これまで演劇を見ていて、「退屈だな」と思ったことが一度でもある人に見にきてほしいです。
2021年11月3日~7日にカタリナスタジオで上演予定の『あゆみ』。柴幸男による名作戯曲を、オーディションで選ばれたメンバーを含む総勢10名の出演者で演じます。
テーマは、カラフル。十人十色の出演者が、特殊な演出により1人の女性の生涯を紡いでいきます。
いったいどんな舞台になるのか。演出家の鎌塚慎平さん、プロデューサーの信山E紘希さんに作品の魅力について伺いました。
わくわくし続けられるお芝居
ー はじめに、鎌塚さんと信山さんが『あゆみ』に出会ったきっかけからお伺いします。お二人は初めてこの作品に出会ったとき、どのように感じましたか。
信山E紘希さん(以下、信山) 私が初めて観た『あゆみ』は、NHK「青春舞台」という番組で上演していた弘前中央高校演劇部によるものでした。
その時の上演は素晴らしく、大人の鑑賞にも耐えうる、インパクトのある作品だと感じました。この作品は、「舞台である」ということが重要視されているお芝居です。映画では絶対に作れない、舞台ならではの面白さを強く感じました。
いつか『あゆみ』みたいな作品を自分たちでも作りたいと思っていましたが、自分が演出するのは難しいので、信頼のできる演出家に作ってもらいたいなと思い、この公演を企画しました。
鎌塚慎平さん(以下、鎌塚) 最初に信山からオファーをいただいたときに、めちゃくちゃ嬉しかったです。僕は、『あゆみ』作者の柴幸男さんの劇団・ままごとがすごい好きなんです。昔、演劇のコンクールで「他劇団のモノマネは良くない」と怒られたことがあるほどに強く影響を受けています(笑)
自分で既成台本をやる機会はこれまであまりなかったため、信山が声をかけてくれていなかったら絶対にこんな嬉しい経験はできなかったと思います。新しい劇場で、新しいメンバーで、この作品に取り組めることがとても嬉しいです。
柴幸男さんの脚本は、おどろきがいっぱい詰まっているんです。日常で、ここを切り抜くのか〜と思うような。何の変哲もないように見えて、めちゃめちゃ変哲があるシーンばっか集まっているイメージというか。そんな素敵な脚本に、演劇ならではの新鮮な演出が加わり、わくわくし続けられるお芝居です。
ー 舞台ならではの仕掛けがいっぱい詰まっている作品なんですね。面白そうです!
鎌塚 その仕掛けをカタリナスタジオで果たして再現できるだろうかというプレッシャーと日々闘っています…(笑)大好きな作品だからこそ。
札幌版『あゆみ』の演出では、ひとつの重要なモチーフとして “ヒモ” を使おうと考えています。ぼくが見たDVDでは、あゆみの歩く道を光を使って表現していたり、他の舞台でも舞台上にグルっと円をつくってその上を歩いていたりする演出を目にしました。
それらも楽しそうって思ったんですが、モノマネばかりしていられないなと思い、もうすこしシンプルに、でも効果的に空間を使える方法が他にないか考えました。
今回の『あゆみ』では、「十人十色の人物の日常を切り貼りすることで、たまたま一人の人間に見えてくる」というか、「あゆみ」という一人の人間なんだけれど、同じ色で染まっているのではなく、カラフルに見せていきたいなと考えています。
でも、どこかで「つながっている象徴」は必要だなと思って、かつ、「途切れない」「続いていく」様子を表したいと考え、ヒモを使ってみようと。力を加えることで、簡単に曲がったり折れたりするんだけれど、イメージとしては真っ直ぐ、どこまでも続いていくような。
これからの稽古で、ヒモを使ってできることを試行錯誤して、楽しく考えていけたらいいなと思っています。
ー 「つながっている象徴」としてのヒモ…。なるほど、一人の人間を描くけれど、その内側にはいろんな、カラフルな「あゆみ」がいて。
鎌塚 そうです。境界線ははっきりとしておらず、でもゆるやかにつながっている。カラフルな出演者と、ヒモで、そんなことを表せたらなと考えています。
十人十色の出演者たち
ー 続いて、カラフルな出演者についてお伺いしたいと思います。一部の出演者はオーディションで選ばれたとのことですが。
鎌塚 オーディションでは、演技が上手っていうよりは、「想像力と、逸脱する力」があることを基準に選びました。新しいことを想像して、それに挑戦する力、みたいな。でもみんなオーディションにくるくらいだから、その時点で冒険心はもってるんだよな…。
初めましての方もたくさんいます。せっかく集まったメンバーなので、稽古では、できるだけ自由に取り組んで欲しいなと思っています。でも「自由にやっていいよ」って言われても本当に自由にやるのってすごい難しいので、まずはその下地作りからですね。
稽古をしていく中で、自分の内側になかったものが出てきたときが、一番楽しい。だからこそ、想像力や挑戦心がほしくて。
ー 今回はTwitterでも面白い企画が動いています。
鎌塚 @ayumisapporo99 のアカウントで、10人のあゆみちゃんが日々をつぶやいています。おなかすいたって言っているあゆみちゃんもいれば、カレー食べたって言っているあゆみちゃんもいれば、息子と動物園にいったって言っているあゆみちゃんもいると思います。
動かしているのは、キャストのみなさんです。それぞれ自分が思っていることを次々とつぶやいている、それが1つのタイムラインにたまたま表示されているだけで、でも全然違う一人の人間に見えてくるんじゃないか、と。舞台でやろうとしていることとコンセプトは同じです。
すごい楽しいので、ぜひみなさんにも見てほしいですね!
ー 最後に、この作品をどんな方に観てほしいですか。
信山 映像を通して演劇を見ることに耐えられなくなった人に見てほしいです。
『あゆみ』は、生で、目の前で人が動いていることが面白いという、演劇の原点みたいなものが活きている作品です。映像じゃその面白さはどうしてもわからないです。ぜひ、足を運んで観にきてほしいです。
鎌塚 驚き、わくわくを探している人に見てほしいですね。これまで演劇を見ていて、「退屈だな」と思ったことが一度でもある人に見にきてほしいです。上手だし、派手で、めっちゃ面白いような気がするんだけど、なんか物足りないんだよなあ、みたいな。そんなことを思ったことがある人。
ひょっとしたら、この作品で「退屈じゃない演劇の面白さ」を与えられるかもしれません。そんな素敵な台本です。
クラアク芸術堂『あゆみ』は、11月3日~7日にカタリナスタジオで上演予定です。
チケットのご購入・ご予約は、公式サイトよりどうぞ。
clark.nobuyamap@gmail.com
090-2874-4752(信山)