2024年1月27日(土)より札幌演劇シーズン2024-冬が開催されます。今回は、弦巻楽団『ピース・ピース』、OrgofA『Same Time, Next Year-来年の今日もまた-』、THE36号線『大きな子どもと小さな大人』の3つの優秀作品がラインナップ。
各作品の魅力を探るべく、札幌でまちづくりやメディア制作をしている石川伸一さんに、シーズン公演作品の稽古場を見学していただき、その場で感じたことをコラムとして寄稿いただきました。全3回の連載となります。
実は「2023-夏」の際に行った来場者アンケートでは、「初めて演劇を観た人」のうち「観劇前に知りたい情報」の第1位が「稽古風景」でした。今回のコラムで、稽古風景を想像する一助になれば嬉しいです。
第1回は『ピース・ピース』(弦巻楽団)の稽古場になります。
自己≒紹介(石川伸一)
私は、2023年からTGR(札幌劇場祭)の審査員をしています。だけど、演劇に詳しい訳ではありません。審査員になった以上は、少しづつ演劇について学んでいきたいとは思います。でも、知識、経験の部分で演劇的視点では、役者経験者だったり、20年以上の観劇経験のある他の審査員のレベルに追いつくのは無理だと思っているし、そういう役割でもないと思っています。
私は長年、文化やまちづくりに関するメディア制作をしてきました。それは、簡単にいえば、人をつなげて、まちをブルブル動かして楽しくすることです。
同様に私は演劇は人をつなげられる「メディア」だと考えています。演劇は人の心も深くもつなげられるメディアではないでしょうか。より多くの人に演劇の魅力を知らせるために、私は「演劇にはくわしくない」という人の視点で審査やPR活動をしていきたいと思います。
そして、札幌にはもっと演劇のライトなファンが増えると良いと嬉しい。「演劇? そんなに詳しくないけど、時々いくよ」。そんな人を増やしたいし札幌に必要だと思うのです。
冬はあけぼの
土曜の夜。弦巻劇団の稽古場へむかう。場所は「あけぼのアート&コミュニティセンター」だ。
ここは文化芸術団体の入居とイベント開催施設。私はかなり前だが、知り合いのアート団体がイベントをやって取材で来たことがあった。そして、2023年にはOrgofA『異邦人の庭』の公演で訪れた。その時は市電に乗って停留所「西線11条」を降りて行ったが、今回は「中島公園通」から行ってみた。どちらも、このまちを横切ることになる。そのまちにあるお店の前を通るのは発見があって楽しい。今回の経験で行ってみたいお店は3つくらいある。
あけぼのアート&コミュニティセンターは、元小学校であり、現在も当時の雰囲気は色濃く残っている。そこはまちの歴史が継承されているようでとても好きだ。新設施設も嫌ではないが、味わいには欠けると感じることもある。スクラップ&ビルドとは捨てることだ。それには歴史の廃棄も感じる。残して新しく使うのがいいと思う。あけぼのにはそれがある。下駄箱に靴を入れて、スリッパに履き替え2階の弦巻楽団の稽古部屋にむかう。
弦巻啓太と呼ばれた男
私は『ピース・ピース』は観たことはないが、弦巻楽団による『死と乙女』は少し前に審査員として観ていた(2023年12月)。緊張感のある役者に加えて、舞台レイアウトが常にスリリングで感動した。舞台セットと役者の並び方、これが常に美しかった。
そんな感想を話したいこともあり、稽古前の忙しいところを失礼して弦巻啓太に少し時間をいただいた。インタビューというより、彼の感覚的な部分を知るための雑談という感じだ。
会話は自然に今回の芝居の話になっていく。弦巻啓太によると、母と娘の関係性に興味を持ったところから『ピース・ピース』の創作ははじまった。それは誰もが興味を持つテーマではないだろうか。
今回のキャスティングについては、制作当初から実験性が高かったため、特に自分をわかってくれている人にオファーしたという。そして、常に「人は大切だ」と語る。反面、昔は孤独が最高だと思っていた、といった言葉も自嘲的に出てきて、僕は彼には「ナイーブで、やわらかい理屈っぽさ」を感じるのである。
芝居のメソッド
弦巻啓太から感じられる演劇の目標は「わかるお芝居」をつくろうというレンジの広い意思だ。
具体的にそれは脚本の内容や演出手法であったり、市民演劇ワークショップのように人が芝居をゆるやかにに体験する機会を作る取り組み、そして「劇団5454(ランドリー)」といった道外の劇団を招いて紹介していくコト。それらの動きは、自分の劇団の精度を上げるだけではなく、札幌の演劇文化全体を考えながらアクションをしているように思える。
『ピース・ピース』も実験的にはじまった舞台だが、目指しているものは、「わかるお芝居」ではないか。役者がすごくこう、脚本がすごくこうではなく、とにかく「わかる」お芝居を目指しているように思えた。いいかえれば「しっくりくるお芝居」。
稽古のフェィシズ
本公演では、3人の役者が舞台にて母の思い出をそれぞれ読み語る。ひとりが語っている間は、他の2人は語られる内容を演じる。はじめて演劇を見る人にも実に演劇らしさを感じる、わかりやすい形式だと思う。
稽古場は教室ぐらいの広さ。実際教室だったのだろう。黒板もあって便利そうだ。実際活用もされている。長テーブルと椅子がいくつかのほか、中心には空間がつくられている。この場所は弦巻楽団の常用の稽古場である。なので後ろにはいろいろ書籍なども置いてあって興味深い。こっそり覗いてみたりした。本のタイトルに感心する。
弦巻は椅子にすわり、朗読や効果音を出していく。それにあわせて、2人が本番と同じように演技していく。中断はほとんどない。
ひとつの朗読が終わったら、弦巻が演技の疑問点について役者に声をかける。それに対して、役者も自然に意見する。会話を重ねて決めていく感じである。それは指示というより対話だと思う。そのやりとりに感じるのは、弦巻の指示は理屈でありながらソフトなのである。感覚というより理屈を感じる。だから、役者との解決点もみつけやすいのかなと思った。その前提としては、役者への信頼があるのだろう。
稽古は本番への練習と簡単に語れるが、役者や演出家の関係性においては、もっと深いつながりをつくる場だと思う。
夜の時間は21時を過ぎていった。いつもと違う週末の土曜を過ごせた。ありがとう。
石川 伸一
まちづくり・メディアプランナー
公演情報
弦巻楽団#39『ピース・ピース』
生活支援型文化施設コンカリーニョ
札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1F(JR琴似駅直結)
TEL 011-615-4859
1月27日(土)18:00
1月28日(日)14:00/18:00
1月29日(月)19:30
1月30日(火)19:30
1月31日(水)19:30
2月1日(木)19:30
2月2日(金)19:30
2月3日(土)14:00/18:00
※全10ステージ
※上演時間は約70分を予定
※開場は開演の30分前
出演:赤川楓/佐久間優香/佐藤寧珠
作・演出:弦巻啓太
照明:手嶋浩二郎
音響:山口愛由美
舞台美術:藤沢レオ
楽曲提供:橋本啓一
宣伝美術:むらかみなお
制作:佐久間泉真 ほか
詳しい情報はこちら
一般社団法人劇団弦巻楽団
info@tsurumaki-gakudan.com(担当:佐久間)