心地よい風に葉桜が揺れる、5月の北国の港町。
産婦人科の駐車場に拵えられた簡易待合所には二人の男。
道路を挟んだグラウンドから少年野球の賑やかな声が聞こえてくる。
陽射しがまぶしい午後。
その時を待つ、「父親」たちの小夜曲・・・。
こんな宣伝文句で呼びかけるのが、能登英輔さんと小林エレキさんの2人でつくる演劇ユニット「のと☆えれき」の新作『葉桜とセレナーデ』です。
涼やかなタイトルやチラシのイラストから、わが子の出産を待つ父親たちの物語を想像しますが、実際はどうなのでしょう。
京都を拠点に活動するニットキャップシアター・ごまのはえさんの書き下ろし脚本をどのように肉付けしているのか、稽古中のお二人に話を聞きました。
(文・写真=シカタカオ)
だめ親父のセレナーデ
――台本を読みましたが、タイトルにだまされました(笑)。
小林エレキさん(以下、エレキ) 『葉桜とセレナーデ』ってちょっときれい過ぎない?って話はしてました。
能登英輔さん(以下、能登) のと☆えれきっぽくないよねって(笑)。
――「セレナーデ」は、一般的に窓の下で恋人のために演奏する的な楽曲だそうですよ。
能登 恋ではないですが、夫婦愛とか家族愛とか、いろんな種類の愛が散らばっているような愛の話ではあると思います。
エレキ それぞれに事情を抱えた男2人が、出産を控えた女性のいる窓の下でやいのやいのやるっていうのはセレナーデ的な感じではありますね。割と笑えるバカバカしい展開なんですけど、実は二人の立ち位置というか、物語での場所というのは切ないので、葉桜という言葉の意味も伝わる部分があるかと思います。
――登場人物の男①と男②は40代半ばで、お二人と年齢的に重なります。今回は役は固定なんですね。
能登 僕は男①です。子供が欲しかったけどできなかった人で、僕は子供いるんですけど、実際に子供ができずに悩んだ時期もあって、そういう部分とか父親になっているから分かる部分もある気はしています。
エレキ 僕は子供いないですし、男②はなんだろうな、人物像が割と情けないというか。
能登 結構エレキとは違う感じだよね。
エレキ そう、しゃらくせえ感じの男なんで、そこら辺が普段の自分の性格とは違うかなという感じです。でも問題から逃げちゃうみたいな所は人間誰しもあるよな、とは思います。割と今回は一方的に能登の高感度が上がって行く感じです。
能登 (男②は)だめ親父だからね。
エレキ まあ愛されだめ親父になれたらなと。
能登 しょうがない奴だなと。
エレキ 母性本能をくすぐる。
能登 あはは。
――ご自身の役はお好きですか。
エレキ 僕はあんまり好きじゃないですね。
能登 あはははは。僕もそんなに好きじゃないですね。(男①は)結構勝手だから。基本的にあんまり人の話聞いてないですからね。
エレキ でも男②は言ってしまえば物語が始まっている時点で、よくやったとも言えるんです。
能登 そうだよ。あれだけだめなおじさんが相当な決意を持って来ている。
――説明しすぎず、それでいてきちんと観客の疑問を回収する展開が印象的でした。ごまのはえさんの台本の印象はいかがですか。
能登 初めて読んだとき、テーマのせいなのか、とてもやわらかいホンを書かれる方だなという印象を受けました。せりふ回しとかもそうですけど、京都の方だからか、強めに何かを言うときも、がつんと行かないイメージなんです。
エレキ うっすらはんなりしてる(笑)。
能登 攻撃的なせりふもあるんですけど・・・。
エレキ 言葉がきつくない。ごまさんってもっとシュールなイメージがあったんです。何作品か見たときに、すごい笑いに振り切れてたりとかちょっと不思議な感じだったんで、ちょっと奇妙な感じの話になるかと思ったら、割と正統派というか、2人のおじさんの話。
前の山田タロス(『私の名前は、山田タロス。』)はSF的な取り調べもので、その前は超能力者(『Not Decided-時計をとめて-』)の話だったんで、今回が割と普通にいそうな2人というのが新鮮でした。
――今回は横尾寛さんが演出されていますね。
能登 非常に心強いです。いつもは演出補佐みたいな形で入ってもらって全体のバランスを見てもらったりはしましたが、だいたいの流れは2人で話し合いながらでした。横尾さんは違う角度というか、僕ら2人では見えてなかったものを見て下さるので。面白くやらせてもらってます。
エレキ 2人の視点じゃない視点をくれるというか。僕らは高校時代から付き合いが長いので、ある一定の型みたいなのはお互い知っている。そっち側に行っちゃうのが一番楽なんでついつい寄っちゃいがちなんですけど。その辺を横尾さんの刺激で崩して頂いてます。
能登 二人芝居ですけど助っ人という形で声の出演でナガムツさんという方が出て頂いていて、非常にクセの強い方なので、それも含めてどういう形になるのかなと思ってます。
――ちなみにのと☆えれきと言えばアクションの途中から発生する相撲の取り組みです。本作は台本を見る限りそんな場面は全くないですが・・・。
能登 ふふふ、どうでしょうか。
エレキ でもまあ、過去2作品も台本には相撲のすの字も書いてなかったので。
能登 作家さんに驚かれました。
――(笑)土俵際問題は乞うご期待、と。お二人はyhsに所属しつつ客演をしたりもしますが、なぜこういう2人芝居をやっているのですか。
能登 昔からお芝居が好きで、高校の時からの仲なので、今まで飲みながらとかいろんな話をしてました。「芝居の質がお互い違うよね」と言いながらも、身近にお互いを見ながら一生懸命芝居をやって来たので、「2人でやってみたらどうなるか」というところからですかね。
――芝居の質というと、具体的には・・・。
能登 ちょっとお酒が必要になって来ちゃうな(笑)
エレキ (笑)。「山田タロス」みたいに入れ替えたときにはっきり出るんですけど、立場、役を入れ替えて同じせりふで演じていても、立ち方が違うというか。言葉にするのが難しいんですけど・・・。
能登 僕は彼のやるような演技はできないなと。
エレキ お互いそうなんだよね。
――お互いに持ってないものを持っていると?
