【対談】そこで生きている人間の生活を描く|ごまのはえ✖️小林エレキ

現在好評開催中の札幌演劇シーズン2024。今回から夏と冬が一本化し、規模が拡張されての実施となり、大きな盛り上がりを見せています。

8月24日(土)には今シーズン最後の演目、のと☆えれき『葉桜とセレナーデ』がシアターZOOにて開幕します。産婦人科の駐車場に設置された簡易待合所で過ごす、二人の男の会話劇です。

そしてなんと同日、『葉桜とセレナーデ』の作者であるごまのはえさんの劇団ニットキャップシアターが、「第9回北海道戯曲賞 大賞受賞公演」として『チェーホフも鳥の名前』をクリエイティブスタジオで上演。サハリン島を舞台に、およそ100年にわたる人々の暮らしを描いた大作です。

今回は、両作品の作者・ごまのはえさんと『葉桜とセレナーデ』に出演する小林エレキさんとの特別対談の様子をお届け。各作品の魅力や、劇作家ごまのはえの「芯」に迫りました。

(聞き手:佐久間泉真)

ごまさんの芯ってどこにあるんだろう?!

ー はじめに、お二人が初めて会ったときのことを教えてください。

ごまのはえさん(以下、ごまのはえ) 最初の出会いは、2013年のコンカリーニョプロデュース『消エユキ。』ですかね。プロデューサーの小室さんに声をかけていただき、yhsの南参さんの脚本を演出させてもらいました。

小林エレキさん(以下、小林) もう11年前ですか。ごまさんの演出ですごい印象的だったのが、あれ、なんていうんですかね、丸い半円状の音が鳴るやつ……。

ごまのはえ ハピドラムだったかな。アメリカで作られた、特に訓練しなくても直感的に演奏ができる楽器です。それを舞台で使ったんですよね。

小林 そうそう。俺も劇中で叩いた記憶あります。

ごまのはえ 色々とやらせてもらいました。

コンカリーニョプロデュース『消エユキ。』2013年3月

ごまのはえ あのお芝居はハケがなかったんですよね。

小林 僕は出番自体はあまりない役だったんですけれど、車に乗って向かっているっていう設定で、目立たないんだけど、ずっと舞台上にいて車を運転していました。

ごまのはえ そうでした。で、途中で雪が降り出して、という内容でしたね。他にも上西佑樹くんと彦素由幸くんも出演していましたけど、この三人の組み合わせがすごい印象に残っています。

エレキさんお一人ですごいなと思ったのは、yhs『しんじゃうおへや』の死刑囚役でした。人によっては嫌がる言葉からもしれないですけれど、普通にうまいんですよね。ちゃんとやってくれる人って感じでした。

小林 (笑)ありがとうございます。『消エユキ。』でごまさんとご一緒したときは、すごい空気感を大事にする演出家なんだなと思いました。舞台上に全員居続けるというのもそうだし、個々の会話よりはもっと俯瞰で見た作り方をされるんだと。

でも、2010年にニットキャップシアターが札幌公演でいらっしゃった時に観た作品は、なんか、「うんこうんこ」連発していましたよね(2010年9月『サルマタンX vs ドクターベン ~こだわりすぎた男達~』生活支援型文化施設コンカリーニョ、「VS.KYOTO」参加)。ひたすら馬鹿馬鹿しい内容で(笑)。すごい振り幅の人だな!とびっくりしていました。

ごまのはえ あ〜言っていましたね(笑)

小林 あれ、ごまさんの芯ってどこにあるんだろう?!って思いましたよ。

ごまのはえ ね、どこにあるんでしょうね……。

小林 作品やそのときにやりたいことによってかなりカラーが変わるんだな〜と思いました。

そして、今回の『チェーホフも鳥の名前』、これはすごい壮大な作品ですよね。こんなのも書いてしまうのか、と。振り幅がとても大きい。

ごまのはえ いや、毎回必死なんですよ。書くことなんて何もないじゃないですか、だから必死ですよ。

小林 (笑)。今回の札幌演劇シーズンで再演する『葉桜とセレナーデ』もそういう意味で、「こういうタッチの作品もごまさんの中にあるんだな」と面白かったです。

二人芝居って難しいと思うんです。三人いると回るんだけど、二人だけだと膠着しちゃう。そこに、インターホンという装置を使って、第三者を声だけで登場させることで物語を展開させていく。

