2024年7月13日(土)からスタートする「札幌演劇シーズン2024」。今回から開催期間や上演作品数などがリニューアルしており、“面白さ保証付”の9作品がラインナップ。
中でも注目されているのは、今回から新たに追加された「プログラムディレクターズチョイス」 によって選ばれた、おきなわ芸術文化の箱『9人の迷える沖縄人~after’72~』です。
札幌演劇シーズン2015-夏で上演されたELEVEN NINES『12人の怒れる男』から着想を得て作られた本作が、「過去札幌で上演された作品の再演」という枠を飛び越えて、堂々上演です。
今回、本作の演出をつとめる当山彰一さんと、出演の犬養憲子さん、そしてELEVEN NINES代表であり、ジョブキタ北八劇場の芸術監督である納谷真大さんの3名による座談会が実現。作品の魅力について語っていただきました。
※当山さんは、ZOOMでの参加。
伝えなきゃいけない歴史がある
当山彰一さん(以下、当山) 今回札幌演劇シーズン2024で上演する『9人の迷える沖縄人~after’72~』が生まれた経緯を語るには、納谷さんの存在は外せなくて。この作品は、2015年にコンカリーニョで上演された、ELEVEN NINES『12人の怒れる男』を観て、そこから着想を得て作られたんです。
納谷真大さん(以下、納谷) 僕もその話はプロデューサーの小島(達子)からも聞いてましたし、その後、この作品が「CoRich舞台芸術まつり!2022春」でグランプリを受賞されたことを知って、すごいなと思っていました。
今回こうしてお話しするにあたり初めて上演映像を見たんですけど、素晴らしかったです。僕らの作品がベースとなって発案されたということですけど、あくまで最初の入口の一つであって、やっぱり『12人』とは違いましたし、しっかりと社会問題や、札幌で暮らす私たちにはなかなか知り得ない沖縄の状況が織り込まれていて、全く別の作品になっていると思いました。
『12人』は「意見の対立」が主題となっています。登場人物それぞれが持つバックボーンの違いから生まれる、一つの事案に対しての対立構造という、ある意味シンプルな構造です。
一方、『9人の迷える沖縄人』は、対立というよりは、「対話」が描かれているように感じました。 当然意見が噛み合わなかったりするし、それぞれの意見は違う、そういう意味では構造は似ているんだけど、それを受け入れるでもなく、拒絶するでもなく、社会はそういうものだろうという、その縮図があるような感じがして、とても面白かったです。
当山 ありがとうございます。対立をしないで、したたかにしなやかに生活してるというのが、まさに沖縄の人たちかもしれないですね。
納谷 なるほど、そうなんですね。そういう風土や、地域性みたいなものも組み込まれているってことですね。
犬養憲子さん(以下、犬養) 出演する私たちとしては、最大限にバチバチやってるつもりなんですけれどね(笑)
納谷 そうですか! もちろん内側では色んなものがうごめいてるんだろうなと思うんですけれども、なぜか長閑さを感じるというか。映像でしか見ていないからかもしれないですけれど。
『12人』よりも、一つの事案に対する考え方がバラエティーに富んでいる感じがしました。
当山 そうですね。9つの立場の人間たちが、それぞれのことを言っている。対立じゃなくて、みんな本当に「迷っている」。
納谷 「迷える沖縄人」ですもんね。
当山 一方で、今の現実は、迷ってる暇もなく。どんどん自衛隊の基地の強化が図られていき、何も手が出せない状態です。
犬養 私は福岡出身で、沖縄に住んで36年目なんですけれど、いつまで経ってもナイチャーはナイチャーなんですよね(ナイチャー=本土・内地出身の人のこと)。
でも、ナイチャーだからこそ、また沖縄を捨て石にするのか、と強く思うこともあり、悔しくてしょうがないですよ。基地を辺野古に移転するって言っているけど、いつまで経っても普天間基地はなくならないし。
私は10年前に「普天間基地がなくなったら何になったら良いと思う」というお芝居を作ったんですけれど、いまだに上演し続けられるんですよね。
納谷 作品を作ってから10年経ってもまだその問題は解決されずに、今もなおリアルな問題としてある、ということですね。
普天間の問題について、一時期は全国ニュースでも報道されて北海道に住む私たちにも届いていましたが、積極的に勉強し続けない限り、沖縄の現状を知ることができていないことは否めないです。それは、上演映像を見ても強く感じました。
犬養 そうですよね。よっぽど気をつけて沖縄のことを知ろうとしてくれないと、なかなか情報が届かないですよね。
私はいま、バスガイドの仕事もしていて、修学旅行生への平和ガイドを行なっています。ひめゆりの塔や、海軍壕や、平和祈念公園を案内するんですけれど、「集団自決」という言葉がわからない世代ですよね。「鉄の暴風」が吹き荒れて県民の4人に1人が亡くなったという出来事が、他人ごとでしかないといいますか。
「今バスが走っているこの道には、まだ不発弾や回収されていない遺骨があったりするんですよ」と、さっきまで「修学旅行!イェーイ!沖縄到着!」となっていた学生たちには申し訳なく思いながらも、平和学習の1日だけ頑張ってね、と思って伝えています。
でも、沖縄本島の人間でも、若い人に伝わっていないこと、忘れていっていることがたくさんあるんです。やっぱり伝えていくことが必要なんだと思います。
納谷 そうですよね。年間何人くらいの方にガイドするんですか?
