僕の家族はやっぱ面白すぎるというか。関西ですし、自分の家族の話をするならどうしてもコメディになっちゃうんです。
2023年12月6日(水)から始まるELEVEN NINESの新作公演『オトン、死ス!』。ストレートなタイトルからも分かるとおり、2018年に父親を亡くした劇団代表・納谷真大さんの実体験にもとづいた「ワタクシ演劇」です。
なぜ今実体験をもとにした作品を書こうと思ったのか、その真意を納谷さんにうかがいました。
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オトンの死を受容する「ワタクシ演劇」
ー 今回上演される新作『オトン、死ス!』。直接的なタイトルですが、どんな作品に仕上がっていますか。
納谷真大さん(以下、納谷) 2018年に僕のオトンが死んでいて、本作はこのときの体験を基にした「ワタクシ演劇」です。
当時は僕はお芝居の稽古をやっていて、「父親が倒れた」と連絡が来たのは小屋入り1週間くらい前でした。 その時は、本番があるから和歌山の実家には戻れないと言いました。電話かかってきた時は、もう死ぬって言われたんで、申し訳ないけど公演が終わってから戻ることにしたんです。
でも、その時オトンは死ななかった。救急隊の方も「もう1時間もしない間におそらく息を引き取られます」って言っていたし、延命治療をしないでくれって父親本人にも母親にも言われて、僕が救急隊員に「延命治療はしないでください」って言ってるんですよ。その瞬間、僕が父親殺すんだなとも思ったし。
でもオトンは自発呼吸を始めて、それから5日間生きるんです。『オトン、死ス!』は、この最後の5日間の話です。
ー 自分の父親の死を劇にするにあたり、葛藤はありましたか。もう書きたくないと思ったり…。
納谷 今、ちょっとだけ、そうなってるんです!うちのオトンはほんとにろくでなしだったから、笑い話もたくさんあるんですよ。稽古が始まる前にも劇団員に話して、みんなにいいエピソードをピックアップしてもらって。
でも、オトンの浮気がバレた時の話を書いたときに、止まっちゃったんですよね。面白い話なんですよ。めちゃめちゃ面白い。ふざけてるし。でも、ちょっとだけ「あれ、もしかしてこれ劇にされるの嫌かな、あの人」って。父親のパーソナルな部分を、家族しか知り得なかったことを世に晒そうとしてるわけじゃないですか。
いや、書きますよ。書くしかないんだけど、そのためには、僕の覚悟がもう一歩足りなかったのかもしれない。覚悟してたつもりなんですけど、書き出すと割とビビってるというか。
この前、機会があってアーティストの大西重成さんに父親の遺影碑を作っていただきました。僕は劇の本番があることにかこつけて葬儀にも通夜にも出ていないんで、こうやって遺影碑を見ると、なんか父親がここに来た気がしたんですよね。僕の中の覚悟をもう一つちゃんと決めていかなきゃという状態に今陥ってます。これは絶対乗り越えられることは分かっているんですけどね。
だから、再演をやるつもりは全くないです。父親の死を受容できていなかった僕にとっての通過儀式というか、そういったニュアンスもあるので。自分の家族のことを、僕の血の繋がってない家族たち(劇団員)と一緒に劇にする。父親の死を通り抜けようとする作業です。まあ止まって当然なんだろうなと思うんすよね。
変なところで感傷的になりかけたりするんですよ。でもそれはそれで面白いかなと思うし、それがワタクシ演劇をやることの意味なのかなと思います。
ー そもそも最初に「ワタクシ演劇」を書こうと思ったのには何かきっかけがあったんですか。
納谷 僕は台本を書くことにとても苦労するし、神様目線になって物語をひねり出すことに違和感を感じて、筆が止まることがよくありました。もちろん、これまでワタクシ演劇と銘打ってなかった作品も自分のどこかを投影しているのですが、「創作」をしなきゃと思って自分の中にどこかリミッターをかけていたんですね。
そんな時に、小説家・西村賢太さんの日記と出会いました。西村さんは『苦役列車』で芥川賞を受賞している、私小説の書き手の方です。それまであまり彼の作品を読んでこなかったのですが、昨年の訃報を聞いて何となく彼の書物を手に取ってみたんです。
彼の日記がまあ面白くて。いっぱい何冊にも渡って、自分のことを赤裸々に書いているんです。自分のことを小説にするということの正直さとリスクと覚悟みたいなものが見えました。
そして来年、北八劇場という新しい劇場がオープンします。僕はそこの芸術監督をすることになり、北八で作る作品は北八の財産になっていきます。
そうなると、イレブンナインとしての公演をこれまでのように行うのは難しくなる。ほぼ休止に近い状態になります。2023年12月のタイミングは、イレブンナイン休止前最後の公演になるわけです。
僕は、基本的に物事を先送りにしちゃうダメな性格で、いつかオトンの話を劇にするって言ってたんだけど、いよいよもうここでやらないと来年からはできないと思った。
家族のような劇団
ー 今作のキャストは全員イレブンナインの劇団員ですね。劇団員だけで作る公演は意外と札幌では珍しく、とても興味深いです。これまでのような客演がいる創作現場と劇団員だけとでは、何か違いは感じますか。
納谷 劇団員がどう思ってるかはわからないですけど、僕は、劇団員がとても自主的に創作に臨んでいると感じています。思った以上に劇団の力はついてきてるんだなと思います。
