【インタビュー】音楽劇「時空ヲ旅スル音楽会」のねらいを脚本・演出・出演の左藤慶さんに聞く

2023年10月4日〜5日、中札内村にて音楽劇「時空ヲ旅スル音楽会」が上演されます。フルート、チェロ、ピアノの管弦トリオアンサンブルの生演奏と、 日本近代文学の心温まる名作を原作とした臨場感あふれる語り劇。さらに、物語と音楽の世界観を盛り込んだ特製オヤツが用意されており、ココロを満たす至福のひとときを過ごすことができます。

脚本・演出・出演の左藤慶さんにインタビューし、企画のねらいや見どころを伺いました。

五感を使ってソーゾーする音楽劇

— 今回の作品「時空ヲ旅スル音楽会」を上演しようと思った経緯を教えてください。

まずはじめに、「時空ヲ旅スル音楽会」という演目名になるまでの流れを少しお話しします。

  1. 2010年、近くの学童施設にて新美南吉の短い物語の読み聞かせをスタート。
  2. 2014年、オヤツ×ブンガク×オンガク=オブンガク堂cafeとしてホールでの上演に発展。「感じるココロと閃くアタマを育む劇的体験」として東京や北海道などで公演を重ねる。
  3. 2017年から語り1人+音楽家3人(フルート・チェロ・ピアノ)での公演を始め、それが定着したため、2021年、演目名を音楽劇「時空ヲ旅スル音楽会」とする。

元々は学童施設で読み聞かせをしていた時に、お話に合わせて季節の童謡を歌っていたのが、ブンガク×オンガクのスタートです。その後ホールで上演する時に、より五感を使って楽しめるようにと、地元のお店に物語に合わせたオリジナルオヤツの製作をお願いし、オヤツ×ブンガク×オンガク=オブンガク堂cafeとなりました。

そこからずっと変わらないのは、3つのソーゾータイムです。物語と音楽を聴いて思いっきり想像を膨らませる「想像タイム」、物語の内容や背景をみんなで振り返りながら理解を深める「騒々タイム」、物語にちなんだオヤツを片手に交流する「創造タイム」。

コロナを乗り越え、昨年は3年ぶりに石狩市・恵庭市で公演し、久しぶりに生の舞台芸術に触れたお客様に大変ご好評をいただきました。同時に、地方都市には文化が届きにくいという現実を肌で感じたこと、また、お客様が昨年の余韻を覚えているうちにもう1度と考え、作品を変えて今年も同都市で上演することに決めました。 

— 今作は、道内各地のほか、東京・大阪でも公演が行われます。そのねらいは何でしょうか。

ねらいは2つあります。ひとつは大阪での初めての公演にチャレンジすること、もうひとつはこの公演を主催するACT PROMOTIONスタッフの現場経験を増やすためです。

私は十勝の音更町出身、妻も帯広市の出身で、2人とも東京に長く住んでいるので、ありがたいことに北海道と東京には応援してくださる方や、今までの公演事業で培ったご縁や繋がりが少なからずあります。地方公演は地元の方の応援があって初めて成り立つので、あまり繋がりのない関西圏には今まで作品を届けられずにいたのですが、今回、大阪でも応援するよ!と手を上げてくれた団体があり、念願が叶いました。

実は別の演目で来年3月に大阪公演を予定しているので、その前に私たちのことを知ってもらえる機会になればという意図もあります。主催のACT PROMOTIONは十勝の音更町に拠点を構える、アートイベントの企画・制作・運営を一貫して行う会社です。十勝では珍しい存在なのですが、地方都市ゆえにアートイベントも少なく、社員が経験を積める機会が限られるため、自社でツアー公演を主催することで仕事を創り、現場での経験を蓄積してきました。

この公演にも東京で活躍する照明・音響・映像などのプロの外部スタッフが関わるので、その仕事を間近で見て学びながら、共に多くの現場を体験し、その経験を地元に持ち帰ることで、今後の十勝・北海道の文化環境向上にも繋がるのではと考えています。

また、大都市である東京・大阪での公演は、いい意味で北海道との肌感覚の違いを知り、多様な文化に触れられる点からも、得るものが多いと思います。 

— 本公演は、高校生以下の子供が無料招待となっています。そのねらい、目的を教えてください。

私たちは日頃より、多感な世代の子どもたちにこそ、劇場の生の空気感の中で舞台芸術を体感し、心震わせる経験が大切だと考えています。

世の中には家で手軽に無料で観られるものが、とても多いですよね。コロナ禍の影響は薄れてきたとはいえ、みんなで音楽会や演劇を観に行こうか、というご家族は割合としては少ないのではと思います。

この公演は、親子で、家族で、できれば3世代で体感してほしいので、大人がこの情報を目にした時に、これなら家族で一緒に行ってみようかな、と思うきっかけになればと考え、高校生以下は特別に無料ご招待にしています。ご家族でワクワクしながら劇場に行き、みんなで生の迫力や臨場感を体感し、想像したり観たものについて盛り上がり、オヤツを食べながら余韻に浸る・・・嬉しいことに、私たちの公演ではよくこういう光景を見ることができます。

