【インタビュー】『カラクリ』で感動したことがある全ての人へ|若者『カラクリヌード』WS公演

2024年9月19日(木)〜22日(日)に上演される札幌ハムプロジェクトの若者ワークショップ公演『カラクリヌード』。15年前が初演の劇団の代表作であり、札幌演劇シーズン2024での再演は大きな注目を集めた作品です。

今回は若者ワークショップ公演として、中学生〜20代による全18名のメンバーで作り上げます。

この作品を若者と一緒に再演する理由は何か。札幌ハムプロジェクト代表のすがの公さんと、4名のワークショップ参加者にその意図と魅力について伺いました。

(聞き手:佐久間泉真)

この子たちが楽しいって思えるのが、一番嬉しい

ー 劇団代表作『カラクリヌード』を、公募した10〜20代の参加者と共に作るワークショップ公演。このようなプロジェクトを企画した目的、ねらいを教えてください。

すがの公さん(以下、すがの) 自分ももういい年になって、これまでの自分の演劇の続け方を見直す機会があったんですね。昔は、できないことがいっぱいあったり、 やりたいことがいっぱいあったりして、あの会場でやりたい、あの土地でやりたいとかあったけど、もう一通りやっちゃった気もしていて。

じゃあ次、何を方針としてやっていこうかなと思った時、気がついたのは、どうしても「上向きに」芝居を作っちゃってるなって。「上向き」っていうのは、なんというか、偉い人だったり、審査員だったり、認められることとか。文化人に見てもらおうとか、評価されたり、助成金取ろうとしたりとか。要はおっさんたちに向けるわけだよね。

そんなことを考えていて、他のお芝居を観たときにふと周りを見てみると、観客の年齢層もだいぶ上がっていることに気づいて。なんだかそれが悲しいなと思った。

それで、自分の演劇の続け方として、もっと若い人たちに観てもらって、彼らが面白がってくれたら嬉しいなって思いました。それが、必要とされるっていうことかなって。若い人たちが面白いと思えば、我々おじさんたちも生きてていいかなって。

評価受けようとしたり、助成金取ろうとしたりすると、どうしても古典作品をやったり、文化としてすでに認められているものを解釈したりしようとするんだけど、それって「なるほどなるほど」で終わることであって、俺はあんまり面白いと思えないんです。

もちろん、演劇で食べていくために仕方がないっていうラインはあると思います。でもやっぱりコロナ禍を経て、そのラインが如実に見えすぎている感じもあって。受かるやつ受かんないやつ、残るやつ残んないやつがあって。そういうのは、もういいんじゃないかって思ったんです。

若い人たちに必要で、単純に彼らが「やりたい!」って思ってもらえるものを作ろう。それで、15年前に書いた『カラクリヌード』まで頭が戻りました。

たくさんの若い人に観てもらうために、演劇シーズンの仕組みを利用することにしました。シーズン作品になると、彼らは良いものだと思って観に来てくれるので、それで憧れてくれたり、自分もあの俳優みたいになりたいって思ってくれたら嬉しいなって。

ー では、最初にこの若者『カラクリヌード』公演をやろうという思いがあって、そのために演劇シーズンにエントリーしたということですか。

すがの ワークショップをやるかどうかはさておき、若者向けにやろうっていうのが最初にありました。

演劇シーズン2023-夏にやった『黄昏ジャイグルデイバ』という作品は中年のお話で、それなりに評判も良かったんですけれど、やりながら「本当に自分は中年に向けた芝居をやりたいのか」って疑問だったんです。

でも、それを観てくれた高校生が屈託のない意見をくれて。「おじさんになってもはしゃいでもいいんだなって思いました」って。なんて残酷なこと言うんだって思ったけれど(笑)

そのときに「そっか、この子たちが楽しいって思えるのが、俺は一番嬉しいんだな」って思ったんですね。昔から、人生の先輩に褒められたり批判されたり、良いこと悪いこと言われて、そんなのどうでもいいよってずっと思っていた方だったし、やっぱり若い人に向けた演劇っていうのが自分の活動の答えに近いんじゃないかって思った。 

札幌演劇シーズン2024上演時

ー それで『カラクリヌード』を再演することになったんですね。ただ作品を見せたいというだけでなく、一緒に巻き込んでワークショップ公演を行うのは、どういう意図があるんでしょうか。

すがの この作品は、観ているよりもやった方が面白いんですよ。

あとは、観て感動したものはやりたくなる、その原体験って大事だなって思って。俺も若い時はそういう風にやってきたし。もちろん、脚本があれば俺がいなくてもできるし、ぜひやってほしいと思うんだけど、簡単にできるんだよってことを伝える機会があった方が良いと思って。

