2025年3月8日(土)〜3月23日(日)にジョブキタ北八劇場で全20ステージの公演が予定されている『不条理劇×日本文学【演劇】別役実 と【朗読】芥川龍之介』。本公演は、当初同時期に上演が予定されていた『そして誰もいなくなった』(原作:アガサ・クリスティ)の代替公演として開催されます。
『そして誰もいなくなった』の公演中止が発表されたのは、公演1ヶ月前の2月10日。著作権および上演許諾に関する問題が原因で、突然の発表にファンや演劇関係者から驚きの声が上がりました。
今回の記事では、ジョブキタ北八劇場の芸術監督・納谷真大さん、代替公演に出演する俳優の菅原永二さん、戸澤亮さんにインタビュー。公演中止の経緯や代替公演への思い、創作の進捗を伺いました。
(聞き手:佐久間泉真)
突然の公演中止、その背景とは

──『不条理劇×日本文学』は、公演中止となった『そして誰もいなくなった』の「代替公演」として上演されます。公演中止の経緯を改めて教えてください。
納谷真大さん(以下、納谷) 劇場のホームページでもお知らせしている内容になりますが、公演中止の理由は「著作権および上演許諾に関する都合」になります。私たちとしては、上演許諾の手続きはすでに問題なく完了しているという認識のもと稽古を進めていたのですが、権利関係の認識違いがあり、2月上旬になって、実は原作者からの正式な許諾を得られていなかったことが発覚しました。
事態が発覚した時点でチケット販売を中止し、その後もなんとか上演できないかと交渉を試みたのですが、正式な上演許諾の手続きに要する時間を考慮すると、その時期ではもう上演は現実的に不可能だと判断し、公演中止を発表しました。
── 「認識違い」があったとのことですが、今回のような事態が北八劇場はもちろん、札幌や他の地域でも再び起こらないようにするための再発防止策について伺いたいです。「認識違い」がなぜ起きたのか、もう少し詳細な経緯を公表するなど、業界全体の学びにつなげていくことも考えられるかと思います。この点について、何か考えはありますか。
納谷 今回の件については私たちのリスク管理の甘さによるものですので、似たようなことが今後起こらないように何かしらの施策は検討していきたいと思います。現時点においては、まだ検討しきれていないのですが、今後何か皆さんにお伝えできることを考えていきたいと思います。
代替公演を決定した理由

── 公演中止の発表から1週間後に、代替公演の情報が公開されました。『そして誰もいなくなった』と同じ期間・日程での代替公演の実施を決めた理由をお聞かせいただけますか。
納谷 理由はいくつかありますが、芸術監督として最も強く感じているのは、昨年オープンしたばかりの劇場の流れを、今回の一件で止めてはならないという思いでした。
今回の件が発覚し、今後の対応について議論する中で、プロデューサーから「代替公演は可能か」と提案がありました。“代わり”としての公演は実現可能なのか、迷いはありましたが、せっかく新しい劇場が動き出しているのに、我々の不手際によってその勢いが堰き止められてしまうのは避けたいと思いました。
この公演自体は止まってしまったとしても、劇場として動き続けることはできるんじゃないか。それを考えていくのが、劇場の芸術監督としての一つの使命なのではないかと。
── 代替公演の内容として、別役実の戯曲2本と、芥川龍之介の作品の朗読が発表されています。なぜこの演目を選んだのでしょうか。
納谷 短い準備時間で、いまの僕が作れるクオリティの高い作品を考えたときに、別役実の作品が浮かびました。『いかけしごむ』と『眠っちゃいけない子守歌』の2作は、過去に学校公演で上演したことがある作品なんです。
別役実さんは僕にとって憧れです。大好きな作家ですし、日本の不条理劇を確立した方と言われています。不条理劇ってなんだという話ですけれど、僕はコメディだしコントだと思っていて。別役さんの、受け手がいかようにも捉えられる幅のある世界観はとても面白いです。笑っていただけると思います!
また、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』と『藪の中』を選んだ理由の一つは、2025年12月に予定されている『羅生門』公演を意識しました。今後の公演にもつながるような作品を選ぶことで、劇場の活動に一貫性を持たせたいと考えました。