そもそも舞台設定が特殊ですよね。産婦人科の駐車場にある簡易待合所。こういうところの発想はすごいなあと驚きながら初演時は脚本を読ませていただきました。

今回の再演では、2年前の初演からちょっと後半リライトしてくださったじゃないですか。あれはどういう意図があったんですか。能登と台本を読んで、書き換えられたところめっちゃ面白いなって話していたんです。

ごまのはえ あ、本当ですか、よかったです。今回書き換えた後半部分、実は2年前はうまく書けたなと思っていたんですよ。喋ることがない男二人が、喋ることがないことを極めていくようなシーンです。喋ることがない、 まだ喋ることがない、まだ喋ることがない。

そういうつもりで書いてたんだけど、初演の舞台を観させていただき、それが、お客さんが期待していることではなかったなと、なんか感じたんですよ。

自分の作品を上演される時って僕も緊張しているから他のお客さんの反応とか全然わからなくて、冷静に観られるような人では全然ないんです。それでも、自分がお客さんとして観た時に、「やることがない」を重ねていくことでストーリーが脱臼してるというか、脱線してるという感じがしたんですね。

書いている時は、その脱線が面白いと捉えて書いていたんですけれど、初演を見ると、脱線することはそんなに面白いことではないなと。面白いアイデアではあるんだけど、具体物にはなってないなと感じたんですよ。

それで、次なにかチャンスがあれば後半部分には手を入れたいなと思っていたんです。

小林 確かに後半のある部分がすごいガバッと変わっていて、見え方というか、色味が大きく変わりましたね。

ごまのはえ そうですね。二人の関係性があらわになるというか、お互いの素性がわかるタイミングをだいぶ後ろにずらしたんですね。すると、ストーリーがまだ続くというか。

のと☆えれき『葉桜とセレナーデ』稽古風景

小林 初演と比べて、登場人物二人の関係性自体も結構変わったような気がします。初演は、それがごまさんの狙いだったのかもしれないんですけど、最後まで平行線で終わる二人だったと思うんです。

今回は、立場や考え方は全然違うんだけど、何かのポイントで、二人がぐっと寄り添い合うような瞬間があるように感じています。それがとても良いな、と。

ごまのはえ ありがとうございます。それは多分、初演を観させてもらったことが影響していると思います。後半部分にちょっとコントぽいシーンを入れてるんですけれども、そこで登場人物同士がコント師になるというか、劇中劇という共同作業をするみたいな、そういう関係になるんですよね。

その時に、エレキさんと能登さんお二人の素の部分がちょっと出るのかなと思って。つまり、男1と男2という存在で舞台に立っているというよりは、のと☆えれきのお二人が劇中劇を始めることで、素のコンビネーションが出るんだろうなと。

小林 これ、考え方によってはすごい豪華なことですよね。脚本家の方に、役者二人にあわせてカスタマイズしてもらった。

ごまのはえ いやいや、それはもう普通のことですよ、全然。

小林 嬉しいな。

ごまのはえ 再演、とても楽しみにしてます。

「そのまんま」でできんじゃないかな

のと☆エレキ『葉桜とセレナーデ』舞台写真

ー 先ほど、初演観てリライトされたっていうお話ありましたが、あらためて『葉桜とセレナーデ』初演を観た時の感想はいかがでしたか。

ごまのはえ 当時はコロナ禍真っ只中で、「演劇の仕事来るんかな」と思っていた時に声をかけていただいた仕事だったんですね。

のと☆えれきさんのお芝居はそれまでも何本か観ていて、雰囲気は掴めてるつもりだったんですけど、yhsの南参さんからは「これキャスティング逆やで」と言われました。関西弁じゃなかったですけど。

小林 そんなこと言ってたんですか。

ごまのはえ 「ごまさん、これキャスティング逆の方がいいですよ」みたいな。そうなのか!と思って観に行きました。

でも僕としては、これでキャスティング正しかったんじゃないかなと思いながら観たんですね。でもやっぱりお二人と付き合いの長い南参さんが逆だと言ってるということは、僕の知らないお二人の魅力がまだまだあるんだろうなと考えました。

お芝居の中身に関しては、地下の劇場・シアターZOOに入っていって、黒のリノリウムに桜が咲いているという舞台装置、これは本当によくやられたなととても感心しました。『葉桜とセレナーデ』が舞台になるんだ、よかったよかったって思いました。

