2025年10月4日(土)、札幌市教育文化会館大ホールで上演される劇団わらび座のミュージカル「イーハトーブシアター『真昼の星めぐり』the Musical」。宮沢賢治の幻想的な世界観、ヘラルボニーによるアート、さらには観客自身が共に舞台をつくる没入型演出が織りなす、新感覚の舞台体験です。
今回は、主人公の一人・青木めぐる役を演じる札幌出身の俳優、冨樫美羽さんに、作品の魅力や札幌公演への特別な思い、そして劇団わらび座の活動について詳しくお話を伺いました。
(聞き手=佐久間泉真)

冨樫 美羽(とがし みわ)
札幌出身。小学6年生の時に演劇ワークショップに参加したことをきっかけに演劇を始める。札幌の高校卒業後、わらび座養成所に入所し、2年間の研究生期間を経て劇団員となる。「真昼の星めぐり the Musical」では、主人公の一人・青木めぐるを演じる。
わらび座
1951年秋田県仙北市で創立。民族伝統をベースに現代を描く劇団として、年間約600回の全国公演や海外公演を展開している。修学旅行生の受け入れ先としても人気を博しており、毎年約150校2万人の子どもたちが拠点である「あきた芸術村」を訪れ、ソーラン節や農作業体験などを提供している。
宮沢賢治の世界観と最先端アートの融合

ー このたび札幌で上演されるミュージカル『真昼の星めぐり』はどのような作品ですか。
この作品は、宮沢賢治の複数の童話を題材にしたミュージカルです。主人公は、優等生・冴島あおいと、本音を隠して生きる青木めぐるという、それぞれに悩みを抱える2人の女子高生。ふとしたことから現れたドラネコに導かれ、「イーハトーブ」と呼ばれる宮沢賢治の理想郷へ旅立ちます。
旅の過程で、『やまなし』『虔十公園林』『どんぐりと山猫』など賢治の童話世界を巡りながら、お互いの悩みを打ち明け、大人になるにつれて無くしてしまった「大切なもの」を探す100分です。
ー チラシやホームページで特に印象的なのが、ヘラルボニーとの共同制作ですね。
そうなんです。ヘラルボニーさんは、岩手県に拠点を置き、障害のあるアーティストの方々の作品を商品化し、その可能性を世界に発信している企業です。近年ではカンヌライオンズでのゴールド受賞など、国内外で大きな注目を集めています。
舞台では、そうしたアーティストの方の作品が衣装や舞台美術に使われていたり、チラシにも使われていた工藤みどりさんの作品が、舞台の大きな背面美術として登場しています。

ー さらに、「光るボール」の演出についても教えてください。
これは私たちにとってもなかなか大変な装置です(笑)。劇場の全座席に光るボールが設置され、お客様はそれをハグしながら鑑賞します。

さらに舞台上にも同じボールがあって、シーンごとに色が変わる仕掛けが……。観客と舞台が連動して光り、劇場全体が「イーハトーブ」になっちゃうんです。すごく幻想的で、観ている人からも「まるで自分が舞台の一部になったみたい」といった声をいただいています。
物語の世界観を感じる、賢治の言葉

ー 冨樫さんが演じる青木めぐるはどのような人物ですか。
私の演じる青木めぐるは、とにかく明るくて天真爛漫な女の子です。でも、学校生活では「いじられる」ことで、その場にいるために本当に好きなものを隠さなきゃいけなかったり、自分を壊したりしてしまう複雑な一面もあって……。そうした「自分を押し殺す感覚」って、きっと今の子どもたちにも共感できる部分だと思いますし、私自身も似た気持ちになることがあります。
そんなめぐるが、不思議なイーハトーブの世界で、今まで出会ったことのない人たちや景色に出会い、夢中になる姿を通して、彼女自身が大きく変わっていく様子を大切に演じています。
ー 宮沢賢治の作品を題材にされていますが、冨樫さんご自身にとって、賢治作品はどのような存在ですか。
実は、私にとって賢治作品に関わるのは今回が初めてで、最初は正直どう理解するべきか戸惑いがありました。そんな話を岩手出身の後輩にした時に「理解するというよりも、物語の世界観を感じる、に近いかな」と言われて、ハッとしたんです。それをきっかけに読むと、賢治の言葉が少しずつ心に響いてくる感覚がありました。