── 現在稽古が進んでいると思います。俳優の皆さんは公演中止の知らせを受け、あらためて再出発のような形で稽古が再開したと思いますが、現在の稽古の様子、創作の進捗を教えてください。
菅原永二さん(以下、菅原) 時間がない中での稽古ですが、やっぱり作品を作っていく過程は面白いです。
今回はダブルキャストで、相手役も日によって変わるのですが、もちろんそれぞれ違いますし、もっと時間があれば!と思いますね。
── 芥川2作品は、朗読という形式での上演になりますね。
菅原 以前、東京で朗読劇『桜の森の満開の下』(作:坂口安吾)を上演したのですが、そこで朗読の奥深さを体感しました。
朗読は、演劇みたいに表情や身体の動きがあるわけではないので、演者の語りを聞きながら、お客さんは頭の中で物語を想像し組み立てていくんですね。たとえば色だったり。そこに音楽が加わってさらに想像が膨らんだり。
朗読だからこそ伝わるものってやっぱりあって、見る人によって一番印象に残ったシーンも違うんですね。
今回も芥川2作品ありますけど、お客さんはどういう捉え方をするのか、楽しみですね。小説を読んだことがある人も、読んだことがない人も楽しみにしていただきたいです。
── そうですね。戸澤さんはいかがですか。
戸澤亮さん(以下、戸澤) 菅原さんが言ったように、短い期間での稽古は楽しくもあり、とにかくがむしゃらって感じです。
特に別役作品は二人芝居なので、 『そして誰もいなくなった』で本来やるはずだった役のセリフ量よりも多いくらいなんです。 不条理劇ということもあり、セリフが直感的じゃないというか、表現があっているかわかんないですけど、まどろっこしいというか、覚えにくかったりします。
菅原 何回も同じことを繰り返し言ってるんですよね。
戸澤 そうなんです。「あれ言ったっけ? この話」みたいな状態に…。すでに言ったセリフを言っちゃったり、数ページ先のセリフを言っちゃったりする。
菅原 そう、体に馴染ませるまで時間かかりますよね。
戸澤 やるしかないなって感じです。
── 観るお客さんにとっては、その俳優の負担感も面白く見えるかもしれないですね。
戸澤 そうですね(笑)。 やはり実際にチケットを買ってくださってるお客さんがいらっしゃるということは大きいです。もともと上演するはずだった作品が公演中止になってしまったとき、僕たちはお客さんのことを一番に考えなきゃいけない、そのケアをしなきゃいけないなと思います。
代替公演をやるとしても、お客さんはもちろん『そして誰もいなくなった』が観たかったわけですし、この役者さんを見たいと思っていても、代替公演にその役者さんが出ないっていうことにもなってしまっている。僕は、そういったお客さんの心を少しでも救えたらいいなと思っています。
そのために何ができるか考えた時に、もうその期間はスケジュールを押さえてあるし、代替公演ができるならやらない手はないと僕は思いました。だから、そのお客さんのことを想って、一生懸命真摯に稽古に取り組む日々ですね。


歩みを止めないこと
── 今回の代替公演、これから観に行こうと思っている方や、観るか迷っている方に向けて、何か伝えたいメッセージはありますか。
戸澤 公演中止からの代替公演ということで、この記事全体も暗い感じになってしまっているような気もするんですけど、そうなっててもしょうがないというか、やるしかない、といった思いです。
でもやっぱり僕は創作が好きです。個人的には、別役作品や朗読劇に挑戦するのも初めてなので、 一人の役者としてはすごく楽しみにしています。迷っている方がいらっしゃいましたら、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。
菅原 そうですね。『そして誰もいなくなった』を楽しみにしていたお客さんもたくさんいらっしゃると思うんですけれども、装いを新たに作品を考えて作っておりますので、応援していただけたら嬉しいです。
みんなで必死になって作った作品になると思うんですよね。僕は東京から来ていますんで、こういう人もいるんだと北海道の方にお見せしたいと思っています。
納谷 菅原永二さんは東京のトップランカーの俳優で、札幌の俳優もめちゃくちゃ刺激を受けています。演技力だけでなく、稽古への向き合い方から、僕も含めてとても勉強になっています。
やっぱり僕は、本当に申し訳ないという思いでいっぱいです。もちろん『そして誰もいなくなった』を楽しみにされていた方にとって“代わり”にはならないかと思いますが、創作者としては、作品は変わったけれども、札幌の俳優と東京のトップランカーの俳優との共同創作は意味があるのかなと思いますし、それを楽しみに少しでもたくさんのお客様に観ていただけたら嬉しいです。
芸術監督の役割としては、なんとか劇場を止めない方法を考えます。 もちろんそれによって、いろんな人を傷つけたり、いろんな人にご迷惑をかけたりすることがあると思います。ただ、今僕にできることは何かと考えると、やっぱり劇を作ることしかないんだろうと思うんですね。その歩みを止めないことが、この代替公演の一つの意味でもあります。
ジョブキタ北八劇場は2025年も皆さんに楽しんでいただけるようなさまざまなプログラムが準備していますので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。劇場でお待ちしております。
(2025年2月某日)
公演情報
ジョブキタ北八劇場主催公演 『そして誰もいなくなった』代替公演
不条理劇×日本文学
【演劇】別役実 と【朗読】芥川龍之介

