あなたはどう観る?ポケット企画の新作『歴るロウ轟き魔女でんでん』事前批評

2月26〜28日、演劇専用小劇場BLOCHにて開催される三人芝居フェス「PROJECT WALTZ VOL.2」。25分の短編三人芝居を3団体が上演します。

先日、参加団体の一つであるポケット企画が、3人の演劇関係者を招いた試演会を開催しました。この記事では、主催の三瓶竜大さんの試演会に対する思いと、実際に試演会を見た3人による事前批評を掲載しています。

批評を読んでから本番を観るも良し、本番を観てから批評を読んでみるも良し、です。

作品について

BLOCH PRESENTS 2021「PROJECT WALTZ VOL.2」参加作品

ポケット企画 新作
『歴るロウ轟き魔女でんでん』

 

日時

2月26日(金)19:00
2月27日(土)15:00/19:00
2月28日(日)15:00 各開演

※開場は30分前。
※上演時間は、各団体25分、合計90分を予定。

 

会場

演劇専用小劇場BLOCH

 

作品について

雷が鳴る雨の日に、自分の臍を見つけてしまう。
「これはやばいぞ一大事。すぐにお臍を戻さなきゃ!」
小さな扉をノックして、聞こえてきたのはでんでん太鼓。
扉の奥には魔女でんでん。雷様は魔女だった。どうかお臍を戻しておくれ!

 

脚本・演出

​三瓶竜大

 

出演

さとうともこ(トランク機械シアター/ポケット企画)
吉田侑樹(ポケット企画)
森大輝(劇団怪獣無法地帯)

 

チケット

有料配信チケット 1,300円
(劇場公演チケットは前売完売)

チケットを購入する(購入後ポケット企画へご連絡ください。)

 

ポケット企画とは

ポケット企画は、主に演劇を公演するための企画団体です。

2018年11月に中島公園近くのコミュニティー&アートスペース「よりどこオノベカ」(2019年3月に閉館)で旗揚げ。以降も、小樽や岩手など時期・場所を問わず公演を重ねてきました。

“ポケットに入れて持ち運べるような演劇”をテーマに、普段はアートスペースや飲食店、カフェなど狭い空間で芝居を上演しています。


参考
ポケット企画公式サイト

 

その他の参加団体

グループ俺達『第52回全日本お兄さんGP』
脚本・演出 古川侑三朗
出演:小川がんめん、恩田直、古川侑三朗」

Compagnie “Belle mémoire”『heavy chain』
脚本・演出 山口健太
出演:横山貴之 、平野琴音、池田僚、古谷華子、他(Wチーム)

 

お問い合わせ

電話:090−6696−1074
メール:enngeki0313@gmail.com


参考
PROJECT WALTZ VOL.2BLOCH公式サイト

 

試演会を行った理由

ポケット企画第2回公演『平等の部屋/未明』(2019年2月2日@よりどこオノベカ)で、終演後のアンケートの中に韓国人観光客の方の文章がありました。海外の方が見てくださっていた衝撃もさることながら、自国の演劇文化と照らし合わせ批評的に綴られていた文章に単なる感想とのギャップを感じ、“作品批評”への興味が膨らみました。

 

今回、稽古場へ鎌塚さん、佐久間さん、きゃないの3名を招き試演会を行いました。

 

僕は作品批評という行為を「観客と作品の間に立ち主観を取り除いた分析を行うこと」だと考えています。しかしながら演劇の批評は作者の経験や社会がもとになった作品を批評家自身の文脈で「体験的」に観る分“主観を取り除いた”という面で難しいのではないかと感じていました。そこで演劇やポケット企画との関係、年齢の異なる3名に批評をお願いしました。

 

観客と作品の間に立つ批評という行為は、観客も作者自身も得ることのなかった感覚が少なからず言語化されます。事後であろうと事前であろうと、その価値や本質は作品が大きく改変されない限り変わりません。(劇場公演ではないので観劇環境は変わりますがそのほとんどがいい影響だと思います)映画の事前評価のように演劇の批評が掲載されることで観劇への動機につながったり、見方が広がったりすればいいなと思い、この企画を行いました。

 

僕自身の創作への影響や批評へのアンサーはどこかでまとめてみようと思います。
ご協力いただいた、鎌塚さん、佐久間さん、きゃない、本当にありがとうございました。

三瓶 竜大(さんぺい りゅうた)

 

高校入学時、クラスの女子が一番多かったという理由で演劇部に入部し、札幌の劇団を高校生料金を利用してほぼ全て観劇。稽古場見学をする。卒業直後、心に決めていた“劇団清水企画”へ所属。その年、代表の清水友陽さんに「大学卒業したら劇団をやりたくて〜」と相談したところ「なんで、いまやればいいじゃん」という一言に妙に納得。ポケット企画を旗揚げ。人生山あり谷あり