本編が始まると、やっぱり自分の書いた作品なので、 正直、ちゃんと観られないんですよ。2回、3回観ていたらなんとか落ち着いて観られるんですけれど……。

でも、その桜の舞台装置と、エレキさんの衣装、そしてインターフォン越しの声、そこがとても素晴らしかったですね。

小林 ナガムツさん素晴らしいですよね、あの声1発で空気が変わる。

ごまのはえ はい、「病院には病院の都合があるんだ!」っていうのがズバンと出てるような感じがして、素晴らしかったです。

小林 ありがとうございます。2年前の初演を振り返ると、なんだか肩に力が入っていた感じがすごいして。能登も僕も。

今だったらもうちょっと「そのまんま」でできんじゃないかなと感じています。初演を一回通過して、ようやく作品と自分の関係性を少し引いて見ることができるようになったんじゃないかなと。

リライトしていただいた本を読んで、なんかもうそのままでいけるんじゃないかなって、必要以上に変な服着なくてもいいんじゃない、とか(笑)

ごまのはえ 二人芝居なので忙しいとは思いますが、充実した稽古を過ごしていただけたらと思います。病気や体調不良も流行っているので、本当にお気をつけて。

約100年間のサハリンの人々を描く

ー 『葉桜とセレナーデ』初日の8月24日(土)には、ニットキャップシアターの札幌公演『チェーホフも鳥の名前』も初日を迎えます。2022年度の北海道戯曲賞で大賞を受賞された本作、札幌では初演ですのであらためてどのような作品か教えてください。

ごまのはえ 『チェーホフも鳥の名前』は、樺太、サハリン島の大体100年ぐらいの歴史を描いた作品です。

サハリンはご存知のように、ロシアの領土だったり、南半分が日本の領土だったり、ソ連になったり、またロシアに戻ったりと複雑な歴史があります。日本人、ロシア人だけでなくて、元々住んでおられた少数民族の方とか、あと日本時代にサハリンに渡ってきた朝鮮の方とか、色んな方が住んでいた町なんですね。

そんなサハリンに、かの有名な劇作家アントン・チェーホフが1890年に訪れていて、それが『サハリン島』というルポタージュとして残っているんです。その本を1つの資料として、1890年のサハリンで人々が生活している様子を第一幕として描いています。

第二幕は、日露戦争が終わってサハリンが日本領になった時に、日本から宮沢賢治がやって来てるんですけれども、その時の様子を書いております。

その後、幕間劇として、樺太の地上戦の様子が出てきます。よく第二次大戦の時に日本で地上戦があったのは沖縄だけみたいな言い方をされることがあるんですけれども、樺太にも地上戦があったんですね。

第三幕は、ソ連統治下にある樺太です。引き上げがなかなかできなくて、早く日本に帰りたいんだけど帰れない人々、もしくはもう日本人ではなくなったということで帰る見込みが立たない朝鮮の方々の様子を描きます。

最終幕の第四幕は、樺太で暮らしていた方々が、ある人は樺太に残り、ある人は本土に移り、という人々の様子をモノローグを交えながら描く、という四幕構成の作品です。

実はサハリンには、チェーホフが来たことを記念して「チェーホフ」という名前の町があるんですね。そこを定点観測の場所としており、その場所で起こったことを時代ごとに分けて描いているという作りになっています。

そういうと随分真面目なお芝居に聞こえるかと思うんですけど、交わされる会話自体は本当に些細なことをグチグチ喋ってる だけなんです。取り上げてる時代は、戦争で勝ったり負けたりしていて激動なので、そこで暮らしてる人もいろんな影響を受けるんですけど、セリフや会話はのんびりしたことがほとんどです。

小林 僕も戯曲を読みましたが、こんな壮大なやつやっちゃうのか、と圧倒されました。

描かれる時代とともに登場人物がどんどん入れ替わっていくんですよね。ある登場人物は老いていくし、亡くなっていくし。戯曲を読んでいるかぎりは何とかついていけるけど、これを舞台で立体化するときにどういう仕組みで作るのかなっていうのはすごく興味深いです。

