札幌演劇シーズンは、札幌が演劇創造都市になることを目指しています。演劇創造都市とは「演劇を住み良いまちづくりの根幹にする」ということ。
確かに演劇は面白いけど、それでまちづくりなんてできるの?演劇にお金かけているヒマあったら別の政策を整えるべきじゃないの?
果たしてそうでしょうか。実は、世界には演劇でまちづくりを実際に成功させた例があります。
さっくん
演劇のまちアシュランドとは
所在地 | アメリカ合衆国 オレゴン州 ジャクソン群 |
面 積 | 17.07 km²(麻生と同じくらい) |
人 口 | 20,710人(2013年) |
Web | アシュランド公式サイト |
アシュランドは、アメリカ・オレゴン州にある小さなまち。
南オレゴン大学のメインキャンパスがあり、人口の半分は大学関係者。この南オレゴン大学は日本にはあまりない「リベラル・アーツ」と呼ばれる教育システムを採用しており、各国から多様な留学生が訪れています。2006年にはNew York Times紙で「アメリカの隠れた名大学20校」に取り上げられました。
演劇学科を特色としており、シェイクスピア学や舞台芸術学で有名です。
アシュランドの劇場
Allen Elizabethan Theatre 野外1190席
Angus Bowmer Theatre 601席
New Theatre(Thomas Theatre) 270-360席
まちの中心部には大中小の3つのメイン劇場があります。一番大きい劇場は1200人規模の野外ステージ Allen Elizabethan Theatre。天気が良い日は星たちが輝く中で、大迫力の舞台を楽しむことができます。
ほかにも稽古場としても利用される Black Swan Theare や アシュランド高校付属の劇場などもあり、観劇環境は整えられています。
オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル
アシュランド観光産業の最大の目玉が「オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル(OSF)」。毎年2月〜10月、先述の3つの劇場で開催される演劇シーズンで、開幕からおよそ70年の歴史を持ちます。
3〜4本のシェイクスピア作品を含む11作品が毎日のように上演されており、期間中は世界中からのべ40万人が訪れるそうです。
さらにOSF Courtyardと呼ばれる中庭では夕方になると様々なパフォーマーによるグリーンショーが行われています。家族と、友だちと、彼氏彼女と、芝生にすわりながら楽しむんだそうです。すごく楽しそうだ…!
劇場近隣の飲食店は上演時間と合わせて営業し、宿泊施設も観客が利用しやすいように整えられています。100人近い専属の役者とそれをささえる650人のボランティアスタッフたちがいます。
さらに、イベントの運営費用の70%がチケット代ということですから、どれだけ多くの観客が訪れているかがわかります。
このような質の高い演劇フェスティバルがもたらす影響は、演劇界隈に収まりません。
観劇前後に利用する飲食業、開演までの時間を利用した周辺の観光産業、ホテルなども同時に整備されていき、まちづくりが形成されていきます。
優れた演劇があるところに需要が生まれ、雇用が生まれ、コミュニティができ、さらに観客が増え、まちづくりが発展していく。この好循環は、まさに「演劇創造都市」の働きと言えるのではないでしょうか。
オレゴン・シェイクスピア・フェスティバルの歩み
今や世界的演劇フェスティバルとなったオレゴン・シェイクスピア・フェスティバルですが、はじまりは一人の大学教授の思いつきだったそうです。
「学生を集めてシェイクスピアをやったら面白いんじゃないか」
アメリカ独立記念日に上演してみたところ、これが大好評。まち全体にこの取り組みは知られ発展していくこととなりました(1935年)。1930年代は世界恐慌の最中。アメリカ全体が落ち込む空気の中、演劇が与える感動はまちを元気づけていきました。
1980年代になると、学生演劇にとどまらずプロの役者が出演することになりました。役者たちは家族とともにこのまちに住むようになり、継続的なイベントの運営が可能になりました。
Allen Elizabethan Theatreの危機
勢いを増すオレゴン・シェイクスピア・フェスティバルでしたが、1991年に事件が!