舞台と客席が近いので、語り手の表情や演奏の様子もよく見えて、子どもたちは驚きと興奮で目をキラキラさせながら観てくれます。子どものうちに、その場でしか味わえない時間と空間があることを知って、まずはびっくりしてもらう(笑)、そのための特別無料ご招待です。ぜひこの機会を活用していただければと思います。 

— 本企画は、単なる朗読コンサートではなく、「聴く・観る・知る・考える・語らう・思い描く」というプロセスを通じて、ココロとアタマ(創造性・知的探究心・思考力・言語力など)を目一杯刺激する参加型アートライブです。このねらいについてさらに詳しく教えてください。

今の時代は大人も子どもも「想像する」ことが少ないように思います。受け身で動画を見る機会は多くても、絵や映像の助けを借りずにじっくり自分の頭の中だけで想像を巡らせることは、普段あまりしないかもしれません。

この公演は、観て終わりではなく、観てから始まる音楽会です。はじめの「想像タイム」では、目の前で臨場感たっぷりに語られる物語と、生演奏ならではの息遣いや弓の擦れる音まで聞こえる情感豊かな音楽の流れに乗って、自然と想像を巡らせることができます。

その後、メインイベントである、物語の内容や背景をみんなで振り返りながら理解を深める「騒々タイム」がやってきます。「何が出てきた?」「どんな匂いがした?」「どうしてそう思った?」「自分だったら?」などの質問をしながら出演者と対話を進める中で、他人と自分の想像したものが全然違うこと(風景、色、匂い、登場人物の風貌・・・)に気づいてハッとすることも。投げかけられた質問に、自分なりの答えを探したり、他の答えに刺激を受け、考えをより深めることもできます。

最後は、物語や演奏の余韻に浸りながら、お客さま同士の交流をゆっくり楽しむ「創造タイム」。オヤツ製作者の思いや意図もお伝えするので、自宅に帰ってからも物語の世界に思いを馳せながらオヤツを食べることができます。

このように、五感をフルに使って「聴く・観る・知る・考える・語らう・思い描く」ことにフォーカスし、ソーゾータイムを楽しんでいるうちにいつの間にか前のめりに参加していた!というのが「時空ヲ旅スル音楽会」ならではの醍醐味だと思います。

— 主催のACT PROMOTIONは、「アートで地域を強くする」をコンセプトに、アートイベントの企画・制作・運営を一貫して行っておりますが、北海道(あるいは十勝)において、「地域を強くする」ために「アート」にはどのような役割があるのでしょうか。活動の方針やお考えをお聞かせください。

大きく分けて2つの役割があると考えています。

  1. 十勝(北海道)で上質な「アート」を企画・制作・運営することで、地元の舞台関係者の技術力の底上げをすると共に、観客の見る目を育て、文化環境面から「地域を強くする」役割
  2. 「アート」で十勝(北海道)の観光業を盛り上げ、新たな側面として発展させることで、経済的に「地域を強くする」役割 

地方には舞台施設などのハードはありますが、それを運用するソフト面の人材が不足していると感じます。前述の通り、ACT PROMOTIONではスタッフの経験値を高め、プロとして育成することで地域の芸術文化環境を向上させることを目的のひとつにしています。

今あるハードを存分に活用し、クリエイティブかつユニークな、地方だからこそできる上質な舞台芸術を地元のスタッフだけで創り上げる土壌ができれば、今よりもっと「地域は強く」なります。加えてこのような舞台芸術は観客の見る目を育て、豊かな心を醸成し、その期待に答えるためにさらに上質な「アート」が生まれる、という好循環が期待できます。

観光業は十勝(北海道)を支える大きな柱のひとつですが、レジャー、グルメ、温泉、景色・・・など、アートとは一見関係のないものばかりです。そこでACT PROMOTIONではアートをうまく活用すれば観光業の新たな側面を開拓し、大きく発展させられるのではと考え、あるとっておきの企画を温めています。

この企画の他にも、「アート」で地方の経済活動の一翼を担い「地域を強くする」ために、今後も分野を跨いであらゆる活動を行ないますので、どうぞご注目ください!

公演情報

オブンガク堂cafe presents
音楽劇 時空ヲ旅スル音楽会

日時

2023年10月4日〜5日
4日(水) 19:00~
5日(木) 19:00~

会場

中札内村 文化創造センター ハーモニーホール

出演

ピアノ 左藤 真世
フルート 世古 美月
チェロ 百瀬 郁子
バリトン 今野 博之
語り 左藤 慶

スタッフ

脚本・演出 左藤 慶
選曲・編曲 左藤 真世
音響 野中 正行
照明 島田 雄峰
映像 松本 和也
舞台美術 吉野 隆幸
舞台監督 小林 弘明

チケットその他の詳細は公式サイトをチェック!

お問い合わせ

時空ヲ旅スル音楽会2023 公演事務局

左藤(オブンガク堂cafe)
080-6519-2592(オブンガク 堂cafe)
info@obungaku.com

小林(ACT PROMOTION)
090-5951-1396(ACT PROMOTION)
livestage@act-promotion.co.jp