それでいて、すごい遊びが入っていますよね。チェーホフのいろんな作品のエッセンスが、ところどころに入っています。僕も多分全部は読み切れてないんですけど。

あとは、色んな民族や人種が出てくるのも特徴ですよね。それに伴って色んな言語が出てきます。ロシア語、韓国語、ギリヤーク語、そして多分これはごまさんのねらいだと思うんですけど、日本語にも方言がたくさん出てきますよね、宮沢賢治は東北弁だったり、京都弁で喋る人もいるし。

色んな種類の言語と人間が、時代と共にさらさらと流れていくみたいな。読んでいてその幅の広さを感じたので、舞台化がすごい楽しみです、本当にすごい作品だと思います。

ごまのはえ ありがとうございます。

ニットキャップシアター『チェーホフも鳥の名前』稽古風景

小林 読んでいるととても面白いんですけれど、上演するとなるとかなり難しいと思います……。どうするんですかごまさん?(笑)

ごまのはえ いや、もうどうにもならないですよ。登場人物ひとりひとりが誰の孫だとか、誰の弟だとか、そういうのはわからないですよね、それはどうしようもないかなと思っています。

もちろん、パンフレットで解説したり、キャスティングでわかりやすくすることも最大限にはやりますけど、ある程度はしょうがないかなと思っています。

小林 矢継ぎ早にどんどん時代が変わっていって、登場人物も入れ替わっていくと、なんだかそれが逆にリアルな感じがするんですよ。切り取った場面しか見ていないのに、その人の人生をずっと見続けてるような感覚になるというか。時の流れを感じます。

ごまのはえ うん、そうですよね。サハリン島は京都を中心にした歴史観から見ると、歴史の空白地帯のように感じてしまうのですが、実は色んな交流があるんですよね。よく関西は出汁の文化だと言われますけど、それを支えてるのは北から送られる昆布ですしね。

本当に色んな人が行き来していた場所なんだと思います。人が出入りしていく様、しかも人為的に作られた国境によって逆に出ていけない人もいて、そうした人間の様子を見ることで、人間同士の交流や、国境や、社会を感じてもらえたら嬉しいです。

8月24、25日は「ごまのはえデー」

ごまのはえ 自分が書いた脚本が2作品も同じ日に上演していただけるなんて、人生で初めてのことです。自分の人生のピークがここに来てるんじゃないかなぐらいの感じです。

僕としては、2作品とも「そこで生きている人間の生活を描く」という部分で共通しているんですけれど、多分受け取られる印象はやはり2作品でそれぞれ違うと思うので、それぞれを見比べていただけたらありがたいです。

そして、何か私の作家としての芯を見つけていただけたら。本当に毎度必死にやってるので、 あんまり自分のやりたいことは何かとか、もう考えてないんですよ。その時やれることを必死にやっていて、気が付けばこんなとっ散らかった感じになってしまっているので、何か芯を見つけていただけたらとてもありがたいです。

小林 『葉桜とセレナーデ』は、2年ぶりの再演です。初演より絶対面白くなると思うのでお楽しみに。

8月24、25日はぜひハシゴ観劇をしていただいて、「ごまのはえデー」としていただくのがおすすめですね。

ごまのはえ ありがとうございます。

小林 1日でごまさんの作品を2つ見比べるっていうのがすごい面白いと思います。

台本読んだ感じだと全然違う作品だと思うので、 一人の人間の頭からこんなに違う話が出てくるのか、と楽しむのもすごい面白いです。映像ではなく、舞台でそれができる機会ってなかなかないと思います。

『葉桜とセレナーデ』についても、一部ダブルキャストになっておりますので、看護師役のナガムツさんと福地美乃の違いもい見比べていただけると楽しめるんじゃないかなと思います。

ごまさん、今日はありがとうございました。

ごまのはえ ありがとうございました。

公演は両作品とも8月24日(土)から!

同じ時期に上演される2つのごまのはえ作品。どちらも観て、両作品の違いや共通点を見つけてみてはいかがでしょうか。

チケット・公演情報は下ボタンからご確認ください。

葉桜とセレナーデ

チェーホフも鳥の名前

2作品コラボキャンペーン!

ニットキャップシアター『チェーホフの鳥の名前』のチケット(半券)を、のと☆えれき『葉桜とセレナーデ』の受付でご提示いただくと、のと☆えれきラゲッジタグをプレゼント! 2作品観て、オリジナルグッズをゲットしてください!