エレキ 例えば他の芝居に(能登が)出ているのを見に行って「ああ、今の瞬間とかすげえな」と思ったりしますね。(せりふ回しとかその場の表情だけではない)総合されたようなものです。
能登 お互い「(演じる役が)舞台上で生きていたいね」という話はよくしてはいたんです。僕はまねできないけど、(エレキは)ちゃんと生きているなと思うので。不思議だなと思います。
――お客さんにはこの物語から何を持ち帰って欲しいと思いますか。
能登 見終わったら「よし、明日からもがんばろう」と思ってくれる舞台になるといいなと。人生色々あるけど、頑張っていこうと思ってもらえたら嬉しいです。
エレキ 過去2作品とも、タロスはちょっと重いけど、基本的には「面白かった」「見に行って良かった」っていう、あんまり後に残らないというのが僕らの持ち味かなと思ってるんです。純粋に、舞台上で起こっていることを感じて、お客さんそれぞれの感性で楽しんでもらえたらなと思います。
演出で参加されている横尾寛さんにもお話を伺いました。
それぞれ事情を抱えた2人が出てきますが、劇中の人間の持っている事情のシリアスさ、重さ軽さって、僕にとってはあんまり関係ないし興味ないんです。それよりそれぞれの事情が舞台上に持ち込まれているかが気になります。
お客さんには、ここにもある事情を持った人がいて、普段のぞき見ることのない人の事情というのがあそこにあったな、と思っていただければ。事情を抱えた人々の物語を見るのは、それぞれ事情を抱えたお客さんたちなわけですよね。我々もお互いに何か事情があって生きているだろうけど、想像しあうしかない。
だけど演劇はそれが舞台上で提示される。それを見て元気になる人もいるし、落ち込む人もいるでしょうが、あそこにも生きている人がいたな、と思って頂ければそれでいいです。
公演概要
ラボチプロデュース のと☆えれき二人芝居第三弾
『葉桜とセレナーデ』
日時
2022年7月15日(金)〜18日(月祝)
15日(金)19:30
16日(土)14:00 / 18:00 ●
17日(日)13:00 ◎ / 17:00
18日(月祝)14:00
※受付開始・開場は開演の30分前です。
会場
扇谷記念スタジオ シアターZOO[シアターZOO提携公演]
札幌市中央区南11条西1丁目3-17 ファミール中島公園B1F
TEL.011-551-0909
脚本
ごまのはえ(ニットキャップシアター)
演出
横尾寛
出演
のと☆えれき(能登英輔、小林エレキ)
スタッフ
舞台監督・美術:高橋詳幸(アクトコール株式会社)
照明:相馬寛之
音響:山口愛由美
衣装:佐々木青
声の出演:ナガムツ(劇団coyote/吟ムツの会)
宣伝美術:二朗松田
写真撮影:原田直樹(n-foto)
制作協力:ダブルス
協力:札幌演劇シーズン実行委員会
プロデューサー:小室明子(ラボチ)
助成:札幌文化芸術交流センター SCARTS 文化芸術振興助成金交付事業(公益財団法人札幌市芸術文化財団)、札幌市文化芸術活動再開支援事業
札幌演劇シーズン2022-夏サテライトプログラム
チケット
日時指定・全席自由
前売 3,200円
当日 3,500円
【取り扱い】
・ローソンチケット Lコード:12723(店内Loppiで購入可能)
・カンチケ
・エヌチケ
・道新プレイガイド(0570-00-3871)
・札幌市民交流プラザチケットセンター
Web
主催
ラボチ、公益財団法人北海道演劇財団、NPO法人札幌座くらぶ