客演の方がいる現場も緊張感があったり規模感が大きくなったりと、もちろんありがたいし、それによって作品はどんどん良くなっていくんだけど、家族のような劇団員だからこそ、そこ触っても怒られないみたいな、ちょっと突っ込んだ稽古ができています。10人の劇団員、とてもいいバランスで成立していると思ってます。
僕は50代で、最年少は22歳で、世代はバラバラですが、みんな仲良くて嬉しいです。でも、創作の時にはちゃんと厳しく物作りをみんなでできるので、良いカンパニーにはなっていると思います。
ー チラシに書かれている「私情を、みなさんに観せようとして申し訳ないですが、せめて大爆笑してもらえるよう、全力を尽くします」という言葉が印象的です。
納谷 そうなんです。もう大爆笑してもらおうと思って。
ひどい家なんですよ。僕の家族はやっぱ面白すぎるというか。関西ですし、自分の家族の話をするならどうしてもコメディになっちゃうんです。母親もだし、姉ちゃんもだし。
オトンは、ろくでなしだったけど、そういう意味では一番真面目だったんですよ。ギャグなんか言ったの聞いたことないし。でも無茶苦茶ですよ。すぐ殴るし、子どもから金巻き上げるし、だけど、そういうエピソードも含めて笑ってもらおうと思っています。
ー Instagramでは今年の1月1日から「一行小説」という企画を続けておられますね。
納谷 はい、オトンが死んだときのことを思いながら、劇の基になるような小説を、日々一行ずつ投稿しています。(Instagram「一行小説」)
続けるのは大変でしたね。毎日劇作のことを考えなくちゃならないし、できるだけ書き溜めないで、その日に生んでいこうとしてやってたんで、大変ではあります。でも、ずっと続けてきたおかげで台本を書く際の助けにはなっています。
この試みは『オトン、死ス!』が終わっても続けていこうと思っています!
ー お客さんにとっても、劇の内容を想像できる企画ですね。見ている方からは何か反響がありましたか。
納谷 途中で、「彼女と連絡を取った後、妻のいる富良野に向かった」と書いたら、みんなから「そんなこと書いていいんですか?!」って言われました。でも、いくらワタクシ演劇だからと言って、全部が全部ノンフィクションじゃないよってことは言っておきたいですね(笑)
劇中でも、僕と妻の関係性も少しは出てきますけど、 何が本当で、何が嘘かは、それぞれお客さんに判断していただきたいですね。
ー 最後に、この記事を読んでいる方に見所やメッセージをお願いします。
納谷 イレブンナイン休止前の最後の公演になりますが、劇団の集大成なんかでは全然なくて、むしろ新しい試みです。そして、再演をやるつもりもありません。まさに今このタイミングでしかやらないお芝居です。
人が死ぬということは悲しいだけではないということを観ていただきたいですね。大切な家族を失うということがエンターテイメントになって、笑って、そして、ちゃんと死を受容するということを、観に来てもらえればなと思います。
2023年10月某日
ELEVEN NINES稽古場にて
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この度、d-SAPとELEVEN NINESの連携企画として、高校生以下を対象とした無料招待キャンペーンを行います!
12月9日(土)13:00 と 12月10日(日)13:00の2ステージ限定で、抽選で5名様ずつご招待いたします。
申込締切 2023年11月23日(木)23:59
以下のフォームよりお早めにお申し込みください!
・お申し込みは、お一人につき一回までとさせていただきます。
・抽選の結果は後日メールにてお知らせいたします。
・当選された方は、当日は受付にて学生証をご提示ください。
公演情報
ELEVEN NINES
『オトン、死ス!』
作・演出:納谷真大
これは、2018年に父親を亡くした納谷真大の実体験にもとづいた「ワタクシ演劇」です。
「親が死ぬ」を恐れていた私。「親の死に目」に立ち会った私。劇の本番があることにかこつけて通夜も葬儀もスルーした私。「親の死の受容」から逃げてきた私。そんな私が、「オトンの死」と向き合うため、イレブンナインのメンバーの力を借り、この劇をつくります。そんな私情を、みなさんに観せようとして申し訳ないですが、せめて大爆笑してもらえるよう、全力を尽くしますので、お許しください。(納谷真大)
2023年12月6日(水)〜12月13日(水)
12月6日(水)19:00
12月7日(木)14:00 /19:00
12月8日(金)14:00
12月9日(土)13:00 /18:00
12月10日(日)13:00
12月11日(月)14:00 /19:00
12月12日(火)14:00 /19:00
12月13日(水)14:00
【全12ステージ】
*開場は開演の30分前
〒063-0841 札幌市西区八軒1条西1丁目2-10 ザ・タワープレイス1F
TEL 011-615-4859
明逸人
小島達子
上總真奈
澤田未来
菊地颯平
梅原たくと
坂口紅羽
内崎帆乃香
沢井星香
納谷真大
ELEVEN NINES
電話 011-252-9473/090-2814-8575(制作)
メール eleven9tatt@gmail.com