この作品は、叫んだり動いたり役者が大変なので、きっと記憶に残ると思う。それは大変だけど、きっと良い時間になるっていう自信は、何度も『カラクリ』やってるからあるんです。

実際、これまでに出演してくれた役者さんたちがすごい覚えててくれるんです。それで、「俺は権藤役だったよ」「私はテンコをやった」って会話があって。そういう共通言語になるような作品が札幌にあるのも良いかもなって思いました。

ー 『カラクリヌード』の前回上演(2016年)からもう8年も経っているので、いまの中高生は観たことないですもんね。

すがの そうそう。コロナで穴も開いちゃったし。これはコロナ蔓延中には絶対やっちゃいけない演目だから。お客さんに向かって叫んだり、役者同士絡まったりするしね。

ー 今回、ワークショップ公演にあたり新キャラが加わったとのことですが、どんな人物ですか。

すがの 新キャラは、参加申し込みの数が多くて、男女比率を考えると役が足りなかったので書きました。せっかくワークショップに参加してくれたのにセリフがない役をやってもらうのは嫌だったので、みんな出てもらうためにはあと2人必要だった。

15年前の自分が書いた脚本に手を加えるのは、開腹手術みたいでした。どこにメスを入れれば入るんだろうみたいな感じで。なんとか良い感じになったと思います。

新キャラの立ち位置としては、これまで『カラクリ』観てくれた人たちとか俳優たちに、「物語のこの部分の説明は薄いんですね」って言われてたところを補う人たちです。

例えば、地下のモグラが立ち上がるとき、それまでの台本では結構突然立ち上がっちゃう感じだったんだけど、立ち上がるためには実は仕掛け人がいた、ということを描いたり。

あと、リコとゼロ助の関わりがあんまり書かれてなかったけど、そこを具体的にする人とか。権藤の元カノが出るって言えば、観たこと見たことある人は想像できるかな。

一度でも『カラクリ』で感動したことがある人には、ぜひ観ていただきたいです。

ー 若者に向けた作品が今後のすがのさんの活動方針になるということですが、このようなワークショップ公演は来年以降も継続して行う予定はありますか。

すがの 始まったからにはやらなきゃなって思っています。

もう、劇団単位で子供たちと関わる時代じゃないなと思っていて。若い人たちが劇団を作ったり、所属したりとかも少なくなってきていますよね。

むしろ作品単位で関われるような機会が必要なんだと思います。若い人たちがやりたくなりそうな作品を掘り出せたら、「これみんなでやらないか!」っていう提案をしたいと思います。

若い子たちからも、一緒にやりたくなったり、この脚本を使いたくなったら気軽に言ってくれると嬉しいです。

若者がもっと演劇に参加できる場を

左から、てんさん、塚田さん、田村さん、黒瀬さん(撮影:内田翔太)

ワークショップ参加者からは、黒瀬咲希さん(23Hz/北海学園大学演劇研究会)、田村咲星さん(北海学園大学演劇研究会)、てんさん(yhs)、塚田そらさんの4名にお話を伺いました。

ー このワークショップ公演に参加しようと思ったきっかけを教えてください。

黒瀬咲希さん(以下、黒瀬) 私は、やっぱり先日の演劇シーズンで観た『カラクリヌード』に感動したことがきっかけです。熱量がすごくて大感動しちゃいました。ワークショップ公演にも絶対参加したいと思い、なんとか日程確保して申し込みました。

演劇ってこういうものなんだ!って思いました。劇場の真ん中あたりの席で観たんですけど、そこですら大迫力を感じました。人間だけでそんなにできるのか!って。これをどうやって作っているんだろうっていうのも興味があって参加しました。

田村咲星さん(以下、田村) 私は、実は演劇シーズンで『カラクリ』を観る前から申し込んでいました。去年のシーズンの『黄昏ジャイグルデイバ』や12月の『アホロートルの叛逆』を見てすごい面白いなって思ってて。

ワークショップ募集が始まる前から、演劇シーズンのパンフレットに「サテライトプログラム『カラクリヌード』ワークショップ公演」って載っているのを見て、これいつ募集情報出るのかなってずっとそわそわしてたんですよ。

シーズンも観に行ったんですけど、咲希ちゃんも言っていたように、役者さんの熱量とこれぞ演劇だ!って思うようなお芝居が観られた感動で、ずっと頭の中にセリフとシーンが残りました。これを自分も出来るんだっていうのがすごい嬉しいなって。

てんさん(以下、てん) 私は、少し前に観た『象に釘』(2022年)を観たのがハムプロジェクトとの出会いでした。あの作品は二人芝居で、大きな動きがあったりとかはあんまりしないんですけれど、すごい面白いし、ちょっと不思議な世界観で、あんまり他で観ないような作風だなと思っていました。