犬養 繁忙期になると、バス1台に45人くらいがほぼ毎日、といった感じですね。感受性の強い子たちは、話を聞くとバスの中で泣き出したりとか、その後の資料館に入れなかったりするんですけれど。
納谷 そうですか。でもその歴史は絶対伝え続けていかなきゃいけないですよね。『9人の迷える沖縄人』を見て、その思いは強まりました。これは、伝えていかなきゃいけない。1972年の出来事は、今の若者にとっては大昔の話になっているので。
納谷 沖縄の演劇環境についても聞いてみたいです。沖縄にはどのくらいの劇団・劇場数があるんですか?
当山 劇団となると片手で数えられるくらいですけれど、ユニットのような小さい集団はいくつかあります。若い人たちはあまり劇団を作ろうとはしないですね。公演のたびに人が集まる、という形が多いです。
また、民間の小劇場は那覇市に3箇所くらいしかないのが現状です。それぞれ、70、50、20席くらいのキャパシティです。
納谷 そうなんですね。若い人たちや、小劇場から活性化していきたいですね。
札幌では、今年5月にジョブキタ北八劇場という新しい民間の劇場がオープンしました。現在こけら落とし公演『あっちこっち佐藤さん』を上演中です。レイ・クーニー作『Run For Your Wife』という笑劇を原作にしたシチュエーションコメディですを、6月9日までロングランで上演しています。
犬養 ロングランができる環境というのが、札幌はすごいですよね。
納谷 無理矢理やっているだけなんですけれどね(笑)。劇場をランニングしていくための一つの方法として取り組んでいます。今回はコンカリーニョでの上演ですが、ぜひいつか北八劇場でも上演してほしいです!
私たちも沖縄に作品をお届けし、皆さんと交流できるように頑張っていきたいと思います!
犬養 色々と真面目な話もしちゃいましたが、『9人の迷える沖縄人』を真面目な話だと思って観にこられた方はびっくりするかもしれないですね。
納谷 そうですよね、そこもすごいと思ったんですよ! 取り扱っている深刻なテーマはあるんだけれど、ちゃんとエンターテイメントになっている。
僕も舞台で観るのがとても楽しみです!
当山 ありがとうございます。よろしくお願いします!
2024年5月某日
生活支援型文化施設コンカリーニョにて
公演情報
おきなわ芸術文化の箱 公演
『9人の迷える沖縄人〜after’72〜』
作:安和学治、國吉誠一郎
演出:当山彰一
1972年沖縄の本土復帰を目前に、有識者、主婦、老婆、沖縄へ移住した本土人など9人が一つの部屋に集められた。
「日本がもし万が一、攻めこまれた場合、戦争はしませんって言っていられると思いますか?」「私も胸を張って基地はいらないと言いたいです。」「のんびりすることが美徳なら、基地も受け入れてのんびりやったらどうですか?」 語られる沖縄、日本への思い、そして戦争、恒久平和への思い、様々な思いが交差して、渦の中に引きずり込まれていく。
8/10(土)13:00/18:00★
8/11(日)11:00/15:00
★終演後アフタートーク
※上演時間は95分を予定しています。(多少前後する場合がございます)
※開場は各30分前です。
生活支援型文化施設 コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F
[一般] 4,000円
[U-25] 2,000円★
[高校生以下] 1,500円★
★当日受付にて身分証をご提示ください。
※その他お得な特別チケット・回数券もあります。詳しくは、札幌演劇シーズン2024公式サイトをご確認ください。
おきなわ芸術文化の箱
TEL:070-4393-6225
Eメール:oact@m-base.okinawa