズにあたりますね。
納谷真大さん(以下、納谷) 劇場がオープンする前、芸術監督して劇場の年間のプログラムを考えるときに、劇場支配人の伊藤久幸さんの助言もあり、この劇場では、「コメディシリーズ」と「シリアスシリーズ」というふうにわかりやすくカテゴライズした方が良いんじゃないか、ということになりました。
僕の脚本は、基本的にコメディ要素の強いものしか作ってこなかったんです。どんな悲劇も喜劇であると思っているので。一方で、イレブンナインの代表作であるレジナルド・ローズの『十二人の怒れる男』は、いたってシリアスな作品でした。
それで、自分のオリジナルのコメディ枠に加えて、自分の中の挑戦としてのシリアス枠という風にカテゴライズすることになりました。
今年のシリアスシリーズを考えるにあたり、僕はこれまでも原作を現代に置き換えるという創作を行っていたので、はじめのアイデアとしては、黒澤明の映画『羅生門』の舞台版でした。この映画、タイトルは『羅生門』だけど内容は『藪の中』なんですよ。この名作を舞台にしてみこうと考えたのが最初のきっかけです。
── 今年3月には、朗読劇として『藪の中』を上演されていますね。
納谷 はい。そこで生まれた演出のアイデアもありました。
今回の舞台でも、朗読が本編の中に差し込まれています。いきなり朗読が始まるので、お客さんは最初何のことかわからないと思うんですよ。でも、劇と朗読がミクスチャーされて、それが積み重なっていくと、「そうか、今ここで進んでる物語と原作の『藪の中』がシンクロしていってるんだ」と気付いていきます。
── あくまでメインの物語は現代の札幌が舞台だけれど、朗読が差し込まれることによって、原作をメタファーとして感じ取れるようにしていく。
納谷 そうです。2つの物語を同時に語り、シンクロさせていく。これにより、物語とお客さん自身の日常も重なっていくような、フィクションと自分のリアルな暮らしとのアタッチメントになればいいなと思っています。

ー さらに今回は、回り舞台を使われるんですね。
納谷 回り舞台が回っていくことで場面も転換されていくし、1つのセットでも角度が違うと何か別のものに見えるという仕掛けがあります。この「見える角度によって捉え方が変わる」というのは、僕が演劇を作る時の割と普遍的なテーマだと思うんですね。
『ひかりごけ』(2021年初演)もそうでした。光苔というのは見える角度によって光ったり光らなかったりする。人の肉を食べる、生きるために食べる、食べるために殺す。視点が変わることで捉え方が変わる。
『藪の中』も、いろんな人の視点があるという作品ですよね。一つの事象について、自分の立ち位置によって見え方が変わる。物事の真実って結局何なんだろうっていう。「真実と事実」、そういうものを多分テーマにしたいんでしょうね。

ー あらすじにも「真実と事実が、幾重にも交錯する」という印象的なフレーズがありますね。
納谷 僕はね、真実っていうのは人の数だけあると思うんですよ。でも事実っていうのは、1個しかない。でもその1つの事実は、誰にもわからないというか。
原作はすっきりしない終わり方ですけれど、本作はできれば絶望で終わりたくないなと思っています。ただの絶望ではない、人はこの先も営んでいかねばならない。作品を観た方が、自分の中の真実を見出して向き合えるような物語にしたいなと思っています。
これまで北八劇場といえば、やっぱりコメディをたくさんの方に観ていただいていて、笑える劇場って思ってもらえていると思うので、そうじゃないもう一つの側面を感じてもらえるような作品にしたいですね。人間ドラマを楽しみにしていただきたいです。
(取材:2025年11月)
公演情報

ジョブキタ北八劇場シリアスシリーズ 札幌劇場祭TGR2025参加作品
納谷版~藪の中
原作:芥川龍之介 脚本/演出:納谷真大
日程
【前期】2025年11月29日(土)〜12月7日(日)
【後期】2025年12月24日(水)〜12月28日(日)
全20ステージ
※開場は開演30分前
※チケット受付開始は開演45分前
※【前期】と【後期】の上演内容は変わりません
会場
ジョブキタ北八劇場
札幌市北区北8条西1丁目3番地「さつきた8・1」2階
キャスト
【シングルキャスト】
五十嵐みのり、内崎帆乃香、小西麻里菜、小林エレキ、坂口紅羽、明逸人、山野久治
【ダブルキャスト】
大田黒ヒロタカ、神成悠平、菊地颯平、柴田智之、納谷真大
11月29日(土)18:30 終演後
12月6日(土)13:30 終演後
出演/堰八紗也佳 堀内大輝
チケット
- 一般:5,000円
- U-25:2,000円
- 中学生以下:1,000円
※すべて税込
※前売当日共通
※未就学児入場不可
※U-25(25歳以下)、学生の方は当日受付にて身分証明書をご提示ください
【チケット取扱】
ローソンチケット(Lコード:18550)、道新プレイガイド、市民交流プラザチケットセンター、チケットぴあ(Pコード:537-227)、ジョブキタ北八劇場
スタッフ
原作/芥川龍之介
脚本・演出/納谷真大
脚本部/町田誠也、梅原たくと
音楽/山木将平
舞台美術/高村由紀子
照明/手嶋浩二郎
照明オペレート/中田遥
音響/奥山奈々(Pylon Inc.)
舞台監督/上田知
技術監督/伊藤久幸
演出部/志田杏樹、坂口紅羽
衣装/橋場綾子、上總真奈
小道具/菊地颯平
プロデューサー/小島達子
宣伝アドバイザー/岩田雄二
制作・広報/猪俣和奏、田中舞奈、笠島麻衣
票券/澤田未来
宣伝美術/若林瑞沙(Studio COPAIN)
写真撮影/クスミエリカ
主催/一般財団法人田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)
制作協力/tatt Inc.
宣伝協力/北海道放送株式会社
キャスティング協力/Atelier柴田山、ELEVEN NINES、株式会社 太田プロダクション、 HBC北海道放送
協力/さっぽろアートステージ2025実行委員会、札幌劇場連絡会
一般財団法人田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)
E-mail:office★tmtf.jp(★を@に変更ください)
電話:011-768-8808 または、070-9358-9374(月〜金、10:00〜17:00※祝日除く)