ー 特に注目してほしいシーンはありますか。
めぐるが、杉を植える少年・虔十に出会い、彼の生き方に感銘を受けるシーンがあります。そこには、7分間のソロナンバーがあって、私にとってもすごく大切な場面です。ぜひ注目して観てもらえたら嬉しいです!
ー 7分間のソロナンバー、楽しみです。印象的だった稽古中のエピソードはありますか。
演出家の鈴木ひがしさんから、「歌うな」と繰り返し指導を受けました。7分間ずっと歌っているシーンなのに、「もっと歌わないで」と。歌うのではなく、自分の思いを語って具体的に伝えていくんだと。
なかなか苦戦したのですが、演出家から「そこで出会う今まで見たことないような人たちに、めぐるは夢中になっているんだ」という言葉をもらい、それがとても印象的でした。非現実の中にいるからこそ吐ける言葉があったり、内面の変化があることを意識して演じています。
札幌凱旋公演への特別な思い
ー 冨樫さんは高校卒業後、わらび座の養成所に入所されました。札幌に残って演劇を続けるという選択肢もあった中で、わらび座を選んだのはどのような思いからだったのでしょうか。
高校3年のとき、大学のオープンキャンパスにも行ってみたんですけど、どこも「なんか違うな」と感じてしまって。とりあえず「大学には行かない」ってだけを決めてフラフラしていた時に、たまたま芸術鑑賞でわらび座の公演を観たんです。
その時は入団しようとまでは思わなかったのですが、親から「ここなら安心して送り出せる」と言われて。父には「ここで腹を括らなかったら、一生何も決められない」と言われ、2年間は頑張ってみようと思って入団しました。

ー 研究生としての2年間はいかがでしたか。
歌や演技はもちろん、民族舞踊やジャズダンス、笛や太鼓、さらには田植えの実習まで、本当に幅広いことを学びます。最初は「なんでこんなことまで?」と思いましたけど、秋田に根ざした劇団だからこそ、地域を盛り上げたいという精神を自然と身につけられる場所なんだと実感しました。

さらに、毎年たくさんの修学旅行生を受け入れて、舞台を観てもらった後に役者がワークショップを開くんです。子どもたちと一緒に踊ったり話したりする中で、「舞台をつくる私たちは、人として、社会的にどうあるべきか」をすごく考えさせられました。
子どもたちはとても正直だから、役者が“人としての芯”を持っていないと伝わらないんですね。孤独を抱えていたり、わざと反発して大人を試すような子もいる中で、どう寄り添って、どうしたら日常に一つでも大切なものを持ち帰ってもらえるか。その経験が私にとって、わらび座で学んだ大きな財産だと思います。
ー 劇団わらび座では、現在研究生を募集しているのですね。
はい、現在、劇団わらび座では、この研究生制度の魅力を体験できるオープンキャンパスを2025年9月21日(日)と10月19日(日)に開催します。プロを目指したい方はもちろん、人として成長したいと思う方にとっても、とても魅力的な選択肢になると思います。

ー 札幌出身の冨樫さんにとって、今回の札幌公演は凱旋公演となりますね。最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
わらび座に入団した時から、いつか必ず札幌に帰って舞台に立ちたいと思っていました。お世話になった方々や大切な人たちに、自分が胸を張って届けられる作品を観てもらえるのは、本当に嬉しいです。
わらび座は「心の感動が人の生活を豊かにする」という考えを持ち、芸術を生活の必需品にしていこうと活動しています。私自身もその理念に強く共感していて、一員として舞台に立てることを誇りに思います。今回の作品を通じて、その思いを札幌の皆さんと共有できたら嬉しいです。
ぜひ、宮沢賢治の言葉を「明日を生きる力」として受け取ってほしい。劇場を出たときに、ほんの少しでも世界が明るく見えるような、そんな感動を届けたいと思っています。
公演情報

劇団わらび座『イーハトーブシアター「真昼の星めぐり」the Musical』札幌公演
原作: 宮沢賢治
脚本: 德野有美、鈴木ひがし
演出: 鈴木ひがし
日程: 2025年10月4日(土) 14:00 ※開場は開演の30分前
会場: 札幌市教育文化会館大ホール (札幌市中央区北1条西12丁目)
優等生の冴島あおいと、本音を隠して生きる青木めぐるは、同じ高校に通う幼なじみ。ある日、おしゃべりなドラネコに誘われ、不思議なワンダーランド「イーハトーブ」へ。二人は「失くしてしまった大切なもの」を探すべく旅に出る。川底に生きるカニの兄弟、黙々と杉の世話をする青年、裁判で争うどんぐり達、山の神のような鹿達。イーハトーブに住む動物や人々の生きざまに触れ、あおいとめぐるが見つけたものとは…。
出演: 佐々木亜美、冨樫美羽、平野進一、千葉真琴、森下彰夫、小山雄大、内田勝之、山田愛子、佐藤千明、黒木真帆、三浦叶子、赤石美友、松本莉奈、杉目あかり
チケット料金:
S席 デジタルアートシート:7,000円
※わらび座の会有料会員は10%OFF(1会員様各回5枚まで)
※全席指定・税込料金
※未就学児入場不可
※18歳以下は無料招待、保護者同伴半額チケットもあります。
鑑賞サポート: 多目的室鑑賞(未就学児のお子様連れ向け)、バリアフリー字幕席、車イス席、補助犬同伴席、優先入場、リラックスエリア、筆談ボード、バリアフリーマップ、音声解説など、多様な鑑賞サポートが用意されています。詳細やご予約が必要なサービスについては、お問い合わせ窓口までご確認ください。
一般社団法人わらび座 公演事業部
TEL: 0187-44-3332(平日10:00〜12:00 / 14:00〜17:00)