日本の不条理劇の礎を築いた別役実の2作品、近代日本文学を代表する文豪のひとり芥川龍之介の2作品をお届けします。
別役実の「いかけしごむ」「眠っちゃいけない子守歌」の2作品を<演劇>で、そして芥川龍之介の「蜘蛛の糸」「藪の中」の2作品を<朗読>でお届けします。
なお、本公演は同期間に上演予定だった『そして誰もいなくなった』の代替公演となります。『そして誰もいなくなった』公演の中止につきまして、多くの皆様にご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます。
演劇 別役実作品
「いかけしごむ」
「眠っちゃいけない子守歌」
朗読 芥川龍之介作品
「蜘蛛の糸」
「藪の中」
【ご観劇予定のお客様へ】
今回の演目には、一部に過激な描写(暴力、暴言等)が含まれていますが、別役実と芥川龍之介という二人の作家が生み出した名作の精神を尊重し、ほぼ原作に忠実に近い形でお届けいたします。観劇に際してご不安な点がある場合は、どうぞ事前にお問い合わせください。
2025年3月8日(土)〜3月23日(日)全20ステージ
3月8日(土)18:00〜
3月9日(日)13:00〜/18:00〜
3月11日(火)19:00〜
3月12日(水)14:00〜★/19:00〜
3月13日(木)19:00〜★
3月14日(金)19:00〜★
3月15日(土)13:00〜/18:00〜
3月16日(日)13:00〜/18:00〜
3月18日(火)19:00〜
3月19日(水)14:00〜/19:00〜
3月20日(木・祝)14:00〜
3月21日(金)19:00〜
3月22日(土)13:00〜/18:00〜
3月23日(日)13:00〜
※公演を予定しておりました「そして誰もいなくなった」の公演スケジュールと同様の日時となっております
★=アフタートーク開催回
※開場は開演30分前 ※チケット受付開始は開演45分前 ※全席指定
ジョブキタ北八劇場
(札幌市北区北8条西1丁目3番地「さつきた8・1」2階)
五十嵐みのり
菊地颯平
小林エレキ
坂口紅羽
柴田智之
菅原永二
戸澤亮
納谷真大
明逸人
森上千絵 (五十音順)

前売・当日共通〔全席指定〕
・一般:4,000円
※「そして誰もいなくなった」公演のチケットをご購入済みお客様で、チケットお振替にて本公演をご観劇の方には、当日劇場窓口にて差額の500円をご返金いたします。
・学生:2,000円
・中学生以下:1,000円
※すべて税込。 ※未就学児入場不可。 ※学生の方は学生証をご提示ください。 ※車椅子でご来場の方は事前に劇場までご連絡ください。
原作:別役実、芥川龍之介
演出:納谷真大
照明:手嶋浩二郎
音響:奥山奈々(Pylon Inc.)、石井悠貴
舞台監督:上田知
技術監督:伊藤久幸
演出助手:小野寺愛美、坂口紅羽
ドラマアドバイザー・映像:蓑輪俊介(murmur)
衣装:上總真奈
小道具:菊地颯平
プロデューサー:小島達子
宣伝協力:岩田雄二
制作:猪俣和奏、梅原たくと、笠島麻衣
票券:澤田未来
宣伝美術:本間いずみ
写真撮影:クスミエリカ
制作協力:tatt Inc.
協力:ELEVEN NINES、スガワラエイジェンシー、富良野GROUP
主催:一般財団法人田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)
ネーミングライツ企業:ジョブキタ
オフィシャルパートナー:伊藤組土建株式会社、大和ハウス工業株式会社、大和ハウス工業株式会社・住友不動産株式会社・東急不動産株式会社・株式会社NIPPO 共同企業体、大成建設株式会社、株式会社インサイト、JBEホールディングス株式会社
パートナー:株式会社札幌振興公社、東京建物株式会社、スターツコーポレーション株式会社、株式会社あいプラン
一般財団法人田中記念劇場財団(ジョブキタ北八劇場)
E-mail:office★tmtf.jp (★を@に変更ください)
電話:011-768-8808 または、070-9358-9374(月〜金(祝日除く):10時〜17時)