事前批評

鎌塚慎平(劇団・木製ボイジャー14号)

爽快感
(4.0)
テーマ性
(3.0)
構成
(4.0)
遊び心
(5.0)
総合評価
(4.0)

新明解国語辞典第七版によると、批評とは「物事の良い点・悪い点などを取り上げて、そのものの価値を論じること」とあります。なるほどなるほど。

 

ポケット企画の演劇はいつも抽象度の高いセリフ群が連なります。一聴すると意味のつながらない、単なることば遊びとも思えることばたちが、ひとつ上のレイヤーで作品の本質を伝えています。僕はこのメッセージを見つけるのが好きで、宝探しみたいに楽しむのですが、今作『歴るロウ轟き魔女でんでん』は、初心者トレジャーハンターにぴったりの作品でした。25分程度の短い上演時間と、ごくごく一般的な(と僕は感じた)悩みを核にしているから、抽象と具体のバランスがちょうどいい。宝探し玄人の方には、すこし物足りないかもしれません。

 

それからもう一つの良い点は、前述した「ことば遊び」。突拍子もないことばたちは「音」という要素でつなげられ、ただ耳を傾けているだけでも心地よい時間でした。俳優たちのがむしゃらに力強い圧も良い。僕が見たのは小さな稽古場での上演でした。BLOCHで聞いた場合は違った印象になるかもしれません。

 

悪い点。タイトルが読めない。「へるろうとどろきまじょでんでん」と読むみたいです。三瓶くんに確認したので間違いありません。どこで切って読むのかは分かりませんでした。タイトルの意味を想像させるものは作中にちらほらあって、題意を考えるのも面白かったですが、今のところ答えは出ていません。

 

価値というとそれは普遍のものではないので難しいですが、個人的には見る価値のある作品でした。宝探しが楽しくて、見つけた宝も僕にとって大切なものだったから。これからはこういう宝探しを楽しめる作品が、もっと多くの人にとって価値を持つようになっていったら。今後のポケット企画にも期待してしまいます。

鎌塚 慎平(かまつか しんぺい)

 

1993年2月札幌生まれ。劇団・木製ボイジャー14号に所属し、主に脚本執筆・演出・企画運営を行う。2020年4月にはシェアするオンライン劇場「札幌シェアター」をつくり、イベント企画をメインに演劇の新しい形を模索している。他にも「演劇惹句師」を名乗り作品のキャッチコピーを提案するなど、演劇公演の広報にもしばしば携わる。

佐久間泉真(弦巻楽団)

爽快感
(3.0)
テーマ性
(5.0)
構成
(3.0)
総合評価
(3.0)

俳優の熱量と作者の表現意欲を感じた大胆な作品でした。

 

物語は、ある雷の日に少年が自分の「へそ」を返してもらおうと魔女の元へ訪れるという、ファンタジックなもの。少年は怒りを持って勇んで行くも、魔女とは論理的な会話が成立しません。そこにどこからかおじいさんが現れ、少年と共に「生きる誇り」や「(人生の)探し物」について考えていく……。少年は「へそ」を取り戻すことができるのか?おじいさんが探している物とはいったい何か?といった内容です。

 

台詞は会話というよりは詩の朗読のようで、3人の俳優が一定のリズムを持って作者の言葉を紡ぎます。言葉の意味のすれ違い(同音異義)や音・光の演出が凝られていて、観客の想像力を刺激する作品でした。ラストシーンでは作者の描きたかったテーマがわかりやすく表現されており、満足感のあるお芝居でした。

 

一方で、そのラストシーンに至るまでに、主人公の心理や周りの環境・人物間の関係性がどのように変化していったのかをもっと具体的に描いてほしかったと感じました。少年にとって「へそ」が大事なものであることはわかるけれど、どのくらい・なぜ大事なのか、どうして「へそ」を奪うのが魔女でなければならなかったのか、おじいさんと魔女はどういう関係なのか。最後まで観ると作者の描きたいテーマはわかるけれど、そこに至るまでの背景となる情報を捉えきれなかったため、劇世界にうまく浸かることができませんでした。試演会後に作者の三瓶さんとお話しして納得するところもありました。作者が演劇のどんなところに芸術性を感じているかをあらかじめ知った上で観ることができれば、もっと楽しめたのかもしれないなと、会場を後にして思いました。

 

演出のこだわりと演劇に対する情熱で溢れる作品です。配信公演もあるようなので、お時間ある方はぜひ!