メインの Elizabethan Theatre の補修をしなくてはならなくなりました。今でこそクラウドファウンデングなどで寄付を募れますが、当時はそんなシステムはなく大慌て。
改修費はおよそ8億円。小さなまちにそんなお金ないよ!
そんなオレゴン・シェイクスピア・フェスティバルの危機を救ったのは、かの有名な富豪ポール・アレンでした。彼はビル・ゲイツとともにマイクロソフト社と創設した実業家で、演劇ファン。300万ドルも補助したそうです。
その感謝の気持ちを込め、この劇場に Allen の名前が入ることとなりました。
役者は公演だけでなく、アシュランド内の高校や大学に講師として訪れ、次の世代を育成しているようです。
このような徹底された教育プログラムもオレゴン・シェイクスピア・フェスティバルが70年も続けられてきた理由なのかもしれません。
札幌演劇シーズンとOSF
2012年、札幌演劇シーズンが始まりました。
規模は違えど、札幌がアシュランドのような演劇のまちになるための重要な役割を担っているイベントです。
オレゴン・シェイクスピア・フェスティバルは8ヶ月間11作品の開催に対し、札幌演劇シーズンは1ヶ月間5作品です。専属の役者や600人のボランティアスタッフもいません。
まだまだ?確かにそうかもしれません。しかし、札幌には確かなポテンシャルがあります。
札幌は、本サイトで紹介しているだけでもおよそ80の劇団があり、市内の主要な10の劇場で毎日のように質の高い作品が多く上演されています。
昨今では、海外で上演をする劇団や、日本で上演する海外劇団との交流も増えてきており、グローバル化が進む社会で、舞台芸術という世界共通のコミュニケーションを札幌の地で可能にしています。
2016年冬には、英・中・韓・台湾の四か国語字幕上演がはじまりました。「SAPPORO SNOW FESTIVAL」とコラボし、巨大雪劇場でシェイクスピアを野外公演するプロジェクトも行いました。さらに2017年冬は「狼王ロボ」で動員数3500人超を達成。札幌演劇シーズンが多くの札幌市民に浸透してきた証拠となりました。
少しずつかもしれないけど、確実に、
札幌演劇は盛り上がっています。
アシュランドは今日の盛り上がりを見せるまで70年かかりました。千里の道も一歩から。私は、札幌が本当に「演劇創造都市」になるように思えてならないのです。
私たちにできること
札幌演劇を盛り上げるのを手伝いたい!そうは思っても何をしたらいいのでしょう。
答えは簡単。観に行けばいいのです!
演劇は映画に比べて敷居が高く感じていませんか?「君の名は。」は誘えるけど、演劇は誘いにくいって思っていませんか?
はじめは小劇場の敷居が高く、なかなか観に行く機会がないかもしれませんが、観てみると意外とハマります。
インターネットでいろんなものが見れるようになった現代社会で、わざわざ劇場に足を運ぶ。格好良いではありませんか! 「趣味は観劇です。」すごく文化的ではありませんか!
さあ、毎年夏と冬に開催されています「札幌演劇シーズン」。目の前で役者が笑う、泣く、怒る、踊る、歌う、その迫力は演劇ならではです。ぜひ、観に行くことで札幌演劇を応援しましょう。
もし、演劇は敷居が高いと感じていらっしゃる方がいましたら、こちらを読んでみてください。
d-SAPでは、みなさんにとって演劇をもっと身近にできるよう努めてまいります。今後ともよろしくお願いします。
- 『札幌演劇シーズンとは?』札幌演劇シーズン http://s-e-season.com/about/concept.html
- 『本場から考える札幌演劇シーズンの課題』舞台製作PLUS+(2013)http://seisakuplus.com/news
- 『35. オレゴンの田舎町「Ashland」とシェークスピア』e翻訳スクエアhttps://e-honyakusquare.sunflare.com
- NPO法人ふらの演劇工房『アシュランド視察報告書〜演劇のまちづくりを目指して〜』(2005)http://www.furano.ne.jp/engeki/pdf.down/ashland2005.pdf