そんなとき、ワークショップ公演の参加者募集チラシを見て、興味を持ちました。私も田村さんと同じで、シーズンを観る前に申し込んじゃいました。

実際に作品を観て、申し込んで良かったと思いました。これぞ役者だな!って。大道具も衣装もなくて、小道具もホットバッジ1つなのに、シーンが見えるしどんな人か見える。「演劇」ってものを煮詰めた集大成なんだなって感じました。

塚田そらさん(以下、塚田) 私はいま高校2年生なんですけど、小学3年生のときから市内のワークショップに参加して、演劇に出演していました。

中学校でも続ける予定だったんですけど、ちょうどコロナが丸かぶりしちゃって、それまでずっと参加していた教育文化会館のワークショップも参加できなくなって。高校生になってからも、演劇ができる場所を探していたんです。

そんなときに『カラクリ』をシーズンで観たときにワークショップのチラシが入っていて、これはやるしかない!と思いすぐ申し込みました。

撮影:内田翔太

ー 実際にワークショップに参加してみていかがですか。参加前に期待していたこととのギャップはありませんでしたか。

黒瀬 思ったより男性参加者が少なくて、自分が男性役(ゼロ助)になると思ってなかったのでびっくりしました。めっちゃ嬉しかったんですけれど、私がシーズンで観た時とは絶対違う作品になるだろうなとは思いますし、頑張りたいと思います。

稽古はスピードが早くて、レベルの高さ改めて感じました。焦りもあるけど、みんなすごいなって感動で、追いつくので精一杯です。

田村 私もついていくので必死な部分もあるんですけれど、他の参加者と一緒にシーンのこと考えたり、休憩中にセリフ合わせしたりするのが楽しいです。やっぱり役者同士の信頼があるからこそシーズンで観たようなお芝居ができるんじゃないかなって思ってるので、そういう役者同士の交友関係も楽しいし、嬉しいです。

てん ハムさんの演出は、全体の見え方がすごいこだわられているんだなって発見があります。お客さんから観てどう見えるかが大事だし、この方が絶対形綺麗だなって納得するし。

塚田 そうですね、スピードも速いし、全体を見ているっていうのも勉強になるんですけど、私は、15年前からずっとやってきた脚本を今回大幅に書き換えている、新キャラが追加されているにもかかわらず、もう馴染んでいるし愛されるキャラクターになっていて、それがすごいなって思います。

だから役者も演じていて楽しいし、観るお客さんも受け取るものが多いんだなって思います。

黒瀬 シーズンとは結構違った面白さがある『カラクリ』になってると思うので、新しい『カラクリ』をぜひ楽しんでいただきたいです!

田村 この若者ワークショップ公演を通して、同年代や若い人同士のつながりができるのが嬉しいです。このつながりは今後も大事にしていきたいなと思うし、自分も学生がもっと演劇に参加できる場を作れるような活動をしたいと思います。

演劇やってみたいとか興味ある学生とか中高生の子が他にもいっぱいいるんじゃないかなと思うので、そういう子たちとも一緒に札幌の演劇を盛り上げられるような活動ができるためのつながりやヒントをここで得られたらなと思います!

公演情報

札幌ハムプロジェクト

若者『カラクリヌード』WS公演

作・演出 すがの公

『カラクリヌード』という戯曲を使った若者のためのワークショップ公演です。
応募いただいた役者・スタッフとともに協力して一カ月で一つの演劇公演を作り切ります。

地下採掘工場で働くロボット・ゼロ助は人間の女性・リコに恋心を抱く。
遠い戦場へ徴兵されるも彼女のもとを目指し、戦う殺戮カラクリに自分を改造し、
地下六千メートルを掘り進む。

日程

2024年9月
19日(木)19:30 A
20日(金)19:30 B
21日(土)13:00 A / 17:00 B
22日(日)13:00 B / 17:00 A
※開場は開演の30分前
★本公演はダブルキャストです

会場

演劇専用小劇場BLOCH

札幌市中央区北3条東5丁目5 岩佐ビル1F

出演・配役

ゼロ助  A 黒瀬咲希  B 理承珀丘
リコ   A 塚田そら  B 石田留菜
テンコ  A 田村咲星  B 優美花
タネ   A 金あかり  B 佐藤ゆい
アサコ  A 前本彩乃  B エノモトナルミ
権藤   A 菅海哉   B 菅海哉
工場長  A 鈴木雅秀  B 鈴木雅秀
咲坂   A 菅原聖梧  B 菅原聖梧
夢見   A 菊地駿斗  B 菊地駿斗
サイタニ A てん    B 田中舞奈
イサミ  A 猪俣和奏  B 黒田百々花

チケット

一般:2500円
U-25:1500円
中高生:500円
(当日+500円)

チケットページ

お問い合わせ

hampro.sapporo@gmail.com

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