佐久間 泉真(さくま もとまさ)

 

大学4年生。弦巻楽団所属。d-SAP編集長。

中学生で演劇部に入部したことをきっかけに演劇を始める。16歳からフリーで俳優活動をし、2020年に俳優・制作として弦巻楽団に所属。2017年から札幌の演劇情報を発信するウェブメディア・d-SAPを運営。

きゃない(北大映画研究会)

爽快感
(4.0)
テーマ性
(5.0)
構成
(4.0)
深度
(5.0)
総合評価
(5.0)

大好きな劇団で、私も何度か関わらせていただいたポケット企画の新作「歴るロウ轟き魔女でんでん」を観て、まず感じたのは代表・三瓶竜大の言葉と思考の深化だった。これまでも抽象的・多義的ながら自己存在にまつわる圏域を深く掘り下げてきた三瓶の言葉は、今作品においていよいよ言葉と意味との間の複雑系にたどり着き、その狭間で実験的に戯れているようだった。会話の随所に差し挟まれる言葉の諧謔的なズレは、意味そのものの拡散と相対化という事態へわたしたちを誘い、それ自体ですでに愉しい。

 

劇の冒頭はこうだ。雷が鳴り響く中で魔女の部屋に少年がやってくる。魔女が雷を鳴らして奪った自分のヘソを返してほしいと訴える少年に、魔女は妖しげに言語を弄して立ち去ってしまう…。

 

この作品に通底するのは、現在わたしたちが経験している事態とも共通するディザスター(災厄)の感覚だと思う。度重なる災害や災禍、終わる兆しのない暗い時代の中でわたしたちは、まさに雷のようにコントロール不可能で無秩序な未来に直面せざるを得ない。そのような状況ではあらゆるものが揺らいでいく—わたしたちの系譜、自己存在や自己の歴史、そして意味や価値そのものが拡散し、相対化され無化されていく。自分が誰か、誰と臍の緒でつながっていたのか、そんなことすらも混乱し、理性のヴェールが溶けて出鱈目な現実が姿を現す。この作品の多くの要素が、そんなディザスターの時代と共鳴しているように思う。

 

劇はさらに奥深く、わたしたちの内側に焦点を移していく。中盤で登場するあるキーアイテムをめぐる、三人の軽妙で深遠な対話を通して、災厄と喪失の時代にふさわしい新たな物語は進む。紙幅の制限でこれ以上は詳しく語れないことが悔やまれるが、最後に呈示されるメッセージは、そのような時代にわたしたちが依って立つことのできる基盤を確かに示しているように思う。出鱈目な現実には、事実で立ち向かうしかないのだ。

きゃない

 

北海道大学文学部3年、北大映画研究会所属。大学で映画研究や文芸批評を学びながら自主制作映画やMV、ショートフィルムといった映像を創作している。
ポケット企画とは第2回公演を観劇後関係を持つように。第5回公演「ツチノコポッド」で映像制作を、第6回公演「渇き、瞬き」で生配信スタッフ兼出演を果たす。


『歴るロウ轟き魔女でんでん』が上演される「PROJECT WALTZ VOL.2」は2月26〜28日開催です。前売券は全て完売しておりますが、配信公演を観ることができます。

この週末にぜひご覧くださいませ。

チケットを購入する

お問い合わせ

電話:090−6696−1074
メール:enngeki0313@gmail.com

2 COMMENTS

大石

3人の方の批評を読み、興味深く思い、これだけの批評を書き上げたその熱量に感服いたします。
一方で、その作品の価値を自分が扱える価値観から暴き出していかないと批評としては物足りないなぁと思いました。ある人がAの価値観からその作品を見たとき、その作品は〇〇のように評価できる。また他の人がBの価値観からその作品を見れば、××の点があまりよくないなどのように多くの人によって重層的に論じられるべきなのが批評、しいては批評文化だと思います。その点では(おそらく全員)男性のみが批評を行なっているというのも、文化の裾野を広げるのにはマイナス要素となっているように思います。
今回の3つの批評の中では、きゃないさんの批評が作品の価値を1番上手く引き出していると思いましたし、1番内容が気になる批評でした。予定を合わせてなんとか見にいきたいと思います。
面白い批評を書く方として、北村紗衣先生や河野真太郎先生の批評を挙げたいと思います。個人的にその方々の批評は演劇、映画、小説、ドラマに限らずとてもおすすめですので、もしよければご参考にしていただきたいと思います。

三瓶竜大

大石さま。
コメントありがとうございます。ポケット企画の三瓶竜大と申します。
批評への関心やアドバイスだけではなく先生の紹介まで本当にありがとうございます。勉強になりました。
札幌にも観客と実演家の間に専門家や批評家が増えてほしいと願い、このような企画を開きました。今後も続けていこうと思います。

この度はありがとうございました。今後もよろしくお願い致します!

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